11. 一子相伝の技(受け継がれるとは言ってない)
無事にホワイトウルフの素材も手に入れた僕たちは、その足で鍛冶屋に向かい姪のウルフ防具を完成させた。
流石に今回は着替えた姪の姿を見ても、興奮のあまり強制ログアウトを喰らうようなことはなかった。どんなものなのかを理解していたので覚悟が出来ていたし、なによりウルフ防具として選べる数種類のデザインの中から比較的露出度の低いものを選んだ成果である。
とはいえ依然としてヘソ出しノースリーブなので、道行く男共に姪がいやらしい視線で見られないか不安ではあるが。小さい子供に欲情するようなロリコンはどこに隠れてるか分からないからな、ここはやっぱり叔父である僕が守らないと。
それにしても元々のかわいらしさに加えて毛皮防具のワイルドさと随所の露出によるセクシーさを兼ね備えた姪は最高だな、たまらないぜ。おっと危ない、涎が零れるところだった。
「この辺でいいかな。じゃあこれから秘密の特訓を始めたいと思います」
「まってましたー!」
それはさておき、今日は姪が夕飯の後もログインできるということだったので再集合したところだ。
現在地はプリミスの街から北門を出てすぐの平原、つまり昨夜ミィと修行を行った場所である。街に近いので敵も出ず、人気の狩場は南側に集中しているので人通りも少ない。まさにトレーニングにうってつけの場所であった。
「本日教えるスキルはこれ、≪剛体≫。今日の僕が明らかに物理攻撃の威力が上がってたのはこれのお陰だよ」
「へー、そんな名前だったんだぁ。ミィちゃんも使ってたやつだよね?」
「そうだね。昨日の夜に教えてもらったんだけど、やり方はだいたい理解したからるぅちゃんにも教えられると思うよ」
「おぉー楽しみ!」
新たなスキルを覚えられることにワクワクしながらはしゃいでいる姪は、それはそれはかわいかった。こんなの教える側の僕もワクワクが止まらねぇぞ。
とりあえず僕は、手始めに伝授するスキルの発動方法とその効果を改めて確認するため自分のメニューでスキル説明画面を開いた。
≪剛体≫
消費MP:0
妖力を体内で循環させるアクションを実行している間だけ、その速度によって各種ステータスにプラス補正を得る。
残りMPが少ないほど効果が小さくなる。
発動中に敵からの攻撃を受けた場合、ダメージ量に応じてMPを少し消費する。
説明文の妖力となっている部分は、魔力と言い換えて説明した方がいいだろう。その方が分かりやすいはずだし。
ていうかこのスキルを登録したミィの使ってた言葉が説明文に侵食しているが、ゲームとしては差し支えないのだろうか。まぁ個人で作ったスキルはあくまでも、本人が使う前提なら使用者の使う言葉に合わせればそれでいいんだろうけど。
「まずは仕組みの解説だけど。このスキルは、体の中に魔力を流すことで身体能力を上げるスキルだよ」
「魔力?」
「うん。スキルを使うときなんかにさ、体の中で謎のエネルギーが動いてるの感じるでしょ?」
「そんなの感じないけど」
「えっ」
あれ? どういうことだ? 魔力を……感じない? あんなにハッキリとした不思議なパワーの感覚なのに?
