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【コミカライズ】絆の聖女は信じたい ~無個性の聖女は辺境の街から成り上がる~  作者: 日之影ソラ
第二章 絆の聖女

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43.大侵攻

「うーん、うん。思ったより成長が早いねぇ」


 王都大聖堂の地下深く。

 選ばれし者しか立ち入りを許されない神聖な部屋で、アレストは結晶の前に立っていた。

 仮面で顔は見えないが、彼は目を閉じている。

 閉じた瞼の裏に見えるのは暗闇ではなく、遠く離れた地にいるもう一人の絆の聖女と、その騎士の姿だった。

 二人は着実に成長している。

 他者と関り、少しずつ絆の輪を広げていた。


「若いからかな? 純粋で真っすぐだ。懐かしいよね、ミカエル」


 結晶の中で眠る大聖女。

 彼女は数千年の長きにわたり眠り続けていた。

 そんな彼女を、同じ時間見守ってきたのがアレストである。

 どれだけ話しかけても答えはない。

 彼女の声が聞けるのは、夢の中の幻想だけ。

 かつて彼女と語らい、触れ合った時間さえ、もはや幻になりつつあった。

 それほど長い時間を彼は生きてきたのだ。


「ねぇミカエル……君の声が聞きたいよ」


 そう何度も願っても、彼女は答えてくれない。

 アレストは小さくため息をこぼす。


「なんて、もういい加減、諦められたら良かったのにさ。駄目だよミカエル。あれを見てしまったら、考えてしまうじゃないか」


 彼は優しく結晶に触れる。

 仮面の裏の素顔は、慈愛に満ちた表情をしていた。


「早めに次の段階へ進むかな? いや、丁度良いイベントが起こりそうなんだ。だからもう少し、待っていてくれ」


 彼が望む未来、願う希望。

 それは彼にとってのもので、世界にとっての幸福ではない。

 しかし誰にも、その行いを断じることなどできない。

 出来るとすればただ一人。

 最愛にして生涯のパートナー……ミカエルだけだ。


  ◇◇◇


 某日。

 王都から各地の聖女へ緊急通達が行われた。

 内容を要約する。


 現時刻より五日前。

 災害級の穢れが発生。

 王都へ侵攻中につき、聖女と騎士は速やかに王都へ帰還せよ。


「災害級の穢れって……そんなの今まで聞いたことないよ」

「俺も初めてだよ」

「確認できている情報だと、以前にウエストを襲ったドラゴンを遥かに上回る大きさだとそうです。こんなもの……古い文献にしか載っていません」


 私たちは馬車に乗り、急いで王都へ向かっていた。

 揺れる馬車の中では緊張が溜まる。

 王都からの連絡と、ラトラが自分で調べた情報をもとに話を続ける。

 

「今のところ大きな被害が出ていないことが幸いですね。発生した地点に小さな集落がいくつかあったようですが、発見が早く逃げることが出来たそうです。ただ集落は全損してしまったので、今はまとまって別の村へ避難していると」

「死人が出ていないのは奇跡だな。建物は何度でも建て直せるけど、人の命は戻らない」

「うん」


 ユーリの言う通り、誰も死んでいないことは奇跡だ。

 ドラゴンより大きく強大な穢れ、想像以上であることが想像できるほどの相手に、建物だけの被害で済んだのだから。

 ラトラの話では、発生後はまっすぐに王都を目指しているらしい。

 侵攻ルート上の集落や街には先に連絡がいき、みんなそれぞれの街に避難しているらしい。

 当面の危機は、王都の人々に向いていた。


「王都の人たちは大丈夫なのかな?」

「大丈夫じゃないだろうね。間違いなく混乱は起こってる」

「そうでしょうね。何せ公表前に噂が広まってしまったようなので」


 これもラトラが調べてくれたことだ。

 王都では現在、避難勧告が発令されている。

 しかしそれが発令される前に、国からの正式な発表が成されるより早く、王都の人々に穢れの侵攻が伝わってしまった。

 王国側も隠していたわけではないだろうが、タイミングが悪かった。

 直後に王都では大混乱が起き、今はその収拾に勤しんでいる頃だろう。


「だからこそ、お姉さまを含む聖女様全員に召集をかけたようです。少しでも街の方々に安心してもらえるように。もっとも効果は薄いようですが……」

「それは仕方がないさ。先に見えてしまった恐怖のほうが、後から見せられた安心より強い。特に一度起こってしまった混乱は簡単には治まらないよ」

「その通りですわお兄さま。おそらく現状、一番早く混乱を治める方法は大聖女ミカエル様が表に出てきてくださることです。王都ではそういう声も多数あがっていると聞きます」


 王都を守護している大聖女ミカエル様。

 人々が最も信頼し、崇めているのは彼女で間違いない。

 危機的状況に陥るほど、人間は希望に縋ろうとする。

 もしもミカエル様が表で一言、安心してくださいと伝ええることが出来たなら……

 確かに混乱は収まるかもしれない。


「でも……」

「ああ、無理なのは俺たちがよく知っている。だからもう、その穢れを祓うしか道はないんだ」

「ええ、王都が呑み込まれてしまえば、ミカエル様も危険です。そうなれば最悪、世界が穢れに呑み込まれてしまう」


 ラトラの一言に背筋がぞわっとする。

 ミカエル様の力で抑制されている穢れが一気に放出すれば、たちまち世界中で穢れが発生するだろう。 

 そうなる前に穢れを祓わなければ。

 

「急ぐ。ちょっと揺れるけど我慢してくれ」

「うん」

「わかりました」


 ユーリは馬に鞭をうつ。

 揺れる馬車の中で、私は祈りを捧げていた。

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