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廃校でダンジョン  作者: 空気鍋
14/14

1ー14

 俺が“DESU(デス)ノート”と拙い文字で書かれたノートに取り憑かれた時、ノートの最初には“十個の約束事”と言うのが書かれてあった。


 このノートがあった敷地は、このノートの持主の領地デス。

 ノートの持主は領主となり領地をいとなはぐくむ事が生業なりわいとなるのデス。

 領地から領民が出るのは出来ないデス。

 領民は領主にぜいおさめなくてはならないのデス。

 領主は領民をゆたかにしなくてはならないのデス。

 領主は領地があるかぎり自分が考える最強の自分になるのデス。

 領地は領主がいるかぎり成長していくデス。

 領主は領民のリーダーを決める事で領地をより効果的に発展させれるのデス。

 領地の設定変更及び質問は、このノートを介しておこなわれるのデス。

 その他免責事項があるのデス。


 当時の俺は……と言っても1週間も経っていないのだけど、ノートの異様さに気を取られ書いてある内容はほぼ受け流していた。もっと言わせてもらえれば、俺自身の名前が書かれていた覚えのないノートに、いかにも当時の小学生が書くような“アルファベットが書かれていればなんかカッコいい”という感性が全面に押し出ている文章をさほど気にしていなかったのだが。

 だが、元小学校の敷地に大人の俺が10分も歩いて、まだ辿り着かない今になってグチグチ言った俺に“DESUノート”が見せたのは「領地は領主がいるかぎり成長していくデス」の一文(いちぶん)

 つまりは……どうゆう(どういう)事だってばよっ?


「察しが悪いのぉ……いや、あえて知らぬ振りをしておるのか。ならば妾が教えてしんぜようか(止めをさそうか)の。」


 俺の前で、俺より背の高い美女がククク…と悪い笑みを浮かべながら言おうとするのを慌てて両手で口を塞いで止める。


「領主様が居ればドンドン広くなっていくんだよ。」

「たくさん広がれば、新しい種族が生まれる……かも?」


 しかし、俺の必死さに構わず、無邪気に長い耳をピコピコ動かし金髪の少女が言う。むろん、その後に続いた銀髪の少女の言葉は俺を更さなるドツボに落としていく。


「まあ、なんだ、親方。」


 この場に置いて、もっとも頼りになるビヤ樽のオバチャ……女性が険のある目付きをしながら俺の肩を叩いて、


「まあ、なんだ。」


 再度、同じ言葉を繰り返して少し言い辛そうに、だが長く生きてきた人特有の悟りきった顔をして言う。


「アタイも“取り憑かれた親方がた”を見てきたけどね。最後には“人生は諦める事と見つけたり”って菩薩様みたいな顔をしていたものなんだよ……。」


 遠い過去を思い出しているのか、近い未来を予見したのか。視線が合わない虚ろな瞳を空に向けて小さく小さく息を吐く。その仕草が将来の俺に重なる……。


『まぁ! なんて失礼な!』


 そう叫ぶメイド姿の少女が両手をふりふり抗議する絵を描いたノートが、そんな空に浮かんでいた。いや、諸悪の根元は間違いなくお前なのだが!

 裂こうとしても裂けず、燃やそうとしても燃やせないお前のせいなんだが!

 俺が言葉に出来ない思い(怨み)を目力に変えて睨むと、描かれたメイド少女が両手を頬に当てて


『イヤ~ン、ご主人様の熱い視線に蕩けちゃうぅ』


 等とふざけた吹き出しが飛び出てきた。ノート一杯に描かれた少女は、恥じらいながらも優越感を感じさせるという高度な絵柄を披露しながら


『もぉう、ちょっとだけですよぉ?』


 ピンク色のスポットライトに照らされながら服をはだける“懐かしのギャグ”をかました。

 それは、俺が小学生の頃に“お茶の間でかました当時の問題作”として有名なコントの一幕だ。だから俺は懐かしさのあまり、


「イヨッ待ってました大統領っ!」


 と、つい合いの手をいれてしまい


『あんたも好きねぇ』


 ピンクライトに照された少女は横に腰掛け、肉付きの良い足を片足伸ばして艶やかな肌を見せつけつつも、しかし肝心な部分は見せないという妙技を繰り出す。


「おおふっ!」


 とまた合いの手を出した俺だが、


「親方もデスノも、いい加減にしなっ!」


 ちょうど良いタイミングでビヤ樽さんから突っ込みが入った。


「やーいやーい、怒られたっ。」


 コントの終わりを告げる言葉を呟く俺と。

 コントの終わりまで走れたノートが。

 親指立ててやりきったと、小気味良(こきみよ)く的確な突っ込みを入れたビヤ樽さんを見ると。


「親方は、まともだって信じてたのに……。」


 哀しげに顔をしかめていた。


「アタイだってこんな事は言いたくない。言いたくないけど、雰囲気で名前を変える尻軽と楽しい事しかしたがらないお子ちゃまと脳()の金ちゃんさんと上から目線の紙切れの騒動を誰が尻拭いしているって思ってんだいっ! そうさ、騒ぐだけ騒いで面倒なのは放ったらかし。後の祭りでとっちらかったのを片しておだめて。」


 言いながら感情が膨らんできたらしく、口調が荒れていく。


「そ、そんな生活を何年もして、やっと親方が来て。楽になれる、アタイだけじゃなくなるって思っていたのに。それなのに親方が……親方は……。」


 ブワッと円らかな瞳から涙が零れ出て


「もうっ親方なんかしらないよぉっ!」


 ドタドタと短い足を器用に動かし意外にも素早く目の前から消えてしまった。


「……そうじゃのう。ムギは生まれてまだ十年と半ば、まだまだ若いからの、我慢もきかない事もあろうの。」

「ムギはいつも溜めすぎなのよ。まったく、フォローするわたし達の気持ちも知って欲しいわね。」

「ムギは子供、わたし達は大人。大人が子供のフォローするのは当たり前。」


 そう言ってビヤ樽さんが走り去った方を見ている三人。だが、要救助の女の子を片手で引き摺りながら歩いたり旗降るみたいに振りまわし、弓矢で射たり投げたりしていたのは君らだから。人間手裏剣なんて初めて見たけど、二度と見たいとは思えないな……。おかげで女の子には「死亡」って普段使いしない言葉が付いて「コンティニュー(頭にピヨコ)」なんてゲームでは良く見る画面がノートに出てきたんだ!

 そして「死亡」してから「コンテニュー(生き返った)」した女の子は、目を覚ましてから謎の悲鳴を上げていた。いや、目の前に石像がのし掛かっていたら普通は叫ぶか。俺も人外と付き合っているうちに「普通」がおかしくなってきているのかもしれない……。

 やれやれ、と頭を振って気持ちを切り替えてみると短い付き合いでしかないのに、ずいぶんと慣れたものだ。

 人外の理不尽に。

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