第五十一話 ドゴンとの再会
「あ! 店開いてたよエッジ~」
ドアを開けて、店の中に入るなり、随分と嬉しそうな声でミラが叫んだ。
いや、まあ気持ちは判らんでもないけどな、ちょっと喜びすぎじゃなかろうか? と、思わなくもないな。
「なんだよやかましいぜ全く」
すると、店の奥からドゴンが姿を見せ、よかった~とやっぱりミラが喜んでみせた。
まあ、これに関しては何事もなくて確かに良かったけどな。
一回ぐらい店が閉まってたぐらいで、そもそも大げさな気がするが。
それに、今にも抱きつきそうな勢いなミラにドゴンも戸惑ってる風に見えるな。そりゃそうか。
「おいおい、一体なんだってんだ。全く何をそんなに騒いでんだよ」
「だって! もしドゴンが倒れたりしてたらどうしようって、心配だったし!」
「なんだそれ? 縁起でもねぇこと言ってんじゃねぇよ」
ムスッとした顔でドゴンが言う。まあ、いきなりそんなこと言われても意味わからないだろうしな。
『実はこないだミラと覗きにきたんだけどな、そのときに扉が閉まってたから、それでミラも心配してたってわけよ』
「うん? あ、ああ、なんだその事か」
「そうだよ。突然閉まってるからびっくりしちゃって、何かあったの?」
「……別に何もねぇよ。俺だってたまには休むしな」
うん? 今何か言葉を濁していたような――気のせいか?
ふ~む、それはそうと、今日はまた随分と汗をかいてるな。後ろの作業場でも火を入れているようだし。
『もしかして何か作業中だったのか?』
「うん? あ、ああ、ちょっと仕事が入ってな。その作業していたところだ」
『……仕事ってことは他に客がいたのか? この店に?』
「あったりめぇだ! 失礼なこと言ってんじゃねぇぞ!」
切れられたが。いや、まあ確かに客がミラだけだとやってられないと思うけどさ。
「と、いうことは僕以外にも、誰かいるってことなのかな?」
ミラが小首を傾げる。そう、そういうことなんだよ。もし他に客がいるなら、この迷宮にはミラ以外にも似たようなのがいるってことになると思うんだが。
「……それに関してはノーコメントだ。こっちも客に関しては守秘義務があるからな。お前たちの事も誰かに喋ることはないが、他の客の事も喋らねぇ」
口を一文字に結んで、絶対に言わん! というオーラが漂ってるな。
まあ、そこまで無理して聞きたいわけじゃないからいいだろうけど。
「――それにしても、そっちこそまた来たってことは、無事ゴブリンロードを倒したってことか」
「あ、はい! それについては助かりました! 譲ってくれたダーツボムが凄く役立ったので」
『あ~確かにそうだな。あれがなかったら正直ミラもやばかったかもしれないし、感謝してるよ』
「ふん! 別に余り物を譲っただけだ! 大したもんじゃねぇよ!」
そういいつつ、ちょっと嬉しそうなんだよなぁこのドワーフ。
「それで、今日は――ま、なんとなくわかるけどな。装備品の手入れか?」
ミラの格好を見ながらドゴンが言う。俺はともかく、防具なんかは、ゴブリンロード戦もそうだけど、妙なゴブリンや水の中での戦闘なんかもあって結構傷んでしまってるからな。
「はい、あ、それに剣も。えへへっ、エッジもかなりパワーアップしたんですよ?」
俺を抜いて、カウンターに置く。ミラがどこか誇らしげに語ってくれて俺も照れくさくなっちまうな。
「ふん、それはみてすぐ判ったがな。それにしてもバスタードソードか――思い切ったな」
俺とミラを交互にみやり目を細める。ミラの体型を考慮しての発言だろうな。確かに小柄なミラには扱いにくそうにも見える形状だが。
『俺も最初は心配したんだけどな。でも、これで結構使いこなせるようになってるんだよ。水の中にいたアクアシャークって鮫も相手したしな』
「アクアシャーク? そうか、水門の向こう側へ行けたんだな」
ドゴンが頷きながら言う。どこか感心しているように目を細めたな。まあ、あれは中々厄介な相手だったけど、ドゴンもよく知っているようだ。
「ただ、今のままじゃやっぱり厳しくて、それでアロマさんに助言頂いて、魔法具師の店に行こうと思ってるんです」
「アロマにもあったのか。まあ、ゴブリンロードのいた場所から近いしな」
『ああ、そういえば少しあんたにも雰囲気似てたな』
「ばかいえ! 俺はあんなに偏屈じゃねぇよ!」
ミラが苦笑してるな。う~ん、意外と自分のことってのはわからないもんなんだな。
「で? なんでそこで魔法具の話になるんだ?」
『ああ、実はミラがアクアシャークの素材、というよりは食材としてフカヒレの採取頼まれてな。それを倒すのに剣だけじゃ厳しいって話になったんだよ。水中じゃ息も続かないしな』
「なるほど、そういうことか。確かに水中戦だと剣も振り回せねぇし、息も続かないな。魔導具師の店に行くってことは魔法が使える何かが欲しいってところか」
「はい、その通りですけど、凄く察しがいいですね」
にこにことした笑顔を見せるミラだ。それを見てやっぱ照れくさそうにしてるなこの親父。
「ま、魔法具師はあんま好かないが、それなら仕方ないだろう。だが、アクアシャークか……それなら、皮も剥ぎ取ってくればうちでも買い取るぞ。1枚30マナでな」
おっと、ダッシュリザードの倍ってことか。
「助かります! それならアクアシャークを狩った後は納品しにきますね」
「ああ、頼んだ」
『でも、鮫の皮なんかも素材になるんだな』
「滑り止めなんかに役立つしな。まあメインというよりは補助的な素材ってところだが」
なるほどな、どんなものにも使いみちってのはあるもんだ。
「それで、後は修復だったな」
『あ! そうだ、ちょっと待ってくれ!』
俺は一旦待ったを掛けてミラにスキルについて尋ねる。もし耐久度上昇を取るなら、直す前に取っておいた方がいいかもだしな。
「うん! それなら先ずは耐久度だね。エッジが壊れちゃったらどうしようもないし!」
で、これがミラの回答。
と、いうわけで俺は進化PT120を消費して耐久度上昇LV1を取得。
耐久値は85から94まで上昇した。結構上がったな。中々馬鹿に出来ないものだ。
「もういいのか? それじゃあ、こいつと、防具一式でそうだな、180マナでいい。ダッシュリザードの皮が12枚分あるしな、相殺でいいか?」
「あ、はい。それでいいです、お願いします」
素材として持ってきたダッシュリザードの皮で、マナの支払いは発生しなかったな。
「量もあるし、少し時間が掛かるからな、これ敷いて寝てろ。これも塗っとけよ。あとこれでも食ってろ」
で、やはりいつも通り、色々世話してくれた。凄いありがたいけどな。
「本当にいつもありがとうございます」
「か、勘違いしてんじゃねぇぞ! これは余りもんだし、ただ黙って待ってもらっても落ち着かないからやってるだけだ!」
相変わらず素直じゃないドワーフだ。でもミラも慣れたみたいでクスクスと笑顔をみせているな。
「……ところでお前、誰かの恨みを買った覚えはあるか?」
そんなドゴンだが、奥に引っ込む直前そんな事をミラに聞いていた。
なんだ? 恨み?
「え? いや、別にないと思うけど、どうしてですか?」
「……いや、なんでもねぇよ。気にすんな」
結局それだけ言ってドゴンは奥に引っ込んだ。俺を持ってな。
それにしても、なんだってそんな質問したんだ?




