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再会

 瑠璃の目の前には、現在人の姿に戻っている瑠璃が余裕で入れる程の大きな鳥篭が幾つも用意されていた。



「これ何?」


「王や神官達を王都へ護送するためのものだ」



 ヨシュアがそう説明するやいなや、後ろ手に縛られた王や神官達が連れて来られ、大きな鳥篭の中に一人ずつ入れられていく。


 そして竜体となった兵が籠を足で掴み竜王国へ向け飛んでいく。

 陸路より、竜体で運んだ方が早いからとのことらしい。


 ただ、王達が高所恐怖症だったら、さぞかし恐怖の時間だろう。

 むしろそうだったら良いのにと、瑠璃は密かに思った。



「そうだ、ルリ。取りあえず召喚された奴らの荷物はまとめてあるから、確認してくれ」



 ヨシュアが指し示した先には、王都に運ぶ荷物が集められており、その中の木箱の中に瑠璃やあさひ達の荷物も含まれていた。

 瑠璃の荷物はあさひが保管していたと王から聞いたは良いものの、あさひの部屋のどの荷物かが分からなかった為、取りあえず一つにまとめたようだ。


 大学に行く時の鞄だけでなく、どっちか分からず取りあえず入れられた荷物もあった。

 それでも全員合わせても大した量ではなく、中を見ればすぐに鞄を見つけられた。


 鞄の中を開け、数年前の記憶を呼び起こしながら中身を確認していく。

 僅かしか使っていない教科書やノート。そして大学入学の記念として両親から贈られた懐中時計に懐かしさとやるせなさを感じる。


 たった二年と少し。だが、大学に入って喜んでいたのがもっと前のように感じる。

 こんなにも遠いところまで来てしまった。


 行き場をなくした感情に目を強く瞑ってやり過ごそうとしていると、頬に柔らかいものを感じた。

 目を開けてみると、コタロウの顔があり、再びコタロウは瑠璃に額を擦りつける。


 その心配そうな眼差しに、気を使わせてしまったと感じ、大丈夫だと伝えるようにコタロウの頭を撫で、鞄の中身の確認を続ける。

 その間コタロウは、瑠璃の体を包むようにその場に座り込んだ。


 教科書にノートに筆記用具。これらは問題なさそうだが、メイク用品と常備薬の入ったポーチを取り出し少し悩んだ。



(メイク用品は………なんとか?物によるか。薬は………やばいよね)

 


