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【コミカライズ】絆の聖女は信じたい ~無個性の聖女は辺境の街から成り上がる~  作者: 日之影ソラ
第二章 絆の聖女

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49.思いは永遠に

「助……ける?」


 ミカエル様は小さく頷く。


「勝手なお願いなのはわかっている。でも、貴女にしか頼めないの。貴方と、貴女の騎士にしか出来ないことだから」

「え、え? どういうことなんですか? アレスト様は一体何を」

「……あの人はずっと、私を解放することを考えていたの。それしか見えなくなって、穢れさえ受け入れてしまった」

「穢れを?」


 受け入れた?

 アレスト様は今、穢れに犯されている状態なの?


「私と彼は契約で繋がっている。私が受け止めきれなかった穢れが、彼の中に流れ込んでしまったの。今まではそれも抑え込んでいた。でも……」


 ミカエル様は語る。

 アレスト様は長い年月を生き、ずっと一人だった。

 自分は一緒にいても、触れ合うことも話すことも出来ない。

 ただ一人生き続け、孤独に戦い続けた。

 疲れてしまっても無理はない。

 もう一度会いたい。

 最愛の人と触れ合いたい。

 そう思ってしまうことを……責めることは出来ない。


「自分の欲を抑え込んでいた理性。彼は理性を振り払うために穢れを受け入れたの。私のために……」


 ここまで聞けば、アレスト様が全ての黒幕だったことは察しが付く。

 私を結晶に押し込んだのも、私を代わりにしてミカエル様を解放するためだ。

 

「ごめんなさい。私たちの問題に、貴女たちを巻き込んでしまって」

「あ、謝らないでください! ミカエル様は何も悪くありません」

「いいえ、私の責任です。私の声が届いていれば……止められたかもしれないのに。いつからか私の声は届かなくなりました。以前は夢の中で語り合うことも出来たのに」


 ミカエル様は寂しそうにそう語った。

 会いたい、ふれあいたちと言う気持ちは、ミカエル様も同じなんだ。

 でもそのために、誰かを犠牲にしたいとは思っていない。

 だから止めてほしいと、私たちにお願いしたんだ。


「ど、どうすれば良いんですか?」

「……今、外では彼と貴方の騎士が戦っています」

「ユーリが!?」


 ユーリが戦っている。

 きっと私を助け出すために。


「い、行かなきゃ!」

「残念ながら、今の状態では出ることが出来ません。彼を止めなくては」

「そ、そんな……ユーリに任せるしかないんですか?」


 相手はアレスト様、王国最強の騎士だ。

 いくらユーリが強くても、アレスト様に勝てるかどうか……


「信じてください」

「え?」

「貴方の騎士の……彼の勝利を信じてください。私たちの信じる力で、彼を勝利へと導くのです」

「ミカエル様」


 ミカエル様の手が私の手に触れる。

 その手は温かくて柔らかい。

 優しい力が流れ込んでくるのを感じて、私の心がほだされていく。

 

「感じますか? 私の心を」

「はい」

「私たちは同じです。同じ力を持ち、同じ使命を持ち、そして――」

「同じように、騎士を好きになった」


 ミカエル様の思い。

 アレスト様を心から愛していることが伝わる。

 そしてミカエル様にも、私の思いが伝わっているみたいだ。

 恥ずかしさは感じない。

 通じ合い、確かめ合っているから。

 私たちは……同じだから。


「私たちはよく似ています。だから一つだけ、女性としてアドバイスです。気持ちはちゃんと伝えましょう……後悔がないように」

「……はい」


  ◇◇◇


 剣と剣がぶつかり合う。

 剣戟の音だけが地下室に響く。 


「はぁ……はぁ……」


 わかっていた……最初からわかっていたことだ。

 彼が強いことも、自分では敵わないことも。

 それでも挑んだからには、勝たなくてはならない。

 たとえこの身が滅びようとも。


「まだ諦めないのかな? そろそろ限界だろう」

「そんなこと……ない!」


 俺は剣を握りしめ、アレストに斬りかかる。

 全力の足運び、全力の斬撃。

 それをいとも容易く躱し、優雅に舞うように蹴りを入れられる。


「ぐほっ……」

「やれやれ、あきらめが悪いね」


 アレストを中心に突風が吹き荒れ、吹き飛ばされて天井にぶつかる。

 そのまま地面に落下し倒れ込む。


「わかっているだろう? 僕は複数の聖女と契約している。加えて大聖女の騎士、全てにおいて君を上回っている。もちろん剣技もね」

「……そんなこと」

「わかっている、だろ? でもね」

「っ――」


 凄まじい踏み込み、急接近したアレストの刃を何とか剣で受ける。

 しかし衝撃でひびが入り、刃は二つに折れてしまう。


「剣も折れた。もう終わりだよ」

「……終わって……ない」

「本当にあきらめが悪いね? 頑張れば勝てるとでも思っているのかな?」

「あんたこそ……わかってるのか? たとえ代わりになっても……長くは続かないんだぞ」


 レナは聖女として成長した。 

 それでもまだ、大聖女と肩を並べるほどではない。

 仮にレナが代わりになっても、いずれすぐに穢れに呑まれてしまうだけだ。


「知っているよ。でもそれがなんだい? 世界が滅びようと、その僅かな時間でも一緒にいられれば十分だ」

「そこまでして……」

「するんだよ! 僕にとって彼女こそが全てだ。この数千年、彼女との再会だけを信じ続けてきた!」


 数千年……か。

 正直、それは素直に凄いと思う。

 それだけ本気で、強い思いだったのだとも。

 だけど……


「俺だって……信じてるよ」


 レナのことを、心から信じている。

 きっと彼女も俺を信じてくれていると。

 今だって感じている。

 彼女の力を、彼女の思いを。


 ――ユーリ!


「ああ、聞こえるよ」


 幻聴なんかじゃない。

 確かに聞こえるんだ……君の声が。


 その時、俺とアレストの身体を淡い光が包み込む。


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