表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ】絆の聖女は信じたい ~無個性の聖女は辺境の街から成り上がる~  作者: 日之影ソラ
第一章 聖女と騎士

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/56

24.意中の相手

 自分は贅沢だと思う。

 毎日が楽しくて満たされていて、その上理解されていると。

 それだけ十分すぎるほど幸せだし、満足するべきだ。

でも私は……ううん、人はみんな幸せを感じると、もっと幸せになりたいと思ってしまう。

 一つ理解してもらえたら、二つ、三つと理解してほしくなる。

 私は贅沢だ。

 それに……我儘だ。


「到着しましたよ」


 馬車に揺られ十数分。

 同じ街の中でも端にある大きな屋敷に私は連れられていた。

 初めて街を巡った時は、一体誰が住んでいるのだろうと思っていたけど、どうやら領主様の別荘だったらしい。

 私は馬車を降りて屋敷の中に案内された。

 ほとんど来ていないという話だったけど、意外に掃除が行き届いている。

 

「ここで少し待っていてもらえるかな? 後で飲み物でも用意させますよ」

「あ、いえ。お気遣いは不要です」

「そうおっしゃらないで。私としては、じっくりと話をしたいのでね」


 そう領主様はおっしゃって、部屋を出て行ってしまった。

 私は大きめのソファーに腰を下ろし、領主様の帰りを待つ。


「……はぁ」


 一人になって、静けさに包まれる。

 誰もいないからと、大きなため息をこぼした。

 強引な誘いを断れきれず、結局はここまで来てしまった。

 本当ならあの場でハッキリとお断りを入れるべきだった……というより、したはずなのに。

 

「話って言われても……」


 私には話すことはない。

 何を聞いても、婚約を受け入れるつもりはないのだから。

 もう一度ちゃんと断ろう。

 そう心に誓ったタイミングで、ガチャリと扉が開く。 


「お待たせしてすまないね」


 そう言って領主様は、私の対面にあるソファーへ腰を下ろす。

 すぐに続けて使用人が入室。

 テーブルに二つのカップを置き、挨拶をして去っていく。


「よければどうぞ」

「はい。ありがとうございます」


 カップを手に取り、一口飲む。

 少し変わった味だけど美味しい。

 紅茶だろうか。


「それで、先ほど話した婚約の件だが、お気持ちは変わらないかな?」

「は、はい」


 私は紅茶のカップを置き、大きく深呼吸をして答える。


「すみません。私にその気はありません」

「そうか……理由は? もしかして、他に意中の相手でもいるのかな?」

「意中?」


 その言葉に私の心が大きく反応する。

 頭の中に浮かんだのは、優しく笑いかける彼の姿だった。

 でも、それはすぐに消えてわからなくなる。

 出て来た答えは曖昧なものだった。


「いえ、そういうわけでは……」

「ふむ。意中の相手がいないというのなら、私との婚約はメリットも大きいと思うがね。実際、他の妻たちも日々の生活に満足しているよ」

「え?」


 他の妻たち?


「おや? これも知らなかったのかな? 私には妻が三人いる。つまり君は、四人目になる予定だったんだよ」

「四人……目?」

「そう。お恥ずかしながら私は惚れっぽくてね。ほしいと思った女性は近くに置いておきたい質なんだ」


 近くに置いておきたい。

 まるでその言い方は、女性を物みたいに扱っているように聞こえた。

 いや、現にその通りなのかもしれない。

 領主様の噂は、街の人たちからも聞いたことがある。

 大して何もしない癖に税だけ取る。

 気に入った物は何でも手に入れようとする。

 強欲で傲慢、自分勝手の権化のような人だと。


「君はとても美しい。さすが聖女に選ばれた女性だ。だからこそ、私の傍にいてほしかったのだが」


 ああ、今ので確信した。

 この人は、私のことが好きでも、嫌いでもない。

 ただ……聖女という物を手に入れたいだけ。

 最初にあった時感じた不純な視線を思い出す。

 

 断らなきゃ。

 こんな人と婚約なんて絶対に駄目。


「すみません。先ほどもお伝えした通り、私にその気は……あり……」


 あれ?

 何だか、身体が重たく……


「……ません」

「そうかそうか。実に残念だよ」


 声も聞こえなく……

 まさか――


 視線がさがる。

 テーブルに置かれたカップ。

 紅茶にしては少し苦くて、変わった味だと思った。


 薄れていく意識の中で考える。

 聖女の私には、毒や病といった類は効きにくい。

 でも今、私の近くにはユーリがいない。

 もしも私が絆の聖女なら、ユーリと離れた時、聖女の力が弱まる。


「……ユーリ……」


 その名を呼んでも、返事はない。

 助けての言葉は……出てこなかった。



 そうして私は眠りに落ち、目が覚める。

 ソファーに座っていたはずの私は、赤いベッドで仰向けになっていた。

 窓からは月明かりが入り込む。


「これ……」


 ガシャン――


 両手両足に違和感が走る。

 冷たくて、感触は金属だった。

 気付けば両手両足共に拘束され、鎖でつながれてしまっていた。


「な、何!」

「おっとお目覚めかな? さすが聖女、薬の効きも悪い」


 声の方向に目を向ける。

 そこには領主が、上着を脱いで立っていた。


「しかし聞いていた通り、落ちこぼれの聖女だったようだね。普通、聖女にこの手の薬はまったく効かないのだが……いや助かった。これで思う存分、楽しめる」

「な、ど、どういうことですか? 一体何をするつもりで――」


 強引に領主はベッドに跨り、私の服へ手をかける。


「わかるだろう? 君も子供じゃないんだ」

「や、やめてください! こんなことが許されると思っているんですか?」

「許されるさ! なんせもう君と私は婚約者同士なのだからね?」

「わ、私は断りました!」

「残念ながら君の意思は関係ないのだよ。知らないようだから教えておくけど、君の家の許可も貰っている。君のことを好きにして良いとね」

「そ、そんな……」


 お父様とお母様が?

 そんなことって……


「ほら、いい加減あきらめなさい」

「きゃっ」


 領主様は無理やり私の服を脱がしていく。

 抵抗しようにも手足を縛られ動けない。

 ビリビリに破られ、下着が見えるまで剥かれてしまう。


「い、嫌!」

「おぉ~ 綺麗な肌だ。聖女の身体を堪能できる機会なんて早々ない。ねらい目だと教えてくれた彼に感謝しなければ」


 ねらい目?

 彼って?

 そんなことより、ここままじゃ私……

 嫌だ……嫌だよ。

 こんな人に、初めてを奪われるなんて。

 好きでもない人になんて……


 好きな人、意中の人。

 あの時、思い浮かんだ一人を想う。

 答えられなかったことも、今なら答えられる気がする。


 助けて――


「ユーリ!」

「私を前にして他の男の名前を呼ぶな! ここにいるのは私と君だけ――」


 その時、窓ガラスが砕け散る。

 

「レナ!」


 駆けつけてくれた。

 助けに来てくれた。

 私の騎士……

 私の声はちゃんと、彼に届いていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
もしよければ、

上記の☆☆☆☆☆評価欄に

★★★★★で、応援していただけるとすごく嬉しいです!


ブクマもありがとうございます!

カクヨム版リンクはこちら

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻9/25発売です!
322105000739.jpg



第二巻発売中です!
322009000223.jpg

月刊少年ガンガン五月号(4/12)にて特別読切掲載!
html>
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