ライラ・クローバーのお話 その5
あの日から、クロークと特訓を始めたライラだった。村で一番の剣の腕を持つ、クロークの娘だからか、もともとの才能なのか、ライラは徐々に父であり師匠であるクロークを追い抜いていた。
「もっと、強く。」
しかし、それでもライラの気持ちは満たされることはなかった。
確かに、あの日の自分とは比べ物にならないくらい強くなった。今だったら、スキルを使わずとも、ベアトリクスを余裕で倒すことができる
「満たされるのかな?」
満たされるかはわからない。もしかしたら、一生満たされないのかもしれない。でも、このまま村でただただのんびり過ごしたくはなかった。
そして、ライラは16歳になった時、或る決意をした。
ある日の夜、見張りの男数人が交代して、ライラが見張りをすることになっていた。
「あとは、よろしくな。」
「いやー、助かるぜ。」
村の男がライラに声をかけ、自身の家に戻っていった。
「・・・・」
ライラは男たちを見送った後、村の隅に隠していた荷物を取り出した。
そして、ライラが村の外に出ようとした時、目の前に人の姿が見えた。
「・・・・レイナ」
レイナは怒ったように頬を膨らませて、ライラを見ていた。
「・・・・・」
彼女は何も言わず、レイナを素通りしようとした。
「待ちなさい。」
レイナは、すれ違う時ライラの余計な肉が一切なく剣をふるうために鍛えられたライラの腕をつかんだ。
それでも、ライラは何も言わずと通り過ぎようとしていた。
「どうして?」
待っていてもらちが明かないと、レイナが口を開いた。
このレイナのどうしてというにはたくさんの思いが込められていた。なぜ、あの時から剣を習い始めたのか、誰とも話さなくなったのか、村をでていくのか。
その質問にライラはレイナ思いとは裏腹に顔を見ないまま答えた。
「六年前、あの時から魔物たちの様子がおかしいの。森の奥にいるはずの危険な魔物がここまで現れてる。理由は不明。だけど、なにかあるはず。」
ライラの赤く染まった瞳がマグマのように煮えたぎっていた。
六年前、子供たちで森に行きベアトリクスに襲われた事件。その時から、森の奥を住処にしている魔物たちが少しずつ現れるようになった。大きな被害は出てないが、何人かの村人が襲われた。ライラは12歳のころから村の自警団に加わり、魔物たちの討伐に貢献していた。ライラは剣の才能とスキル持ちだけあって、かなり団の中でも群を抜いていた。そんなライラでも時折小さい負傷してしまう、魔物が最近出没するようになった。
なので、ライラ以外は五人以上で警備することになっていた。
レイナは自身に向けられているわけでもない赤い瞳の視線に威圧されたのか、それとも恐怖したのか唾をぐっと飲みこんだ。
しかし、彼女はここで負けてたまるかと小さく深呼吸して、息を吸った。
「それでも、ライラが行くことはないよ。」
レイナのライラに向けた視線が強くなると同時に、ライラの腕をつかんだ手も強くなった。
しかし、一番強いのは絶対に行かせない。そんなみえることのない思いだった。だが、ライラには視線よりも、腕に感じる小さい痛みよりも、その思いを一番感じていた。
「はぁー・・・腕離して、痛いんだけど?」
ライラはやれやれとため息つき、レイナに言った。
レイナは急に威圧を解いたライラの言葉に緊張を解かず、ゆっくりと腕から手をはなした。
解放された腕をさすりながら、ライラは口を開いた。
「レイナは私が引っ込み思案になる前のこと覚えてる?」
ライラのおかしな質問に、レイナは一瞬あっけにとられた。しかし、彼女は緊張を解かず無言で頷いた。
「覚えてるよ。ライラ。」
レイナは大切な思い出を思い出すように一言一言を嬉しそうに語りだした。
「かなりやんちゃだったよね、運動が得意で足の速さみんなの中で一番。体を使う遊びだったら、誰にも負けなかった。少し危険なことでも簡単にしちゃってさ。私は見ててはらはらしちゃって、、、、私は振り回されてばっかだったよね。」
話しながら、レイナは自身の表情が曇っていくのを感じていた。
レイナが語ったずっと前のライラの思い出は六年前のライラからは想像がつかなかった。到底引っ込み思案になるような子ではなかったっからだ。
そして、続けるようにレイナが語りだした。今度は先ほどとは程遠い曇り顔で
「あのことが原因だよね。、、、私が魔物に襲われた、、、だよね。」
レイナの問いかけに、ライラは答えないでうつむいて腕をさすっていた。あの時と変わっていないと思いながら。
もしかしたら、あの時から優しく悲しい二人のすれ違いが始まっていたのかもしれない。




