第七十六話 並んでる!
ゴブリンジャイアントを倒した後、ミラと相談しロックコートと切断上昇を取ってみた。
その後は南側の探索も始める。
群がるゴブリン共を倒しながらロックコートについて検証。
このスキルはどうやら魔法の部類らしくMPを消費することで発動。
バスタードソードの刃に岩が張り付いて棍棒のように変化した。
ステータスで確認すると、打の数値は上昇したが代わりに切と突が0になってしまっている。
しかし、どうやらかなり頑丈な代物なようで、盾代わりにも使えそうだ。
岩が装着された分、面積は円盾より多いし、場合によっては使えるかもしれない。
そして何よりこのスキルの特徴は、ロックコートで岩を装着後、スキルの表示がロックシュートに変わることだ。
どうやらロックコート発動中はこのままのようで、ロックシュートを使用すると装着されていた岩が勢いよく飛び散る。
扇状をカバーする範囲攻撃といったところか。ロックシュートは一発つかうだけで岩が完全に剥がれるけど咄嗟の時は役立つかもな。
検証が終わり探索を続けると宝箱がまた見つかり、中から火の結晶(高品質)が2つ、それに風の魔石が一つ手に入った。
早速ミラは風の魔石を腕輪にはめて魔法を試す。風の刃が飛んでいった。消費は3で連射が可能だ。
ただ、一発あたりの威力は低い。メインというより牽制に使えそうだ。
これらを駆使して更にゴブリンを退治してると熟練度もまた一つ上がった。
――パッシブスキル【刺突上昇】がアンロックされました。
――スキルリストに追加いたします。
また一つスキルが解放される。そのまま進んでいくと、なんと南側にドゴン、アロマ、マージュの店が全て揃っていた。
なのでとりあえず魔法具を扱ってる彼女の店に向かう。
「マージュ!」
「……あ――」
うん、マージュの店に来たはいいけど、相変わらず地の声は小さいな。
『ミラにまたあえて、私嬉しいです!』
「うん、僕もだよ~」
そして再会を分かち合う二人。
う~ん、普通に見ると、二人共いい感じに仲が深まってるように見えるかもだけど、何故かこの二人の場合男女のそういった雰囲気を感じないんだよな。
とりあえずミラはこれまでの探索で起きたことを話して聞かせた。
マージュは興奮気味に話を聞いているな。
『ミラみたいに話してくれる人、他にいないから凄く嬉しいです。でも、その妙なゴブリンは厄介そうですね。そして、スライムのキュピちゃん可愛い――』
「キュピッ!」
ミラの肩に乗ってるキュピをそっと撫でる。やっぱり女性は可愛いものに目がないのか。
それからもお茶を飲み歓談を楽しみつつ、戦利品の杖やローブを鑑定してもらい買い取ってもらう。
後は火の結晶(高品質)が三つ揃っていたので、これを火の魔石と交換してもらう。
これで魔石は全種類手に入れたことになる。そして雷と火は魔石が二つずつ、水が三つ揃っていて、風は一つだ。
お茶も飲み終え、また寄るね! と言い残しミラは店を後にした。
そしてそのまま近くのアロマの店に向かう。
う~ん、近いってありがたい。
「いらっしゃい。なんだ、あんた達かい。フカヒレ以来かねぇ」
「はい、ご無沙汰してます」
『といっても時間の感覚がないから、どのぐらい久しぶりかいまいち判ってないけどな』
「そうさね、わっしだって細かいことはわかんないから雰囲気だよ」
いい加減だな。まぁ、それぐらいが迷宮暮らしにはちょうどいいのかもだけど。
「ジーーーーーーなの」
「キュピ?」
テラピーがキュピに興味を持ったようだな。ジーとか自分で言ってるし。指で何かツンツンしてるし。
キュピはキュピで身体の一部を疑問符にしているけど、どうやらそれが幼女の琴線に触れたようだ。
「か、可愛いなの!」
「キュピッ!?」
そしてガバっと抱きついた。キュピも進化して以前より大きくなったがそれでもミラの肩に乗れる程度だ。
つまりテラピーでも抱きしめることは可能って事だ。
「ぷにゅぷにゅなの! ひんやりなの! 気持ちいいなの!」
「ほらテラピー。お客さんのなんだからあんまり無茶すんじゃないよ」
「あ、大丈夫ですよ。キュピも喜んでるみたいだし」
「キュピ~♪」
確かに最初は驚いていたキュピも、幼女に懐かれて悪い気はしないようだ。
う~ん、それにしてもなんとも愛嬌のある組み合わせだ。
ぷにぷにしたスライムに甘える幼女――画になるな。
……うん? あれ? これちょっと俺、見ようによってはヤバい剣になってる?
