第七十二話 ミラ、乱れる!
ゴブリンとの遭遇戦は暫く続いた。こいつらこの細い通路にのさばり過ぎだろ! と突っ込みたいが、出てくるものは仕方がない。
ただ、流石にLVが上がったとは言え、この手のゴブリンだと熟練度がそんなには上がらなくなった。
攻撃力も上がってきているから、ゴブリンもあっさり死ぬしな。ただ経験値に関しては塵も積もればだし、魔晶はキュピがLVを上げる餌になるから丁度いい。
進化のPTも地味に貯まってきているが、次はコンボを取ろうとミラと決めている。
アクティブスキルが今後も増えそうな事を考えると、持っていて損はないだろうと考えての事だ。
覚悟の一撃もどこかで取っておきたい。正直名称と概要を見るに単発で使うのは少し怖い気もするが。だけど、コンボと組み合わせれば使える技になりそうだ。
「キュピ~♪」
「あ! これでキュピのLVが4になったよ~」
名前:キュピ
種族:スライム
形態:ベビースライム
LV:4
HP:9/9
確かに4に上がったな。でも、それでもこのHPじゃまだミラの胸当ての中に隠れておいてもらわないとな。
このあたりのゴブリンなら軽く一撃で捻られてしまうステータスだ。そう考えると、よくこれまで生き延びてこれたな――
まあとにかく、更に先へと進む。道は既に勾配のある上り坂に変わっていた。
かなり急でちょっとした山登り気分だろうな。
『て、危ないミラ!』
「わ!?」
そんな事考えていたら、上からゴロゴロと何かが丸まって転がってきたぞ!
岩でも転がってきたかと思ったけど、ちょっと違和感があったな。岩というより何かが丸まっていたような――
「な、なんだったんだろね今の?」
『知らないけど、厄介そうだからさっさと先を急ごう』
「キュピ!」
キュピがチラッとだけ姿を見せて声を上げる。それがまたたまらないらしくミラに抱きつかれていた。
本当、キュピをよく愛でてるな~。
まあ、それはともかく先へ進んだミラだったけど――
「ゴガアァアアァアアア!」
そして坂を登りきり、平坦な道に出たと思ったら今度は二体のホブゴブリンに襲われた。
本当ゴブリン多いな。とりあえずミラが避ける。
それから鑑定眼鏡で調べたら密かにLV16もあるらしい。
このあたりはゴブリン系のLVが高いな――とりあえずミラの背後は岩場みたいになってるせいもあってか、あまり間隔が取れない。
岩場を背にした状態で右を見ると道は続いているから、そっちへ移った方が――
「ゴブォン!?」
「――ッ!?」
「え、ちょっ!」
そう思った矢先、さっき転がってきたアレが戻ってきて、ホブゴブリンの片方を弾き飛ばした。
何だそりゃ! もう1匹のほうがビビってるし、ミラも突っ込んでくるから思わず横っ飛びして躱す。
そしたら丸っこいのが岩場に当たって弾き返され、かと思えば丸みを帯びた状態から体を伸ばして着地した。
「うわ、なんか芋虫みたいだね――名前はキャタピラーでLVは16だって」
なるほど。確かに見た目は節くれだった昆虫って感じだな。丸まった状態から元の姿に戻るとかなりでかいのが判る。
あんなのが丸まって転がってきたらそりゃホブゴブリンでも吹っ飛ぶか。
ただ、ふっ飛ばされホブゴブリン立ち上がったな。こいつは持ってるのが槌で、もう1体は斧持ちなんだが――なんか体当たり食らったホブゴブリンが鼻息荒くしてキャタピラーに近づいていって。
「ゴッブーーーー!」
思いっきり槌で殴りつけた。なんだ魔物同士で争うのか?
いや、でも思い出してみたらゴブリンはイビルバットに襲われたり襲ったりしていたこともあったな。
魔物といっても、争い合うことは普通にあるってわけか。
「何か斧持った方も、あのキャタンピラーを襲い始めたけど、どうしよう?」
「キュピー……」
『そうだな……放っておこう』
正直、こんな狭いところで魔物を3匹も相手するの厳しいしな。
というわけで、後はごゆっくり~とその場を離れるんだけど――それからしばらくしてゴロゴロゴロゴロゴロゴロと重苦しい音を奏でながら、あのキャタピラーが突っ込んできた。早いなおい!
