第四十四話 開かない扉
「全くポン、とんでもない目にあったポン」
ゴブリンロードのいた場所に戻ると、ボックルがなんかいた。そしてミラに気がつくとポンポンいいながら俺たちに近づいてくる。
『丁度よかった、使えそうなものがあれば買い取ってくれよ』
なので折角だからこのボックルに回収しきれないものの買い取りを頼んで見る。それは例えばゴブリンロードの持っていた大剣や鎧、あとはホブゴブリンの使っていた装備品なんかもな。
「この中で買い取れそうなのはこれぐらいポン。本当は自分で持っていって欲しいポン。でもどうしてもというなら運搬料は差し引くポン。それにさっき協力した分も貰うポン」
俺が目をつけた、ゴブリンロードの装備やホブゴブリンの装備を案の定ボックルが選ぶ。
それにしてもな……。
『ちゃっかりしてるな。でも運搬料はともかく、協力したのは自分の為でもあるんだからいいだろ』
「いやポン。あんな怖い目にあわされて割に合わないポン。もう少しで操が危なかったポン!」
なんか思い出したようにぷんぷんと、いや、この場合ポンポンか? とにかく怒り出したな。
操って一体何があったんだか、考えたくもないけど。
「あはっ、仕方ないね。それなら差し引いていくらになるかな?」
「そうポンね、それなら220マナで買うポン」
び、微妙だな――正直どのぐらいの価値とかわからないけど、ゴブリンロードの剣だけでもそれ以上しそうに思えるし。
「うん、判ったよそれでお願い」
でも、ミラはあっさりと承諾してしまった。もうここでぶちぶち文句いってもな。ミラも、どうせこのまま置いてくつもりだったしね、と俺に耳打ちするように呟いたし、そう言われれば何もないよりはいいか。
「でも、ゴブリンロードがいなくなったことは嬉しいポン。その事は素直に感謝するポン」
そういってペコリと頭を下げる。まあ、ボックルもここに居座られると薬が仕入れられないって言ってたしな。
『ところでボックル、俺たちに会うまでに妙なゴブリンは見なかったか?』
「妙なゴブリンポン?」
俺の質問に小首を傾げるボックルだ。この様子だと知らなそうでもあるけどな――
「う~ん、覚えがないポン。普通のゴブリンとそれは何か違うポン?」
「うん、凄くすばしっこくて普通のゴブリンよりも色が濃いんだ。あと、身体の線も細くてね。そんなゴブリンなんだけど」
「ますます判らないポン。少なくともゴブリンが急に同士討ちを始めるまでは、おいらはそのゴブリンのことで手一杯だったポン」
どこか拗ねるように言う。ゴブリンに追いかけられたのがよっぽど嫌だったんだな。
「うん、その件はごめんね。でも本当に助かったよ」
「……ま、まあそれはいいポン。それより判ったポン。その変わったゴブリンを見つけたら教えるポン」
「本当? ありがとうね」
にっこりと微笑んでミラがボックルの頭を撫でる。
よ、寄せポン! なんていいながら尻尾をふりふりしてるな。嫌がってるようでも嬉しいのがバレバレだ。
「それじゃあ、ここの使えそうなのはおいらが引き取っておくポン」
話も一旦落ち着き、ミラはボックルから約束の220マナを受け取りその場を後にした。
そして元きた道を引き返していく。ゴブリンがすっかりいなくなったことでイビルバットがまた飛び回っていたな。
でも今のミラには全く相手にならず、数匹をまとめて斬り殺す。
だけど――経験値は入らなかった。進化PTもだ。熟練度も全く上がらないしな。俺が進化した影響だろうか? しかしこうなるともう魔晶ぐらいしか手に入るのがないな。
飛膜と爪をどうしようかという話でもあるけど、正直場所をとるからな。なので魔晶だけ採りながら進む。だけどイビルバットも実力差を察したのか、10匹も倒すともうミラに攻撃を仕掛けてくることはなくなった。
敵わないと肌で感じたんだろうな。そんなわけでドゴンの店にはわりとあっさりたどり着くことが出来た。
なのでゴブリンロードを倒した事を報告しようかと思ったのだけど――
「……あれ? 開かないや?」
ミラが取っ手に手を掛け押したり引いたりしてみるが、どうも鍵が掛かっているのかびくともしないようだ。
「ドゴン、いないのですか~?」
ミラがノックしながら呼びかけてみるが反応もないな。
う~ん、なんだろな?