「いやいや分からないことは無いと思うんだけど。ほら、今動かしてるこれ」
「これって言われても……何かしてるの?」
そんなはずは無いだろうと思いながら全身に魔力を巡らせて≪剛体≫を発動させてみたが、姪は何が起きているのかも把握できていないようだった。僕はミィの魔力操作……もとい妖力操作か。ミィは妖力って呼んでたからな。とにかくそれを見て覚えたのだが、この様子だと姪には他人のものを感じることも出来ていないのだろう。
「おっかしいなぁ。少なくとも僕はこのゲームでスキル使う時には……あっ待てよ?」
と、疑問に思っていたところでふとあることに思い至った。そしてそれを確認してみるべく、近くの適当な空間をターゲットに指定してスキルを発動する。
「≪駆け斬り≫」
「ん? どしたの?」
僕が今使ったのは短剣スキル。MPを消費することで、高速移動と斬撃を繰り出すことが出来るというものだ。今回は移動しただけだが。
とにかく、改めて意識しながら武器スキルを使ってみたことで分かったことが1つあった。
「武器スキルだとMPは使ってるけど……魔力としては使ってないな」
「なるほど?」
確かにスキルで消費するMPは同じものだが、そのプロセスが違ったのだ。恐らく≪狐火≫のような魔法系スキルを使う場合は魔力というなんとなく知覚できるエネルギーに変換してから消費するのだが、戦士系の武器スキルはシステム的に消費されるだけなのだろう。これでは物理一辺倒でやってきた姪には魔力の感覚など分からなくて当然だった。
それと納得したようなセリフを言いながら理解できず首をかしげる姪はとてもかわいかった。
しかし困った、≪剛体≫はあくまでも魔力操作によって発動するものだ。その感覚が分からないのでは教えようがない。なまじ僕が最初から自然と理解できていた分、全くのゼロから教えるにはどうすればいいのか分からなくなってしまったのだ。
「うーんどうするべきか……」
「あっ」
「ん? るぅちゃん、どうしたの?」
「サラさんログインした」
そんな時だった。姪に言われてフレンド欄の通知を見てみれば、ちょうどサラさんがログインしたところだった。
それはまさに渡りに船。しっかりとwikiで予習したお陰で魔法に詳しいサラさんであれば、魔力操作の教え方などについても期待できるというものだ。そもそも魔法職だし、その分野においては専門家であるとも言える。この機を逃す手は無いと考えた僕は、早速サラさんに個人会話でコンタクトを取った。
『サラさん、ちょうどいいところに。今ちょっといいですか?』
『あら? アンちゃんじゃない。インフルエンザって聞いたけどやっぱり元気そうね、安心したわ』
『あー……その件についてはなんというか……』
言われて気付いたが、今の僕は仮病で休んだその日の夜に元気にゲームやってるところを同僚に発見されたという状況であった。本来ならば非常に気まずいのだが、まぁサラさんは僕の身体の事情についても知ってるのでセーフだろう。会社を休むことにした経緯を軽く話してから、さっさと本題に入った。
『実は今、るぅちゃんに魔力操作を教えたいなと思ってたところなんですけど。サラさんその辺詳しかったりします?』
『魔力操作? 確かに私は魔力操作スキルも覚えてるけど、るなちゃんは剣士でしょう?』
『まぁそうなんですけど、新しく覚えたいスキルの発動条件なんですよね』
『なるほどね。事情は把握したわ、今そっちに向かうからちょっと待っててちょうだい』
『おお、ありが……』
「お待たせ」
「はっや」
頼もしい助っ人を獲得できたと喜ぼうとした次の瞬間、僕が感謝の言葉を言い切るより先に彼女は街の北門から現れた。確かに今そっちに向かうとは言われたが、まさにたった今現れるとは思いもしなかったので怖いぐらいである。
「おぉーサラさんだ!」
「サラさん、早く来てくれるのは助かりますけどいくらなんでも早くないですか?」
「うふふ、この時間でもまだるなちゃんがログインしてたんだもの。実は会いたかったからアンちゃんからの連絡が来るより先にもう向かってたの」
「まぁその気持ちは分かりますけど」
「ゲームの中で会うのは初日以来ね。るなちゃんもケモ耳まで生やして更にかわいくなったわね」
