7. 再戦、そして敗北。
獣人の村で幼い子供たちと遊んだ僕たちは、結局あの後お昼の時間まで遊んでから解散した。
「ちゃんと反省してる?」
「はい、反省してます」
昼食をとってから再集合して今に至るのだが、幼児相手の遊びにも関わらずあまりに大人げ無さ過ぎた僕は未だに怒られていた。人生の先輩として見本になるような行いをしなければならない叔父としては、姪から怒られるなど由々しき事態である。僕は海よりも深く反省していた。
やはり≪剛体≫による身体能力強化まで駆使して、子供たちが起き上がる度に起き攻めの如く一瞬で転がすのはやりすぎだったようだ。最初の内は転がされて喜んでいただけに、僕も調子に乗りすぎた。起き上がることすら出来ずに何も出来なくなってしまった子供が泣き出してしまったのである。
まぁ、過ぎたことをいつまでも反省していても仕方が無いのでとりあえず今は姪とのゲームを楽しむことに頭を切り替えよう。反省は確かに必要だが、あとでも出来るし次に活かせばそれでいい。その一方で姪と遊べる時間は今だけなのだ。もっと今を大切に生きて行こう。
「るぅちゃん、そろそろフォレストウルフが出てくる頃だよ」
「ん、そだね。また群れで出てくるのかな?」
「あーそういえば……どうなんだろ」
何とはなしに気分を変えるついでに話題も変えてみたが、姪から返って来た言葉に僕は思い悩んでしまった。というのも、前回ミィたちと一緒に森エリアで狩りをした際に、フォレストウルフは常に4匹前後の群れで現れたのである。
もし今回も同じ数で出現するのだとすれば、僕たち2人で勝てるかどうかは微妙なところである。いや、勝てることは勝てるだろうが、流石に倍の数を相手取るとあっては結構なダメージを覚悟しなければならないだろう。そうなると連戦してドロップアイテムを集めるのは結構キツイ。
「うーんじゃあその場合の作戦は……っと、もう来たか」
「ええっ!? ど、どうしよあんちゃん、作戦まだ決めてないよ!?」
「大丈夫、心配しないで」
敵の数がこちらより多かったならどうしようかと考えながら歩いていたが、大して考える間もなく僕の狐耳が素早く近付いてくる敵の足音を捉えた。
だが問題は無い。恐らくこれは、大丈夫なやつなのだろう。
「敵の数は2体だ! 1人1体ずつ倒すよ!」
「ん、わかった! それなら余裕!」
「ワオーン!!」
少し離れた茂みから雄叫びを上げながら姿を現した迷彩模様の狼は、僕たちをそれぞれ睨みつけると一斉に襲い掛かって来た。
まだ確証は持てないが、この敵モンスターはこちらの人数に合わせて出現するのではないだろうか。少なくとも前回の4人PTで行動していた時には最低3体で出てきていたのだ。そりゃ1人や2人で森に入って5体で襲ってこられたら堪ったもんじゃないしな。これなら僕たちでも問題なく狩れそうだ。
などというザックリした考察を頭の隅に片付け、目の前の敵に集中する。姪に1体任せたのだ、こちらも同じ数だけ引き受けておいて不甲斐ない戦いは見せられない。
僕は迫りくる敵を迎撃するべく妖力を身体中に巡らせて≪剛体≫を発動しつつ、腰の鞘から2本の短剣を引き抜いた。
「そこだっ!」
「≪ソードスラッシュ≫!」
「ガルァッ!?」
そしてフォレストウルフの飛び掛かり攻撃に合わせて、カウンターで斬撃を叩き込む。威力は上々だ。これまでの通常攻撃と比べて、なんと3倍以上のダメージを出している。短剣は元が弱いので、これでようやくまともに戦える程度だというのが悲しいが。
そんな風に僕がダメージに感心している間に視界の端に討伐エフェクトの光が見えたので、隣の姪は一撃で倒したということなのだろう。スキルレベルが上がって強くなったのか、それとも弱点を狙うことが出来たのか。いずれにせよ姪の成長は誇らしい。
僕の方は流石にそこまで一気に削ることはできないが、姪が先に戦闘を終えたのならば待たせるのも悪い。こちらも一気に片付けるとしよう。
「あんちゃん、手伝おっか?」
「いや、大丈夫。すぐ終わるよ」
「グルルル……」
仲間をやられて警戒するフォレストウルフは、威嚇しながらゆっくりと横に移動している。これはこちらの様子を見ている、言わば回避モードである。ただでさえ素早い動きが、更に鋭く回避するようになるのだ。
この状態で攻撃を当てようとすればかなり難しいのだが、しかし僕はちょうどいいスキルを持っていた。敵が素早く避けるならばどうすればいいか。簡単だ、こっちが更に速くなればいいのだ。
「≪駆け斬り≫ッ!」
「ギャンッ!?」
瞬時に加速した僕は見えないほどの速度で狼の隣を通り抜け、すれ違いざまに両手の短剣で十字に斬りつけた。その超高速の斬撃は一気に残りHPを削り切り、フォレストウルフを討伐エフェクトへと変えた。
≪剛体≫は残りMPが減るほど効果が下がるのでMPを消費するスキルを使うほどに威力が下がっていくが、それでも初撃で使う分には攻撃スキルとしての充分な火力だった。≪駆け斬り≫の威力の低さをカバーする手段の1つとして、申し分ない効果だろう。今後はキチンと前衛として戦えそうだ。
「……すごい! あんちゃんメチャクチャ強くなってない? 短剣でこんなにダメージ出てたっけ?」
「うん、強くなったよ。実は昨日の夜、ミィにステータス強化のスキルを教えてもらったんだ」
「あ! そっか、あれ教えてもらったんだ! いいなぁ、あたしも教わりたかったのに」
