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【コミカライズ】絆の聖女は信じたい ~無個性の聖女は辺境の街から成り上がる~  作者: 日之影ソラ
第一章 聖女と騎士

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18.いい加減にして

 窓の外に複数の人影が見える。

 ガラスの向こう側に集まっていたのは街の人たちだった。

 ラトラが護衛に命じる。


「扉を開けてあげなさい」

「「はい」」


 護衛が答え、両開きの扉を押し開く。

 どうやら扉の前にも人だかりが出来ていたようで、突然開いた扉に驚き数人が後ずさる。

 護衛が街の人たちをギロっと睨むように見る。

 子供たちは怯え、大人が庇うように間に立つ。

 

「す、すみません! 見たことがない馬車があって、それで気になって……」


 彼らに対してラトラはニコリと微笑む。

 ラトラの表情を見て、大人たちはホッとしたようだ。

 

「構いません。皆さんにお集まり頂けて、むしろ良かったです」


 そう言い、改めて彼女は街の人たちに身体を向けた。

 礼儀正しく背筋を伸ばし、お嬢様らしく振舞い挨拶をする。


「アトランタの皆さん、初めまして。私はラトラ・ペルルと言います。この地に派遣された聖女レナリタリーお姉さまの妹です」

「おぉー、聖女様の妹君でしたか!」

「やはりそうだったのですね! どうりで似ているなぁと思っておりました!」

「ふふっ」


 ラトラが私の妹だと知って、集まった人たちは興奮気味に話す。

 楽しそうな雰囲気に私とユーリだけ取り残された気分になる。

 だけど、それもわずかな時間だけだった。

 続けてラトラは、街の人たちに尋ねる。


「突然の訪問で驚かせてしまいましたね? ですがせっかくですので、どうか皆さまの声もお聞かせください」

「はい? 何でしょう?」

「お姉さまは皆さまに迷惑をかけていませんか?」

「迷……惑?」


 予期していなかった質問が来た、という顔をみんなが見せる。

 どう答えるべきか。

 誰が代表して答えるのか。

 互いに顔を見合って、タイミングを見計らっていた。

 するとラトラは――

 

「答え辛いのはわかります。ですが遠慮なさらないでください? まったく役に立たないというのであれば、ハッキリそうおっしゃっていただいて構いませんよ」

「い、いやそれはありませんよ! 聖女様はご立派に役目を果たされております」


 一人が否定して、それに続くように相槌をうつ。

 私は街の人たちが否定してくれたことに、心の中でほっとする。

 でも、ラトラはそれを信じない。


「そういう建前は必要ありません。どうか本音を口にしてください。言い難いのであれば、私のほうから教えて差し上げましょう。お姉さまが王都で何と呼ばれていたか……皆さんはご存じないのではありませんか?」


 ラトラが私に目を向ける。

 彼女と視線が合って、ドキッとする。

 図星だったから。

 私は街の人たちに、王都でのことを話したことはない。

 話す必要はなかったから……というより、話したくなかったから黙っていた。

 知れば幻滅されると思って、怖かったんだ。

 それを今、ラトラが口にしようとしている。


 待って――


 と、喉元まで声が出かかった。

 だけど途中で飲み込んで、同時に諦めた。

 いつまでも黙っているわけにはいかない。

 それに、この街の人たちなら……


 そう思った時、不意にユーリが一歩前に出た。

 表情に視線が良く。

 眉間にシワを寄せ、明らかに怒っていた。

 ラトラに物申すつもりなのだと悟って、私は彼を引き留める。

 

「レナ?」

 

 私は首を振る。

 良いんだよと伝える。

 ラトラが視線を戻す。


「無個性の落ちこぼれ聖女。お姉さまはそう呼ばれていたんですよ?」

「……」

「無個性?」

「落ちこぼれ?」


 反応はそれぞれだった。

 疑うような目を向ける人。

 意外そうに、困ったように顔を見合う人。

 首を傾げる人もいる。


「やっぱり知らなかったのですね。聖女たるものが隠し事をするなんて、よくありませんよお姉さま」

「……」

「ちゃんと話さなくては。私は落ちこぼれで役に立たない聖女です。ガッカリさせてごめんなさいって」


 ラトラの言葉が心に刺さる。

 この街の暖かさに触れて、少しずつ忘れていた感覚。

 王都で過ごしたあの頃が思い出される。

 今までの日々が夢で、こっちが現実なのだと……そう言われているようにも思えて。


「いい加減にしてください」

「え?」


 落胆しかけた時、誰かが言った。

 ユーリかと思って目を向けた。

 でも彼じゃない。

 彼も驚いている様子だった。


「さっきから聞いていれば偉そうに。違うと言っているでしょう? 聖女様はご立派に役目を果たされています」

「そうですよ! この間だって化け物を退治してくれました!」

「花も聖女様が咲かせてくれたんだよ!」


 次々に声があがる。

 最初に言ってくれた一人をきっかけにして。


「聖女様は立派な方だ。感謝こそすれ、迷惑だと思ったことは一度もありません」

「皆さん……」

「な、なにを言っているんです? 私の話を聞いていなかったのですか? お姉さまは王都で」

「王都での評価が何です? そんなものは私たちには関係ありません。この街でのことは全て、そこにいる聖女様が起こしてくださった奇跡です! それを知りもせずに……貴女は本当に聖女様の妹なのですか?」


 街の人たちから非難を浴びせられ、ラトラは顔を真っ赤にする。

 あんな風に余裕のない彼女は初めて見たかもしれない。

 彼らが意を返すなど、微塵も予想していなかったのだろう。


「口の利き方がなっていないようですね……田舎者。貴族である私にそのようなことを言って」

「貴族がなんです? ここはあなたの領地ではないでしょう?」

「そうだそうだ! 貴族なんて何もしないじゃないか!」

「偉そうにしてるだけで! どっちが役立たずだよ!」


 彼女の発言は火に油だったようだ。

 非難はよりヒートアップして、収拾がつかなくなる。

 ユーリが宥めに動いたことに気付いたけど、私はしばらく眺めているだけだった。

 ただただ、嬉しくて。

 街のみんなが私を庇ってくれたことが……ちゃんと必要とされていることが。

 

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