表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮で目覚めたら、何故か進化の剣だった  作者: 空地 大乃


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/79

第三十七話 人と剣の信頼関係

 ミラは弱毒の影響で少しずつHPが減ってきている。ゴブリンは全て死亡、ホブゴブリンにしても1体だけ虫の息なのが残っていたが、それもゴブリンロードを相手にしつつ、ミラがとどめを刺したのでいよいよこれでゴブリンの指揮官と一対一の対決を残すのみとなった。


 そして、だからこそ、俺は悩む。進化のタイミングを。条件は整っていた。熟練度もMAXであり、神秘の泉の水も俺に掛ける1回分はミラが残している。


 ただ、懸念はある。ミラはこれまでずっとこのロングソードで戦い続けてきた。だから、当然戦いも今の俺での戦闘に慣れているはずだ。


 しかし進化となると一体どんな形に変化するのかが読めない。一応俺の予想では前回と同じく何パターンかあるうちの一つを選ぶことになるとは思うのだが、戦闘中に悠長に選んでいる時間など取れるかという話でもある。


 それにそもそも進化したら性能はどうなるのか? ミラと違ってレベルなんかはない俺だが、その代わりにあるのが熟練度だ。しかし当然進化したならばまた熟練度は上げ直す必要がある可能性が高い。

 

 進化したてのまだ熟練度が上がっていない状態において、果たして今より性能がいいという保証はあるか?


 そういった懸念があり、俺は進化については二の足を踏んでいる状態でもある。


 それに、そもそも熟練度もMAXになってるわけだし、この状況で勝てるのであれば、無理して今進化しなくても、このゴブリンロードを倒した後にでもゆっくりと――


「クッ!?」


 と、思っていた事が俺にもありました。

 だけど、そこはやはりゴブリンロード、けっして甘い存在ではない。ミラは俺を使って相手の攻撃を避けながら剣戟を叩き込んでいくけど、鋼の防具が邪魔をして中々効果的なダメージに繋がっていない。


 一応関節部分なんかは相手の肉肌が露出しているから、そこはそこで狙って突きを入れたりもしているのだが、元の筋肉が頑強なのか、それも相手を怯ませるだけのダメージには繋がっていない。


「燕返し! 連撃!」


 ミラがスキルを連発する。合計4回の斬撃が次々とゴブリンロードの身に叩き込まえるが――そんなことお構いなしにゴブリンロードが豪剣を振り下ろしてきた。


 こいつ、どんだけ頑強なんだよ! ミラも思わず片目を瞑りながら半身を逸しその凶悪な一撃を避けてみせた。


 しかしその一振りから巻き起こる風圧が凄い。だけどミラは飛ばされないよう背中に芯でも入ってるかのごとく踏み耐えてみせ、まだまだっ! と更に隙だらけに見えた脇腹に燕返しから連撃への連続攻撃を叩き込もうとする。


 だが――燕返しから連撃への繋ぎの解れ。そう、スキルは確かに強力な攻撃だが万能ではない。燕返しはそれ自体は放った直後の隙も少ない技だが、そこから連撃に繋ぐとなると話は別。


 その動きにはどうしても無理が生じてしまい、燕返しから連撃に繋ぐ瞬間にどうしても動きが鈍り隙が生まれてしまう。


 そこを――ゴブリンロードは察していたのかその豪腕を振り回し強制的にスキルを中断させるばかりかカウンターとなる攻撃をヒットさせてしまった。


 ミラの身が弾かれたように地面とほぼ水平な状態で飛んでいく。そしてその先には――崖、そう崖だ。


『ミラ! まずいこのままじゃ落ちるぞ!』

「くっ!」


 ミラは俺を地面に突き刺し、なんとか勢いを殺そうと試みるが、予想以上にゴブリンロードの膂力が強く、地面を削りながらミラの身体が更に後ろに流されていく。


「あ――」


 そして――ガキンッ! という無情な響きと共にミラに訪れる浮遊感。折れこそしなかったが、俺の剣が地面から抜け、ミラの身が中空に投げ出される。

 

 しかしミラは腕を伸ばし既の所で崖っぷちを左手で掴み片手宙吊りの状態で耐え忍んだ。改めて眼下を眺める俺だが――どうやらここはゴブリンリーダとも戦った渓谷なようだ。


 しかし――この高さでは地面に叩きつけられたとても助からないだろう。

 

