第二十九話 宝箱の中身は?
「ご、ごきげんようポン。ではさよならポン」
『待てコラッ!』
そそくさと逃げ去ろうとするボックルを念で怒鳴りつけると、その小さな肩をビクリと震わせて立ち止まった。
こいつ、何か怪しすぎるぞ。それにこいつがいた方向――
『ミラ、あの宝箱を確認してみろ』
「え? あ、うん」
ミラは俺に言われ宝箱のあった位置に移動する。その間ボックルが逃げないようにしっかりと見張っていた。念でしっかり威喝しつつな。
「あ、宝箱があいてる」
『やっぱりか! お前この宝箱を開けたな!』
「ひゃ~~~~!」
俺が念で怒鳴りつけると、ボックルが情けない声を上げてペタリと尻もちをついた。やっぱりかこいつどさくさに紛れてこそ泥みたいな真似しやがって。
『おい、入ってたもの出せよ』
「ど、どうしてポン! よく考えたらおかしいポン! 宝箱を開けたのはおいらポン! だったら中身はおいらのものポン!」
『黙れ! この宝箱を開けることが出来たのも、俺達がここにいたツインリザードヘッドを倒したからだろ!』
「そ、そんなの偶然ポン! おいら知らなかったポン! それに魔物は倒したとしてもまた時間が経てば現れるポン! だからタイミングの問題ポン!」
……確かにそう言われてみればダッシュリザードも倒しても倒しても現れたな。尤もだからこそ防具分の素材が入手できたんだが。
ふむ、と、いうことはここのツインリザードヘッドも当然時間が経てばまた現れるわけか。
だが、だとしてもだ。
『それでもタイミングが良すぎだろ。お前、俺達のことを尾けてきてたんじゃないのか?』
「そ、そんなことないポン」
わざとらしく視線を逸してのこの態度。
お前、わかり易すぎだろ……。
「ねえ、この宝箱は罠や鍵は掛かってなかったの?」
「罠はなかったポン。でも鍵はおいらのピッキングで簡単に開いたポン」
ピッキング……そんな技術があったのかこいつ。本当にこそ泥みたいじゃねぇか。
「そっか、うん、だったら仕方ないね。僕達にそれをどうこういう資格はないよ」
『は!? おい、本気かミラ!』
「本気だよ。そもそも僕達にはこの宝箱を開ける手段がなかったんだし。それをボックルが開けたなら中身は彼の物だよ」
……本当に本気か? いや、この屈託のない笑顔。うん、ミラはどうやら本気のようだな。
『はあ、ミラがそう言うなら仕方ないか。運が良かったなボックル』
「……本当にいいポン?」
うん? なんだこいつ。いいと言ったら今度は急にミラに視線をあわせて小首を傾げてきたな。全く今の今まで固くなに自分の物と言い張ってたのにな。
「うん、勿論だよ。今も言ったけど僕には開けられなかったしね。それにボックルには色々お世話になってるし」
いい感じの笑顔で答えるミラだが、お世話といっても支払うものは支払ってるからな。
「……これポン」
俺がそんな事を考えつつ、ミラもお人好しだな~なんて思っていると、急にボックルが袋から何かを取り出して地面に並べだした。
「こっちはHP回復ポーション、中が4本に大が2本ポン。そしてこれがハイポーション、小が2本ポン。あとは風の結晶が4個に土の結晶が2個入ってたポン……この半分を譲るポン」
「え? 僕にかい?」
「他に誰がいるポン?」
『おいおい、どういう風の吹き回しだ?』
今まで中身を見せることすら嫌がってたくせに急に掌返してきたな。何か魂胆でもあるのか?
