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5. 謎のアルファベット:J

なんか意味深なアルファベットが出てきますが、書くときに適当に決めただけなので必ずしもその値が適切とは限りません。

大きすぎるな、または小さすぎるなと感じた場合、各自イメージしたそれっぽい大きさあるいは好きなサイズを脳内で当て嵌めてお楽しみください。

たぶんGとかHが無難です。逆にPとかでもいいです。



 ランジェリーショップに乗り込んだものの、打ち合わせなど何もなかったが故に僕の呼び名の問題でこっそり話し合うことになった僕たち。

 迅速な作戦会議により事情を知らない人の前では不審に思われないよう「司くん」ではなく「アンちゃん」と呼ぶ、その方針も決まったところでサラさんは次へと話を進めた。


「じゃあそろそろアンちゃんのサイズの採寸を始めましょうか」


 だがその話題と呼び名の急転換に、ついて来れなかった人もいた。花村さんである。


「アンちゃんって~?」

「この子のアダ名よ。そう呼んであげると喜ぶわ」

「そっかぁ~。じゃあアンちゃん、始めよっか~」


 流石は古くからの友人なだけあって、サラさんは自然な流れで呼び方を変えさせることに成功していた。スムーズに上手く行ってありがたい。


 しかし僕にとってはそれで安心するわけにはいかなかった。なぜならここからが本番だからだ。一難去ってまた一難、これから採寸の時間である。メジャーを取り出してヤル気満々な花村さんを見た限り、予想はできていたが測るのを手伝ってくれるということなのだろう。


「自分で測るっていうのは、ダメですか?」

「ダメよ、初めてなんだからやり方が分からないでしょう? そもそも分かってても誰かに測ってもらう方が正確よ」

「恥ずかしがらなくてもいいからね~。大丈夫、怖くないよ~?」

「あんちゃん、あたしがやったげよっか? やり方あんまよく分かってないけど」

「そ、それはいらない」


 姪にここまで言わせるとは恥ずかしい限りだが、しかし僕としては出来れば測りたくないものなのだ。女性の前で肌を晒して身体のサイズを測ってもらうというのが恥ずかしいというのもあるが、それ以上に僕の場合は事情が事情である。

 今のこの身体のサイズを測ってしまえば、認めたくない現実――ロリ巨乳狐娘の身体になってしまったという事実を、どうしても受け入れなければならないような気がしたからだ。


 しかしそんな僕の思いはお構いなしに、話は勝手に進んでいく。思えばこの僕が女性複数人を相手に自分の主張を押し通せるわけがなかった。仕方ないので渋々従うことにする。


「じゃあまずは胸のサイズを測るから、リュックを降ろしてね~」

「ええっ!? リュックを!? む、無理です! これを人前で降ろすなんて……!」

「んん~? なんかアンちゃんって恥ずかしがるとこ変わってるね~?」

「いやそういうわけではないんですけど……サラさん!」


 だが唐突に突き出された、リュックを降ろせという要求についどうしていいか分からなくなってしまう。考えてみれば当たり前だ。リュックを背負ったまま胸囲など測れない。

 現状はリュックを降ろすのが恥ずかしいのだと変な誤解をされているが、果たしてどう誤魔化すべきか。僕は花村さんの友人でもあり最も扱いに長けているサラさんへと助けを求めた。


 しかし返ってきた答えは、予想外のものだった。


「心配いらないわ、降ろして大丈夫よ」


 その顔は自信に満ちていた。見る者に安心感すらもたらすほどである。

 だがそれはそれとして安心したところで納得はできなかったので、再びしゃがんでもらってヒソヒソと内緒話で相談した。


「心配いらないって、どういうことですか? もしかして僕の事情、もう勝手に話してあったりします?」

「そんなことはしてないから安心してちょうだい。簡単な話よ、彼女は結構天然なところがあるからいくらでも誤魔化しが効くのよ」

「ああそういう……」


 言われてみれば、確かにその感じは分からなくはなかった。これまでの会話でも薄々勘付いてはいる。

 なので安心して……とまでは言わないが、少しドキドキしながらも大丈夫だと信じて僕はリュックの肩紐を外した。そのままリュックを背中から外せば、ずるりと穴から尻尾が抜け出る。姪はその光景が面白かったのか、なかなかキラキラした良い表情をしていた。