「ぐぅ、くっ――」


 ミラは俺を落とさないように、そして自分も落ちないようにと必死だ。当然、こんなところで俺もミラも死ぬわけにはいかない。


 だが――そこへミラを上から覗き込む無情な存在。ゴブリンロードがそびえ立つ。

 そして――


「あ、ああぁあああぁああぁああ!」


 ロードの巨大な足がミラの残った手を踏み砕いた。ゴリッ! と嫌な響き。そしてグリグリとその小さな手を踏み躙る。


 ミラの口から悲鳴が上がり続けた。ゴブリンロードはいたぶるのを楽しんでいるかのような醜悪な笑みを顔に貼り付けている。その様相に俺は怒りしか覚えないが、所詮剣の俺では助けになることは何も出来ない。


 だけど、このまま黙って指を咥えてみていろというのか? そんなのは嫌だ! なんとか、そう、俺が何か考えないと――視界を回す。剣の俺は視界が広い。ミラには見えていないものが俺には見えるはずだ。そこに何か突破口を――突破口、そうか!


『ミラ! 手を離せ!』

「え? でも……」


 逡巡するミラ。しかしゴブリンロードはいたぶるのにも飽きてきたのか、いよいよ大剣を振り上げ本格的にミラにトドメを刺す気だ。四の五の言っている場合ではない!


『ミラ! 俺を信じろ!』

「……うん、判った、僕、エッジを信じるよ!」


 ミラが頷き、そして――ガキィィイン! と何かを打ち付ける音。ゴブリンロードが振り下ろした刃、それが岩壁に叩きつけられたのだ。


 そう、つまり奴はミラを切る事ができなかった。なぜなら既の所でミラが崖を掴んでいた手を離したから――


 そして、当然だがミラの小さな身は遥か下に広がる硬い地面に向けて自由落下を始める。

 俺が見たところ下には多くのゴブリンの姿もある。ボックルが引き付けた集団だろう。


 このまま何もせず落ちたなら、ほぼ即死、例え運良く助かったとしてもかなりのダメージを受け、あのゴブリンの集団に蹂躙されることだろう。


 だが、それも何もしなければの話だ!


『今だミラ! 壁に俺を突き刺せ!』

 

 俺の念に反応し、ミラが右手で壁に俺を突き刺した。ズシャズシャズシャズシャーーーー! と刃が突き刺さった岩壁を切り刻みながらそれでも暫く落下を続けた。


 しかしその勢いも徐々に殺され――そしてピタリとミラの落下が止まった。


 なんとか崖の途中で俺がミラの身体を支えたのだ。おかげで俺の身体()はボロボロで耐久値も残り10を切ってるけどな!


 でも、これでいい。本来ならこんなところで止まっても、この後どうするのか? という話だが――


『よし、ミラ! 位置もばっちりだ! 横に見える穴に飛び込め!』

「え? 穴? あ!?」

 

 ミラも驚いたみたいだな。そうまさにミラが止まった位置のすぐ横に小さな穴が穿たれていた。そしてミラは振り子を振るように俺を支点に勢いをつけ、見事穴へと飛び込んでいく。


「ふぅ、ま、まさかこんなところに穴があいてるなんて……本当よくわかったよね」

『俺の視野は広いからな。でも、ゴブリンもいないようだな。だとしたら予想通りだ』

「え? ゴブリン?」


 ミラが不思議そうな顔を見せるがどうやら気がついていないようだな。


『ミラ、ここは俺とミラで初めて神秘の泉を目指した時に通った渓谷の穴だ。ゴブリンが次々に出てきたな』


 あ!? とミラもようやく気がついたのか驚いて声を上げる。ゴブリンが出てきた穴だからちょっと狭いのが欠点だが、この穴のおかげで助かったな。


「……そうかゴブリンの――でもゴブリンがいないね」

『それはそうだろう。上のゴブリンは大体ミラが片付けたからな』

「え? 上のゴブリンとこの穴が関係あるの?」

『勿論。この穴に飛び込ませたのもそれがあったからさ。上にも地面に似たような穴があいていたからな。つまりここから出てきたゴブリンはもともとはあのゴブリンロードがいた場所から送り込まれていた連中なんだよ』


