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迷宮で目覚めたら、何故か進化の剣だった  作者: 空地 大乃


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第六十九話 ダッシュゴブリン

「クッ――」


 俺たちを見つけた瞬間の、あの奇妙なゴブリンの行動は早かった。


 逡巡する様子も見せず、ミラに迫り、手に持ったナイフを振った。

 盾でガードし、受け流すミラだが、ゴブリンはキュッと足首で回転させるようにして回り、すぐにミラを正面に捉える。


「キュピッ!?」

「少し、この中でおとなしくしててね」


 ミラはスライムのキュピを胸当ての中に隠すようにして距離を取った。

 キュピに被害が及ばないようにと考えたのだろうな。


 そしてすぐにバッグから鑑定眼鏡を取り出し掛けて相手を見やる。


「ダッシュゴブリン! LV……20――」


 最後の方は呟くように。

 これは、ダッシュゴブリンが名称か? だとしたらやはり他のゴブリンとは全く違う存在と考えたほうがいいかもしれない。


 何よりLV20は、以前見たときよりパワーアップしていると見るべきか。実際手にしているナイフも刃が朱色に染まっていて、前手にしていたものとは明らかに違う。


 身体にも革の鎧を身に着けているし、鎧には他に大量のナイフが巻きつけられている。


 だが、何より大きく変わっているのはその速度だ。以前も身軽で、スピードもかなりの物だったが、それがよりいっそう際立っていた。


 その速度故か、それとも元々持っている能力なのか、このゴブリン、壁や天井も関係なく駆け上り、自在に動き回ってしまっている。


 正直レベル差を考えれば一旦逃げて態勢を立て直したいところかもしれないが、相手の動きが速すぎて逃げ切れるとも思えない。


 そしてその状態からナイフを投擲してくる。

 ミラは元の反応の良さで、なんとか急所に受けるのは避けているが、胸当てで防ぎきれていない部位をナイフが掠めていき、シャツが血で滲んでいく。


「いい加減に――しなよ!」


 ミラがスパークボルトで反撃に転じる。三連発、ゴブリンの進行上に置いておくようにして放った。


 上手い、いくら速くてもこれなら――だが、そう思ったのも束の間、突如ダッシュゴブリンのスピードが上がった。


 まるで加速するように、壁走りで駆け抜け、全ての魔法を避けた上、壁を蹴りミラに特攻してくる。

 

 スピードの乗った状態、そこから朱色のナイフを握りしめ、ミラの胴体に――


 体当たりに近い形で接触し、ミラとゴブリンがゴロゴロと転がった。


 しかしゴブリンは転がりながら勢いを活かして飛び上がり、見事に着地する。


 ミラはミラで――俺を使ってなんとか起き上がったといったところだ。

 腹部、へその横あたりが抉れ、血がボタボタと流れ落ちている。


 出血が多い、これは――


『ミラ! ミラ! 意識はあるか! おい!』

「だ、大丈夫、頭ははっきりしているから……」

「キュピー! キュピー!」


 キュピも鳴きまくってる。ミラの顔色から尋常ではない様子を感じ取ったんだろ。

 俺だって同じだ。これまでもピンチはあったが、ここまでのダメージは初めてだろう。


 正直焦る。いや、ダメだ、俺がしっかり――


「ギィイイィ!」


 くそ! こいつ容赦ねぇ! ミラに接近して横薙ぎに振った。だけど、ミラもなんとか気力を振り絞ってといったところか、バックステップでそれを避ける。


 しかしゴブリンはしつこい、そのまま前に詰めて――そこでミラが掌を翳した。魔法? そうか、接近戦ならあの水の泡で閉じ込めれば――


「ギッ――」


 そう俺が考えたその時、前に詰めようとしていたゴブリンが突如、大きく後ろに跳ねた。


 こいつ、何かが来ると気づいたのか? しかも、後ろに飛びながらナイフを連射してきやがった!


「あぅ!」


 ミラは、円盾である程度は退けるが、それでも数発その身に受けてしまう。

 今度はかなりまともに食らった感じだ。


 身体に突き刺さったナイフが痛々しすぎるぞ! HPは――聞くまでもない!


『ミラ、急いでポーションを飲め!』


 うん、と頷きつつ、ミラはバッグからポーションを取り出す。即効性はないが、それでも何もしないよりはマシだ。


 ミラがポーションに口をつける、が、その時、パリーンと音がして――ポーションの瓶が粉々に砕けた。

 

 投げナイフだ! あのゴブリンめ! ミラが飲もうとしたポーションを狙ってナイフを投げてきやがった!


「が、ぐっ――」

「キュピピピィイィイ!」


 しかもポーションを砕かれた上、肩にナイフが深々と突き刺さる。


 ミラの痛みに喘ぐ声が、キュピの悲鳴にも似た鳴き声が俺に届く。


 不味い! 不味い! 不味い! これは洒落にならない! このままじゃ本当にミラが――死ぬ!


 あのゴブリンは、再び手にナイフを構えだした。もうミラにはまともに躱す力なんて残ってないはずだ。

 

 見たところ、投擲のナイフはあれで最後っぽいが、あれをまともに食らうのは危険だ!


 駄目だ、落ち着け俺! こういう時こそ俺がしっかりしないでどうする! だけどどうする? ミラは怪我が酷くてほぼ棒立ち状態だ。


 この状態で出来ることなんて――いや! まだだ! 諦めたらそれで終わりなんだ!


『ミラ! とにかくあの泡を出せ! 正面に! 急げ!』


 念で叫ぶ。四の五の言っている場合じゃない。迷ったら終わりだ! 頼むミラ、なんとかその手を――


 ゴブリンが投擲のポーズに入った。念のためと思っているかは判らないが、横に移動しながら、斜めに捉えて投げてくるつもりだ。


 だが、ミラを狙ってくるのは間違いない。それなら――そしてミラが、何とか手を翳し、正面に水の泡を生み出した。


 よし! だが、これだけだとナイフは精々一本しか防げない。それだと意味がない。


 だから――


『ミラ! 後ろに飛びながら、スパークボルトだ! そして――』

 

 再び俺が叫ぶ。それにミラが――応える! 気力を振り絞り、倒れるように後ろに飛び退きながら、スパークボルトを放つ。


 スパークボルトはそのまま水の中に吸い込まれ――弾けた!


 これは本来、あの泡に敵を閉じ込めた時に有効な手だ。だが、例え何も閉じ込めていない状態でも、水の泡にスパークボルトを当てれば泡の中で電撃が暴れまわり、そして大きく発光し、放電を伴いながら弾けて消える。


 そう、これが重要だ、発光する。この光が、かなり強烈! 洞窟の中で強い光に慣れていない状況が続いていたなら、間違いなく目が眩む!


 ミラだっていつもは反射的に目をつむるか、顔を背けていた程だ。


 だが、ゴブリンはこの現象を知らない。


 それなら十分に効果があるはず。しかも投げられたナイフも、この放電した光の中を突き破ることは出来ないだろう。


 そしてミラは――事前に俺が伝えていた通り、背中を見せて出口に向かっていた。


 背中を見せたのは光を直接見ないで済むように。この場所を離れたのは、壁や天井が有効活用できるこの空間は、ゴブリンにとって有利すぎてミラにとって不利すぎるから。


『ミラ、ポーションを飲むのを忘れるな』

「う、うん」

「キュピー! キュピー!」


 50%ポーションを失ったのは大きいが、残りの25%だけでも飲んでおかないと、今のミラは普通に歩くのすら厳しい状態だ。

 

 さて、正直言えば、このまま逃げられるならそのほうが良いんだろうけどな――

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