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愛する貴方の心から消えた私は…  作者: 矢野りと


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【おまけの話】膝枕

今日は我が家に親しい友人達を招いてお茶会を開いていた。

小さい頃からの友人達なのでお互いに必要以上の気遣いなしで楽しくお喋りを楽しんでいる。


みな既婚者なので自然と話題は結婚生活についてが中心となってくる。

その流れから『膝枕』について一人が熱く語り出した。


「やっぱり膝枕はいいわよね。別に変なことをしている訳ではないけれど、なんか胸が高鳴ってくるわ。

私の膝に頭を乗せている旦那様がいつも以上に素敵に見えるのに、なんか可愛く思えるのよ。不思議でしょう?彼も『君に癒やされているよ』て喜んでくれるし、お手軽かつ愛が深まってこんなに良いことはないわ」


照れながらもその表情は嬉しさを隠しきれていない。聞いているこちらまで、なんだか照れてしまうほど。



「みんなもしているのかしら…?」


思わず他の友人達に訊ねてみた。


私はヒューイと一度も膝枕をしたことはなかった。

知識としては知っていたけれでも、『しましょう』といつ言うのが正しいの分からなかったし、何より恥ずかしくて自分からは言い出せなかった。


それに彼もそのことについて触れたことはない。


だからそれが普通だと思っていたのだ、先程の話を聞くまでは…。



「いつもではないけれど、…たまにするわ。私が座っていると夫が膝に頭を乗せてくるの。特に何も言わないけれど、凄く満足そうな顔をしているから私も甘えられているようで嬉しいわ」


そう言っているのは強面で筋肉隆々の身体を持つ騎士団長を夫に持つ華奢な友人だった。


 えっ、想像出来ないわ。

 あの騎士団長様が甘えているの…。



膝枕に体格差や男らしさは関係ないことを知る。

続いて年下の幼馴染と結婚したちょっと気が強いと言われているしっかり者の友人が口を開く。


「私も普段はしないけれども、夫婦喧嘩のあとにしたりするわ。そうするとすぐに仲直りが出来るから、うふふ」


どうやら膝枕には年齢も関係ないらしい。

みんなが嬉しそうに話しているのを聞いて興味が湧いてくる。


「私もしてみたいわ…」


思わずそう呟いてしまう。


それを聞いた友人達は『大丈夫、喜ばれるから。自分からお願いしてみるといいわ』と口々に勧めてくる。

お茶会が終わる頃には膝枕をやってみたいと思うようになっていた。



 大丈夫かしら、嫌だって言われたら…。

 でも一度くらいしてみたいな。



私は勇気を出してヒューイにお願いしてみることにした。


逸る気持ちを押さえきれず、長椅子にはクッションを並べ肌触りの良い膝掛けも用意する。

彼が私の膝に頭を乗せ寛いでいる姿を想像する。

足りないものはなにもないはず、準備は完璧だった。


あとは彼が帰ってきたらお願いするだけ。



彼は予定通りの時間に帰ってきたので、いつものように玄関で彼を出迎える。


「ヒューイ、お帰りなさい。今日もお仕事お疲れさま」


「ただいま、マリア。変わりはなかったかい?」


彼は私の頬に口付けを落としながらいつもの台詞を口にする。

お願いを今言うべきかどうか迷っていると、なにかあると察した彼が私の顔を覗き込みながら訊ねてくる。


「マリア、なにか変わったことがあったのか?それとも体調が優れないとか…?」


彼が私を心配しているのが伝わってくる。

彼はもともと気遣いを忘れない人だけれども、最近はそれに拍車が掛かっている。



 大丈夫なのに、心配し過ぎだわ。



私は彼の不安を取り除く為にも今、お願いをすることにした。


「大丈夫、健康そのものよ。ただね、お願いがあるの。今日、友人達と話していたら、仲睦まじい夫婦はみな膝枕をしているみたいなの。私も一度くらいしてみたいなって思って…」


「そんなことならお安い御用だ。こっちに来てごらん、さあここに座って」


彼は快諾してくれ、私が用意していた長椅子に一緒に座る。そして念願の膝枕をしながらヒューイが優しい声音で訊ねてくる。



「ちょっと硬くて済まない。マリア、痛くないか?楽しいかい?」



彼が言う通り鍛えられた彼の太腿は硬いけど、痛くはない。楽しいかと聞かれたら…彼と一緒だからもちろん楽しいとは思う。


でも私が求めていたものとは決定的な違いがあった。



「…これは確かに膝枕だけど、これじゃないの。私がやってみたかった膝枕は逆なの。私の膝の上にヒューイが頭を乗せて寛いでもらいたかったのよ!」


思わず大きな声で彼に訴える。


なぜか彼の引き締まった太腿の上に私が頭を乗せ、彼が優しく髪を撫でてくれている。これも素敵だけれども、妻としては彼に寛いでもらいたい、癒やしてあげたいのだ。


起き上がってやり直そうとしたけれど、彼から止められる。



「それは駄目だ。マリアの願いでも聞けない」


彼は真剣な表情で私のお願いをきっぱりと拒む。

そして膝枕をされたままの私にそっと手を伸ばし、その大きな手で慈しむように私のお腹をそっと撫でる。


「ちょっとでも今は駄目だ。俺の身体は大きくて重いからお腹の子もびっくりしてしまう」


膝枕でお腹の子がびっくりすることはないと思うけれども、彼は身籠っている私のことが心配でならないようだ。


大きなお腹を撫でている彼の手に自分の手を重ねて、お腹の子に話し掛ける。


「ふふふ、本当にお父様は心配性ね」


「……愛する妻と子を心配するの夫として父として当然だ。なあ、お前もそう思うだろ?」


彼は大きな身体を窮屈そうに折り曲げて私のお腹に顔を近づけ、とても優しく話し掛ける。

するとお腹の子が元気よく蹴ってくる。まるで父である彼に同意するかのように。


私達はお互いに顔を見合わせ笑う。


「本当にお利口な子だわ。それにやんちゃなのかしら、いつも強く蹴ってくれるから」


出産予定日まではあと二ヶ月ほど。今のところ何も問題なく過ごせている。

どうかこのまま順調にと願わない日はない。


「この子は元気な子だ。大丈夫、あと少しで生まれてくる。元気な天使をこの腕に抱く日はすぐに来る」


力強い彼の言葉で私の不安は薄らいでいく。


二人で大きくなったお腹を優しく撫でながらお腹の子に話し掛ける。


「元気に生まれてきてね。待っているわ、あなたの誕生を心から」


「いつでも生まれてきていいぞ。男の子でも女の子でもどちらでも大歓迎だ」


心から我が子の誕生を待ち望んでいる私達。

この子がいつでも生まれてきていいように準備も整っている。

早く会いたいと思う。

でもこの早く会いたいと思えることがなにより幸せだった。





このニケ月後の深夜、マイル侯爵邸に元気な産声が響き渡る。髪の色、目の色、顔つき、全てが父であるヒューイに似ている元気な二人の男の子の誕生だった。


彼も私もそして誰もが二人の誕生を心から喜び、嬉し涙を流した。

そして父となったヒューイと祖父となったマイル侯爵はもうひとり分の子供部屋の用意をする為に競うように部屋を飛び出していった。





最後まで読んでいただき有り難うございました。


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