「……おいらも良く判らないポン。でもミラを見てたら急にそんな気になったポン。それに、よく考えればお宝が手に入ったのもミラがここの魔物を倒してくれたおかげポン。だからあげるポン」
「そっか。うんそういうことならありがたく受け取っておくよ」
そしてミラはボックルからポーションの類と、その結晶とやらを半分受け取った。改めて、ありがとう、とミラがお礼すると、なんか頬を赤くして照れくさそうにしているな。何か尻尾もブンブン振り回してるし。
いや、もしかしてこいつ何か勘違いしてないか? まあ、判らないでもないけどな。どっちにしろ敢えて言うことでもないだろ。
『ところで、さっきあのツインリザードヘッドからも回収したんだが、この結晶って何なんだ?』
「あ、そういえば確かにこれは初めて見るんだったね」
そう、ボックルが譲ってくれた結晶の一つはさっき俺達がツインリザードヘッドの遺体から回収したものと同じものだった。
しかし、折角もらっても使いみちが判らないと仕方がない。
「本当に何も知らないポンね。この結晶は装備品と組み合わせることで属性を向上出来る結晶ポン」
「組み合わせる? それってどうやって?」
「ドゴンに頼めばやってくれると思うポン」
鍛冶師のドゴンか。なるほど、確かに装備品に組み込むならあのドワーフの出番か。
でも、それ俺にも出来るのかな? ま、それは会ってから聞けばいいか。
「あと、このハイポーションというのは?」
あっと、確かにそれも重要だな。
「ハイポーションは普通のポーションと違って、飲めばすぐにHPが回復するポン。効果も大きくてその一番効果の小さなハイポーションでもHPは最大値の30%ほど回復するポン」
『おお、それは便利だな。ボックルも持ってるのか?』
「流石に今は在庫が無いポン。それにあったとしても高いポン。その効果の小さいのでも500マナは必要ポン」
たか! ミラの装備品一式分より高価じゃねーか!
「それに、どっちにしろ今は普通のポーションでも在庫がないポン。薬師の店に行く途中でゴブリン共がたむろしていて行けないのが理由ポン」
「ゴブリンって……もしかして前に言っていた階段の上にいる?」
「そうポン。あ、そういえばミラも随分と強くなってる気がするポン。ツインリザードヘッドも倒せたならやっつけることが出来そうポン。可能ならお願いしたいポン」
こいつも簡単に言ってくれるな……。それにしても薬師か、そういえばドゴンも薬師がいるって言っていたな。素材の中には薬師が買い取ってくれるというのもあるし。
「……ゴブリンか。判ったそれは考えてみるよ。ところでボックルもうひとつ質問いい?」
「別に構わないポン。本当なら時は金なりというポン。でもお宝も手に入ったし許すポン」
こ、こいつ……。
「ありがとう。あのね、そこを抜けた先に水が溜まっていて、その先を行こうにも水門が閉まっていて抜けれないんだ。どうしたらいいか判るかな?」
「そういうことかポン。それならなおさらゴブリンを何とかしないといけないポン」
『うん? どういうことだ?』
「水門を開く装置はゴブリンがたむろしている場所にあるポン。恐らくゴブリンロードがそれを弄って閉めてしまったポン」
……なんてこった。本当余計なことをしてくれるゴブリンだな。
「つまり、どっちにしろそのゴブリンやゴブリンロードを倒さないと先には進めないってことだね」
「そうポン」
『だけどちょっと待て。確かさっき魔物は倒しても時間が経てばまた現れるといっていたよな? それだとそのゴブリンロードを倒してもまた時間が経てば出てくるんじゃないか?』
「それはないポン。ゴブリンロードは滅多に現れる魔物じゃないポン。一度倒せばそうそう出て来る物じゃないポン」
そういうことか――そしてどうやら装置を弄れるような知能を持ったのはゴブリンロードぐらいで、ゴブリンロードさえいなければ水門が閉まることもないだろうとの事だ。
「こうなるともう仕方ないねエッジ」
『やれやれ、何かボックルに上手いこと踊らされてるみたいで癪だけどな』
あははっ、とミラが笑う。全く、ミラはそんなこと気にもとめてなさそうだな。本当に人がいい子だよな~。
とは言え、それなら確かに仕方ないな。とりあえず次の目的はゴブリン退治か……。
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