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【コミカライズ】絆の聖女は信じたい ~無個性の聖女は辺境の街から成り上がる~  作者: 日之影ソラ
第一章 聖女と騎士

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22.あの頃に戻ったみたい

 昔のことは、覚えているようで覚えていない。

 忘れたいことがたくさんあり過ぎて、忘れたくないことと混ざっている所為か。

 もしかしたら一生、思い出せないこともあると思う。

 それでも良い。

 忘れていたほうが良いことだってある。

 だけど、思い出したいことまで、忘れなくて良かった。

 ラトラと過ごしたあの頃を、思い出せて本当に良かった。

 今はそう、心から思う。


 なんて言っていると、しんみりしてしまう。

 まるで二度と会えないような、後悔の句のように聞こえるかもしれない。

 大丈夫だ。

 だって彼女は今も――


「お姉さまぁ~」


 隣にいる。

 というか腕にくっついている。


「えっへへ~ お姉さまあったかいです」

「そ、そうだけど……そろそろ離れてくれないかなぁ?」

「え……」


 ラトラはショボンと悲しそうな目をした。

 飼い主と離れる小動物みたいに。

 何だか瞳を潤ませてさえいる。


「な、泣かないで。別に嫌ってるわけじゃないから」

「本当ですか?」

「もちろんよ。私はラトラのお姉ちゃんだから」


 私がそういうと、ラトラの表情がぱーっと明るくなる。


「嬉しいです! ラトラもお姉さまが大好きです!」


 また強く抱き着いてきた。

 実はこの流れ、すでに四回目だったりする。

 一昨日の事件をきっかけに、私たちの仲は回復した。

 ラトラの本心を知って、ちゃんと謝り合って、こうして仲たがいは解消された。

 わけだが、いささかいき過ぎているというか、良くなり過ぎたきがする。

 今までにないくらい甘えるラトラは、懐かしくもあるが斬新で、新しい彼女を見つけたような気すらある。


「ね、ねぇラトラ? 護衛の二人は帰ったんでしょ?」

「はい! お姉さまのお陰で元気になりましたから」

「それは良かったけど、そうじゃなくて。ラトラは帰らなくて良かったの?」

「大丈夫です! 二人に伝言で、しばらくこっちにいると伝えておきましたから」


 えぇ……そうだったの?

 

「で、でも心配されない? お父様とお母様、それにアウグスト様も」

「それも心配いりません。あの人たちが気にするのは世間体ですからね。特にアウグスト様、あの方はもっと単純です」

「え? 単純?」

「はい。表面上で見せる顔は建前だけです。あの方が見ているのは己の利益だけ……利用できる者なら何でも利用する。だから簡単に私の誘いに乗って、お姉さまを捨てたんです」

「そう……だったの」


 私が知らないアウグスト様の一面を、ラトラは知っていた。

 だから彼女は、私からアウグスト様を引きはがしたらしい。

 その未来に愛がないことを悟っていたから。


「そんなことまで考えていたのね……凄いわラトラは」

「お姉さまに褒められて嬉しいです。今日もこれからも、ラトラはお姉さまのために頑張ります! だからもうしばらくで良いので、ここに置いてくださいませんか?」


 ラトラは上目遣いでお願いしてくる。

 別に嫌じゃないけど、彼女のためにならない気もしていて。

 困った私は、視線をユーリに向ける。


「良いんじゃないか? 別に俺は構わないよ」

「ユーリ」


 彼はニコッと微笑み、優しい声で言う。


「それにせっかく仲直りできたんだ。妹が一緒にいたいというなら、お姉ちゃんとして傍にいてあげてもいいんじゃないか?」

「ユーリがそういうなら」

「本当ですか! さすがですお兄さま!」

「は?」

「へ、お兄さま?」


 いつの間にかそんな呼び方に変わっていた。

 私とユーリは目を丸くする。


「俺は君の兄じゃないぞ」

「それはそうですね。今は仕方ありません」

「今はって……」


 まるで予定があるみたいな言い方をする。


「ラトラはお兄さまのこともお慕いしております。あの日、お姉さまと一緒にラトラを助けてくれましたから」

「俺は別に大したことしてないよ。君を助けたのはあくまでレナで、俺は彼女を守っただけだ」

「それで良いんです。だから良いんです。ラトラの大切なお姉さまを守ってくれる……それだけでお慕いするに値します」


 という感じに、ラトラはユーリにも気を許したらしい。

 ユーリは優しいし、確かに良いお兄さんになりそうだけど。

 私としてはちょっと……複雑な気分だ。


「もちろんお手伝いはします! 何もせずに置いていただこうなんて思っていませんから。そうでなくても、ラトラはここにいるべきだと思います。一度は穢れに取り込まれましたから……」


 そうだ。

 肝心な問題が残っている。

 ラトラの話では、穢れに呑み込まれる前に誰かと会話したらしい。

 ただ、それが誰なのかを覚えていないという。

 倒れていた護衛の人も覚えていない様子だった。


「なぞの人物……か。穢れを誘発したなんて話は聞いたことがないけど」

「私も初めて聞く。でも、それが本当なら……」


 聖女として放っておけない。

 確かにその一点に限っても、ラトラは私の傍にいるべきだ。

 聖女のいない所で穢れに呑み込まれたら、今度こそ助からないかもしれない。

 

「そうだね。その問題が解決しない限りは、一緒にいた方がいいかもしれないわ」

「はい! ラトラも自分なりに調べてみます。それに護衛にも伝えましたので、何かあれば連絡が来ます」

「助かるわ。でも調べると言って不用意に出かけたりは駄目だからね?」

「わかっています」

「出かける時は言ってくれ。俺が護衛につくから」

「はい!」


 何だか色々なことがあって混乱する。

 確かなのは、これから賑やかになるということだ。

 そう、あの頃みたいに。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 流行はわかるのですが、さすがに愚かな妹系の話は食傷気味なので久しぶりに可愛い妹の話を読めてほっこりしました 続いてくれると嬉しいのですが……
[良い点] 妹が実は素直で可愛かった [一言] 良かった!仲直りできて良かったです!!
2021/03/18 21:23 退会済み
管理
[一言] 辺境でお姉さんの悪口を言おうとしたのは、もしかして辺境を追い出されたら家に帰ってくるって思ったからでしょうか? この懐きまくりの態度が本心だとしたらそうですよね?!
2021/03/18 19:18 退会済み
管理
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