表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ】絆の聖女は信じたい ~無個性の聖女は辺境の街から成り上がる~  作者: 日之影ソラ
第二章 絆の聖女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/56

32.歯車のずれ

 宿命という言葉には、いまいちピンとこない。

 それでも目の前で眠る大聖女を目の当たりにして、自分の未来を想像してしまった。

 私にしか出来ないこと。

 それはつまり、世界の穢れを抑制し続けるため、ミカエル様のようになるということじゃないのか。

 同じ考えにユーリも至る。

 

「レナにも同じように眠れと言っているんですか?」

「ううん、それは最終手段だ。僕と彼女にはそれしか選択肢がなかったけど、君たちは違う。まだ他にも選ぶことが出来る」


 そう言ってアレスト様は指を二本立てる。

 うち一本を折る。


「一つは穢れの根絶だ。力を完全開放した絆の聖女は、世界全土の穢れを祓うことが出来る。一人じゃ無理だけど、大部分を抑制し続けている彼女がいれば可能だ」

「穢れの根絶……で、でもそれって一時的ですよね?」

「その通りだよ。生き物が存在し続ける限り穢れは生まれる。いずれまた同じことが起こるだろう」


 アレスト様が示した一つ目の方法は、現状を乗り越えることは出来る。

 ただしその場しのぎ、問題の先延ばし。


「それじゃ意味が……」

「なくはないよ。一度でも穢れを排除できれば、ミカエルの力で新たに生まれる穢れを祓い続けることが出来る。もちろん、穢れの発生量が彼女の力を上回れば同じことだが……で、だから僕のおすすめは二つ目だ」


 アレスト様は立てた指のもう一つを折る。


「絆の聖女は、他の聖女と同調することで力を増幅する特性があるんだ。聖女同士が絆を深めれば、互いにその力を増す。これを同じ絆の聖女同士でやればどうなると思う?」

 

 アレスト様の視線は私に向いている。

 だから私が答える。


「ミカエル様と私の力が強くなる?」

「そう。しかもお互い強大な力を持つ者同士、その相乗効果は計り知れない。僕の予想だと、それで二度と穢れに押し負けることなんてなくなるんだ」


 ミカエル様の力が強まれば、溢れ出ている穢れを再び抑制できる。

 私が眠る必要もなくなる。

 それを聞いて少しホッとしていた。

 すると、隣で聞いていたラトラが質問する。


「具体的にどうすればいいのでしょう?」

「絆を深めるんだ。騎士と聖女の絆は大前提だけど、それだけじゃ足りない。ラトラお嬢様を含む、大勢とのつながりが必要になる。例えば僕は他の聖女とも契約しているけど、これはミカエルの力を補強するためなんだ」


 絆と呼べる範囲は広い。

 信頼や信用、期待も絆と呼べる。

 アレスト様が王国最強の騎士として、多くの人々から信頼されているのも、一つの絆の形。

 彼が契約する聖女たちも、人々から厚い信頼を向けられている。

 そうして紡いだ絆の力は、ミカエル様に還元される。


「君たちにはこれから、各地の聖女たちの救援に向かってほしい。どこもかしこも増え続ける穢れに押され気味でね? そこで活躍して人々から信用を得ると同時に、現地の聖女とも仲良くなって彼女たちの力を増幅させるんだ」

「仲良くなって……」


 そんな簡単に言われても困る。

 大聖堂でも、私には友達と呼べる相手はいなかった。

 ユーリと出会っていなければ、今だって一人ぼっちのままだったのに。


「不安がる必要はないよ。君にはもう、頼れる騎士と妹がいるじゃないか」

「あ――」


 アレスト様に気付かされる。

 私はもう一人じゃない。

 助けてくれて、相談に乗ってくれて、一緒にいてくれる人がいる。

 そんな当たり前のことも再認識しないといけないくらい、私の中では当たり前になっていた。

 私は何気なくユーリの顔を見る。

 そして目が合う。


「堂々としていればいいよ」


 と、ユーリは言ってくれた。

 ラトラとも目を合わせる。


「お姉さまなら大丈夫です! ラトラたちが一緒ですから!」


 元気で無邪気な笑顔は、幼い頃を思い出させる。

 不安はある。

 疑問もある。

 話は難しくて、大きすぎて、納得できるまでには至っていない。

 それでもこの先、何となるような予感だけしていて。


「それが私に……出来ることなんですね」

「そうだよ。君にしか、君たちにしか出来ないことだ」


 私にしか出来ないこと。

 期待されてこなかった私に、特大の期待が向けられている。

 だったら私は、それに全力で答えよう。


「頑張ります! ミカエル様に負けないくらい」


 そう思える自分が、今はただ誇らしかった。


  ◇◇◇


 具体的な説明を受け、レナリタリーたちは大聖堂を後にする。

 一人残っているのはアレストだけ。

 彼は地下へ戻り、結晶の中で眠るミカエルを見つめる。


「……あの子はちょっと、君に似ていたね? ミカエル」


 同じ絆の個性を持つ聖女。

 故に考え方や感性が近いのかもしれない。

 アレストは懐かしそうに感じながら、触れ合えない寂しさも湧き上がる。

 

「あの二人を見ているとさ。昔の僕たちを思い出すね?」


 返事はない。

 ただの独り言だ。


「眩しいというか、恥ずかしいというかさ……でも楽しかったから、二人もそうだろう」


 彼はレナリタリーとユーリに、かつての自分たちを重ねる。

 出会い、関わり、絆を深め、愛し合ったことを。

 思い出すたびに、手を伸ばそうとする。


「だから……本当にすまないと思っている。彼らには嘘をつきすぎた……きっと君も怒る。それでも……」


 彼は拳を握る。

 全てを取り戻す決意を胸に。


「僕は君を――取り戻すよ」


 運命の歯車は動き出している。

 ただし歯車は、少しずつズレていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
もしよければ、

上記の☆☆☆☆☆評価欄に

★★★★★で、応援していただけるとすごく嬉しいです!


ブクマもありがとうございます!

カクヨム版リンクはこちら

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻9/25発売です!
322105000739.jpg



第二巻発売中です!
322009000223.jpg

月刊少年ガンガン五月号(4/12)にて特別読切掲載!
html>
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