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【コミカライズ】絆の聖女は信じたい ~無個性の聖女は辺境の街から成り上がる~  作者: 日之影ソラ
第一章 聖女と騎士

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25.信じあうこと

 レナリタリーが領主の教会を出た後。

 教会に残ったユーリとラトラは、彼女の帰りを待つ。

 ユーリは普段通りに働いている様子だが、ラトラは心配そうに窓の外を眺めていた。


「お姉さま……大丈夫でしょうか」

「……」


 その声に反応して、一瞬ピクリと手を止めるユーリ。

 彼の反応に気付いたラトラが、窓から視線をユーリに向けて言う。


「本当に一人で行かせてよかったのですか? お兄さま」

「どういう意味だ?」

「言葉通りです。あの領主……あまり良い噂は聞きませんよ」

「……だとしても、引き留めきれなかった。相手はこの街の領主だし、下手に気分を害せば街の人たちに飛び火するかもしれない」

「それはそうですが」

「それに彼女は、婚約を受けるつもりはなかったみたいだし。話を聞いて、ちゃんと断って戻ってくるさ」


 ユーリはそう言って止まっていた手を動かす。

 

「お兄さまは、お姉さまを信じているのですね」

「ああ」

「……素晴らしいことですけど、それがお姉さまにも伝わっているかはわかりませんよ?」


 ピタリと、再び手が止まる。

 ユーリはラトラに視線を向ける。

 ラトラは重く真剣な表情をしていた。


「伝わってないっていうのか?」

「ええ。お姉さまは、思い込みが激しいといいますか、一人で悩んでしまうことが多いんです。昔から……良くないことばかり考えて、そうに違いないと思ってしまう。あの時のお姉さまは、お兄さまに助けてほしそうでしたよ?」

「……」


 ユーリにも、彼女の表情から察することは出来た。

 助けを求められていることも、一緒に来てほしいと思われていることも。

 理解した上で、彼女を一人で行かせたのだ。

 彼女なら一人でも大丈夫だと信じて。


「お姉さまとしては、裏切られた気分かもしれません」

「それは……だったら、ラトラは何で黙ってたんだ? 同じ貴族の立場なら」

「それは一番してはいけないことです。あの男はこの地の領主で、ここはあの男の領地です。他の領地のことを、無関係な家の者が口出しすることはできません」

「……そういえばそんな決まりもあったな」


 つまりラトラは、言いたくても言えなかった。

 彼女が黙り、ユーリの後ろに隠れていたのは、貴族間の大きな問題に発展させないため。

 それがなければ強引にでも引き留めたのだろう。


「けどもう、待つしかないだろ?」

「そうですね」

「……レナ」


 ユーリが彼女の名前を呟いた瞬間、激しい頭痛に襲われる。


「うっ……な、何だ?」

「お兄さま?」


 ユーリの脳内に流れる光景。

 彼が知りえない……あるいは未来のビジョン。

 そこに映っていたのは、領主に押し倒され、辱められるレナリタリーの姿。


 聖女と加護を受けた騎士には、見えない繋がりがある。

 絆の聖女の守護者は、その繋がりが他に比べて強い。

 守るべき聖女に危機が迫ると、本能的に危機を察することが出来る。

 ユーリが見た光景は、これから起こる未来の悲劇。

 聖女が助けを求めている合図だった。


「レナが……危ない」

「え?」

「彼女が助けを求めてる」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 助けて、と心の中で叫んだ。

 彼の名前を口に出した。

 届いてくれた。

 ちゃんと来てくれた。


「ユーリ!」

「レナから離れろ!」

「ぐえ!」


 ユーリは瞬く間に領主へ近づき、剣の柄で殴り飛ばす。

 衝撃でベッドから転げおちる領主を無視して、ユーリは剣で鎖を絶ち手錠と足枷を外す。

 自由になった手足で、私はユーリに飛びついた。

 

