40.離れていても
ドラゴン襲来の後。
しばらく混乱が続き、不安がる街の人たちのために、私たちは教会にみんなを集めた。
戦闘の最中ラトラが街の人たちに呼びかけてくれたお陰で、スムーズに集めることは出来た。
そこで彼らに説明した。
すでにドラゴンは討伐したこと。
怪我人はなく、今後の活動にも支障はないこと。
それから――
「申し訳ありません皆さん。これまで私はどんな方でもご相談をお受けしてきました。ですが今後は、軽い怪我や病気の際は、一度お医者様に相談して頂きたいです」
セレイラさんは街の人たちにお願いをした。
全て一人で何とかしようとして、無理をしていたことも含めて。
それを聞いた街の人たちはあっさり受け入れた。
批判や中傷の声はない。
みんなも知っているからだ。
セレイラさんが頑張ってくれていたことを、近くで見ていたから。
なら、責めることなんて出来ないだろう。
その日の夜、彼女はぐっすり眠りについた。
久しぶりに心から安心して眠れたのだろうか。
◇◇◇
数日後。
「お大事になさってください」
「ありがとうございます。レナリタリー様」
「はい」
私は今、セレイラさんの教会でお手伝いをしている最中だ。
あの日以降、セレイラさんは体調を崩してしまった。
今まで頑張り過ぎていたから、疲れが一気に押し寄せてしまったのだろう。
セレイラさんほどの力を持った聖女なら、一生病気にかからないことも多い。
彼女にとって初めての風邪は堪えたらしくて、丸一日寝込んでいた。
ようやく回復したのが昨日で、今日からは朝と昼に交代でお仕事をすることになっている。
朝はセレイラさん、昼は私が担当だ。
「聞いてください聖女様、女房が最近口をきいてくれなくて」
「それはお辛いですね。もし良ければ何があったのか教えて頂けませんか?」
教会に来る人は減ってきている。
それでも十分に多くて、私の街とは雲泥の差だ。
人が多いから、悩みもバラバラで、相談を受ける度に頭を悩ませる。
これを全て一人でこなしていたセレイラさんは、やっぱり凄い人だと改めて思った。
同日の夜。
私たちは同じ食卓を囲む。
「貴女たち、そろそろ自分たちの街に戻ったらどうです?」
「え、で、でもセレイラさん」
「私のことなら心配いりません。休んだお陰で元気になりました。それに以前より力も増しています。きっとこれもレナリタリーさんのお陰なのでしょう? ありがとう」
「そ、そんな。お礼なんて」
セレイラさんにお礼を言われと照れてしまう。
今までのことが嘘みたいに、セレイラさんは私に優しくなった。
私にだけじゃない。
ガリウスさんにも謝って、今は良く二人で話したりもしているみたい。
それに私と二人で話す機会も増えていた。
「絆の聖女……ね。無個性じゃなかったのね」
「はい。私もこの間まで知りませんでした」
私の個性についても、彼女が休んでいる間に話してある。
アレスト様とミカエル様の秘密については話せないから、全てを教えたわけじゃないけど。
今の私が持っていること、思っていることは素直に伝えたつもりだ。
「気づけたのは……彼のお陰かしら?」
「え、あ……だと思います」
もちろん、ユーリのことも話している。
女の子同士だから話しやすかったのかもしれない。
私が彼のことを好きになったのも……伝えてしまった。
今は少し恥ずかしい。
「互いに信じ合い、絆を深めることで強くなる……素敵なことね。私はずっと……それをしてこなかったわ」
「セレイラさん……」
「でもわかったの。一人じゃ出来ないことも、二人なら出来る。信じて支え合うほうが、ずっと強いんだって」
そう言ったセレイラさんは清々しい表情で笑った。
重荷から解放された笑顔は綺麗で、女の子らしくて、可愛かった。
「だからもう大丈夫よ。いつまでも他所の街の聖女に迷惑はかけられないわ」
「迷惑だなんて!」
「思ってないのは知っているわ。でもきっと、街の人たちは貴女のことを待っている。いつ帰ってきてくれるのかなって。貴女を信じている人たちを不安にさせては駄目よ」
それはとても優しい助言だった。
不安がる必要はないのだと教えてくれる。
不安だったんだ。
ようやく心を開いてくれて、話せるようになって。
お友達になれた気がするのに、また離れたら終わってしまう気がした。
途切れてしまう気がした。
誰かと繋がるということは、何度も別れを経験するということもである。
それがとても不安で……怖かった。
「大丈夫よ。今もまだ、貴女の力を感じている……いつでも、どこにいても感じる。これが絆の力なんでしょ?」
「……はい」
そう。
私たちは繋がっている。
確かな絆で、聖女と聖女のつながりで。
「困ったらまた相談するわ。貴女も何かあったら私にいつでも相談しにきて」
「……はい!」
だから大丈夫。
私たちは聖女で、お友達だ。
この先もずっと、離れていても。
この繋がりは……途切れない。
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