「えへへー。いいでしょ? あんちゃんたちと試練がんばったんだぁ!」
そういえば何気にケモ耳バージョンの姪を見るのは初めてか、とサラさんのプレイ状況を思い返した。初日はともかく、次の日は僕のパーカーとか作ってくれてたからログインしてないしな。そして昨日は1日中買い物に付き合ってくれてたので、帰ってから夜には少しログインしてたものの、姪がゲームに来ることなくそのまま寝たのでまた会えていない。結果、平日の夜である今が2度目の遭遇となったわけだ。
「2人まとめてお持ち帰りしたいかわいさね」
「しれっと僕も含めないでください」
「ふふ、冗談よ」
さりげなく僕までテイクアウトされそうになるが、理由が理由なだけに勘弁してもらいたい。女性から可愛いと言われるのは男としてどうにも複雑な心境なのだ。それに本来ならばこちらがお持ち帰りする側の立場である。
いや、まぁ僕を含めなければいいというわけではないが。というかむしろ姪をお持ち帰りされることの方がダメに決まってはいるのだが。冗談だと微笑むサラさんはしかしどこか冗談に見えない部分もあるので、どこからツッコんでいいのか分からないのだ。
「で、魔力操作スキルの話だったかしら」
「あっはい。実は――」
そんな掴みどころのない態度から急に本題に踏み込んできたので少し戸惑ったが、とにかく僕はこれまでの経緯を順序立てて説明した。
まずは姪に身体強化スキルである≪剛体≫を教えたいということ、次いでその発動条件が体内での魔力の循環となっていること、そして姪が魔力を操作することも知覚することも出来ないこと、それ故にどう教えればいいか分からないこと。あとは僕が習得した経緯だとか、このスキルが他人から教わったものを勝手に姪に教えてるだけなので、あまり広めないようにとか一応言っておいた。
本来ならばこの辺の分からないことも後日僕が調べて姪と2人っきりの個人指導といきたいところだったのだが、あくまでもそれは僕の希望でしかない。
僕は空気の読める叔父なのである。姪が早く自分も使えるようになりたいと思っているのを察したので、イチ早く習得までの手筈を整えている次第なのだ。2人っきりでなくなるのは不本意だが、姪の要望を叶えるためならば仕方ない。
「――ってとこですね」
「大体理解したわ。参考までに実際にその強化スキルを使ってみてもらっていいかしら?」
「わかりました。ふんっ!」
相変わらずサラさんは理解力が高くて助かる。たまに心の内まで見透かされているような時もあるのは困りものだが、今はその理解の早さが有難かった。
僕は言われた通り、身体に魔力を高速で巡らせて≪剛体≫を発動してみせた。動かず集中して掛け声と共に気合いを入れての、まだ戦闘中には使えない最大出力である。
「こんな感じなんですけど」
「んー、やっぱあたしは何やってるのか分かんないや。サラさん分かるの?」
「るぅちゃんは戦士職だからね。魔法職のサラさんなら分かると思うよ?」
「そうなんだ。あたしも魔法使いにしとけばよかったかなぁ。でも剣の方が動き回って楽しいし……」
「で、どうですかサラさん。これどうやって教えればいいか分かります?」
「全く何をしてるのか分からないわね」
「あれ? サラさん?」
おっと? 雲行きが怪しくなってきたぞ? おいおいサラさんまで魔力の動きが感じられないとかどういうことだぁ?
「アンちゃんはこれを教わる時、見て覚えたのよね?」
「は、はい。でも魔法職のサラさんにも分からないってことは、僕のやり方が悪いんですかね?」
「その可能性もなくはないけど……一応確認しておくわ。アンちゃん、『魔力感知』スキルは持ってるかしら?」
「魔力感知?」
そんな時サラさんの口から出たのは、初めて聞く名前のスキルであった。
だがその名前からなんとなく効果は予想できる。他人の魔力を感じとるためには魔力を操作するだけの魔力操作スキルではなく、魔力を感知するための魔力感知スキルが必要ということなのだろう。言われてみれば納得であった。
「えーっと魔力感知……あっ、ありました」
「やっぱりね。恐らくアンちゃんが魔力の存在を感じられるのは、そのスキルを持ってるからだと思うわ」
「え、ってことは……るぅちゃんだけじゃなくて、サラさんも持ってないスキルなんですか?」
