46.繋がる力
ロスボロスの恐ろしさに誰もがしり込みする。
そんな中ただ一人、臆することなく一歩を踏み出し、切っ先を向けた騎士がいた。
彼の背中は勇ましく、大きく、格好良かった。
私は彼の名前を口にする。
「ユーリ」
彼を知る者、彼を知らない者。
この場にいるすべての者たちが、その背中に勇気づけられる。
騎士は剣を抜き、聖女は両手を合わせる。
『行くぞ!』
誰かの一声をきっかけに、騎士たちが一斉に駆け出した。
騎士たちはユーリを通り越して、ロスボロスへと向かっていく。
「――! 遅いんだよ」
「お前が先走りすぎるんだよ、ユーリ」
ガリウスさんがユーリにそう言うと、彼は小さく微笑んで剣を握り直す。
二人は改めてロスボロスを見上げる。
「やるぞ」
「おう」
騎士たちが戦闘を開始して数秒。
ロスボロスが動きを止め、私たちに向けて大きく口を開く。
あれを口と表現して良いのかは微妙だけど、開いた穴の中でどす黒い穢れの力が収束する。
「あれは!」
「きますよ! レナリタリーさん!」
「はい!」
ロスボロスの口に収束した穢れの力は、光すら飲み込む闇のエネルギーへと変化する。
ドラゴンが放った破壊の炎の数十倍の力。
炎ではなく穢れそのものが具現化し、破壊の光線を放つ。
放たれた光線の先には、聖女である私たちがいる。
「レナ!」
ユーリの声が響く。
大丈夫だと、私は彼と目を合わせた。
「天よ――悪しき穢れからか弱き我らをお守りください」
祈りの聖句を唱える。
一人ではなく全員で、守りの力を行使する。
瞬間、破壊の光線は結界に阻まれた。
私たち聖女の役目は大きく二つ。
一つは結界を維持すること。
ただし維持する結界は二つある。
ロスボロスをこの場に留めておくための大結界に、自分たちを守る小結界。
破壊の光線を防いだのは小結界のほう。
もう一つは、今回の主戦力である騎士たちへ力を注ぎ続けること。
騎士たちが攻撃を担い、聖女が支援と足止めに専念する。
「っ……何とか防げましたね」
「ええ。ですが強烈です。たった一撃で……」
セレイラさんの視線の先、結界の一部には亀裂が入っていた。
ロスボロスの一撃を防いだ結界は、私たち聖女が何重にも束ねて強化されている。
それでも尚、あと少し弱ければ破壊されていただろう。
亀裂は何度でも修復は出来るけど、私たちが消耗すればいずれ突破されてしまう。
その前に騎士たちが、ユーリたちがロスボロスを倒せるかどうか。
「お願いユーリ」
距離もあるし、きっと声は届かない。
それでも、思いは通じていると信じている。
心配そうに私を見ていた彼が背を向け、ロスボロスに向う。
彼の背中は、任せろと言っているように見えた。
「信じてるよ」
私に出来ることはそれだけだ。
彼の勝利を、無事を信じて祈り続ける。
ユーリは剣を握り直し、ロスボロスの正面に立つ。
今のところ、私たちを襲った光線以外の反撃はしてこない。
少しずつ全身はしているものの、その速度は著しく落ちている。
騎士たちは聖女の加護を受け、それぞれの個性の力に変え戦っていた。
ある者は炎を放ち、ある者は雷を操り、中には勇ましい獣をその身に宿す者もいる。
その中でも間違いなく、ユーリは特別だ。
「風を纏い、水よ逆巻け」
刃が風を纏い、さらに水が加わったことで渦を生み出す。
突き刺した刃の先から風と水が渦巻き、ロスボロスの身体を削っていく。
ユーリには今、私が関わってきた聖女たちの個性すべてが宿っている。
セレイラさんの光、ラリーさんの水、レルンさんの風。
一人で複数の力を操れる騎士は、ユーリ以外だとアレスト様だけだ。
「いける。いけるぞ!」
騎士たちが騒ぎ出す。
反撃はゆるく、攻撃は通りやすい。
優勢だ。
しかしこの程度で倒せるなら、災害級などと指定されていない。
ロスボロスは再び口を開く。
「またあれか。そう何度も撃たせない! ガリウス!」
「わかっている」
二人は並び立ち、切っ先をロスボロスの口に向けて構える。
刃の先に収束する光の力。
その光は一筋の線となって、ロスボロスに放たれる。
「「極光」」
ロスボロスが光線を放つ前に、二人の光が口を貫いた。
それによってロスボロスは口を閉じる。
「よし!」
「いくぞユーリ! 畳みかけるんだ!」
騎士たちの士気はさらに上昇。
もはや恐怖はないほどに、ロスボロスへ攻撃をしかける。
だが――
「キイィィィィィィィィィィ!」
「なっ、何だ!?」
ロスボロスが奇声をあげた。
ユーリは咄嗟に耳を塞ぎ、他の者たちも動きをとめる。
その直後、ロスボロスの身体からボトボトと泥の塊が落ちて来た。
限界を迎えて、肉体が崩れ始めたのか。
そうではなく、肉体を分けているだけだ。
落ちた泥の塊は人の形へと変化し、騎士たちに襲い掛かる。
「何だこいつら!」
「怯むな! 所詮ただの人形――うがっ」
「お、おい!」
ただの人形、されど穢れの集合体。
油断ではなく、単純な力の差で何人もの騎士たちが傷を負う。
ユーリとガリウスは人形を斬り倒しながら、負傷した者たちを守ろうとする。
しかし依然として、泥の人形は増え続けていた。
そして――
人形は地面をつたり、私たちの足元にたどり着いた。
私たちは気づかなかった。
地下に隠れた結界の一部に、小さな穴が空いていたことに。
「そ、そんな」
「レナ!」
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