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【コミカライズ】絆の聖女は信じたい ~無個性の聖女は辺境の街から成り上がる~  作者: 日之影ソラ
第一章 聖女と騎士

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15.春の祭り -後-

 私はユーリに事情を話した。

 何をしたいのかを伝えて、彼は言ってくれた。


「いいね、やってみよう。中に入る交渉は俺がするよ」

「ありがとうユーリ。私そういうの苦手だから助かるよ」

「良いって。俺より君の役割のほうが重要なんだから」

「あ、あんまり期待はしないでね? 私も出来るかどうかわからないから……」


 過度に期待されて、もし出来なかったら申し訳ない。

 そんなことを考えていた私に、ユーリは優しい口調で尋ねてくる。


「でも、出来ると思ったんだろ?」

「う、うん」

「なら出来るさ」

「で、でも大聖堂にいた頃は一度も出来たことないから」

「出来なかったのは昔の君だろ? 今の君が出来ると思ったなら、きっと出来る。だからほら、堂々としててくれ。自信なさげにいられると、俺も交渉しにくいから」

「わ、わかった」


 堂々と……堂々と……

 ユーリの言う通り、やる前から自信なさげだとみんなも不安になるよね。

 それにやっぱり、出来る気がしてる。

 最初からしてたけど、今はもっと。

 ユーリが出来るって言ってくれたからかもしれない。


 それからユーリが、大木を管理している人を探して交渉してくれた。

 細かく説明すると、管理人さんは快く許可をくれた。

 せっかくのお祭りだから、もしも可能性があるならぜひお願いしたいとも。

 多少期待され過ぎている気もするけど、やるからには成功させたい。


「どうぞ中へ」

「はい」


 柵の中へ案内されて、大木のすぐ目の前にやってきた。

 近づくほど巨大さを痛感する。

 存在感に圧倒されそうで、私はごくりと息を飲む。

 私は大樹に手を触れる。


 聖女の力は、癒し、守る力。

 だけどそれだけじゃない。

 私たち聖女の力は天から与えられた力で、天の恵みと言い換えても良い。

 その恵みは、植物にも影響を与える。


「お願い」


 どうか目を覚ましてください。

 この街のみんなが、私も待っています。

 貴方が起きてくれることを。


 祈りを捧げ、大木に力を注ぎこむ。

 注がれた力は命の息吹を呼び覚まし、目覚めを促す。

 そして、つぼみが開く。

 一つ、二つ、三つと順番に。

 ゆっくりと、順番に広がっていくピンク色の花。


「ねぇママ見て!」

「こ、これって――」


 満開の花。

 人々が見上げる先に見える空の青と花弁のコントラストが美しい。


「で、出来た」

「ほらな? 出来るって言ったろ?」

「うん」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 迎えたお祭り当日。

 満開の花が咲く木の下で、たくさんの露店が並んでいる。

 食べ物から装飾品。

 中には初めて見る創作物もあって、見て周るだけでも面白い。

 私とユーリは露店を巡る途中でアリサさんとバッタリあって、人混みから少し離れたベンチに腰を下ろしていた。

 

「聞いたわよ。レナちゃんが花を咲かせてくれたんだってね」

「は、はい一応は。でも運よくうまくいっただけですから」

「こんな時に謙遜なんてしちゃダメよ。ほら見て、みんな楽しそうでしょ?」


 行きかう人々に目を向ける。

 みんなとても良い笑顔をしていた。

 賑やかで、和やかで、楽しそう。


「花が咲いてなかったら、きっとこんなに賑やかじゃなかったわ。だからこの笑顔は、レナちゃんのお陰なのよ」

「私の……お陰……」


 そう……なのかな?

 そうだと良いな。


「そういえば、他のお二人は一緒じゃないんですか?」

「一緒だったわよ。途中からジェクトが可愛い女の子を探しに行くって言いだして」

「そ、そうなんですね……」


 じゃあロイドさんは、その付き添いかな?


「そっちは? ちゃんと楽しめてる?」

「はい! お陰様で楽しいです」

「そう、なら良かったわ。賑やかなのが苦手な騎士君はどう?」

「棘のある言い方しますね……悪くはないですよ。平和だし、花も綺麗だ」


 そう言って空を見上げる。

 何度見ても綺麗な花だと思う。

 アリサさんの話だと、花は十日もしないうちに散ってしまうらしい。

 だから次に満開の花が見れるのは、一年後になる。


「私……王都にいる頃から、お祭りとか行事には参加してなかったんです」

「そうなの?」

「はい。私は落ちこぼれで、周りからもそういう風に見られていたので」


 大勢の人が集まる場所に行けば、当然私を知っている人がいる。

 そう言う人から哀れな視線を向けられて、ヒソヒソ話をされることもあった。

 それが嫌で、惨めで。

 だから私も、賑やかな席が好きじゃなかったんだ。

 

「でも、だからちょっと期待してたんです。この街でなら……楽しめるかもしれないって。みんな優しくて親切にしてくれるから」


 期待通りだった。

 生まれて初めて、お祭りを堪能できたと思う。


「私――」

「あ! 聖女様だ!」

「ホントだー!」


 言いかけて、子供たちが駆け寄ってきた。

 私は聖女様モードに切り替えて、ニッコリとお出迎えをする。


「こんばんは」

「「「こんばんはー!」」」


 子供たちは元気よく挨拶を返してくれた。

 その中の一人が、私に尋ねる。


「ねぇ聖女様! 聖女様がお花を咲かせてくれたんでしょ?」

「え」


 あ、いけない。

 子供たちの前でオドオドしないように。


「はい。私の呼びかけに、木が答えてくれたんです」

「すっごーい!」

「聖女様すごいー!」


 子供たちがはしゃぐ。

 親たちも集まって、次第に私の周りが賑やかになっていく。

 その光景を見ながら、私はさっき言いかけた言葉を思い出す。


 私は、この街の聖女になれて――良かった。

 

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