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迷宮で目覚めたら、何故か進化の剣だった  作者: 空地 大乃


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第三十三話 対ゴブリン戦①

 ボックルの言っていた通り、階段の上った先には大きな門があった。天井が高いせいか上は空いている。ただ高さはかなりあるから昇るのは厳しいだろう。


 そして門を守るように見張りのゴブリンリーダーが立ちふさがる。勿論ゴブリンも一緒だけどな。


「やぁ!」


 気勢を上げてミラは群がるゴブリンを次々と切り伏せていく。油断はない、状況もよく見ている。例えワラワラと寄ってきても巧みな足捌きで常に移動できるスペースは確保し、囲まれないように戦場を移動し続ける。


 これにより、ゴブリンに関しては寄せ付けない、寄せ付けない、寄せ付けない! 俊敏さを活かすために片手持ちで外側に放るように俺を持ち、次々とゴブリンを撫で斬りにしていった。


 そんな最中、門を守るべくゴブリンリーダー2体が動きを見せる。

 ゴブリンと同様、リーダーもまた以前よりレベルは向上しているようであり、その動きも前見たときよりも機敏になっていた。

 

 2体のゴブリンリーダーはミラを挟むような位置取りをし、突きを主軸に上下に散らすように連発してくる。


 一撃一撃はダッシュリザードとの戦いを経験している今となってはそこまで重くはないが、その分を手数の多さで補ってくる。


 特に以前も見せた片手突きなんかは踏み込みの深さもあって見た目よりリーチが長く感じられ、慣れてなければついつい喰らってしまうような鋭い一撃だ。


 しかし――ミラはそれも完全に見きっていた。目の前のゴブリンリーダーによる踏み込みからの片手突き、しかしミラはそれを敢えてギリギリで避け、更に腕の戻る瞬間を狙って()を振り上げた。


 緑色の塊が上空を漂い、ゴブリンリーダーの絶叫がこだまする。

 ミラの斬撃が見事その腕を刎ねたからだ。武器を持った腕を失ったゴブリンリーダーは既に死んだも同然。

 

 だが――


『ミラ! 後ろだ!』


 そうゴブリンリーダーはもう1体いる。だが、ミラはどうやらそれも読んでいたのか俺が念を飛ばすのとその身を翻したのはほぼ同時。


 敵の突きを躱しつつ、その動きから脚を軸に反転し飛び込んできたゴブリンリーダーの背後を取る。ミラの正面には驚愕に目を見開くもう1体のゴブリンリーダーの姿。


 ミラが避けたことで完全に同士討ちとなり、片手を失った相手は仲間にトドメを刺される事となった。

 

 そして仲間を手に掛けたゴブリンリーダーは、すぐにミラによってその命を刈り取られる。


――進化PTを5得ました。


――経験値を43得ました。


――進化PTを5得ました。


――経験値を48得ました。


 おっと流石にリーダーは普通のゴブリンよりも経験値も進化PTも多いようだな。


 さて、これで門の前の敵も片付いた。ここまでは順調でミラも怪我が無いな。


『ミラ、門を開ける前に一度俺を高く放り投げてくれ』

「え? どうし、あ、そうか!」


 ミラも気がついたようだな。そう、この門をよじ登るのは流石にミラでも厳しそうだが、ただ俺を上に放るだけなら話は別。

 

 そしてミラが鞘に収まったままの俺を高く高く放り投げた。ほぼ一直線に浮き上がった俺は門の上まで上がり、そして門の向こう側の景色を確認する。


 こうすることで剣からの視界で敵の配置や戦力を知ることが出来るってわけだ。

 

 むぅ、見たところ門の内側で普通のゴブリンが数十体……中はかなり広めの空洞で視界はいいが、その分相手からも見つかりやすいな。ちょっと厄介なのはゴブリンの中に弓持ちが混ざってることか。これもやはりゴブリンロードの影響だろうか?


 門の向こう側は南に向かって細長い造りで、向かって右側が断崖になっていた。それで判ったが、どうやらこの位置は俺とミラが最初に出会った部屋から神秘の泉に向かうまでの渓谷に沿った場所に存在している。妙なのは向かって右側の断崖近くに何箇所か穴があることか。あれは一体なんだろうか? まあとにかくだ、その奥の方にはでかいゴブリンがいる――本当にゴブリンがそのまま肥えた感じのだな。もしかしたらあれがホブゴブリンなのかもしれない。それが3体、そして更に一際大きなゴブリンが1体。


