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【コミカライズ】絆の聖女は信じたい ~無個性の聖女は辺境の街から成り上がる~  作者: 日之影ソラ
第二章 絆の聖女

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47.暗転

 ロスボロスの分身体、人型の穢れが戦場を荒らしまわる。

 騎士たちが交戦する中、数体が結界の中に侵入し暴れ始めてしまった。


「戦えない人は守りに専念してください!」

「セレイラさん!」

「貴女も下がって! 私たちが何とかするわ」


 セレイラさんには一人でも戦う力がある。

 ラリーさんとレルンも同様、個性の性質上戦うことが出来る。

 私には戦う力がない。

 そんな私をみんなが守って戦ってくれる。


「せめて守らせてください!」


 だから私は、三人ごと覆える結界を作って彼女たちを守る。

 守られてばかりは嫌だから、私に出来る最大限のことをしようと奮闘する。

 それでも穢れの猛攻は止まらない。

 すでに小結界の維持は出来なくなって、それぞれが個々に穢れの対処に当たっている。

 いずれ限界が来るだろう。

 均衡は破られ、戦場は混乱している。

 

「っ、あ!」

「きゃあ!」


 一人、また一人と傷つく。

 聖女と騎士の声が交じり合い、悲鳴となる。

 

 嫌だ。

 こんなのは嫌だ。

 聞きたくない。

 みんなが苦しむ声なんて――


「そんなの聞きたくない!」


 それを祈りと呼ぶには荒々しく、猛々しかった。

 自分のでも驚くほど明確に感情が高ぶって、戦場に聞こえるくらい大きな声を出していたんだ。

 私は祈る。

 叫ぶように祈る。


 負けないで!


 絆とは繋がり。

 繋がりとは思い。

 私は思う。

 共に戦う聖女たちを、彼女たちを守る騎士を。

 友人を、大好きな人を。

 誰にも傷ついてほしくない。

 生きていてほしいと願う。

 

 この願いも――繋がりの一つ。

 

 不確かでも構わない。

 今だけでも良い。

 耳を傾けてさえくれれば、私の力はみんなに届く。


「これは……あの時と同じ?」


 最初に感じ取ってくれたのはセレイラさんだった。

 彼女に続いてラリーさんとレルンさんが。

 さらに周囲のみんなにも繋がっていく。

 絆の同調によって、聖女の力が増していき、負った傷は癒えていく。

 そして強まった聖女の力は、彼女たちを通して騎士へと注がれる。


「な、何だ? 傷が癒えて」

「力が……力が湧いてくる」

「ユーリ、これはまさか……」


 ガリウスさんが話しかけても、ユーリは反応しない。

 気絶しているわけでも、無視しているわけでもない。

 彼には聞こえていなかった。

 今の彼に聞こえているのは、きっと私の声だけだろう。


「ありがとう。レナ」


 彼の声もまた、私の心に届いた。

 同調の力で戦況は持ち直した。

 しかしまだ、ロスボロスには決定打を与えていない。

 騎士たちが泥人形を倒す中、侵攻を続けるロスボロス。

 そこに一人の騎士が立ち塞がる。


「ああ……感じるよ。君の力を通して……みんなの力が」


 同調によって力が強まるのは、絆の聖女も同じ。

 強まった力は波となり、激流のように彼の身体に注がれていた。

 この場にいる聖女、騎士の力と思い全てを、彼は全身で受け止めている。

 今の彼は一本の剣。

 多くの者たちに支えられ、強く握られ振り下ろす。


「これで最後だ」


 ユーリは上段に剣を構え、まっすぐに振り下ろした。

 斬撃は光を放ち、巨大化してロスボロスへ放たれる。

 まさに一瞬の出来事だった。

 一振りの斬撃に込められた思いは、ロスボロスの身体を両断した。


 彼の一撃を最後に、戦いは終結したのだった。


  ◇◇◇


 戦い終結後。

 陛下の会見、戦勝パーティーに授賞式。

 もろもろのイベントが一区切りついてようやく落ち着いた頃、私とユーリはアレスト様に呼び出されていた。

 向かった先はもちろん、大聖堂の地下だ。


「やぁこんばんは、待っていたよ」

「こんばんは、アレスト様」

「失礼します」

「そう畏まらなくて良いよ。今や君たちはこの国の英雄なんだから」


 というやり取りも、これで何度目だろう。

 私とユーリはちょっぴりうんざりしていた。


「そういうのは止めてください。ロスボロスに勝てたのはみんなの力があったからこそです」

「そうです。私たちだけの力じゃありません」

「うんうん、まぁそういうだろうね。でも君たちがいなければ、確実に負けていた。あの場にいた者が皆同じようにそう証言するんだよ?」


 アレスト様のおっしゃったことは事実だ。

 手のひら返し、とまでは言わないけど、あの戦いで私たちに対する評価は一変した。

 戦勝パーティーでは貴族たちに囲まれ、授賞式では栄誉勲章を授与される。

 聖女の落ちこぼれだった私が、たちまち有名人だ。


「慣れないかい?」

「は、はい。こんなにも注目されたのは初めてなので」

「そうかそうか。なら良い思い出になっただろう?」

「……はい」


 確かに良い思い出だ。

 忙しくて慌ただしいし、ずっと続いてほしいとは思わないけど、

 偶には悪くないと思っていた。


「俺はもうごめんだよ」

「ふふっ、ユーリならそう言うと思った」

「うんうん、君たちは実に素晴らしいよ。予想以上の成長速度にも驚かされた。さすが絆の聖女に選ばれた女の子と騎士だね」 


 アレスト様の誉め言葉に、私とユーリは何だか恥ずかしくなる。

 褒められ慣れていないから、まっすぐ褒められるとどう反応していいのかわからない。

 だから私たちは照れることしか出来なかった。

 戦いも終わったことで、気も緩んでいた。

 

 そうして急に――


「だがすまない。楽しい時間は……これで終わりだよ」


 アレスト様の雰囲気が変わった。


「え?」

「っ、ぐっ!」


 突然、アレスト様が剣を抜き、ユーリに襲い掛かった。

 ユーリは咄嗟に反応して剣で受けるも、衝撃で後ろに飛ばされてしまう。


「やるね。今ので斬ったつもりだったのに」

「ユーリ!」

「君はこっちだ」

「うわっ!」

 

 アレスト様に肩を掴まれ、そのまま結晶まで吹き飛ばされる。

 結晶に背中をぶつけた途端、氷の茨のようなものが結晶から生まれ、私の身体に絡まっていく。

 絡まった茨は固まり出す。

 私の身体は、結晶の中へと飲み込まれていく。


「ユーリ……」

「レナ!」


 それが最後に聞こえた声。

 私の意識は、闇へと連れていかれてしまう。

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