第六十話 宝を守る蟹
おまたせいたしました更新再開です。
円形の足場の端には、大きな蟹が鎮座していた。両手の鋏をチョキチョキさせてミラを威嚇しているようでもある。
「うわぁ~蟹だよエッジ! 蟹さんだよ!」
うん、判ったから魔物を見て涎を垂らすのはやめなさい。全く、あれだけ散々食べておいてまだ食い気が勝るのか。
てか、食えるのかこれ? いや、でも魔物のフカヒレが食えたぐらいだしな。やっぱ蟹も食べられるのかもしれない。
正直俺が食事出来ないから、その辺はわからないし、俺自身頓着がないんだけどな。
でも、俺の場合むしろ気になるのは蟹の後ろ側かな。なぜかと言えば、ちらちらとミラの移動に合わせて動く蟹の隙間から、箱が見えているから。
そう、あれは間違いなく宝箱。どうやらこの蟹、あの宝箱を守るためにここに居座っているようだ。
『ミラ、蟹に興奮するのもいいけど、こいつ、何やら宝を守っている。もしかしたら何かいい物が入っているかもだぞ』
「うん! じゃあ何がなんでも蟹と宝箱をゲットしないとね!」
あ、うん……何か蟹の部分の方が力入ってそうだけど……まあとにかく、宝を手に入れるために蟹と対決だな。
蟹は鋏をカチカチ鳴らしながら、こちらを警戒している様子だ。所見の相手はどんな攻撃を仕掛けてくるのか判らないからな。
『ミラ、油断は禁物だぞ。とにかくあの鋏には注意する――』
俺がそうミラに警告しようとすると、案の定蟹が鋏を飛ばしてきた。て! 飛ばしてきた!?
「うわ! びっくり!」
ミラが驚きつつ盾を滑り込ませ、鋏から身を守った。とは言え衝撃は中々のようで、軽く後ろに飛ばされる。
そしてガードに成功した後は、鋏が旋回し、蟹の腕に戻っていった。
なんか凄いものを見たような気がするぞ。
それから蟹タイプの魔物は鋏をカチカチ鳴らしながら、ミラの方を威嚇してくる。
「驚いたな~まさか鋏が飛んで来るとは思わなかったよ」
『ああ、しかも衝撃が強そうだな。盾で防御するとどうしても次の行動が一歩遅れる事になる』
俺の念に、そうだね、とミラが返し。
「じゃあ、次は避けるよ」
そういいながら距離を詰める。すると、案の定、蟹は再び鋏を飛ばしていた。
だけど、今度はミラも軽やかなステップでそれを避け、しかも下がることなく前に向かっていく。
これであれば、鋏が戻る前に距離は詰められる。勿論鋏は一本ではなく、もう一本あるわけだが、接近さえしてしまえば動きが固めの蟹の攻撃は見切りやすい。
斜めに振り下ろされたそれも避け、横に回りつつ、ミラは思いっきりバスタードソードを振り下ろした。
「くっ! 硬い!?」
しかし、歯を食いしばり渋い顔を見せる。ビリビリと刃が震えているのが判った。
どうやら蟹の甲羅は相当に硬そうだ。ちょっとやそっとでは刃は通りそうにない。
しかもそうこうしているうちに飛ばしていた鋏が戻ってきて、蟹の手に戻っていた。
蟹は戻った鋏をそれぞれ左右に振り、反撃を試みる。
縦に比べると、横のほうが攻撃範囲が広めだ。一撃目はミラも下がって避けるも、二撃目は蟹のくせに踏み込むようにして振るってきたからリーチが伸びる。
避けきれないと思ったのか、ミラは盾をクッションにして攻撃を受け止めつつ大きく飛び退いた。
『ミラ、距離を離したなら、魔法で攻めてみろ。スパークボルトならこの距離でも届くはずだ』
「うん、そうだね」
ミラが首肯し、俺を片手で持ち、腕輪をしている方の手を翳した。
ミラの掌が放電し、直後電撃を帯びた光球が蟹の魔物に向けて直進する。
速度はかなりのもので、撃ったかと思えばすぐに着弾した。
バチバチ! という放電音。蟹の動きが一瞬ではあるが明らかに止まった。
これは狙い通り、効果があったようだな。あの鮫もそうだが、水中の魔物や水場近くを縄張りにしている魔物は雷系に弱いのかもしれない。
「あれ? 何あれ?」
俺がそんな事を考えていると、ミラから怪訝そうな声。よく見てみると、蟹の口から細かい泡がブクブクと吐き出され、しかもそれが蟹の甲羅を覆い、顔までも隠した。
鋏も含めて泡だらけだが――これに何の意味があるかはわからない。
「う~ん、どうしよう」
『とりあえず何もしないと進展しないしな。一発魔法を撃ってみて反応を見てみよう』
俺の回答にミラが首肯し、そしてスパークボルトを一発蟹の魔物に向けて放つ。
泡の中に吸い込まれるように雷の球が命中するが――さっきと異なり、しびれている様子などがない。
ただ、纏っている泡の三分の一程が弾け飛んだぐらいだ。
しかも、攻撃をもらった直後に鋏を飛ばしてきた。ミラはなんとか身体を翻して躱すが、バランスを取るのに精一杯で、反撃には転じれない。
蟹の鋏は再び元に戻る。さて、今後だが、あの泡の性質を見極めないとな。
「う~ん、魔法が効かないなら直接攻撃しかないかな」
『……そうだな、でも慎重にな』
そして再び蟹の鋏が飛んできた。しかし今度はしっかり避けて一気に詰め寄る。
「いくよ! 燕返し!」
は? いや、ちょっと待ていきなり大技は! て、もう遅いか。発動したことでミラの一撃目が蟹に命中。
だが、やはりダメージは通らず、ただ、泡が更に三分の一程減った。
しかし、返しの一撃が届く直前、蟹の放った鋏の一撃が唸りを上げてミラに迫る。
「しまっ――」
ミラも自分の迂闊さに気がついたのだろう。蟹の反撃はモロにカウンターでミラに直撃。
鎧で守られている胴体部分ではあったが、それでも派手に後方へと吹っ飛んだ。
とんでもない速度で景色が流れていき、更にミラのボディが地面に跳ね、一回バウンドして水の中に落ちた。
「プハっ!」
俺も、一瞬冷やりとした気分を味わったが、どうやらダメージは受けたものの、まだ十分に動けるぐらいの力は残っているようだな。
水面から顔を出し、水を吐き出して口を拭い、改めて足場によじ登る。
『ミラ、ダメージは大丈夫そうか?』
「うん、それなりに受けたけど、まだまだ全然だよ」
無理を、しているわけではなさそうか。でも、それなりって事は当然ノーダメージってわけにはいかないわけで、あまり蓄積されるのは良くないな。
『ミラ、あの泡がある間は相手は攻撃を受け付けないようだ。怯むこともないから接近戦は危険だぞ』
「う~ん、でもそれならどうしたらいいかな?」
『大丈夫だ、俺に考えがある――』
そして俺はミラに自分の考えを述べたわけだが――
密かに……ネット小説大賞(旧なろコン)の一次を通過できてました。
もうすぐ二次の発表もあるようなので応援頂けますと嬉しく思いますm(_ _)m