 なるほどね、とミラが感心してくれた。


 ふぅ、それにしてもこれで一息つけるか。とにかくミラの状態も気になるところだしな。


『ミラ、毒は大丈夫か?』

「う、うん、なんとかね。それに毒ぐらいでへばってる場合じゃないし」


 若干顔色が悪い気もするんだけどな……でも、確かに今それを言ってもどうしようもないのも確かだ。


『ミラ、残りHPは?』

「40、かな……」


 40か、最大値が118だとして完全回復までは78必要だ。50%ポーションだと59回復できるからそれと10%回復のポーションでほぼ満タンまで持っていける。


 しかし、やはり50%は勿体無いだろう。代替え案としてはポーション(大)だけを残して残りを使うという方法だ。


 このあたりはミラとも要相談だけど、中途半端な回復は危険だ。ゴブリンロードは盾でガードしててもかなりのHPを持っていかれてしまった。おまけに毒の減少もあるからな。ホブゴブリンよりも攻撃力が高いであろうことを考えれば、もしまともに攻撃を喰らいでもしたら一気に100ぐらい持って行かれてもおかしくない。


『そういうわけだからミラ。俺としてはポーション(大)だけをとっておく形で進むのがいいと思う』

「うん……そうだね、そうすることにするよ」


 そしてミラはHP回復ポーションの(中)を2本、そして(小)の方も1本ゆっくりと飲み干していく。


 これでHPに関しては少し待っていれば回復するだろう。

 ただ、ここであまりのんびりしてもいられない。ゴブリンが新たに出現したらこの穴もまた通ってくるだろうしな。


 とにかく、いますべきことを急ぐべきだな。そう、もうこうなっては俺だって悠長なことはいっていられないのだから。


『ミラ、ここまできたら俺は次の進化を目指すべきだと思う。だから神秘の水を掛けてくれないか?』

「神秘の水……あ、そうかエッジ熟練度がMAXまであがったんだもんね」

『ああ、これで進化が出来るはずだ。本当は今の状態でいけるなら落ち着いてからとも思ったが、正直あのゴブリンロードはロングソードの状態じゃ厳しい気がする。ただ、ミラの気持ちもあるからこっちも無理強いは出来ないけどな。ロングソードに折角慣れてるところだろうし』


 俺が念でそこまで伝えると、ミラも指を顎に添え少し考えている様子。

 進化先に何が出てくるのか判らないけど、進化して形状も変化するようなことがあれば、結局なれない武器を扱うことになる。


 そのあたりが俺も懸念材料でもあるのだけど――


「……そうだね、うん、進化しようエッジ。このままだとゴブリンロードを相手するのが厳しいのも確かだしね」

『そうか、ただ進化先次第ではかなりかっての違う剣になってしまう可能性もあることは覚悟して置いて欲しい』

「大丈夫だよ。それにどんな剣でもエッジはエッジだしね」


 にひひっ、と笑ってみせるミラが心強く思えた。そうだ、ミラだって成長している、どんな形状になろうときっとすぐに使いこなしてくれるはずさ。


「それじゃあ、掛けるよ」

『おう! いつでもいいぜ!』


 ミラの手に握られた水筒から丁度1回分の水が降り注がれる。

 ひんやりとした冷水を俺の身に感じていると、例の声が俺の意識の中へと鳴り響く。



――神秘の泉の水を確認。全ての進化条件が達成されました。貴方は次の進化が可能です、進化致しますか?


 きたな――そして当然、オッケーだ!


――進化形態を選んで下さい


──────────

進化リスト


→カトラス

必要PT100

薄刃の曲刀。反りのある片刃の剣で、軽く、片手でも扱いやすい。



→ブロードソード 

必要PT100

幅広の長剣。ロングソードよりも頑丈な作り。バランスが良い。



→バスタードソード 

必要PT100

片手でも両手でも扱える片手半剣。リーチが長く頑丈で威力も高いが重量がある。



→レイピア

必要PT100

細身の長剣。軽く、刺突に特化した造りで護拳付き。



現在の形態:ロングソード

──────────


 ……分岐先がひとつ増えて4種類か、それにしても進化PTが必要になるなんてな。丁度100PT溜まってるから良かったけど、さてどうするかな――

いよいよ次の進化です。

※ブロードソードに関してはRPG的な形状を想定してます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