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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第六節 「人と獣 明と暗が 合間むる世にて」
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~彼等が忌み嫌うものとは~

 暴走したエウリィの猛威がようやく収束を果たした。

 心輝・瀬玲を犠牲とする事によって。


 二人の尊い犠牲を無駄にしない為にも。

 続く本題に向け、勇が気を取り直して真剣な意思をフェノーダラ王へと向ける。


「それで、今回の要件は一体どういう事なんでしょうか?」


「それはだな……」


 フェノーダラ王も先程までの憔悴っぷりから僅かに立ち直った様で。

 エウリィが満足気に去っていった事で安心して落ち着いたのだろう。


 肘掛に両肘を置き、組んだ両手に額を委ね。

 それでもなお疲れたままの身体をガクリと預ける。


 しかしそう言い掛けたのはいいものの何故か後が続かない。

 まだ何かあるのではないかと思える程に無言の静寂が伸びていて。

 「ん?」と勇も福留も首を傾げてしまう程に。


 だが勇はその時ふと何かに気付き。

 何を思ったのか、そーっとその身を屈ませる。


 するとそこに見えたのはなんと―――




 フェノーダラ王の寝顔であった。




 鼻ちょうちんを惜しげも無く「ぷあー」っと膨らませて。

 頭がカクンカクンと揺れて収まらない。


 よほど心労が溜まっていたという事か。

 何せこの数日間、ずっとあのエウリィに振り回され続けたのだから。

 きっと寝る事も叶わない程の気苦労を負ってきたのだろう。


 ただこのまま放置されるのは勇達としても困る訳で。


「王様~?」

「ふぐごっ!?」


 勇の呼び掛けに反応し、その身を「ビクン」と跳ね上げさせる。

 まだその一声が届く程には浅い居眠りだった様で。


「す、すまないユウ殿。 どうやら意識を手放してしまった様だ……」


 これには勇も共感せざるを得ない。

 あれだけの暴挙を目の当たりにすれば当然だ。


 それだけには飽き足らず。

 「もし数日あのテンションに付き合わされたら俺もヤバいな」などとすら脳裏に過る。


「それでだがユウ殿、フクトメ殿―――」


「はい?」


「―――ちょっと顔洗って来ていい?」




 という訳で一旦仕切り直しという事に。


 何もかもグダグダな状況を前に、二人は揃ってただただ呆れるしか無かった。






◇◇◇






「―――見苦しい姿をお見せした」


 ほんの一時を置き、ようやくフェノーダラ王がその姿を現した。

 一応は真面目な話という事もあってか、顔をタオルで拭きながら急ぐ様にして。


 一国の王が【大安商事】と大きく書かれたタオルを扱う姿は実にシュールである。


「それで合同調査の件だが―――今しがた、(くだん)の魔剣使いをここへ呼んでおいた」


 とはいえ転んでもタダでは起きない様で。

 フェノーダラ王自身も既にしっかりと頭を切り替え済みだ。

 その証拠に、以前の様な精悍な顔付きを取り戻していたのだから。


「彼女の名前はレンネィと言ってな、我が国が抱える魔剣使いの筆頭とも言える存在だ。 実は今回の事件が起きる前にとある情報が入って来ていてね、彼女を調査の為に派遣したのだ」


「とある情報? 例の入ろうとしても入れない森の事でしょうか?」


「うむ。 実は我々の世界ではこの世界ほど発展はしておらず、存在を忘れた秘境が各地に存在していてな。 その森も同様だったのだが……どうやらそこが〝当たり〟だったらしい」


「当たり……?」


 それはまるで知らないながらも知っていると言わんばかりの物言い。

 あべこべとも言える話に、思わず勇が首を傾げる。


 だが勇達が思う以上に事態は深刻な様だ。




「そう、当たりだ。 ()()はその存在の事を〝隠れ里〟と呼んでいる」

 



 途端、そう語るフェノーダラ王の表情に陰りが生まれ、語る声に重みを増す。

 それ程までに彼等にとっては重要な問題なのだろう。


「〝我々〟とはフェノーダラ王国の事だけではない。 人間の国は愚か、魔者達ですらそう呼び、忌み嫌っているのだ。 それだけの存在がその先に居るのだという噂があってな」


「人間も魔者も嫌う何か……」


「うむ。 それも遥か昔、この国がオーダラだった頃も、それ以前もな。 詳しい理由はわからないが、伝説だけが先行して忌避させているのだと我々は思っている」


 彼等にも長い年月を生きて来た歴史が存在している。

 魔者を滅ぼし滅ぼされ、その度に文明を維持し続けて今があるのだ。


 なんでも千年程前、フェノーダラ王国の前進であるオーダラ国は一度滅ぼされたのだとか。

 その後こうして再発展し今がある訳だが、その際に昔の記録や歴史はほぼ消滅し。

 今は残った数少ない書物の情報でのみ言い伝えられているのだそうな。


「しかもそれがまさかこのフェノーダラ王国の目と鼻の先にも存在しているとは思わなくてな」


 そう、フェノーダラ王の言う通りこれが彼等の悩み。


 福島と言えば、地図上では栃木のすぐ真上に位置する場所。

 彼等にとってはそう簡単には辿り着けないが、現代人にとっては一、二時間程で着いてしまう様な非常に近い距離なのである。


 そんな所に忌避すべき場所が存在していたという事実が発覚したのだ。

 それが彼等にとってどれだけ恐れを呼び込んだのかは想像に容易い。


「とはいえ、その先に何が潜んでいるかさえも我々にはわからない。 他国から流れて来た噂によれば恐ろしい魔者が封印されているとか、強力な魔剣が隠されているなどという話なのだがね。 何せ信憑性に乏しい」


