41.大切なもの⑤〜エドワード視点〜
俺は本当に記憶を失ってすぐにラミアを求めたのだろうか。
その名を夢の中で呼んでしまうほど愛したのか?
こんなにもマリアを愛しているのに…。
だがラミアは俺が彼女の名を呼んだとはっきりと言っていた。
………本当だろうか…。
疑ってしまう自分がいる。この違和感は自然に消えることはないだろう。
だがラミアには何も聞かないつもりだ。
彼女に縋ったのは事実、彼女に救われ大切にすると約束してここまで連れてきたのも俺だ。
罪は俺にある。
誰が彼女を責めようが俺だけは責めてはいけないと思っている。
そうさせたのは俺だから。
彼女が心のなかに何を秘めていようとも、それを暴くつもりはない。
「仕事は今日で一段落したから、もうこれからは前のように帰ってこれるよ」
俺は見え透いた嘘を吐く。
「お仕事ご苦労さま、いろいろと心配していたけど、…信じていたわ。
お仕事だから仕方がないって分かっているけど…」
ラミアは疑っている。
なにをではなくきっとすべてを…。
でも絶対にそれを言葉にはしない、現実から目を背け続ける。
壊れることを恐れているのか、それとも疚しいことがあるからなのか。
それとも両方だろうか。
それを俺が尋ねることもない。
「エディ。お腹は空いている?あなたがいつ帰ってきても大丈夫なように好物ばかり用意してあるのよ」
「ありがとう、楽しみだな」
二人で幸せなそうな夫婦の形を保ち続けようとする。
お互いに口には出さないけど、どうすれば自分の望みを叶えることが出来るのか分かっている。守りたいものは違うけれども、その手段は同じだった。
お互いに『薄氷のうえに成り立つ幸せ』を演じ続ける。
これが俺とラミアが選んだこれからの人生。
俺達にとって終わりのない償いが始まる。
「ほらケビン、久しぶりにお父様に抱いてもらいましょう」
そう言ってラミアはぎこちなく微笑みながら息子を俺の腕にそっと差し出す。
『きゃっきゃっ』と声を上げ俺に手を伸ばしてくるケビンを俺は優しく抱く。
「いい子だったか?すまないな、忙しくって遊んでやれずに」
前と同じように良い父親を演じられている自分にほっとする。そして隣にいる彼女も夫と息子の様子に安堵している。
俺とラミアはこれからどう生きていくかを自ら選んだ。
だがこの子は違う、巻き込まれているだけ。
俺の心のなかがどうであろうと、表面上は良き夫良き父であり続けよう。
それは罪がないこの子の為。
そして愛する人がこの幸せを望んでいるから…。
「エディ、本当にこれからも何も変わらない…?」
俺を見ているようでどこか遠くを見ているようなラミア。
「ああ勿論、大丈夫だ。なんの問題もない、これからも何も変わらない」
この言葉に嘘はない。表面上は何も変わらないのだから…。
涙を滲ませ『ありがとう…エディ』と呟く彼女は俺の言葉の意味を正しく感じ取っているのだろう。
その表情は何かを諦めているようで、それでいてすっきりしているように見える。
まるで今の俺と同じだ。
皮肉なものだ、こんなことで心がより通じ合う結果になるなんて。
ラミアとケビンは俺にとってこれからどういう存在になっていくのだろうか。
二人は大切な家族。
それは変わらない事実。
それは負の意味ではなく、いろいろな可能性を秘めている。
もしかしたら…という思いもある。
未来は誰にも分からない。
その日の晩、使用人に命じてマリアに関わる部屋を全て片付けさせた。
だがあの子への想いは消えることはない、永遠に俺の心の中であの子は生き続けていく。




