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迷宮で目覚めたら、何故か進化の剣だった  作者: 空地 大乃


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第五十八話 食いしん坊

更新再開です!

「え、え~と……」


 ミラが戸惑っている。でもその気持もわかる。俺達は鱶鰭の採取も終わり、先ずは魔法具師のマージュの元を訪ねたわけだが、ごめんなさい、と一言念で告げた後、突然ミラを引き寄せギュッとしていたからだ。


 なんだこれ? もしかしてミラに、そ、そういう気持ちになったとか? でもなんかちょっと雰囲気が違うというか、う~ん、わからん。


 ただ、ミラも戸惑ってはいるけど抵抗はしないな。そのまま受け入れている。でも、不思議とやらしい感じはしないんだよな。


『……と、突然、す、すみません……』


 10秒ぐらい抱きしめた後、すっと離れてマージュが頭を下げる。う~ん、気のせいか肩が震えてる?


「うん、こんなことでいいならいくらでも。でも、何かあった?」

『ああ、そうだな、俺も気になるところだ』


 ふたりで尋ねる。ちなみに俺はここにくるまでにミラと相談し念話のレベルを上げた。

 やっぱり対個人より、ある程度念でまとめて声が届くほうが便利なことも多そうだしな。


『……あ、いえ、特に何かあったというわけではないんです。た、ただ、ほら! ミラさん、可愛いから!』


 え? とミラが目をまん丸くさせる。あれ? 何か妙な雰囲気になったぞ? なんだなんだ?


「え、え~と、え~と」


 そしてあたふたし始めるミラ。そりゃ見た目にはこのマージュはかなりのものだからな~戸惑うのも判るか。


『あ! ち、違うんです! なんというか、他意は、な、ないんです! ご、ごめんなさい!』


 結局ペコペコと激しく謝られ、ミラも逆に申し訳ないって様子で彼女を宥めた。


 でも、流石にこれ以上聞くのもな、藪蛇な可能性もあるし、話を戻して、素材の買い取りをお願いする。


 尻尾は1本40マナだから、6本売って240マナになった。悪くはないな。


 そして雑談をしつつMPを回復させ店を出る。

 帰り際、またきてくれますよね? なんて念で確認された。


 話をしている時も今回はほぼマージュが聞き役にてっしてたし、やっぱちょっと変じゃないかな? と思ったりもしたけど、人には踏み込んじゃ行けない領域ってのもあるしな。


 ミラもそれを理解しているのか、勿論だよ友達だもの、とだけ返していた。勿論いつものように屈託のない笑顔でな。

 

 するとマージュも安堵したようで、ちょっとは落ち着いたように思えた。

 これならもう大丈夫かな? どっちにしろアロマの店とドゴンの店に行った後は、また来ることになりそうだしな。


 そんなわけでマージェと一旦別れ、再び水の中へ。今度は例の梯子を伝って上へ、つまりその足で薬師の店に向かったわけだが。


「おお! 来たね来たね! これだよこれ!」

「フカヒレなの! バンザイなの~!」


 このふたりはなんの代わり映えもしない、つまりいつもどおりだった。

 唯一違ったというか呆れたのは、ミラが店に入った途端にアロマが出てきて、フカヒレかい! と喜んでたことだ。


 どんだけ食い意地張ってるんだか……。


「それじゃあ約束だしね、フカヒレは今回に限り10枚で600マナ、あとは肝が1つにつき20マナで200マナ、エイヒレが20マナの7枚で140マナ、合計で940マナさね」


 結構な金額になったな。これなら借りてた腕輪も引き取れそうだ。


「ふふっ、楽しみさねぇ。久しぶりのフカヒレさね、これは特別にフカヒレ尽くしさね」

「わ~いなの! お婆ちゃんのフカヒレ料理最高なの!」

「そ、そんなに美味しいの?」


 じゅるりとよだれを拭うミラ。これこれちょっと行儀が悪いぞ。


「うん? なんだい、フカヒレ料理に興味があるのかい?」

「それはもう!」


 食い物のことになると遠慮がないなミラ。


「仕方ないねぇ~だったら後で食べに来るかい?」

「それはいいなの! 料理は皆のほうが美味しいなの!」

「え? でも本当にいいのですか?」

 

 そういいつつも前のめりでご相伴に預かる気満々だな。ここで嘘だと言われでもしたら卒倒しそうだぞ。


「ひとりぐらい増えても一緒さね。ただすぐには出来ないよ」


 うん、婆ちゃんそれはミラの胃袋を舐めすぎた。結構食うし。

 とは言え、すぐじゃないなら。


『だったら、もう一つの素材売ってからまた来たらどうだ?』

「あ! うん、そうだね」

「うん? なんだい念話のレベルが上がったのかい」

『ああ、これで近くにいれば聞こえるだろ?』

「聞こえたなの! テラピーにも聞こえたなの!」


 うん、機能しているようでよかった。ちなみに切り替えが可能だから、これまで通りひとりにだけ念を送るという手も使える。


「それじゃあ! 後で絶対に顔を出しますので」

「はい、判ったよ。それまでには作っておくとするさね」

「お待ちしてるなの!」


 そんなわけでふたりに見送られてミラは店を後にした。その顔はなんとも締まらないけどな。本当、フカヒレ料理が楽しみなんだろうな。





「おお、確かに鮫皮だな、助かるぜ。それじゃあ、ほれ10枚分で300マナだ」

「ありがとうございます」

 

 アロマとテラピーの店を出た後は、予定通りドゴンの店に顔を出した。勿論鮫皮を買い取ってもらうためにな。


「それで、修理はどうする?」

『俺の方は大丈夫だ、今回はそんなに耐久値も減ってないしな』


 何せ魔法がメインの戦いだったからな。水の中じゃあまり剣も振らないし。


「そうか、じゃあ飯でも食って休んでいくがいいさ」

「え? あ、いえ、今日は食事は」

「あん? まだそんな遠慮してるのか。どうせ余りもんなんだから――」

『いや、そうじゃないんだよ。今日はミラには先約があるんだ』

「先約、だと?」

「あ、はい、実は――」


 ミラがフカヒレのことをドゴンに説明した。別に馬鹿正直にフカヒレのことまで話さなくてもいいのになぁ。


「……そうか、そうだな。そりゃフカヒレの方が旨そうだしな……」


 ズーン! てめちゃめちゃ落ち込んでるよ! いやいや何でだよ! 余りもんじゃないのかよ!


「あ、あの……」

「どうした? フカヒレを食べに行くんだろ? 料理が冷めるぞ?」

「あ、まだ多分出来て……」

「…………」


 絡みづれーよ! なんだよこのドワーフ、なんで背中丸めてそんなに黄昏感出してるんだよ! どんだけ料理振る舞いたかったんだ!


「ぼ、ぼく食べます! 頂きます」

「あん? 別に無理しなくてもいいんだぜ? これから旨いフカヒレ料理がたっぷり」

「いえ、僕、ドゴンさんの美味しい手料理が食べたいんです! 本当です!」

「……そうか! そうかそうか、全く仕方のないやつだな。待ってろ、すぐ用意してやる。全く、余り物だからな、食わなかったら無駄にするだけだからな」


 ……単純だなおい。それにしても――


『ミラ、大丈夫なのか? この後フカヒレもあるんだぞ?』

「うん、大丈夫だよ。こうみえて結構ぼく食べる方だし」


 うん、まあ、それはなんとなく判っていたけどな。

 で、結局ミラはドゴンの用意してくれた料理を全て平らげてしまった。ドゴンは随分と嬉しそうだったけど、全く一体どこに入ってるんだか……。

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