表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ】絆の聖女は信じたい ~無個性の聖女は辺境の街から成り上がる~  作者: 日之影ソラ
第一章 聖女と騎士

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/56

17.ラトラ・ペルル

 ラトラ・ペルル。

 私の二つ離れた妹で、元婚約者アウグスト様の現婚約者。

 貴族令嬢としての立ち振る舞いはもちろん、勉学や芸術面でも才能を見せる才女として、王都では注目されていた。

 私が期待外れな姉なら、彼女は期待以上の妹。

 夢の中で思い出し、もう二度と関わることはないとさえ思っていたのに……


「お久しぶりですね、お姉さま」

「ラトラ」


 私たちは再会した。

 望まず、不意に顔を合わせた。

 私は動揺して、言葉を上手く発せられない。

 そんな私を笑うように、彼女は続ける。


「どうしたのですか? もしかして、私の顔をお忘れになられたのですか? だとしたらラトラは悲しいです」

「そ、そうじゃない。どうして、貴女がここにいるの?」

「どうして、とは? 私がお姉さまに会いに来てはいけないのですか?」

「そんなこと言ってないわ。ただ私は――」


 いけない。

 動揺して、熱が入り過ぎてしまった。

 まず落ち着いて話さないと。


 私は大きく長く呼吸をして乱れた心を落ち着かせる。


 ユーリはまだ、準備で奥にいる。

 呼び戻したほうがいいだろうか?

 ううん、大丈夫。

 私一人でちゃんと話さなきゃ。

 まずは仕切り直そう。


「取り乱してごめんなさい。久しぶりですね、ラトラ。元気そうで良かったです」

「はい。見ての通り、ラトラは元気ですよ」

「お父様やお母様、それにアウグスト様はお変わりありませんか?」

「……ええ、もちろんです」

「そうですか」


 我ながら他人行儀な話し方だと自覚している。

 およそ久しぶりに再会した姉妹の会話とは思えない。

 距離を置いて、踏み込まないように意識して、軽く流すかのように会話する。


「それで、この街へは何か用事があったのですか?」

「当然です。用事もなければ、こんな遠くて何もない田舎まで足を運ぶことはありませんよ」


 やれやれ、とラトラは身振りを見せる。


「とは言っても、ハッキリ用事というわけではありません。私はただ、頼まれて、お姉さまの様子を見に来たんです」


 頼まれての部分をわざとらしく強調して言った。

 仕方なく来たんだという感じを醸し出しながら、彼女は私のことを見つめる。

 誰に頼まれたのか気になったけど、それを聞いたら余計に言われる気がした私は、あえてその部分をスルーして尋ねる。


「私の様子を見に来た?」

「はい。お姉さまがちゃーんと、聖女としての役目を果たしているのかをチェックしに来ました。王都にいた頃みたいに、何も出来なくて迷惑ばかりかけていないか心配だったんですよ」


 心配という言葉が聞こえた。

 同じ心配でも、ユーリが向けてくれるものとは大きく違う。

 煽るような発言も、見下した態度も、私がよく知るラトラそのものだった。


「心配してくれてありがとう。私は大丈夫です」

「違いますよお姉さま。お姉さまが大丈夫かどうかなんて聞いていません。ラトラが知りたいのは、お姉さまの周りがどう見ているかです。例えばお姉さまの護衛騎士はどこですか? まさか愛想をつかされたとか」


 ユーリを侮辱された気がした。

 落ち着いていた心が僅かに乱れる。


「そんなこと――」

「準備できたぞ、レナ」


 するとそこへ、タイミングを計ったかのようにユーリが戻ってきた。

 彼の声を聞いて、振り返り顔を見合わせる。

 それだけで落ち着きを取り戻せて、またしても出かけた言葉を飲み込む。


「何だ、ちゃんといたんですね」


 ユーリがラトラを見つける。

 後ろに仰々しく護衛をつれ、豪華な服を着ている彼女を見て察したのか。

 彼の表情が変わる。


「この街の方ではありませんね? 失礼ですが、教会に何の御用でしょうか?」

「あら、意外としっかりしているのね? 初めましてかしら? 私はラトラ・ペルル、お姉さまの妹です」


 ユーリは驚き目を見開く。

 私の顔をみて、ラトラに視線を戻す。


「失礼いたしました。私は――」

「知っているわよ。お姉さまの護衛騎士に立候補した変わり者さんでしょ?」

「……私は聖女レナリタリーの騎士、ユーリと申します」

「知っていると言ったのに……まぁ良いです。騎士ユーリ、ちょうど貴方に聞きたいことがあったの」

「私にですか?」


 ユーリは眉をひそめる。

 さっきまでの会話を彼は聞いていない。

 なぜ彼女がこの街に来たのかも、彼は知らない。

 説明する暇もなく、そんな彼にラトラは尋ねる。


「お姉さまは街の方々に迷惑ばかりかけていませんか? 特に貴方にも苦労をかけていないか心配で。私は妹として、お姉さまがちゃんと役割を果たしているのか見に来たんです」


 いや、説明の必要はなかった。

 全て彼女が口にした通り。

 ユーリも今の一言で状況を理解したらしい。

 気のせいか一瞬、彼の表情が怖くなったようにも見えた。


「遠慮せずに答えてくださいね? お姉さまは大丈夫とおっしゃいましたが、真実はどうなのです?」


 まるで私が嘘をついているみたいに……

 そうとしか聞こえない言い方に、私は視線を下げる。


「……ご心配には及びません。彼女は立派に役目を果たし、街の方々からも信頼されております」


 でも、ユーリはすぐ否定してくれた。

 いいや、肯定してくれたんだ。

 私はちゃんとやれていると。

 

「ユーリ……」

「そう、貴方もそちら側なのね」


 ラトラ?

 何か今、ぼそっと言ったような……


「わかりました。でしたら、街の皆さんに直接聞いてみましょう?」


 そう言って、彼女は教会の窓に視線を向ける。

 いつの間にかそこには、街の人たちが集まっていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
もしよければ、

上記の☆☆☆☆☆評価欄に

★★★★★で、応援していただけるとすごく嬉しいです!


ブクマもありがとうございます!

カクヨム版リンクはこちら

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻9/25発売です!
322105000739.jpg



第二巻発売中です!
322009000223.jpg

月刊少年ガンガン五月号(4/12)にて特別読切掲載!
html>
― 新着の感想 ―
[一言] 街の人達 心配になって来てくれたのかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