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【コミカライズ】絆の聖女は信じたい ~無個性の聖女は辺境の街から成り上がる~  作者: 日之影ソラ
第二章 絆の聖女

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28.王都への帰還

「やぁやぁお三方、初めまして……だね? いや、君とは挨拶したことがあるかな? ユーリ君」

「え、あ、はい! お久しぶりです、アレスト先生」

「先生は止めなさい。養成所を卒業した今、君と僕は同じ騎士だよ」

「す、すみません」


 ユーリがガチガチに緊張して畏まっていた。

 物怖じしない性格のユーリがこんなにも畏まるなんて。

 上手く話しすら出来ていない。

 かくいう私も、緊張で何も話せていなかった。

 すると、アレスト様が私に目を合わせる。


「急な来訪をお詫びする。聖女レナリタリー」

「え、あ、はい」


 突然話しかけれてアタフタした私は、返事にならない言葉を返す。

 そんな私の反応を見て、アレスト様は笑う。 


「あははははっ、ユーリ君と同じ反応を見せるとは。二人とも順調に仲良くなっているようだね。うんうん、実に良いことだ」


 アレスト様に言われて今更気付いた。

 確かに今のはユーリと同じで、私たちは目を合わせて恥ずかしさに顔を赤らめる。

 冷静になれない私たちとは別に、ラトラがお嬢様らしい振る舞いで挨拶をする。


「初めましてアレスト様、ペルル家の者として、貴方様にお会いできて光栄です」

「うん。僕も会えて嬉しいよ。ペルル家とは長いお付き合いをしているしね。今後ともよろしくと、ご両親には伝えておいてほしい」

「はい。それで、アレスト様はなぜこちらにいらっしゃったのでしょう?」


 ラトラの質問は、私たちも知りたかったことだった。

 私は大きく深呼吸をして落ち着きを取り戻す。

 ほとんど同じタイミングでユーリも深呼吸をしたことに気づいたけど、これ以上恥ずかしくならないように敢えて気づかないふりをする。

 アレスト様が答える。


「様子を見に来たんだよ。君たちがちゃんと仕事を真っ当しているのか……っていうのが表の理由。実は君たちを迎えに来たんだ」

「私たちを……」

「迎えに?」

「そう。絆の聖女とその騎士、君たちにだよ」


 絆の聖女。

 アレスト様の口から、その言葉が飛び出した時、私の身体はぶるっと震えた。

 恐怖や寒気とは違う。

 驚きと単に表現していいのかも微妙だ。

 私の個性が『絆』だということは、私たちの中での予想に過ぎなかった。


「私は……絆の聖女」

「そうだよ。もしかして気付いてなかった? あーいや確信が持てなかっただけかな? 君は間違いなく絆の聖女だよ。僕が保証する」


 それが今、確信へと変わる。

 この身の震えは高揚か、それとも――


「どうしてアレスト様がそれを……知っているのですか?」

「僕は何でも知っている。聖女のことならね。だから、君が絆の聖女であることは最初から知っていた」

「最初から?」

「うん、最初からだよ。正確には君が大聖堂に来た時から」


 そんなにも前から?

 でも、だったらどうして……


「知っていたならなぜ、彼女を無個性の聖女のままにしていたんですか?」


 その疑問を感じ、口にしてくれたのはユーリだった。

 彼は少し怒っているように見える。

 アレスト様は不敵に笑う。


「いいね、彼女のことでちゃんと怒れてる。やっぱり正解だったね」

「どう意味ですか?」

「君が騎士になったことだよ。彼女を無個性にとどめた理由を聞いたね? その答えがまさしく君だ」

「……」


 ユーリは黙り込む。

 私には、アレスト様が言っている意味が理解できなかった。


「わからない? 絆の聖女にとって、誰を騎士に選ぶかは最重要なことだ。なぜなら絆こそが力の源だから。中途半端な信頼や敬愛なんて邪魔になる。絆の聖女という肩書に寄ってくる程度の者たちに、彼女のことは任せられない」


 軽い口調でアレスト様は語っている。

 その内容はまるで、他の騎士たちを侮辱しているようにも思えた。

 少なくとも褒めてはいないだろう。

 アレスト様は続ける。 


「騎士と確かな絆を紡ぐためには、彼女にとって特別になり得る存在が必要だった。君のようにね」

「……だから無個性のままにした。悪く目立たせて、それでも彼女を選ぶ者が現れることを期待したんですか? その所為で彼女がどんな思いをしたか」

「その点については謝罪する。こんなの結局、僕たち大人の都合だ。君の怒りもわかる。ただ……僕にも守らなきゃならないものがあったんだ」


 ユーリとアレスト様の視線が交わる。

 にらみ合っているのではなく、ただ見据えている。

 怒りや覚悟、様々な思いを乗せて。


「許せないと思うならそれでもいい。だけどその前に話を聞いてほしい。これは君たちにとって重要な……いいや、世界の未来に関する話だ」


 アレスト様の表情が変わった。

 楽観とした顔つきから、真剣で厳しい表情に。

 空気がピリつく。


「……わかりました。レナは?」

「え、えっと、私はユーリが良いなら」

「じゃあ二人とも了承を得たということでいいね」

「その話ですが、私もお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

 尋ねたのはラトラだ。

 アレスト様はこくりと頷く。


「もちろん。彼女に近しい者は知っておくべきことだ」

「ありがとうございます」


 ラトラがぺこりとお辞儀をする。

 アレスト様が話したいことが何なのか。

 今の私には全く想像がつかない。


「それじゃさっそく王都へ行こうか」

「王都? ここじゃないんですか?」


 教会から出て行こうとするアレスト様。

 私は彼の背中に問いかけた。


「うん。話をする前に、君たちには会ってほしい人がいるんだ」

「会ってほしい……それは私たちが知っている方でしょうか?」


 アレスト様が振り返る。


「知っているよ。むしろ知らない人のほうが少ない。彼女は大聖女と呼ばれているからね」

「そ、それって」


 大聖女ミカエル様。

 この世で最も美しく、偉大な聖女。

 

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