~投囮 空撃 全てはこの一閃に~
「勝ったあ!!!」
ザサブ王が勝利を確信し、振り上げた拳を嬉々として握り締める。
自身の誇る蒼の稲妻が遂に解き放たれたからだ。
もはやそこで勝利を疑う者は誰一人として居ない。
だがその時、勇はとある行動を既に起こしていた。
魔者達が空に想いを馳せる中で。
懐に仕舞っていた何かを取り出し、頭上高くに放り投げていたのだ。
それはスマートフォン。
勇が肌身離さず持っていた物である。
それを選んだのは無意識の事。
ただ何かを放り投げようと思っていて。
丁度良かった物がそれだっただけだ。
ただ、それが最も相応しかったのかもしれない。
たちまち雷撃が放り投げられたスマートフォンを撃ち貫き。
激しい放電と共に、空中で爆発四散する。
突如として超電圧が加えられた事によって筐体が持たなかったのである。
でもその部品一つ一つは電気を通す集積回路の塊。
電気を誘うには十分過ぎたのだ。
四散した部品が雷撃の全てを引き受けて蒸発していく。
勇には全くの影響を与えぬままで。
自然界の雷ならばこうもいかないだろう。
でも放たれた一撃はその威力と比べれば非常に弱いもの。
スマートフォンを破砕するだけで十分その威力を拡散させてしまう程度でしかなかったのだ。
「ば、ばかなあッ!?」
この結果にはザサブ王も気が気ではない。
渾身の一撃がこうも容易く防がれてしまった事が信じられなくて。
今なお勇が迫り来るという事実の前で、無様にも臆する姿さえ晒す程だ。
それはすなわち、今の一撃が切り札だったという事に他ならない。
それを確信した勇が遂に一手を掛ける。
王を討ち取る為に。
ひしめく雑兵達の頭上へと跳ね上がったのである。
狙うは王ただ一人。
それ以外などもう眼中に無い。
必ず仕留める為に、その全てを賭けて。
残す体力を、命力を、想いを、放つ一撃に注ぎ込む。
それ以外の何もかもをも捨て去って。
その時、空を舞う勇の体に異変が起きた。
なんと、体が突如として空中で加速したのだ。
それはほんの少しの事だったには違いない。
勇が実感する事も無い程に微量の事。
その正体こそ、彼が手に携えた魔剣の力。
柄から放出されし光はまるでジェット気流の如く。
篭められた命力が光となって放たれ、推力となったのである。
その勢いが勇の体を王へと一直線に向かわせ。
構えた魔剣から放たれた光がブレる事のない一直線の軌道を空へと刻む。
その魔剣に篭められた想いを体現するかの様に。
「やらせぇんッ!!」
しかしその間に二人の魔者が立ち塞がる。
槍を突き出し、勇を迎え撃ったのだ。
このままでは勇が突き刺されるのは必至。
そう思ったのも束の間―――
ボボンッ!!
その轟音と共に、立ち塞がった魔者達が凄まじい勢いで弾かれていく。
それもまるで何かに吹き飛ばされたかの様に。
そう、それもまたちゃなの撃ち放った一撃。
しかも炎弾ではなく空気弾。
勇の動きを邪魔しない様にと考慮されて撃ち放たれた一発である。
そのお陰でもう勇とザサブ王の間に、障害は無い。
「ウオオーーーーーーーーーッッッ!!!」
勇の荒々しい雄叫びがその場に轟く中で。
足を引く事しか出来ない王がこれまで無い程に戦慄する中で。
遂に勇の渾身の一撃が今―――
ズンッ!!!!!
―――ザサブ王を貫いた。
その威力、勢いは凄まじいもの。
魔剣の刀身が大地に深く抉り込む程に強く。
黒土を周囲へと撒き散らす程に激しく。
周囲の魔者達が愕然とする程に―――猛々しく。
撃ち放たれた斬撃は斬った事を悟らせない程に鋭くて。
ザサブ王の身をなおも立たせたままだ。
しかしそれも間も無く、解き放たれる事となる。
王の首が「ズルリ」とズレた事によって。
ボソリ―――
そして遂には首から離れ落ち、鈍い音を伴って大地へ転げ落ちる。
黒く柔らかな土面へと静かに。
勇の放った斬撃は見事、ザサブ王の首を真っ二つに切り裂いていたのだ。
「ば、ばかな、我等の王が!?」
目の前で起きた衝撃の事実を前に、兵士達の動揺は隠せない。
彼等にとっては身なりが同等でも尊敬するべき王だったのだろう。
その王がこうして討ち取られてしまったのだから。
「こ、こうなったらッ!! 魔剣使いだけでもッ!!」
勇はなお、斬撃の後からずっと地面に蹲ったままだ。
その姿はまさに隙だらけ。
狙うのには事欠かない様子だったからこそ、そう思うのも必然だった。
だがその矢先、彼等の身に異変が起こる。
「なっ、なんだ!? なんだこれはッ!?」
なんと魔者達が揃って光を放ち始めたのだ。
死んだ王の体と同様にして。
今まで勇が倒してきた王と呼ばれる存在は、漏れなく死んだ後に光となって消えていた。
でも今は何故か、生きている兵士達までが同様にして光を放っている。
それだけには済まされず、あの現象までもが再現され始めていたのだ。
そう、紙が燃える様に体を崩し始めていたのである。
その現象は魔者達にとってもまさに異常。
恐れる余りに自身から放出される光を払い始めていて。
それでも崩壊は止まらず、遂には節々が消えていく。
たちまち多くの者達が支えを失って地に伏していき。
体の一部が消えていく事に悶え苦しむ様を見せつける。
一方で頭が先に消えた者は微動だにする事も無く大地に転がるだけだ。
でもそれは今の彼等にとっては幸運な方だったのかもしれない。
そこに痛みは無い。
あるのは消えてしまう事への恐怖のみ。
考える頭が消えるまで、その恐怖が彼等の心を蝕み続けていたのだから。
頭だけとなっても、ただただ怯え引きつった表情を浮かべながら。
どの様な仕組みで上げられたかもわからない悲鳴を叫びながら。
そうして気付けば―――全ての魔者達が光となって溶け、その場から消え去ったのだった。