「魔力操作もなんだけど、魔力感知は更に魔法を使い込まないと覚えないらしいのよね。私でもまだ足りないわ、なんでもβテスト時代でも数人が習得しただけみたいだし。専用の習得クエストまであるって話よ」
「なんだと……」
マジかよ。なんでそんなスキル持ってるんだ僕。謎過ぎるぞ。
いや、しかしだ。そんなことよりも、もっと重要な話が今のサラさんの言葉の中に含まれていたのだ。
「魔法を使い込まないといけないって、それじゃあるぅちゃんが覚えられないじゃないですか!」
「あっ! ほんとだ! いくらなんでも今から魔法使いになるわけにはいかないし、ダメじゃん!」
「あ、あら? そこなの? 私としてはアンちゃんが何故か高位のスキルを覚えてるところなんかに食いつくと思ってたのだけど……」
僕にとっては、身に覚えの無い自分の謎スキルなんかよりも、姪が覚えられないかもしれないという事の方がよっぽど重大であった。どんな時でも姪が最優先。姪を持つ人間であれば当然の優先順位である。
「まぁ僕のスキルやステータスが特殊なのなんて今に始まったことじゃないですし。どうせ狐だからでしょう」
「最初から狐のスキルいっぱいあったもんね」
だが≪狐火≫を始めとして、未知のスキルを使えたり感覚や魅力など特定のステータスがやたら高いことなど、こちとらゲーム開始時点から当たり前のことなのだ。なのでもはやそれほど動じることもない。どうせこれも狐獣人の種族ボーナスか何かだろう。
……と、思っていたのだが。サラさんは神妙な顔でそれに返した。
「……今までは、そう思ってたけど。でも、アンちゃんの境遇を考えると……なんか引っかかるのよね」
「え?」
そして僕の耳を尻尾を見つめながら、言葉を続ける。
「関係ない話だけど、このゲームは『リンクリアルオンライン』という名前の通り、現実とある程度リンクしているわ」
「……なぜ、今そんな話を?」
なぜ、と一応問いかけたものの。
僕はなんとなく、その意図を僅かに察していた。関係ないということもないのだろう。
「習得に条件があるようなスキルであっても、現実で使える技術は最初からスキルとして持っていることがあるの。『料理』や『裁縫』なんかが代表例ね」
そこで唐突に狐耳に触れられ、予期せぬボディタッチに身体がビクッと反応する。
だがサラさんは僕のリアクションなど気にも留めず、真面目な表情で耳を撫でながら話を続けた。
「現実でも狐のアンちゃんは、一体何なのかしらね?」
「あっ……ちょっ、サラさ……んんっ!?」
「一夜にして身体が全く変わってしまう……そんなの魔法のような不思議な力が働いたとしか思えないわ」
「やめっ……んひゃっ!? あぅっ、ちょ、ちょっと……!」
「ならばアンちゃんは、実在する魔力のような不思議な力を感じたことがあったとしても――」
「っ……タイムタイム! 一旦やめてください! 真面目そうな話しながら耳撫でるのやめてくださいよ、くすぐったくて話が入ってこないじゃないですか!」
「あら、ごめんなさい。アンちゃんの狐耳のことを考えてたらつい無意識に撫でていたみたいね」
「いや絶対確信犯でしたよ」
「サラさんばっかりズルい! じゃああたし尻尾!」
「るぅちゃん!? 今そういうのじゃないから!」
「うふふ、負けないわよ」
「なんで張り合って……あふぁっ……ちょ、やめ……んぅぅ……」
「あんちゃんの尻尾モフい」
「私の指先次第で蕩けた表情になるケモ耳少女……たまらないわね」
「サラさん、あとで代わってね。あたしも耳やりたい」
「いいわよ」
「勝手に決めっ……もるすぁ……」
なんとかサラさんからの愛撫は途中で割り込んで中断させたものの、姪が参戦したことによりそんな抵抗は無意味となった。このあと僕は、姪が寝る時間になるまで終始モフり続けられたのだった。
ちなみに姪は結局今日の特訓で何一つとしてスキルを覚えることなく終わった。
なんだか話の途中だったり、真面目な話があったような気がしないでもないが、もう忘れた。2人がかりで耳と尻尾を同時責めされ、くすぐったさと気持ちよさから脳も表情もトロットロである。
何なら姪がログアウトした後も自力で逃げることが叶わず、サラさんの膝の上に乗せられて撫でられ続けた僕が復活するのにはしばらく時間を要したのであった。