 そして念願のスマホを取り出し、直後がっくりと肩を落とした。



「だよねえ。充電が持つわけないよね………はぁ」



 懐中時計はねじ式だったので問題ないが、何年もスマホの充電が保つはずがない。

 かと言って電化製品など無いこの世界に充電する術はない。

 真っ暗なままのスマホを片手に、諦めるしかないかとため息を吐く。



 ………そう思っていたのだが、これまで瑠璃といた一番の古株の精霊の内の一人が名乗りを上げた。



『ルリ-。僕出来るよ、充電』


「うんうん、ありがとう。気持ちだけもらっておくね」


『本当に出来るってば』



 全く信じていない瑠璃に、その精霊は問答無用でスマホに手を置いた。

 少しすると、やりきった感のある笑顔で『もうつくよ』と言われ、半信半疑で電源を入れてみると、あら不思議。

 見事に電源が入り、瑠璃は目を瞠った。



「ついた!何で!?」


『えっへん。だって僕雷の精霊だもん。

 いっぱい練習して出来るようになったの。ほめてー』



 自慢気に腰に手を当てる精霊。

 取りあえず誉めるが、驚きは覚めない。



「練習って、こっちの世界に電化製品はないでしょう?」


『僕元々ルリのいた世界の精霊だから、携帯電話もパソコンも知ってるよ-』


「どういう事!?」



 衝撃の事実だ。しかもその雷の精霊だけではなく、精霊が見えるようになった頃から側にくっついている古株の精霊が、私も僕もと次々と手を上げた。



『僕達ずっとルリの側にいたから、ルリが召喚された時一緒にくっついてきたの』


『ねー』


『ねー』


「はあ!?ずっと?」


『そう、ずっとー』


『生まれた時からー』



 言葉も無く、唖然と精霊達を見る瑠璃。

 生まれた時という言葉に衝撃を受けていると、横からヨシュアが疑問をぶつける。



「召喚された時に一緒にいたなら、ルリがこっちに来ないよう助けられたんじゃないのか?」



 はっとしたように瑠璃が精霊達を見上げる。



『でもぉ、リシアがルリの教育上、甘やかしちゃ駄目だって言って。ルリの命が危険な時しか助けちゃ駄目だって。

 せめて見えるようになるまで駄目ってー』


「リシア?」



 問うようにヨシュアが瑠璃を見ると、瑠璃は手で顔を覆い言い辛そうに口にした。



「………私のお母さん」



 これで母親が精霊を見えるのではという予測が確定となった。

 しかし、ある程度予測していたことで、先程のような衝撃はない。



「どうして今まで言ってくれなかったの?」


『だって、ルリは向こうの話を僕達に話したがらなかったから。思い出すのはつらいんじゃないかって』


『ねー』



 つまり何か。帰れないととどめを刺されるのを怖がって話をしようとしなかったが。

 いつまでもうだうだせずに、精霊に話を聞いていれば、もっと早く母親達と連絡は取れたかもしれないと………。



 精霊を見えるようになって分かるが、精霊達は瑠璃に甘い。瑠璃の願いならば出来うる限り叶えようとしてくれる。


 きっと母親は、言いなりばかりの人達に囲まれるあさひを見て、瑠璃の将来を憂い、精霊達に手助けをしないようにと言いつけていたのだろう。

 実際に甘やかされ、自分の願いは全て叶えられる状況で育ったあさひは、修正不可能にまで歪んでいる。

 その点は感謝だ。


 母親もまさか瑠璃が召喚されるとは露ほども思っていなかったことだろう。

 それ故、命の危険は無いと判断した精霊達は瑠璃を助けず、こちらに召喚されてしまったと。


 …………取りあえず運が悪い。回避する力を持った者が側に居ながら召喚されるなど全くもって運が悪い。



「なんか知らんが、頑張れ」



 落ち込んでいるとヨシュアから慰められ、気を取り直して確認を終えた鞄を自分の空間へと入れる。

 ヨシュアも王都へ送る荷物を空間に入れると、竜体へと変わり空へ飛び立つ。


 瑠璃は猫には戻らず、コタロウの背に跨がると、ヨシュアの後を追いコタロウは空を駆けた。



「はあ……もふもふ。癒されるぅ」


『落ちるなよー』


「貼り付いてるから、大丈夫」



 コタロウの背に跨がる瑠璃は、上半身も前に倒してコタロウにしがみつき、肌触りの良いコタロウの毛に頬を擦りつける。

 横で呆れたようなヨシュアの声が聞こえてくる。


 暫く飛んでいると、思い出したようにヨシュアがお礼を言った。



『そうだ、ルリ。ありがとうな』


「なにが?」


『最高位の精霊をフィンさんがいた戦場に向かわせてくれた事だ。

 おかげでフィンさんも、他の兵達も怪我がなかったってよ』


「そっか、良かった。

 でも別に私は何もしてないよ。フィンさん達を助けたのはリンだし。

 王と神官の話を聞いていなかったらリンに頼まなかったから、運が良かったのよ」


『でも、ルリがいなきゃ最高位の精霊が竜王国を味方したりしてくれないだろ。精霊は基本中立でどちらか一方に肩入れはしない。

 しかも精霊殺しの魔法のせいで、精霊が力を貸してくれる状況じゃなかった。

 最高位の精霊しか助けられなかったんだから間違いなくルリのおかげだ』


「一応感謝は受け取るけど、一番の功労者のリンに感謝してあげて」


『それはもちろんだ。

 …………にしても、本当根性の悪い奴らだったな』



 すぐに王と神官の事を言っていると気付き、瑠璃は頷く。


 王達はなにも考え無しで竜王国へ侵攻した訳ではなく、精霊殺しの魔法ならば竜族と相対する事が出来ると思っての事だった。


 実際にリンがいなければ、竜王国の兵は大打撃を受けていただろうから、決して無謀ではなかった。


 だが、そのやり方が最悪だった。



 竜王国へ侵攻した兵の多くは農民と穏健派の親戚筋の者達だった。


 そして王達は、兵に石の効力を教えずお守りだと言って、追放は免れたが穏健派の親戚という事で力を失った貴族に渡した。


 そしてあさひの石の発動を合図に、定期的に発動するようにした。

 石を持っていた者がどうなったかは想像出来るだろう。



 あさひの所まで来るという事は、それだけ竜王国の兵が中心部まで進み入っている事。

 そこで爆発させれば竜族に損害を与えられると考え、戦争で功績をあげ家を再興しようと強い決意を抱く貴族、強制的に兵役を課せられた国民を捨て駒にした。

 そして、自分の息子である王子と、あさひも。



 そして、神官達はいなくなる巫女姫の代わりを召喚しようと、召喚の魔法を発動していた。

 諜報員が配置換えで、予定外の行動を行う必要があったのもこの為だったようだ。


 だが、最高位精霊を動かせる瑠璃の存在で、全て破綻した。

 王と神官にとっては、これ以上にない報復となっただろう。



 城へ戻り、広いテラスに降り立つ。

 そこは王や神官が入っていた鳥篭が置いてあり、多くの兵がいた。

 王達を運んできた兵が待っていた兵に引き継ぎをしていたり、鳥篭の片付けをしていたりと忙しそうだったが、瑠璃を見た瞬間、視線が瑠璃に注がれた。


 その表情を言い表すなら、誰?である。

 そんな彼等に、ナダーシャから帰ってきた兵が耳打ちすると、驚いたように瑠璃を見た。



「珍獣になった気分」


「愛し子なんて珍獣より珍しいからな」

 