いやいや違うし! これはそうじゃなくて、普通に、普通に、何かこう、そう! お人形さんを見るような感じでって、それもおかしいか?
いや、だからつまり――
――一連の行動により称号【幼女好き】がアンロックされました。ステータス欄に追加いたします。
『ちょっと待てぇええぇえええぇええィ!』
「え! ど、どうしたのエッジ?」
しまった。つい感情が念にのってしまった。でも仕方ないだろ! なんだこの声の主は、悪意しか感じられねぇし! くそ!
「……あんた、その剣はもう出来ればテラピーに向けないでやってくれ」
「え? どうしてですか?」
「なんかねぇ、孫を見る目が違う気がするのさ」
「あはは、まさか~それに剣だから目がないですよ~」
「幼女に目がないかもしれないしねぇ」
「あはは、アロマさん面白いな~」
全然笑えないし痛い! あるかわからない心が痛い! なにこの薬師! すごいジト目を俺に向けてるし、見えてる? もしかして俺の称号が見えてるの!?
「お婆ちゃん! テラピーこれ欲しいなの!」
「キュピッ!?」
そんな会話をしてると、テラピーがキュピを抱えあげて、とんでもないことをいい出した。
キュピも驚いてるよ! 頭上に『!?』を浮かべて驚いてるよ!
「ごめんねテラピー。キュピは大切な仲間だからあげられないんだぁ」
「キュッ、キュピ~♪」
お~お~キュピも大切にされて随分と嬉しそうだな。
「大体そんなスライム飼っても無駄に餌代がかかるだけだよ。いかにも食べそうだしねぇ。かといって食べる気にもなれないしねぇ」
「キュピ~……」
キュピがブルブル震えだした。食べるなんて言うから、言うから!
でも、ま、確かに結構費用は掛かるかもな魔晶とか食うから。
「残念なの……」
「ごめんね。でもキュピをつれて僕また遊びにくるから」
シュンっとするテラピーをミラが慰める。
ミラの場合しっかりと約束を守るからな。テラピーも本当なの! と顔を綻ばせた。
「それじゃあ、ポーション系と強化薬、あとは耐久値回復の薬で」
「はいなの! HP回復ポーション(50%)×2、MP回復ポーション(25%)×2、ハイポーション(30%)、強化の薬、疾風の薬、鉄壁の薬、耐久値回復の薬×2、で合計、え~とえ~と……」
指で必死に数えようとしている。可愛い。
「本当は2340マナだけど、フカヒレの時は助かったしね。2000マナでいいよ」
「あ、ありがとうございます!」
偏屈そうに思えて結構いい人なんだよな~。
で、アロマの店を出て最後にドゴンの店だ。
「ドゴンさん!」
「おお、ミラ! やっと来やがったかこんちくしょう!」
鍛冶師のドゴンの店に先ずは入る。すると随分と手厚い歓迎を受けた。
いつもどおり食事をご馳走になる。相変わらずミラは盛々食ってたけどね。
そしてとりあえず塩漬けになっていた素材なんかを全て売り払った。
ダッシュリザードの皮、鋳鉄の剣、鎖帷子、鋳鉄のナイフ、革の円盾――全部まとめて1000マナになった。
途中でゴブリンを倒したりもしたからな。勿論キュピにもわけたりしたし、薬で大分使ったけどそれでもまだ所持マナは1750はある。
ミラはそのマナで俺の修繕をお願いしてくれた。もうすぐ耐久値も残り半分というところまで来ていたから助かるな。
「だったら丁度よかった。ミラ、お前その防具ちょっと脱いでくれ」
「え!」
『お、おいドゴン、まさかそんな趣味が?』
「キュピピピィ!」
「ば、馬鹿ちげーよ! 前にお前らから守り蟹の素材買っただろ? その下処理が終わってな。だから、その防具と組み合わせてパワーアップしてやろうってんだよ。なのにスライムにまで文句言われるとは思わなかったぜ……」
なんですと!