「大丈夫、あとで僕が教えてあげるよ」
「ほんと? やったー!」
得意気に新スキルのことを話した僕は、自然な流れで姪にも教えてあげる約束を取り付けることに成功した。やったぜ。
思えば僕が仕事に行ってる間にミィが勝手にやり方を教えてしまう可能性もあったのだが、今日は仕事を休んだお陰で先を越されることもなく無事に約束できたわけだ。大好きな姪に何かを教えられるなんて絶対楽しいからな、逃す手はない。
「よーし、あんちゃんも強くなったことだし! ドンドン倒してドンドン素材集めちゃうよ!」
「おー!」
こうして僕たちは、図らずも素材集めのやる気が一気に上がることとなった。片や新スキルを教えてもらえる期待から、片や教えてあげられることへの嬉しさから。そこにはまさにwin-winの関係があった。
そんな風に良い感じにテンションも上がったところで、僕の狐耳が敵の気配を察知した。
最初は分からなかったが、森のこの辺りに出る主要なモンスターの種類を覚えてしまえば音で聞き分けることも出来るようになってきた。というかここでは他に出るモンスターがファニービーや三年トレントなどなので、足音というだけでだいぶ絞れるのだ。
「お、ちょうど次の敵が来たか。るぅちゃん準備はいい? あっちの方向から3体来るよ! たぶん足音の感じからしてフォレストウルフ!」
「おっけー、3体ならとりあえずあたしが1体倒してから手伝うね! それまであんちゃんが2体おねがい!」
「任せて!」
そして簡易に作戦を立て、来たる敵襲に備える。いくら新たな力を得てパワーアップした僕でも素早い狼を2体同時に相手取るのは中々に骨が折れるが、少しの間の時間稼ぎぐらいであれば問題ない。
というか、先程の戦闘を見る限りでは姪は攻撃スキルさえ使えば一撃で倒すことも出来るようなので、それほど時間もかからずに処理してくれるだろう。なので僕はまず回避を優先して、適当に2体のヘイトを集める程度に軽く攻撃していればいい。そうすればあとは各自で1vs1の戦いだ、数の不利さえなければ負ける相手ではない。
と、思っていた時期が僕にもありました。
「≪ソードスラッシュ≫! あっまた外した!?」
「るぅちゃん!? おっ落ち着いて……うわっ!? 痛ってぇ!?」
「このっ……≪ソードスラッシュ≫! ≪ソードスラッシュ≫! もー、当たらないよぉ!」
「くそっ何なんだコイツら!?」
僕たちは思いのほか苦戦していた。
というのも、姪が対峙した狼がなんと攻撃するフリをしてフェイントを入れてきたのである。結果、いつも通りにカウンターを叩き込むつもりだった姪はスキルを空振り。一発当てれば倒せるのだからと気を取り直してもう一度試みたが、またも空振り。
もはやMPも残っていないのにスキルを叫びながら剣を振り回しているが、一向に当たる気配は無い。僕の方も姪の決着を待っている間にじわじわと削られてきた、これ以上はマズい。
「仕方ないっ……≪狐火≫ッ!」
可能であれば今日は短剣だけで戦いたかったし、なにより姪の立てた作戦を尊重してあげたかったのが、状況が状況なのでそうも言っていられない。
僕は度重なる被弾で効果が下がってしまったが無いよりはマシな≪剛体≫で攻撃を避けつつ、隙を見て必殺の炎で敵を一掃しようとしたのだが。しかし僕が出そうとした広範囲高威力の炎は出ることなく、差し出した手のひらからボフンと火の粉が飛び散っただけだった。
「……あれ?」
「グルルルル……」
「ガルァ!」
「ワォン!!」
「やべっ……ぬわああああっ!?」
「あんちゃーん!?」
火の粉といえども攻撃は攻撃、それを浴びた狼たちが一斉にヘイトを高めて僕へと襲い掛かって来た。
恐らくこの不発は残りMPの不足によるものだろうと予想したので、気休め程度に≪剛体≫で強化した身体能力で短剣を振り回して……あれ? MPまだ残ってるな? ≪狐火≫1発分ぐらいはギリギリ残ってるぞ?
それなら話は早い。僕は今3匹の狼に押し倒されて絶体絶命のピンチだが、≪狐火≫で焼き払えば一発逆転だ。とはいえHPも残り少ないので≪剛体≫による防御強化が切れればすぐさまやられてしまう。
なので僕は、防御のための≪剛体≫を切らさないように気を付けながら攻撃のために≪狐火≫を放つことにした。
「まとめて燃えろ! ≪狐火≫!!」
「ガルッ!?」
果たして僕の目論見は成功し、敵を全て焼き払うことに成功……すればよかったのだが。
≪狐火≫を発動するのに充分なMPが残っているにも関わらず、またしても火の粉が散って一瞬怯ませるだけの結果となってしまった。
「ちょっ、なんで」
「ガルァッ!」
「あんちゃんを放せ! ≪ソードスラーッシュ≫!」
「ガルッ」
「グルル!」
姪はなんとか助けようとしてくれたが、しかしそこは既に瀕死のHPしか残っていない僕に3体の狼がトドメを刺す方が早く。
このまま僕が死んでしまっては姪が1人残されるではないか、そうなると不安や恐怖を感じさせてしまうかもしれない。せめて何か遺さなければ……とは思うものの、遺言を言い残す時間さえも無く。
「あべし」
「あんちゃーん!!」
あっこれもしかして≪剛体≫と≪狐火≫って併用できないタイプのスキルだったかな? などと変に冷静な思考になりながらも、僕はこのゲームで初めての死を体験したのであった。




