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【コミカライズ】絆の聖女は信じたい ~無個性の聖女は辺境の街から成り上がる~  作者: 日之影ソラ
第二章 絆の聖女

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37.騎士ガリウス

 ドラゴンと呼ばれる魔物は、太古に絶滅したと言われている。

 かつて地を這う竜は天空の神々に挑むため、その背中に翼を生やした。

 空を自由に舞い、神々に牙を向いた。

 しかし力の差は大きく、挑んだ者たちは次々に敗れ去り、翼を失った者たちは再び地に落ちた。

 彼らは地に落ち、翼をなくしてもなお睨み続けている。

 天空に住まう神々を見ている。

 その執念深さと恨みには、神々でさえ恐怖を感じただろう。


 すなわちそれは、神々にとっての恐怖の象徴。

 人々にとっては最悪の姿。

 穢れは人々の心から生まれ、その形は人間が想像する恐怖の形となって顕現する。

 ドラゴンは数ある穢れの中でも最上位の形とされていた。


「ドラゴン……ですって?」


 翼を広げた姿はまさに圧巻。

 私たちは思わず自らを忘れ、天空のドラゴンに目を奪われる。

 直後、ドラゴンは顎を大きく開き、破壊の炎をまき散らす。


「っ――」


 破壊の炎は結界に阻まれ四方へ散る。

 何とか攻撃は防いだものの、強力な一撃に結界には亀裂が入ってしまう。

 結界を維持している聖女自身にも衝撃は襲う。

 セレイラさんはあまりの衝撃に耐えかね、その場で両ひざをつく。


「セレイラ様!」


 咄嗟に駆け寄ったのはガリウスさんだった。

 私やユーリよりもいち早く彼女の異常に気付き、倒れかける彼女を抱きかかえる。


「セレイラ様! しっかりしてください!」

「……そんなに大きな声を出さないで……くれるかしら?」

「良かった」


 ガリウスさんは安堵の表情を見せる。

 無事とは言い難いが意識はあり、結界の亀裂も修復された。

 とは言え、以前として脅威は健在だ。


「私のことより……あのドラゴンを見なさい」


 セレイラさんの言う通りだ。

 特に私や、騎士のユーリたちはドラゴンを無視できない。

 たった一撃で強力な結界に亀裂を入れるほどの力は、街の人々の恐怖を駆り立てるには十分。

 放っておけば――


「な、何だあれ」

「ドラゴン……ドラゴンだ!」

「お、おい結界にヒビが入ったぞ! 見間違いじゃない!」


 街中で恐怖が広がり、大混乱が起こってしまう。

 穢れの力の源は、人間から生まれる負の感情。

 恐怖もそのひとつであり、穢れにとっての大好物だった。


 ドラゴンが雄叫びを上げる。

 その声だけで空気が震え、振動は私たちにも伝わる。

 恐怖は膨れ上がり、力を増したドラゴンは再び顎を開く。


「またさっきのを!」

「させないわ!」


 セレライラさんが右手をドラゴンにかざす。

 彼女の個性は『光』。

 光は世界を照らし、闇を打ち払う。

 ドラゴンの上空に生成された光の球体が、ドラゴンの背中に向けて落下する。

 ギリギリでドラゴンは気づき、大きく翼を羽ばたかせて回避した。


「逃がしません!」


 セレイラさんは光の球体を操りドラゴンを追撃する。

 そして彼女自身も光を纏い、宙に浮かぶ。


「私が何とかします! 貴方たちはそこにいてください!」

「駄目ですセレイラ様!」 

「セレイラさん! 私も手伝います!」

「馬鹿を言わないで! 落ちこぼれの貴女に何が出来るって言うの!」


 彼女は力強い声で言い放ち、そのまま空高く飛び上がる。


  ◇◇◇


 光を纏ったセレイラは宙を舞い、ドラゴンを光の球体で街の外へと誘導していた。

 上空で戦えば街へ被害が出てしまう。

 最悪の場合結界が破壊されれば、瞬く間に街は火の海と化すだろう。

 そうならないように彼女はドラゴンを街から引きはがす。


 セレイラの『光』の個性は戦闘に優れていた。

 聖女単身では穢れと戦えない者が多い中、彼女は自らの力だけで穢れと戦うことができる。

 戦いも治療も、全て一人でこなせる彼女は特別で、故に大聖堂でも優秀な成績を収めていた。


 ただし、彼女は聖女であると同時に人間である。

 そのことを忘れてはいけない。

 彼女自身が一番、己の限界を知らなくてはならない。

 それを怠ればやがて……


「ぅ、ぐっ……」


 彼女は自身の力に押し殺される。


「ふ、ぅ――」


 ドラゴンを誘導していたセレイラだったが、その身体は遂に限界を迎える。

 鼻血を流し、飛ぶ力を失って地面に落下する。

 ギリギリの所で力を再発動させ、落下の衝撃だけは押さえたももの、彼女にはもはや飛ぶ力は残っていなかった。

 光の球体も消えている。

 聖女セレイラは地に伏し立ち上がれない。

 それはまるで、かつてのドラゴンたちと同じように。


「こんな……ことで……」


 必死に立ち上がろうとするセレイラ。

 そんな彼女の頑張りなど、穢れたドラゴンには関係ない。

 ドラゴンは彼女を睨み、無慈悲に強靭な尾を振り回す。

 迫る黒い尾。

 セレイラは自らの死を直感し、動くことすらできない。


「ぁ――」

「セレイラ様!」


 光のように速く、彼女を守る剣は駆けつけた。

 間一髪という言葉通り、僅かに遅れていたら間に合わなかっただろう。

 騎士ガリウスは聖女を守った。

 自らの身を挺し、彼女を庇ったのだ。


「ぅ……ぐっ……」

「ガリウス……ガリウス!」

「ご無事……ですか?」


 彼はセレイラを咄嗟に抱きかかえ、ドラゴンの尾を自らの身体で受け止めた。

 その衝撃はすさまじく、彼の全身からは血が流れる。

 

「あ、貴方は何を……何でこんな……」

「聖女をお守りすることが……私の役目ですから」


 彼は自らの役目を全うしたに過ぎない。

 たとえ拒絶され、心無い言葉を受けようとも。

 騎士は聖女を守る。

 そのために努力し、力をつけたのだから。

 それは紛れもなくガリウスの優しさ。

 彼の心を感じたセレイラの瞳からは、大粒の涙がこぼれ落ちる。


 そんな二人に空気も読まず、ドラゴンは大口を開き破壊の炎を放った。


「ごめんなさい。私は……」

「セレイラさん!」


 続く声にセレイラは目を疑う。

 目の前に立っていたのは、かつて落ちこぼれと呼ばれていた聖女。

 両腕を広げた彼女が今、破壊の咆哮から二人を守っていた。


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