 しかも、傍らには霊王国の聖獣までいるのだから尚更だろう。



「おい、陛下は執務室か?」



 ヨシュアは近くに居た兵に声を掛ける。



「いいや、あの巫女姫っていうのと話し合いで、第六区におられる」



 軍の訓練場の下にある第六区は、罪人やそれに近い行いをした者を監視する区画だ。

 ヨシュアがそこへ向かうというので、瑠璃も一緒について行くことにした。



「でも、あさひって子がいるのにルリも一緒に来るのか?会いたくないんじゃねえの?」


「そうなんだけどね。でも戦争の後の状況がどうなったか早く聞きたいし。

 だから、あさひ達との話が終わるまで、どっかに身を隠してようかな」


「だったら、隣の部屋にいれば?話が終わったら呼んでやるよ」


「そうする、ありがとう」




***



 第六区のある一室に、あさひをはじめとした召喚された男女が連れて来られていた。

 あさひ以外は、大人しく……というより、これからどうなるか分からない不安に、怯えながら状況を窺っている様子だ。



 彼女達の前には、険しい表情のジェイドと、側にユークレース、フィン、クラウス、アゲットといった主だった側近が控えている。



 ジェイドは頭を痛めていた。


 瑠璃やヨシュアから事の経緯は聞いているものの、あさひ達の視点から見た話も聞きたくて話の場を設けたのだが、何を聞こうにもやれ「瑠璃ちゃんはどこだ」だの「瑠璃ちゃんを返せ」だの、全く話が進まない。



 ヨシュアから聞いた事の経緯を話し、騙されていた事、瑠璃は誘拐してきたのではなく無実の罪を着せられ追放されたのだと、何度丁寧に説明しても信用しない。


 ナダーシャでは手厚く迎えられていたようで、信じたくないという気持ちは分かるが、それを考慮したってこの理解力の無さは酷すぎる。


 他の四人は信じられないという思いの中にもナダーシャへの疑いが生まれたようだが、あさひだけは揺るぎがない。


 自分の不利益になるような事をする者がいるはずないとでも言うような反応だ。


 それはジェイド達に対しても同じで、こちらの話は聞かず自分の願いは叶えろ、それが当然と言わんばかりの態度だ。



 段々と表情が険しくなっていくのも致し方ない事だ。

 他の側近も、表に出さないまでも似たり寄ったりの心内だった。



「…………もう宜しいのではありませんか、陛下?」


「私も同感です。これ以上無意味かと。

 一応魔封じは施してありますので、他の四名は魅了の効果が切れた頃にもう一度話を聞くことにしては?」



 うんざりしたように進言するユークレースに、クラウスも同意する。



「そうだな。フィン、連れて行け」



 ジェイドもこれ以上精神的に付き合いきれないと判断してフィンへと視線を向ける。

 やっと解放される安堵からかほっとしたような表情を浮かべ即座に反応したフィンが、あさひ達へと近付く。だが………。



「待って、瑠璃ちゃんは!?」


「あなたは私達の話なんて信じていないんでしょう。

 あなたの中で竜族は悪役。そんな悪役がどうしてあなたの要求を飲むと思っているのよ」



 仕返しとばかりに嫌味で返すユークレースの言葉に、はっとしたあさひは怒りを目に浮かべ言い返す。



「じゃあやっぱりあなた達が誘拐したって認めるのね!」



 深ーいため息が王と側近一同から漏れる。



「ルリが会いたがらない理由がよおく分かったわ」



 やれやれというように頭に手の平を当て頭を左右に振るユークレース。



「瑠璃ちゃんが私に会いたくないわけないでしょ。私と瑠璃ちゃんは親友なんだから。

 会いに来ないって事が、瑠璃ちゃんを誘拐した証拠じゃない!

 どこかに閉じ込めているのね!?」



 その時、激しい音を立てて部屋の扉が開け放たれる。

 一斉に室内にいた者の視線が扉の方向へと注がれる。そこには、般若のお面のように怒りを表す瑠璃の姿があった。



「だったら私から説明してあげるわよ、このバカ娘!!」





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― 新着の感想 ―
漫画版が面白かったんでこちらも読んでみてますが、内容はそこそこなのにちょっとあまりに語彙力が貧困なせいで、読み進める意欲がどんどん下がっていく。とりあえず、【定期的】は違うと思う。散発的とか続発とか群…
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