41.絆の輪
私たちは一度アトランタの街へ戻った。
セレイラさんが言っていた通り、街のみんなは私たちのことを待ってくれていた。
特に異変があったりとか、不安があったわけじゃなくて。
私たちに会いたいと思ってくれていたらしい。
出来ればのんびりと教会で過ごしたかったけど、そうも言っていられなかった。
次の街へ行ってほしいとアレスト様から連絡が来たからだ。
出発しなくてはならない心苦しさを感じつつ、私たちは街を出た。
「次はラリーさんとレルンさんがいる街か」
「聖女が二人いる街なんてあるんだな」
「うん。大きい街だとあるみたい。セレイラさんは凄い人だから、あの街も一人で任されちゃってるだけで」
「なるほど。まぁそれで無理させちゃ意味ないけどさ」
私たちは馬車に揺られ、二人が担当する街へと向かった。
街の名前はアイレン。
別名水の都と呼ばれ、多くの観光客で賑わっているという。
◇◇◇
街の教会には、大勢の人々が集まっていた。
規模はウエストより一回り小さい。
しかし集まっている人の波はウエストの勢いを上回っていた。
全員がゴホゴホと咳をしたり、気だるそうにしている。
そう。
彼らが教会に押し寄せている原因は病だった。
「お次の方は前へお願いします!」
「順番に周ってきますのでお待ちください!」
「危険ですので押さないでください!」
ユーリを含む騎士たちが列を何とか整理しようと奮闘していた。
この街で起きていた異変はいたってシンプル。
流行病の大流行によって、街中に病気が蔓延してしまったことだった。
あまりの多さにお医者さんも手が回らず、しまいにはお医者さん自身も病になってしまったとか。
毎年この時期になると流行る病らしいのだが、面倒なことに毎年型が違うため、薬の効き目が悪い。
だから皆、聖女の力を頼っていた。
慌ただしい一日を終え、ようやく夕刻になり人足が遠のく。
最後の一人に祈りを捧げてから、私たちは大きくため息をこぼし、疲れを隠すことなくだらんと椅子に座った。
「ふぅ……何とか終わった」
「お疲れだな」
「ユーリもお疲れ様。ラトラも疲れたでしょ?」
「いえいえ! これくらい平気です!」
ラトラは元気に飛び跳ねて見せた。
彼女も教会の外で人を誘導したり、お医者さんの所を周ってくれたり。
たぶん行動量で言えば一番大変だったはずなのに、まだまだ元気なのは凄いと思う。
私より全然体力はある。
「ありがとうございます。レナリタリーさん」
「お陰で昨日より楽でしたわ」
私たちが話している所に、ラリーさんとレルンさんが話しかけてきた。
二人はよくセレイラさんと一緒にいて、何度か話す機会はあったけど、こうして面と向かって会話するのは初めてだったりする。
「セレイラさんからのお手紙を見た時はまさかと思いましたが……本当に助かりました」
「今まで意地悪ばかりしてしまってごめんなさい」
「い、いえそんな。お力になれただけで私は嬉しいです」
二人は丁寧に謝罪して、深々と頭を下げる。
セレイラさんの時と同じ流れを覚悟していた私には、ちょっぴり拍子抜けだ。
実はここへ来る前に、セレイラさんが二人に手紙を送ってくれていたらしい。
そこには私のことが書かれていたらしく、セレイラさんのことを信頼していた二人は、内容を疑いながらも受け入れた。
そうして現在、一緒に街の人の病を治療して、手紙の内容が嘘ではないとわかったらしい。
「セレイラさん……」
離れていても繋がっている。
彼女がそう言ってくれたことを思い出す。
たとえどこにいても、私たちは繋がっている。
今日のことでそれを実感できたことが何より嬉しかった。
その日の夜。
私たちは教会の開いている部屋を借りてしばらく生活することになった。
一先ずは感染者が一通り減るまで滞在する予定だ。
部屋の数はギリギリ足りて、一人一部屋設けられている。
「俺は部屋にいるから、もし何かあったら呼んでくれ。夜寝れないっていうなら子守歌でも歌うよ」
「大丈夫だよ。子守歌って、子供じゃないんだから」
「言ってみただけだ。それじゃ」
「うん、おやすみなさい」
食事を終え、入浴を終え、ラトラは先に眠っている。
明日に備えて早く寝ようと話し合って、ユーリも部屋へと歩いて行った。
リビングに残っていた私は、少しのんびりしてから部屋に行こうかと思っていたら……
「レナリタリーさん、騎士の方とすごく仲が良いんですね」
「え、そ、そうですか?」
ラリーさんに不意に話しかけられて、少し慌てながら返事をする。
そこへ付け加えるように、レルンさんが言う。
「何だか聖女と騎士って関係には見えないですね」
「そ、そんなことないと思いますよ」
「うーん……もしかして、お二人は恋人同士だったり?」
「なっ、ち、違いますよまだ!」
と、勢い余って口を滑らせてしまった。
私は後になって気付く。
「「まだ?」」
「あ……何でもないです」
尻窄みになる声量。
恥ずかしさに頬を赤らめる私とは反対に、二人は目をキラキラ輝かせる。
「レナリタリーさん!」
「詳しく聞かせてもらえませんか?」
「え、えぇ……」
二人は恋愛のお話が大好きだったみたいで、グイグイと質問責めにあった。
セレイラさんの時とは違うけど、二人とも仲良くなれる気はする。
絆と言うのは案外簡単に、誰とでも紡げるものなのだろう。
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