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愛する貴方の心から消えた私は…  作者: 矢野りと


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静かな夜に…

申し訳ありません、抜けていました…。

ヒューイと私が一緒に参加する夜会が早々に決まる。それは一ヶ月後に開かれるドイル公爵家主催の夜会となった。


ドイル公爵家と我が家は数代前からの長い付き合いで、当代の公爵夫妻と両親は友人の間柄だ。もちろん私も幼い頃から可愛がってもらっているし、私の離縁後の状況も知っているので余計な詮索をされる心配もない。


それにマイル侯爵家にも招待状は届いていたので、わざわざこちらからヒューイの参加をお願いする必要もなかった。


社交界復帰の最初の夜会としては、これ以上ないくらい良い条件が整っていた。




孤児院の仕事もこなしつつ夜会の準備も行い、あっという間に夜会の日が近づいてくる。

ヒューイと一緒の夜会だと思うと心が弾み、その日が待ち遠しい。



でもそれはあの人達との再会の可能性を意味する。


同じ高位貴族なのだから招待される夜会やお茶会などが被るのは当然のこと。


『公爵家にダイソン伯爵家の出欠を確認しようか』と父は言ってくれたけれどその必要はないと私は断わった。


遅かれ早かれ会うことになるのだから、今だけ避けても仕方がないだろう。



私と離縁したあとエドワードはラミアと正式に婚姻を結んでいる。

しばらくは社交界から遠ざかっていたようだが、最近では二人揃ってダイソン伯爵夫妻として積極的に社交界に顔を出すようになっていると風の噂で聞いている。


だから…きっと今度の夜会では会うことになるだろう。




二人の結婚や順調に社交をこなしていると聞いても私は動揺することはなかった。

予想していた現実に『そうなのね』と思っただけ。


心から二人の門出を祝福しているとは言えないけれど、彼らを憎んだり貶めたいとも思っていない。


彼らの人生は彼らのもの、私は邪魔はしない。



 二人は確実に前に進んでいるのね。

 それでいいわ。

 こうなるって分かっていたことだもの。



愛し合い子供までいるのだから夫婦になるのは自然な流れ。

そして跡を継ぐケビンの未来のためにも彼らが表舞台に出てくるのも分かっていたこと。




予想通りの展開を前に私の心は平穏そのもの。


だから過去とは決別出来たと、もう大丈夫だと…思っている。

心のなかに迷いはないとはっきりと言える。



それなのに夜会の日が近づくにつれ考えてしまう。


実際に幸せそうなダイソン伯爵夫妻を目の前にして自分は冷静でいられるのだろうかと。


ちゃんと礼儀正しく振る舞えるか、貴族らしく微笑めるか、誰に対しても恥じない行動を取れるのか…。


それとも愚かにも醜態を晒すのだろうか。


覚悟は決まっているはずなのに、新たな不安の芽が息吹く。



それはきっと静かな夜がもたらす暗闇のせい。



人は一人で闇のなかにいると考えなくていいことを勝手に考えて、自分で自分を苦しめる奇妙な生き物。


それは誰にでも起こることで不思議なことではない。

誰にだって弱さはある。

完璧な人間なんてどこにもいない。


誰もが持っている小さな弱さを糧に不安はいともたやすく成長してしまう。

そこに自分の意志は必要ではない。



不安が私を飲み込もうとする。


 大丈夫、大丈夫よ…。

 私は一人じゃない。


心のなかで何度も自分に言い聞かせ不安を潰していく。決して目を逸らさない、逸らせば飲み込まれるから。


温かい家族の、そして親切にしてくれるヒューイの顔を思い浮かべる。

彼らがいるから一人じゃないから乗り越えられる。


自分自身の為にも私は負けない。



今日も静かな夜が過ぎ去っていく。






そして一ヶ月後、私は笑顔でこの日を迎えることが出来ていることに心の底から喜びを感じていた。



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