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【コミカライズ】絆の聖女は信じたい ~無個性の聖女は辺境の街から成り上がる~  作者: 日之影ソラ
第二章 絆の聖女

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29.大聖女ミカエル

 大聖女ミカエル様。

 司る個性は『守護』。

 王国に属する聖女の中でもっとも強い力を持つ聖女様で、王都の結界を一人で維持している。

 そのため王都から出ることは出来ないらしく、またほとんどの人が顔を知らない。

 知っているのは、大聖堂に飾られていた絵だけ。

 綺麗な金色の髪に白い肌の、すごく綺麗な女の人だった。


「それじゃ、僕は先に王都に戻るからね」


 そう言ってアレスト様は教会の扉を開ける。

 身体が半分くらい外に出た所で顔を後ろに向け、私たちに言う。


「王都についたら大聖堂にきてくれると助かるよ」

「わかりました」

「うん。それじゃっ」


 私が返事をすると、アレスト様は軽く手を振って姿を消した。

 いなくなって扉だけがパタンと閉まる。

 出て行ったのではなく、いなくなったことに私は驚く。


「え、消えた?」

「転移だよ。アレスト様は大聖女様の他にも契約しているから、そのお力だと思う」

「そ、そうなんだ……」


 アレスト様がいなくなって、私は大きくため息をこぼす。

 緊張が一気に解れたのだろう。

 足や肩の力も抜けて、少しだけ姿勢が丸くなる。


「大丈夫?」

「う、うん。ちょっと緊張過ぎたかな」

「俺もだよ。まさかアレスト様がいらっしゃるなんて思いもしなかったから。それに比べてラトラは毅然としてて凄いな」

「ふふっ、ラトラがお相手するのは普段から目上の方でしたからね」


 ラトラはニコリと笑いながら言う。

 ペルル家の令嬢として恥ずかしくないよう、私よりも厳しく育てられていたから。

 

「それでどうしますか? 特に期日はおっしゃっていませんでしたけど」

「今から出発したほうが良さそうかな? 街の人たちには俺が伝えて回るから」

「うん。私とラトラで出来る準備はするね」

「お願いするよ」


 それから私たちは手分けして、王都出発の準備を始めた。

 馬車の手配と街の人への説明をユーリがしてくれて、私たちは長旅の荷物を整理する。

 ここは辺境の街だから、王都へ行くのも時間がかかる。

 衣類に食料はもちろん、緊急時に備えて野宿できる準備もしておく必要があった。


 約二時間かけて準備と説明を終え、私たちはユーリが運転する馬車に乗って王都を目指す。

 

 ガタガタと凸凹な地面を走る振動に揺られながら、小さくなっていく街を馬車の窓から見つめる。

 元々聖女がいなかった街だし、最近は病気やけがをする人も落ち着いてきたから、大丈夫だとは思いつつも……


「心配ですか? お姉さま」

「うん。でも……」


 正直に言えば、王都のことも気になってはいる。

 聖女の憧れとも呼べるミカエル様にお会いできる機会なんて、普通はありえない。

 大聖堂に飾ってあった絵を思い浮かべながら、どんな方なのだろうと想像を膨らませていた。

 それに、不思議と不安はなかった。

 王都ではあまりいい思い出はなかったのに、嫌な気分でもない。

 きっとそれは、一緒にいてくれる二人がいるから。


  ◇◇◇


 馬車に揺られ数日。

 私たちは王都へと帰還した。

 王都を離れてからそれほど長い時間は経っていない。

 それでも…… 


「懐かしい」


 そう思うのは、私がここで生まれ育ったからだ。

 どれだけ嫌な思い出が多くても、悪いことばかり続いても、生まれた場所は懐かしく思うと知った。

 門をくぐって感慨に耽っていると、馬車を業者に預けて来たユーリが駆け足で戻ってきた。


「おまたせ。それじゃ大聖堂へ行こうか? それともどこか寄ってからにする?」

「ううん、大聖堂でいいよ」

「わかった。ラトラもそれいいか?」

「はい。ラトラはお二人に任せます」


 三人とも大聖堂に向うことで了承し、まっすぐ目的地へ向けて歩き出す。

 王都の賑わいは相変わらずで、商店街は多くの人でごった返していた。

 私たちは波に飲まれないようわき道にそれて、少し大回りしながら大聖堂を目指した。

 道中、知り合いに会わないかなと思って身構えていたけど杞憂に終わる。

 同期はみんな各地に派遣されたし、王都に残っている知り合いのほうが少ないか。

 強いて言えば彼……元婚約者のアウグスト様くらいだけど。


「出来れば会いたくないなぁ」


 と小さくぼやく。

 周囲の音が大きくて、二人には聞こえていなかった。

 そのまま寄り道せず、私たちは大聖堂に到着する。


「ここはもっと懐かしい」

「ああ」


 大聖堂はユーリにとっても馴染みのある場所。

 同じ敷地内に騎士の養成所もあるから、何度も目にする機会はあったと思う。

 そして私たちは、この土地で出会った。

 あの出会いがあったからこそ今がある。

 そう思うと、無性にお礼が言いたくなって、私たちは顔を見合わせる。

 言いたいことは、きっと同じ。


「中に入ろうか」

「うん」


 だから敢えて口にしない。

 私たちは大聖堂の中へと足を踏み入れる。

 すると、記憶に新しい声が私たちを呼び止める。


「待ってたよ。三人とも」

「「アレスト様」」

「長旅ご苦労だったね。さっそくだけど付いてきてもらえるかな」


 私たちはこくりと頷く。

 その後、アレスト様に案内されて大聖堂の奥に向った。

 案内してもらったのは、これまで立ち入り禁止になっていた部屋。

 厳重に鍵をかけられ、許可がなくては立ち入れない。

 そこに私たちは踏み込む。

 アレスト様を先頭に扉を開けると、地下に通じる階段があった。

 白い炎が燃えるランタンが壁に付いている。

 不気味ではないが怖い雰囲気だ。


 私たちは階段を下る。

 その道中、アレスト様が質問を投げかけてくる。


「聖女レナリタリ―は彼女、ミカエルのことをどれくらい知ってる?」

「えっと、『守護』の聖女様で、王都を守る結界を維持してくださっていると」

「うんうん、まぁそうだね。あとは守護の聖女は親から子に受け継がれるもので、代々王族の家系の者がなる。騎士である僕も同様に、親から子へ名を受け継ぐ、かな?」

「はい」


 アレスト様が口にした内容は、見習い期間に教えてもらった知識だ。

 逆にそれ以上のことは知らない。

 話をしていると階段が終わり、古びた鉄製の扉が目の前にある。


「この先に彼女はいる。今から見るもの、聞くこと全て他言無用だよ」

「はい」


 私はごくりと息を飲む。

 そして、扉が開いた瞬間に呼吸を忘れてしまった。

 大聖女様の外見は絵で見た通りだった。

 黄金の白い肌の美しい女性。

 ただし、氷のような結晶に閉じ込められ、目を閉じていた。

 

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