「ユーリ……ユーリ……」

「遅れてごめん、レナ」


 温かい。

 ユーリの胸の中にいるだけで、心が安らぐみたい。


「来てくれて……ありがとう。私、私……」

「違うんだレナ。俺は君に……謝らないといけない。信じてたんだ。君なら一人でも大丈夫だって、そう信じて……君もわかってくれてるって。でも、一方的な信頼になんて意味はない。それがわかってなかった」

「ううん、良いの。助けにきてくれた……それだけで私は嬉しい」


 一方的なんかじゃない。

 私も信じていた。

 ユーリなら助けに来てくれる。

 だってユーリは、私の騎士だから。

 それだけじゃなくて、私は……


「き、貴様ら……こんなことをしてタダで済むと思っているのか?」

「それはこちらのセリフだ。嫌がる彼女に無理やりわいせつな行為を働くとは……」


 腫れた頬を押さえながら領主が立ち上がる。


「無理やり? 何を言う? ちゃんと合意の上だ」

「ふざけてるのか」

「もちろん本気だ。そちらの家の許可もとってあるのだぞ?」

「許可だと?」


 領主はニヤリと笑う。

 そこへ――


「許可とはこれのことですね?」

「ラトラ!」

「お、お前それをどこから……」


 部屋に入ってきたラトラは、一枚の紙を持っている。

 暗くてよく見えないけど、領主の反応からして私の両親と交わした契約書か何かだろう。


「屋敷にあったものを拝借いたしました。一緒にこんなものまで出てきましたよ?」

「そ、それは!」


 領主の表情が一気に変わる。

 余裕のあった先ほどと違い、暗い中でも焦っていることが伝わる。


「裏で大金のやり取りも一緒に行われていたようですね~ お姉さまを手に入れるためにずいぶんつぎ込んだようですが……お金でお姉さまが手に入ると思わないでください。あらら? 他にも不正とおぼしき証拠が……」

「よ、よせ! 勝手に触るな!」

「動くな」


 ラトラに近づこうとした領主に、ユーリが剣を向ける。


「ひ、ひぃ! お、お前!」

「さて領主様、取引をしましょうか?」


 ラトラが言う。

 領主にニコリと微笑みながら続ける。


「この不正を明るみにされたくなければ、お姉さまに今後近づかないと誓ってください」

「な、何を言うか! その中にはペルル家の名前もあるんだぞ! 明るみになればお前たちも」

「関係ありません。お姉さまを不幸にする者は、誰であろうと敵です。それが肉親であっても」

「なっ……」


 ラトラの目は本気だった。

 取引というより脅しだ。

 領主は汗をかき、青ざめて震える。


「う、うぅ……」

「さぁ、選んでください。一緒に破滅するか、隠すか」

「……くっ……」


 結論は最初から決まっているようなものだ。

 領主が破滅を望むことなんてありえない。

 だからラトラの要求を飲む以外、選択肢はなかった。


 こうしてまた、一つの事件が終わる。

 嫌な思いはしたけど、得るものも大きかった。 

 例え離れていても、私の声は彼に届く。

 そう知って、自分の心にも触れて、理解することが出来た。

これにて第一章は完結です!

騎士と聖女、二人の繋がりを感じられたなら嬉しく思います。

少しでも面白い、続きが読みたいと思ったなら、評価☆☆☆☆☆⇒★★★★★で支援して頂けるとやる気に繋がります。

第二章を執筆中になりますが、開始まで間が空きますので、一旦完結設定にはさせていただきます(第二章で本当に完結予定です)。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ユーリは『「聖女を信じる」ことで「聖女に裏切られなかった」けど "聖女は辱しめられた"』になっていたハズですが、ユーリはナニを信じて教会で何もしていなかったのでしょう…?
[一言] エピローグほしいな。
2021/03/22 08:49 退会済み
管理
[一言] 領主よりクソ親をなんとかしてくださいまし
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