今回は幅員の広い道だったから難なくミラも避けたけど、あのホブゴブリンもうやられたのかよ。もっと気合入れろよ。
「あ! また来る!」
『ミラ、とりあえず飛び道具を当てまくれ』
ミラが頷き、燕返しで生み出した燕を当てていく。ただ、あまり効果がなさそうだ。なんか硬そうな皮してるしな。物理攻撃は通りにくいのかもしれない。
でも、それならそれで戦い方はある。
『ミラ、この手の判りやすいやつにはあの手だ』
二度目の転がり攻撃を避けたミラに提案。するとミラも、あ! そうか! と理解した様子。
そして、キャタピラーの三度目の体当たり。
だけど、ミラは直線的な攻撃のタイミングを読んで――水の泡の中にキャタピラーを閉じ込めた。
突然、体当たりを狙っていた自分の動きが止まった事に戸惑っている様子。そこへ、ミラのスパークボルトが炸裂し、水との相乗効果でダメージが増加。
バチバチと泡の中で雷が迸り、そして泡が弾けて中身のキャタピラーが元の姿に戻り地面に倒れた。
「う~ん、やっぱりこれ強力だね~」
『そうだな。まあこいつは動きが単調だったし――いや、待てミラ! 経験値が入ってこない。まだ終わってないぞ!』
俺がそう告げると、あれ? とミラがキャタピラーに目を向ける。
すると、突如キャタピラーの背中が割れ――ふわりと何かが飛び上がった。
「ウワっ! 大きな蛾!」
するとミラが顔を歪ませ叫ぶ。確かにキャタピラーの背中から出てきたのは巨大な蛾といった様相。
どうやらこの魔物は変身するタイプだったようだ。この場合成長といったほうがいいのか? とにかく、キャタピラーから一変した蛾の魔物がミラに迫る。
「名前はジャイアントモス、LV18だって!」
『18か、キャタピラーの時よりLVは上がってるんだな』
しかし、空を飛んでいるというのが厄介だ。この場所は結構天井が高いから、あの高さから攻撃されるとミラからの直接攻撃は届かない。
それに――何かミラの頭上で羽ばたきながら回り始めた。かと思えば細かい粉が降り注いでくる。
これは、鱗粉か?
「う、うん? あれ、なんだよこいつら、どっから湧いてきたんだ! えい! えい!」
『うん? お、おいミラ何やってるんだ?』
「何って、何かゴブリンが急に湧き出したから、切り倒してるんだ!」
「キュピ~?」
キュピも顔(?)を出して不思議そうに鳴いてる。
そりゃそうだ。何せミラが必死に剣を振ってる場所には何も居やしない。ゴブリンのゴの字もないぞ。
「キャッ!」
すると、ミラが何かに吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がった。
何だ? と思いきや、あのジャイアントモスが今度は羽ばたくと同時に強い風を引き起こしミラに当ててきたようだ。
『ミラ、横に逃げろ! あの魔物、風で攻撃してくる!』
「で、でも横には巨大なゴブリンがいて抜けれないよ!」
は? 巨大なゴブリン? 何を言っているんだそんなものは――あ、そうか! さてはあの鱗粉か!
しかも吸った相手に幻覚を見せるような効果があったようで、それでミラがさっきから妙な事を口走っているんだな。
「あ!」
また風の攻撃でミラが吹き飛んだ。まずいな、幻覚のおかげでミラには大量のゴブリンや巨大なゴブリンが見えていて、あの魔物どころじゃない。
「う、うぅ、え? な、何これ! いつのまにこんなにゴブリンが? いやだ、こっちにくるな! へ、へんなところ触るな~~!」
いや、立ち上がったはいいけど、ミラ、一体どんな幻覚みせられてるんだよ……と、そんな事を言っている場合じゃないな。
『ミラ! 落ち着け! ゴブリンなんていない!』
「う、うぅ、でも、でもこんなにぃい」
『いいかミラ、それはあの鱗粉によって引き起こされた幻覚だ。ミラは幻を見せられているんだよ』
「ま、幻~?」
「キュピー!?」
キュピも驚いたってマーク出してるけど、いや、とにかく。
『ミラ、とにかく一旦目を瞑れ! そして俺の声にだけ従うんだ。俺の声とキュピの声以外は幻覚だからな。実際にはない、俺を信じてくれ!』
「エッジ……うん、判った! 僕、エッジを信じるよ!」
そしてミラが目を瞑る。すると、あの風の攻撃が迫ってきた。
『ミラ! 全速力で横に走れ! どっちでもいい!』
俺の声に反応して、ミラが向かって左に走る。これで風の攻撃は避けた!
『よし! そのまま――』
そして俺はミラを上手く誘導しながら攻撃を避けさせ、そして――
『ミラ! 真下に来たぞ! 上に向かってスパークボルトを何発か撃て!』
「判った!」
俺の言うとおりにミラが上に向けてスパークボルトを放つ。それが数発、ジャイアントモスに命中した。
その攻撃に、ジャイアントモスはウザったそうにしていたが、全くダメージがないわけではなさそうだが、効果はそこまで高くなさそうであり。
つまり、そうなるとこっちはあのキャタピラーと逆ってことかもしれないな。つまり――
『ミラ、今の位置を頭で覚えておいてくれ。そして後ろに少し下がって、燕返しを連射だ!』
首肯し、ミラがバックステップで距離を離し、そしてすぐさま燕返し。
解き放たれた燕が、ジャイアントモスに吸い込まれるように突撃していく。流石ミラ、このあたりの感は良い!
そして、4発目の燕がジャイアントモスに命中すると、その羽を一度大きく羽ばたかせ――そして地面に墜落した。
――進化PTを20得ました。
――経験値を240得ました。
よし! 今度こそこいつを倒したぞ!




