第五話 シンクロナイズ
所有者が固定される――アナウンスではそんな事を言っているな。
だが、それの意味はどう捉えればいいのか?
いや、普通に考えれば持ち主がこのミラになるって話だろうが、じゃあ例えばあまり考えたくはないが、彼の命が失われたり、捨てられたりした場合はどうなってしまうのか?
『所有者固定についてもう少し詳しく教えてほしいのだが?』
――その項目を参照するにはレベルが足りません。
くっ! やっぱりか。
そうなると俺の選べるもう一つの選択肢として、ガイドのレベルを増やすという手もあるが……しかしそれだとシンクロナイズは選べないしな……
ならミラに相談するか?
いや、でも彼は俺に任せると言ってくれた。なのにしつこく聞くのもな……
……よし! 決めた! やはりここはシンクロナイズだ!
根拠は、特にないが迷った時は進むべし! とそんな気持ちになったのさ。
つまり迷ってるシンクロナイズは俺にとって必要のあるものだ!
というか、こういうのはわりとはっきりしてるな俺……まぁいいや。
『構わない! それでシンクロナイズを選ぶ!』
――承認しました。パッシブスキル【シンクロナイズ】の取得には進化PTが100必要です。宜しいですか?
【現在の進化PT:102】
2しか残らないけど――オッケーだ!
――パッシブスキル【シンクロナイズ】を取得しました。ステータス欄に追加いたします。
――パッシブスキル【シンクロナイズ】を取得したことで称号【異世界パートナー】がアンロックされました。ステータス欄に追加いたします。
――現在称号が付加されておりません。称号【異世界パートナー】を付加致しますか?
へ? 称号? そういえばステータス欄にそんなのがあった気がするな……
う~んとりあえずないよりいいだろうし。
『判った付加してくれ』
――称号【異世界パートナー】を付加致しました。
……終わりか? 何か変わったのだろうか?
「やぁ!」
て、そうか戦いはまだ続いてるんだったな。
取り敢えずミラが俺を振って棍棒持ってるゴブリンの腕を斬り飛ばした。
おお、切れ味は結構いいみたいだな、て!
なんか判る! ミラの動きが手に取るように……それに視界がさっきまでと違ってグラグラしない。
そして、なんか変な感じだ。剣としての俺の認識と、多分これ、ミラの視界が一緒になってる。
あ~そうか、これがシンクロナイズの効果なのか。
でもそうなるとミラはどうなってるのか?
『ミラ! シンクロナイズを入手したんだが、何か変化は感じるか? 例えば視界とか?』
「視界? いや、そこは特には……ただ少し身体が軽くなった気はするかも――」
なるほど視界に関しては俺のみの特権みたいだな。
ただ、話を聞く分にはシンクロナイズによって、ミラの能力に何かしら変化があったのかもしれない。
で、シンクロナイズの効果としてもう一つ判ったのは、ミラのステータスが少し判るようになった事か……
ただそうはいってもな……
──────────
ステータス
名前:ミラ
レベル:4
──────────
判るのはこれだけなんだよな……やっぱここが詳細に判るのはスキルレベルを上げてからってことになるのか。
この辺の詳細は後からすり合わせればいいか。
まぁそんなわけで俺は一旦、ミラの戦いに意識を集中させる。
それにしても……本当に形勢逆転って感じだな。
仲間が一体倒された事で、ゴブリンは完全に萎縮してしまっているし、棍棒持ちも左腕を失って脂汗がダラダラだ。
『これはもう勝負は決まったようなものかもな』
「……エッジのおかげで随分楽になったよ。でも、油断は禁物」
この子、中々生真面目な性格みたいだな。
でもまぁ、みたところ元々身体能力は高かったし、装備が悪かっただけだしな。
防具が心許ないのは相変わらずだけど、剣は確実に性能が上がってる。
おまけにスキル効果でステータスに変化があったなら、ここは――
そんな事を考えてたら、槍持ちゴブリンが穂先を押し込みミラのへその辺りを狙って来た。
胸当ては腹部の辺りは守ってはくれないからな。
だからそこを狙いたくなるのはよく判る。
しかし、こいつの持つ槍は石製で刃のない先が尖っているだけのタイプ。
当然選択肢は突きしかなく、攻撃の幅は狭い。
つまり単発での攻撃なら読みやすい。
棍棒持ちも二メートルは離れた位置にいるし連携もないだろう。
案の定、ミラはあっさりとその突きを躱し、更にしっかり棍棒持ちのいる方とは逆側に移動した。
そして直ぐ様床を踏み、まるで脚にバネでも仕込んでるかの如く勢いでゴブリンの脇に飛び込み、そしてロングソードを撫でるように振った。
斬首――淀みない一撃はゴブリンの急所を見事に斬り裂き、緑色の薄汚れた液体がだらし無く吹き溢れた。
鮮血を浴びたおかげでいい男も台無しだな。ただ血はけはいいのか、刃についた緑色のそれはミラが剣で血振るいすることで大方飛散したけどな。
――進化PTを2得ました。
――経験値を22得ました。
ん? て、経験値?
