33.開かれた心③
私はこれから話すことの後ろめたさからか、わざと明るい口調で話し始める。
「ねえ、ヒューイ聞いてくれる。私ね…今日エドワード達に会って彼らが想いを合っている姿を見て良かったと思ったの。大変なこともあるだろうけど彼らなりに幸せなんだなって…」
「…マリアは本当に優しすぎるな」
そう言うとヒューイの顔にもう悲愴感はない。愛しむような眼差しを私に向けている。
きっとそれもすぐに変わる、だって彼が知らない本当の私を今から伝えるのだから。
それは醜い心を持つ私。
彼を失うのが怖いくて仕方がない。
でも私は彼の手を掴んではいけない。だから彼の為に話そう。
深く息を吸い込み再び話し出す。
「ふふ、でもね…そう思いながら同時に二人のことを心のなかで罵倒していたわ。
『なんでもっと気を使わないの!どうして幸せですって顔を平気で私に見せつけるの!』って思っていたの。
それにね、ラミアからケビンの話をされた時、彼女を殴りつけたかった。
『私の子は生まれてこれなかったのに、泣き声すらあげられなかったのに、あの子の歩むはずだった人生にどうしてあなたの子が居座っているのっ』て。
ケビンに罪なんてなにもないのに…。
『私の子は名前さえつけられずにこの世をから去ってしまったのに、なんであなただけが子供の名を嬉しそうに呼べるの、そんなの不公平だわ』って恨んでいたの。
嬉しそうに話す彼女はこの世に誕生しなかった私の子の存在を知らないわ。私がみんなに口止めをして二人に何も知らせなかったくせして、私は幸せな彼女を勝手に憎んだの。
不幸になれって心のなかで叫んでいた。
うっ、うう…、本当の私はね。こんなに汚いの、ちっとも優しくなんてない。
人の幸せを妬むような酷い人間…なのよ」
途中で止まらないように一気に話した。微笑もうとするけれども出来ない、勝手に涙が溢れてくる。
彼らの幸せを祝福しながら一方で相反する気持ちを隠していた。微笑みの下にこんな感情があるなんて誰も知らなかっただろう。
もし知られていたら、みんな私を見限っていたと思う。そして一人で孤独に苛まれていたに違いない。
臆病な私はそれが怖かった。
一人でこの状況を耐えられる自信なんてなかった。
私はただの偽善者。
彼も私の子がこの世に誕生しなかったことを知っている。彼がダイソン伯爵家へ来た時に『まだ公にはしていないが…』とエドワードが嬉しそうに伝えていたから。
そしてエドワードが行方知れずとなってすぐに、まだお腹の膨らみにさえならなかった我が子は天に召されてしまった。
このことはごく親しい者しか知らない。
私の希望でエドワードとラミアには絶対に知られないようにした。それは彼らの為というより天国へ行ったあの子の為だった。
幸せそうな二人があの子の存在をどう思うか。心から悲しんでくれないならば父に忘れられたあの子が可哀想だと思った。
だから告げなかった。
心から大切に思ってくれる人だけにあの子を覚えていて欲しかったから。
醜い私にヒューイはきっと呆れているだろう、軽蔑しているだろう。彼が私の元から去っていくのを覚悟して待っていたが、彼は動かなかった。




