44.子供達からの祝福
私達が婚約の報告をするべき相手は貴族達だけではない。孤児院の子供達には直接二人で話すことに決めていた。
いつものように孤児院へ行った私達は子供達に集まってもらった。
どうして集められたのかと互いに疑問を口にする子供達。みな不安そうな表情を隠すことなく私とヒューイを見つめてくる。
そんな子供達を前にヒューイは緊張からか、いつになく真剣な表情で話し出す。
「あのな、今日はみんなにとても大切なことを伝えたいと思っているんだ。きっとみんな驚くと思うが聞いてくれ、」
肝心なことを伝える前にゲイルが大きな声で彼の言葉を遮った。
「わざわざ言わなくっていいよ。俺たちはさ、ヒューイおじさんのその顔見てぜんぶ分かっちゃったんだ。させんじゃなく、首になったんだろ…?
その顔見れば分かるさ、ガチガチに緊張していつもと別人だもん。
おじさんいい奴なのにな…、俺達と遊んでいたのがバレちゃたの?」
「はっ?いや違う、違うぞゲイル誤解だ!あのな、」
慌てて訂正しようするがゲイルは止まらなかった。
「もう何も言わなくてもいいよ。お偉いさんは認めなくても、俺達だけは味方だから元気出せよ!
人間生きていればなんとかなる!」
ゲイルの言葉の後には他の子供達の『ヒューイおじさん、元気だして』『今日のおやつあげるね』という優しさ溢れる言葉が続いていく。
もうヒューイは遠くを見つめて『俺はどんな奴だと思われていたんだ……』と頭を抱えて落ち込んでいる。
頑張ってヒューイ!
子供達に悪気はないわ。
心のなかで彼を励ますが、その声は残念ながら届かずヒューイは肩をがっくりと下げたまま。
それならば彼の代わりに私が婚約したことを告げようと口を開く。
「あのね、みんなヒューイは首になってないわ。だから安心してちょうだい」
私の言葉に励ましの言葉は一旦止まる。
「そうなの?それならどうしてあんなに真剣な顔してたんだ??」
ゲイルは疑問をそのまま告げてくる。
「えっと…実はね、私とヒューイは近々結婚をするの。それを今日はみんなに伝えたくて…」
照れながら婚約を告げる私に子供達は素直に『おめでとうー!』『ヒューイおじさんとマリア先生ってお似合いだね』と飛び上がりながら喜んでくれる。
その喜びは純粋そのもので、周りに元気を与えてくれる。
さっきま落ち込んでいたヒューイも『お似合い』という言葉に笑顔を見せる。
「そうか、俺とマリアはお似合いか!はっはは、ありがとうな!」
元気を取り戻した彼は『おめでとー』と言いながら纏わりついてくる子供達と遊び始める。
そんな彼と子供達に温かい眼差しを向けていると、そっとゲイルが近づいてきた。
見たことがないくらい真面目な顔をしている。
「どうしたのゲイル?なにか悩みごと?」
すると彼は私にだけ聞こえる小さな声で話し始めた。
「ヒューイおじさんの稼ぎが少なくても許してあげて。男はさ、金じゃないなくて心だよ。
心が大きい人が一番なんだから。その点だけはおじさん誰にも負けてないから、きっとマリア先生を幸せにしてくれるよ!」
……だからね、違うのよゲイル。
でもね、ありがとう、ふふふ。
ゲイルはちゃんと彼の本質を見抜いている。
上辺だけ見るような貴族よりもこの子のほうが賢いのだろう。
子供だからこその曇りのない目と素直な言動が羨ましく感じる。
見習いたいとも思う。
そして『子供っていいな…』と自然に思えた。
あの子のことを大切に心の中で抱いたまま、そう思えるようになっている自分がいた。
ある意味では誤解されたままのヒューイ。
ちょっと可哀想だけれども、折角ゲイルは味方をしようと頑張っているのだから訂正はしないでおいた。
小さな正義の味方に返事を返す。
「大丈夫よ、ちゃんと分かっているから。彼ほど素敵な人はいないわ、愛しているから結婚を決めたのよ」
ゲイルを安心させる為に照れながらも、はっきりと言葉にして伝える。
「流石、マリア先生!歳を取っているだけあって見る目があるんだね!」
「……えっ、ええ、そうね」
無邪気な笑みを浮かべる正直者ゲイルに悪気はない。
曇りのない目と素直な言葉を今はちょっとだけ恨めしく思ってしまう。
ヒューイの次は私が秘かに落ち込む番だった。
後日、子供達は『大人に対する礼儀作法』という授業を急遽受けることになった。提案したのは私だが、決して私情は挟んでいないつもりだ。
一週間後に控えた私達の結婚式には子供達も招待している。授業の成果を存分に発揮してくれること祈りつつ、あとは式を待つばかりだった。