「駄目だ、いないみたいだね……どうしよう?」
『どうしようといってもな。開いてないのは仕方ないだろ。とりあえずまた今度にしてあの水の溜まってる場所に向かうしかないかな』
「う~ん、でもちょっと気になるけど、倒れてたりしないよね?」
『いや、倒れていたら逆に鍵なんて掛けないだろう。まあ気になるのも判るけど今はどうしようもないしな。とにかくまた後で来てみるしかないんじゃないか?』
俺がそう答えると、うんそうだね――と、心配そうにしながらも先に向かうことを決心してくれたようだ。
あのドゴンのことだし、そんな心配になるようなことにはなってないと思うけどな。まあ、とりあえず後でまた来てみるしかないだろう。
さて、ミラは俺を背負い、件の水門が閉じてた場所へ向かう。
途中、案の定ブラックウィドウやダッシュリザードが襲ってきたけど、最初の苦労は何だったんだ? と思えるほど危なげなく倒すことが出来た。
ちなみにこの敵からは一応経験値と進化PTがもらえた。ただ、ブラックウィドウで1ずつ。
ダッシュリザードで経験値3の進化PT1に熟練度は1だけプラスされた。
う~んしょぼい。そして例の水の溜まってる場所の手前ではツインリザードヘッドがまた復活していた。今回は1匹だけだったけどな。後はダッシュリザードだ。
相変わらず遠くからツインリザードヘッドが魔法を撃ち、ダッシュリザードが突っ込んでくるって戦法だったけど、対応策の出来上がったミラには通じず。
おまけに俺に土属性がついていることもあって、飛んでくる石礫を見事俺を振って弾き返してしまった。
で、ダッシュリザード3匹をあっさりと両断し、そこから相手の魔法を避けたり剣で弾いたりしながら近づいていき――ふたつの首をまとめて切り飛ばした。
――進化PTを4得ました。
――経験値を32得ました。
お、どうやらツインリザードヘッドはまだそれなりに経験値や進化PTくれるみたいだな。熟練度も上がるし。
で、後はこいつらからも魔晶を取り、皮を剥ぎそしてツインリザードヘッドからは土の結晶も忘れない。
ただ――
『なあミラ、皮を剥いで持ってきてるけど、よく考えたらこれを持ったまま先に進むのはちょっと厳しいかもしれないぞ』
何せ邪魔だ。紐で括って肩に背負っているけど、それなりの重量もあるしな。今まではまだ敵がどんな相手か判っていたからいいけど、流石にここから先はそんな悠長なことも言っていられない。
それに水門が開いたとはいえ、水が完全になくなってるとも思えない。そう考えるとやはり出来るだけ荷物は減らしたいところだろうからな。
「うん、判ってるよ。だからちょっといい方法を思いついてね」
『いい方法?』
「そうそう」
にひひっと笑みを浮かべてミラは目的地ではなく、空洞の奥へと向かった。
確かその先は――
「こうやって、一旦ここにしまっておいて。よし! これで大丈夫でしょ?」
『……なるほどね。考えたなミラ』
ミラがダッシュリザードの皮をしまったのは、あの宝箱だ。すっかり空になった宝箱だけど、一旦保管して置くための場所としては使えると思ったわけだ。勿論鍵はもう開いてしまっているけど、この中を見るのなんてそうはいないだろうしな。
ボックルも一度開いている以上、もう興味はないだろうし。
「さ、これで荷物の心配もなくなったし、いくとしようか」
『ああ、そうだな』
さて、あの場所はどうなってるか。そしてあの先には何があるか――




