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【コミカライズ】絆の聖女は信じたい ~無個性の聖女は辺境の街から成り上がる~  作者: 日之影ソラ
第二章 絆の聖女

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48.黒幕

 ギリギリだった。

 殺意を感じて剣を抜き、気づけば吹き飛ばされていた。

 剣で受けた衝撃で両手がしびれている。

 凄まじい速さと力。

 いや、そんなことよりも……


「どういうことですか? アレスト様」

「どうもこうもない。君が見ていた通りだよ」


 彼は結晶の前に立ち塞がる。

 結晶に身体を打ち付けたレナは、そのまま中へと飲み込まれてしまった。

 最後に俺の名前を口にしていこう、ピクリとも動けない。

 ミカエル様と同じように。


「正直に言うとね? 本当はもっと後にするつもりだったんだ。でも君たちの成長速度は予想以上だった。ロスボロスとの戦いで一気に加速したこともある。もう良いかなって、思ったんだよね」

「……説明になってませんよ。貴方は一体、何を考えているんです!」

「決まってるだろ? 僕は彼女の騎士なんだ。いつだって彼女のことだけを考えている。彼女が幸福になれる未来を……僕と共に生きる道を」


 言葉は力強く、仮面で見えない表情は、おそらく鋭く勇ましいのだろう。

 彼は続ける。


「彼女にはミカエルの代わりになってもらうよ。そうすればミカエルは解放される。永い宿命からようやく……」

「代わり……? それは最後の手段だったはずでしょう!」

「あれは嘘だよ。そもそも最初から僕は、世界のことなんて考えちゃいない」

「なっ……」


 彼は平然と口にする。

 かつて世界を救い、人々を守ってきた騎士とは思えない言葉を。


「言っただろう? 僕は彼女のことだけを考えている。それ以外のことはどうだって良い。世界が壊れようが、人類が滅びようが、どうだって良い」


 そう言いながら、彼は仮面の下の素顔を晒す。

 右目は黒く、禍々しく光る。


「彼女を救うことが出来るのなら、僕は何だってやるさ」

「その眼……まさか穢れに?」

「僕と彼女は繋がっている。彼女が抑え込めなくなった穢れは、僕の身体にも流れ込んだ。でも勘違いしないでね? 僕は別に、穢れに呑まれたわけじゃない。僕は自分の意志で穢れを受け入れたんだ」

「自分の意志……?」


 何を言っているのか、俺には意味がわからない。

 人が、しかも聖女の騎士が穢れを受け入れるなんてありえない。

 あってはならないことだ。


「仕方ないんだよ。もう一人の絆の聖女、彼女の成長には穢れの力が必要不可欠だったからね」

「まさか……ラトラ会ったのは」

「うん、僕だよ。あの街に穢れを放ったのも、彼女を唆したのも、ロスボロスも含めてね」

「っ……」


 俺は言葉を失ってしまった。

 信じたくはなかったけど、今の彼を見てしまえば信じずにはいられない。

 彼から感じる穢れは、ロスボロスをも上回っているのだから。


「ラトラお嬢様を責めないであげてね? 彼女が僕を見抜けなかったのは仕方がない。僕は姿や声を自由に変えられるし」

「そんなことはどうでも良い! 貴方は……どうしてそこまでするんです!」

「何度も言わせないでおくれよ。彼女を助けるためだ」


 そう言ってアレストは結晶に手を触れる。

 見ているのはレナではなく、数千年眠り続けている彼の聖女。


「さすがにすぐ同化は出来ないか……もう少し時間がかかりそうだね」

「……そこを退いてください」

「もちろん嫌だよ。僕の邪魔をするというなら……君を殺さないといけなくなるな」

「それは――」


 俺だって同じだ。

 

「俺はレナの騎士だ。彼女を守る」

「僕はミカエルの騎士だ。彼女を救うためなら、たとえ同胞でも斬って捨てるよ」


 互いに剣を構える。

 結晶に取り込まれたレナを救い出すには、まずアレストを倒さなければならない。

 王国……いや、世界最強の騎士に挑み、勝利しなくてはならないんだ。


 俺に出来るのか?


 不安はある。

 恐怖もある。

 だけど、そんなもので俺は止まらない。


「覚悟しろ! アレスト」

「来い。ユーリ君」


 俺たちは刃を交える。


  ◇◇◇


 視界が真っ暗になって、何も見えなくなった。

 暗くて寂しい。

 一人ぼっちになる感覚を、久しぶりに味わった気がする。


「ユーリ」


 名前を呼んでも返事はない。

 私は一人だから。

 そう……


「目を開けて、貴女は一人じゃないわ」

「――へ?」


 その時、世界が真っ白に移り変わった。

 何もない白いだけの空間に、私はポツリと立っている。

 

「ここは……」

「私たちの世界、心の中だよ」


 声が聞こえた。

 優しくて、切ない声だった。

 初めて聞く声なのに、私は懐かしさを感じる。

 知っている気がして振り向くと、そこには美しい金色の髪の女性がいた。


「初めましてレナリタリーさん。私の次に生まれた……もう一人絆の聖女」

「ミカエル……様?」


 見間違えるはずもない。

 私は彼女を姿を見て、何度も美しいと思ったのだから。

 声も透き通るみたいで、イメージと合っている。


「本物の……ミカエル様?」

「ええ。私はミカエルよ。正確にはその意識と記憶の集合体」

「意識と記憶?」

「だってほら、私の身体はずっと眠ったままだから」


 ようやくハッと思い出す。

 どうして私がここにいるのか。

 ミカエル様の前で何が起こったのか。


「た、大変なんです!」

「わかっているわ。彼のことはちゃんと見ていたから」


 ミカエル様は泣きそうな顔をして、自分の胸に手を当てる。

 思い出を振り返るように、誰かを思うように。


「お願いレナリタリーさん、あの人を……助けてあげて」

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