 あれは、明らかに格が違うな。装備品からして鋼の大剣に鎧、そして兜まで被ってやがる。重量級の見た目にあの装備かよ……。


 ただ、あれらはどれも奥に控えている状態のため、門を抜けてすぐに出くわすってことはない。

 門を抜けてすぐ出てくるのは例のごとくゴブリンリーダーと他のゴブリンだな。


「おっと!」


 落ちた俺をミラが見事にキャッチしてくれた。俺は相棒に中の状況を事細かに伝えて上げる。


「そう、じゃあ門に入ってすぐ気をつけないといけないのは――」


 そこまで打ち合わせし、ミラは門をギリギリ自分が入れるぐらいまで開けた後、中へと侵入。

 

 門の左右にはさっきと同じようにゴブリンリーダーが控えている。なのでミラは入ってすぐに向かって右側のゴブリンリーダーを狙いに入る。


 リーダーの周囲にいるゴブリンを切り崩し、ぎょっとしているゴブリンリーダーの首を刎ねた。すぐさま振り返り、ミラに迫るゴブリンの槍攻撃を盾で捌きつつ接近、次々とその命を刈り取りつつ、飛びかかってきたゴブリンリーダーの攻撃を盾を掲げて受け止め、そのまま地面に叩きつけて後頭部を俺で貫いた。


 グギェ! と情けない悲鳴を残しゴブリンリーダーは死んだ。


――進化PTを5得ました。


――経験値を48得ました。


 と、まあゴブリンやゴブリンリーダーの経験値を得たことも認め、ミラは更にゴブリンロードが鎮座してると思われる位置まで駆け出す。


 もう隠れる場所もない以上、正面突破しか無い。多くはゴブリンだから、それほど問題はないと、思ってはいるんだが――


「グギョ! ギョ!」

『ギィイイィイィイィイ!』


 鬨の声を上げ、横方向に二列で並んだゴブリン共がミラに向けて弓を引き絞る。


 やっぱりか。そんな予感はしていたが、ここで弓持ちゴブリンの出番ってわけだ。持ってる弓はそれほど質は高くなさそうだが、それでも風の影響を受けにくい洞窟内なら大きなミスは考えにくいか。


 そして弓持ちゴブリンとの距離が残り10歩程度まで迫ったところで前衛のゴブリンが先ず弓をを放つ。矢はほぼ一直線にミラへと迫ってきた。


 そしてその直後に後衛の弓隊が追撃する。後衛から放たれた矢は角度が付けられ放物線を描くようにミラに迫る。矢の雨が降り注ぐといったところか。前衛が放った矢と比べると、後衛から放たれた矢はミラの動きを封じ込めようとしての射撃のようである。


 その為、矢のカバーしている範囲が広い。単騎相手に容赦のないことだが――


「てぇええぇええぇい!」


 気合一閃、まっすぐに向かってきた矢弾は俺を鞘に収めたまま振り回しすべて叩き落とし、上から降ってくる矢は、左手の円盾を掲げるようにして受け止め地面に落とす。


 ここにきて鞘攻撃が役に立ったというべきか? 鞘に収めたままなら剣の状態より幅が広がり、矢にも対応しやすくなるからな。

 

 ただ、やはり全てを盾と剣だけで対処しきるのは厳しい。しかしそこはミラの判断力で、胸当てや兜など、受けてもダメージにつながらない場所は敢えてそのまま受けきった。

 

 ここにきて新調した防具の強靭さに救われたな。全くドゴン様々だなっと。


 ただ、それでもやはり絶え間なく射られ続ける矢はうざったいな。前衛からの矢は壁のように立ちふさがるからミラも思い切った動きが出来ず、それでいてある程度接近すると弓隊が後ずさるからなおのこと面倒だ。


『ミラ、ここは1発あれを使おう。突破口に繋がるかもしれない』

「……あれ、そうか! うん判った!」


 首肯したミラは、ドゴンから譲ってもらったダーツボムをバッグから取り出し思いっきり振りかぶる。


 そして力強い投擲! 投げられたダーツは一直線に弓持ちゴブリンの1体に命中し、そして――爆発!


 ドゴンは小爆発といっていたけど、中々馬鹿にできないもので爆発に巻き込まれて数体のゴブリンも吹っ飛んでいく。


 ただ、重要なのは爆発で倒れていくゴブリンよりも、その影響でゴブリンが狼狽え、弓を引く手が止まった事だ。


 その隙があれば、ミラの脚なら一気に距離を詰められる。


 全ての兵隊ゴブリンを相手してもいられないが、弓兵は残しておいても面倒になるので、出来るだけ排除しておきたいところだ。


 それをミラに伝えると、ミラも同意見だったようで、弓隊に向けて切り込んでいきバッサバッサと切り伏せていった。弓持ちでもやはり貰える経験値は少ないけどな。


 そして、流石に弓兵全てを排除とはいかなかったが、あらかた片付いたところで、ミラは次の目標へと頭を切り替えて足を向けた――



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