さっきは進化PTしか貰えなかったのに、今度はなんで経験値なんて入ったんだろうか?
大体俺はレベルじゃないから経験値が入っても意味が無い気がするんだが――
「グギィ!」
残ったゴブリンが、やぶれかぶれといった様子で、棍棒片手にまたミラに飛び掛ってきやがった。
でもそんなもの通じるわけもなく、ミラはスッとそれを避け、一突きのもとにゴブリンの背中を貫いた。
ゴブリンは死んだ。
――進化PTを2得ました。
――経験値を22得ました。
う~ん、また経験値か。
……でも待てよ、もしかして経験値って――うん、取り敢えず戦闘も終わったし、色々摺合せしておくとしようか。
◇◆◇
「おかげで助かったよ。ありがとう」
『いや、まぁ別に大したことじゃないさ』
ゴブリンも退治し、とりあえず台座の上に俺を置き、ミラは近くに腰を下ろした状態で言葉を交わす。
お礼を述べられたりもしたが、寧ろ助かったのは俺の方だけどな。あのままじゃ動くこともできなかったし。
それにミラに使ってもらわないと俺は戦うことすらままならない。
「でも……あそこで声を掛けてくれなかったら僕は助からなかったわけだしね」
『それは俺も一緒さ。ミラに抜いてもらえなかったらあのまま折れて死んでたかもしれない』
剣なのに死ぬってのもおかしな話だけどな。
『だからまあ、お互い様って事で。ただ、せっかくこういう関係になれたのだから、色々話は聞いておきたいけどいいかな?』
「……どんな事?」
て、あれ? なんか今少し戸惑いが感じられたような。何か問題があったかな?
『いや、先に断ってはおいたけど、新しいスキルも覚えたしその辺の事も知ってる限りで話しておきたいし、どんな変化があったかも知りたいと思ってね』
「あぁ、なんだそんな事か」
どこかほっとしたような雰囲気。
ふむ、訊かれたら嫌なことでもあるのだろうか。
まぁ実際気になる事は他にもあるんだけどな。シンクロナイズを覚えたことで判った事もあるし。
ただ、やはり今は先にスキルの事を伝えていた方がいいと思い、ミラに俺の所有者として固定されたことを告げる。
「うん、それは問題ないよ。僕が任せるっていったんだし。でも固定化ってどういう事なんだろうね?」
『それは俺も声の主に確認してみたんだが、どうも今の俺の力じゃまだそこまで教えてくれないみたいなんだ』
俺が答えると、ふ~ん、とどことなく不思議そうな目で唸る。
『何かあったか?』
「いや、大した事じゃないんだけど、声なんて聞こえるんだなって思って」
ん?
『ミラには声が聞こえないのか?』
俺の問いに肩をすくめて応えてくれた。
ふむ、てっきり常識的なことなのかと思ったらそうでもないのか。
『しかしレベルとかはあるだろ? レベルアップの時なんかに声が聞こえてくる事はないのか?』
「ないかな。そういう時はなんとなく身体が熱くなって判るし、とりあえずステータスを確認すれば判るしね」
身体が熱くなるか。剣の俺だとそういうのはないからその代わりにこの声なのだろうか?
『スキルという概念はあるんだよな?』
「スキルや魔法はあるよ」
『うむ、後は称号なんかもそうだな。俺もさっき覚えたばかりだが』
「……称号――うん、そうだね」
……なんかここでもなんか反応が芳しくない気もするな。
『スキルや魔法は覚えると俺の場合声が聞こえてくるんだが、これもそっちは違うのか?』
「うん、その場合はなんか頭に閃くようなそんな感じらしいね」
結構違うもんだな。
と、なんかふと俺の方をじ~っと見つめてきたな。
視界は共有できてるからなんか変な気持ちだが――て、あれ? くすくすと笑い出した。
……結構可愛いな。て、何言ってるんだ俺は! そ、そっちの気はないんだぞ!
「君って変わってるよね。進化の剣って何か凄そうなのに、まるでこの世界の事をよく知らないみたい」
あ~……そういう事か。確かに剣としては大層な、て、あれ?
『何故進化の剣だと判ったのだ? まだ話してないと思ったが』
「あぁ、なんかさっき頭の中に情報が流れてきたんだよね。だから進化の剣って事と今がロングソードだって事はわかるかな。それだけだけどね」
『あ~なるほど。俺もミラの情報が少し流れてきたからな。これもシンクロナイズの影響なのだろう』
俺がそう話すと、ミラの肩がピクリと揺れた。
「……判ったってどれくらい?」
『ん? ミラという名前とレベルぐらいだけどな』
そ、そっか、と安堵の表情。
なんかちょいちょい反応が気になるなこの子……。




