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愛する貴方の心から消えた私は…  作者: 矢野りと


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16.頻繁な訪問①

ヒューイ様は院長との話を終えて出てくると、孤児院を時間を掛けて見て回っていた。

子供達や手伝いに来ている人に質問をしながら熱心に何かを記入にしてる。


一通り見終わると『それではまた』と挨拶もそこそこに彼は足早に王都へと戻っていた。


彼のような地位の高い貴族は騎士でない限り移動に馬車を使用するのが普通だが、彼は自ら馬に乗って帰っていた。


それも護衛もなくたった一人で。



彼は文官出身の側近だが、武官と互角、いやそれ以上の腕前を持っているという話は本当だったようだ。



 本当に…凄い人ね。

 それに良い意味で噂と違っていたわ。



去っていく彼の後ろ姿を子供達と一緒に見送りながらそう思っていた。


きっと王宮務めの彼とはもう会うことはないだろう。


それを少し残念に思う私。



親しかった間柄でないけれども、彼との偶然の再会に心が弾んでいた。


その理由は子供達や私に対しての彼の態度だ。


彼は孤児達を憐れんだり、見下したりはしなかった。それどころか対等に扱ってくれた。それは人として当然のことだが、それが出来ない貴族は案外多い。


それにダイソン伯爵の親戚である彼は私がここにいる理由も全て知っているはず。

でもそのことに一切触れずに笑ってくれた。


嘲笑ではなく、心からの笑みを浮かべて…。



それがとても嬉しかった。




エドワードとの離縁後は『記憶喪失の夫に捨てられた妻』という目で見られることがほとんど。

特に関わり合いの少なかった人は不躾な視線を隠そうともしない。


表面上は気にしないふりをしていたけれども、実際にはどんなに心ない態度に傷ついたことか…。



でもヒューイ様はただの私を見てくれていた。

従兄弟の元妻でも、可哀想な令嬢でもなく、ただのマリア・クーガーだけを。



 ふふふ、みっともない私だったけどね…。



あの再会を思い出すと正直恥ずかしい。でも嫌な気持ちは全く残っていない。


不思議なほどに彼はここに優しさしか残さなかった。


そしてそれは私だけでなく子供達も温かい気持ちにさせてくれた。



もう会うことはないのが残念だと思うほどに、私は彼に心から感謝していた。







そして、あの偶然の再会から一ヶ月後。

ヒューイ様は毎週のように孤児院を訪ねてくるようになったのだ。



どうやらこの孤児院の運営方法を直に学び、国全体に広めていくことになったらしい。

それはこの領を治めるクーガー伯爵家にとっても大変に誇らしいことで、全面的に協力をしていく方針だった。



でもなぜ彼のような側近がその役に抜擢されたのだろうか。

最初の訪問は王太子からの直接の命だったのだろうが、その後の運営方法を学ぶ為に派遣されるのは彼のような重要な地位にある側近ではなく、その下の者でも十分事足りるはず。


いや、国の仕組みを考えればその方がむしろ自然だろう。



そう思って世間話のついでに軽い気持ちで彼に尋ねてみた。


「ヒューイ様ではなく他の方が来られることはないのですか?」



この問いに深い意味などないし、極々簡単な質問のつもりだった。


だからすぐに返事が貰えると思っていたけれども、彼はしばらく沈黙したまま。

心なしか顔色が悪くなっている気がする。


 

 どうしたのかしら…。

 ヒューイ様、具合が悪い?



『体調が悪いのですか?』と尋ねる前に彼が口を開く。



「俺がここに来ることは王太子の許可も取ってあるので、他の者が来ることは絶対にありません。

マリア嬢は俺では不満ですか……」


前半部分はきっぱりと、後半部分はなぜか声が小さくなっている。


もしかしたら国策に関わる聞いてはいけないことを私は聞いてしまったのかもしれない。


「そんなことはありません!ヒューイ様が来てくださってみんな喜んでおりますわ」


慌ててそう言うと彼は『みんなですか…、安心しました』と言いながら複雑そうな表情を浮かべている。


やはり国策に関わる言えないことがあったのだろう。彼の表情を見てそう思った。


安易に尋ねてしまって悪かったなと反省し、この件に関しては私から尋ねることはしなかった。






だがしばらく経った頃『俺で不満はないですか…?』と真顔で聞かれた。


「ええ、ございません。どうしてそんなことを尋ねるんですか?」


「…この前、他の者がこちらに来ることをマリア嬢は望んでいたようなので……」


どうやら私の言葉を『ヒューイ様ではない人が来ればいいのに』と彼は誤解にしていたようだ。


私は慌てて訂正をする。


「申し訳ありません、あれはそんな意味ではなく、ただヒューイ様ほどの人がここまで毎週来るのは大変なのではないかと思って聞いただけでして」


「はっはは…そうだったんですか、良かった」


私の言葉を聞いて安心したのか彼は照れながら破顔している。


まるで少年のように。



彼の新たな一面を知り、彼のことがとても身近に感じられる。

そんな彼に『ヒューイ様って全然近寄りがたくなんてありませんね、ふふ』と私は自然に笑い掛けていた。







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