 国同士がほぼ分断されていても、人が流れてくる事は時折あるらしく。

 そんな人物から他国の情報が入ってくる事も多く、隠れ里に関する情報もそこから得られる事があるという。


 ただそのほとんどが難民や流れ人で、大体の話が又聞きや重ね合わせた噂ばかり。

 自分の目で確かめた者など一人として居ない訳で。

 もはや何が真実で虚実なのかを判断する事は話だけでは判断出来ない状態らしい。


 しかしそれを証明出来るであろう人物が一人、今この国に居るはずだ。

 長い年月を生き、多くの事を体験してきたであろうあの人物が。 


「剣聖さんは何か知らないんですか?」


 そう、剣聖である。


 各地を渡り歩いてきたであろう実績を持つ、最強と名高い魔剣使い。

 その存在の真偽はともかく、勇達に与えた知識や知恵は数知れず。

 勇が教えられた事だけでも既に指では数えられないくらいに多い。


 彼ならば何か知っているはず―――そう思っての事、なのだが。


「剣聖殿は何か知っている様だが語ってはくれんよ。 『んなぁのお前等が知ったって何の意味もねぇだろうがぁよぉ』などと言い放ってな」


 けれどやっぱり現実はやはり不条理だ。


 これまた剣聖が言いそうな事で。

 フェノーダラ王の演技に箔が付く程に。


 どうやら剣聖、こういう事には全く何の役に立っていない模様。


「そんな事もあってレンネィを調査に向かわせたのだ。 何せ彼女は以前別の場所でも隠れ里に遭遇した事があるらしく、対処法だけは知っていた様でな。 実力も申し分ない事もあって、彼女が適任だったという訳だ」


 そう自信満々に答える辺り、そのレンネィという魔剣使いは余程の手練れなのだろう。

 お抱え魔剣使いの筆頭と言われるだけの実力はあるという事か。

 剣聖とは大違いである。


 とはいえ剣聖は剣聖でダッゾ王討伐に動いていた訳で。

 それに助けられた勇が文句を言えるはずも無い。


「だが、そうして送り込んだ後に転移が起きた。 後はフクトメ殿から聞いているであろう合同調査の話に続くという訳だ」


「なるほど、そういういきさつがあったんですね」

 

 合同調査の話は剣聖を通して福留に伝えられた事。

 そんな事もあってフェノーダラ王の伝えたかった背景はほとんど伝わっていない。

 経緯に全く興味を示さない剣聖らしいと言えばらしいのだが。


 福留としてもやはり謎の森の正体が何なのかは気になっていた様で。

 紆余曲折はあったものの、こうしてようやく事情を聞き出すに至る事が出来た。


 ただ、それと同時に想定外とも言える事態の重さもまた露呈しする事となる。


 つまり今回の相手は正体不明。

 今までの様な予備知識も無ければ、その行動原理さえも。

 おまけに人の行動を惑わせる仕組みを森に仕込める程の相手という事だ。


 思っても見なかった激戦の可能性を前に、勇も緊張を隠せない。


「何故そんな物まで転移してくるのか全く理解に苦しみますねぇ。 まるで神様がこの世界をゲームの舞台にでもしているかの様です」


 福留がそう唸るのも当然か。

 ここがもしもゲームの世界なら、さしずめ変容区域はRPGのダンジョンステージ。

 怪物を討伐して攻略し、宝を手に入れたり次の攻略情報を得たり。

 今こうして情報を得る事さえイベントと似た様なものなのだから。


 ただ、その造りは余りにも粗雑としか言い得ない。


 現代とアンマッチした背景設定はもちろんのこと。

 魔者の王が討伐されたら兵隊までもが消えるという原理不明な謎仕様で。

 変わった土地そのものは戻らず、物質の特性だけを変えるだけで放置という有様。


 おまけに転移してきたどの地点も常識的に考えて離れ過ぎている。

 現代が舞台でなければ移動だけで何日掛かるかわかったものじゃない程の相対距離だからだ。

 たった数マス動いただけで移動可能な世界とは訳が違う。


 シナリオライターが神様で、この世界の価値観と異なる思考を持つ相手だからか。

 わざわざそういうあべこべな世界観を演出する為に配置したのか。


 それともただの気まぐれか。


 ただその気まぐれに付き合わされる勇達としては堪ったものでは無い。

 もしそんな神の様な存在が居るのだとしたら、この様に文句の一つも言いたくもなるだろう。


 今の世界はそれ程までに混乱の最中(さなか)なのだから。




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