「あらぁ~? かわいい尻尾ね~」


 案の定というか、どうやら上手いことアクセサリーか何かと思ってくれたようだ。本物の尻尾を見たならもっと驚くはずである。これならまずは安心だろう。


「ふぅ……よし、お願いします」

「じゃあ試着室にいこっか~」

「いってらっしゃーい」


 もうどうにでもなれとヤケクソ気味にサイズを測る覚悟を決めた僕だが、当然のように試着室へと連行されることとなったので若干覚悟が揺らいだ。ワンチャンここで服の上から測ってくれないかと思ったのだが、そう上手くも行かなかったようである。


「じゃあ測るから、服を脱いでね~」

「うっ……は、はい」


 そして試着室のカーテンが閉められ、狭い個室に初対面の女性と2人きりになる。

 しかも服を脱ぐようにと言われたのでは、男なら誰だって心臓の鼓動が早くなるだろう。何も起こらないはずがない。まぁ実際このあと起きるのはロリ巨乳狐娘(ぼく)の採寸なのだが。


「わぁ~耳もかわいい~」

「あ、あんまり見ないでください」


 パーカーを脱げばまたもや微笑ましい目で見られることとなり、花村さんの柔らかい表情が更に優しい笑顔になった。


 しかし僕がTシャツを脱いで上半身を露にすると、一転してその表情が急に固くなった。


「……やっぱり、ブラ着けてないんだぁ?」

「は、はい……その、色々事情がありまして」


 唐突に頑固な職人の鋭い眼光のような目付きになった花村さんは、まるでさっきまでのおっとりお姉さんとは別人だった。

 ブラを売る仕事なだけあって、ブラを使っていないというのは許せないのだろうか。これから何を言われるのかと思うとガクブルである。


 そんな内心の時にふと、そっと胸に手を添えられたので少しビクッとなった。


「綺麗な形……これだけ大きくなるまで、ノーブラで垂れてないなんて……若さなのかなぁ~? でも、今はまだ大丈夫でも将来のためにもブラは着けた方がいいよ~」

「……はい」


 だがすぐに優しい表情に戻ったので、僕は少しだけホッとした。


 しかし……将来、か。何気なく使われた言葉が胸につっかえる。僕はまたこの姿から大人になっていくのだろうか。だとすれば今の段階でこれほど大きい胸はどこまで成長してしまうというのか。

 ……あるいは、成長しないということもあり得る。全体的な体格や身長は子供だが、実年齢を考えればこれで大人という可能性が無いわけでもない。それに今の僕がどういう存在なのかはあまりはっきり分からないが、妖狐だとか妖怪的なやつだとしたら歳を取らないのが定番だし……


「じゃあまずアンダーから測るね~」

「あっはい」


 と、僕は先の不安から少しセンチメンタルになったりもしたが、花村さんはそんな事情は知らずにあくまでも穏やかにテキパキと仕事をこなしていく。


「アンダーは……これだと60cmかぁ。ん~、やっぱり子供だし細いね~。じゃあ次はトップ測るから、ちょっとだけ手で持ち上げて支えてね~?」

「えっ……ぼ、僕がやるんですか?」

「うん、わたしはメジャー持ってるから~」


 僕的には未だに自分の身体を触るのに罪悪感や抵抗感が無いわけではないのだが、渋っても仕方ないので言われた通りに自らの胸を僅かに持ち上げた。僅かしか持ち上げていないにも関わらず、その球体は手にずっしりと重い。それでいてもっちりと柔らかで弾力があり……ダメだ動揺しすぎて食レポみたいになってきた。

 半裸で胸を触りながら女性に紐で巻かれているこの状況は、状況だけを文字にすればなかなかにヤバい。その実ただのサイズ測定なのでやましい行為ではないのだが、免疫の無い僕はこのままでは変な気分になってしまう。無心になれ、心頭滅却して心を落ち着かせろ。


「はい、終わったよ~」

「はぁ……はぁ……ありがとう、ございました」


 正気度を削られたことにより額に少し汗が滲んで呼吸が多少乱れたりはしたものの、なんとか耐えきった僕は服を着直す。

 パーカーにも再び袖を通そうとしたのだが、そこで再び花村さんの悪意の無い言葉が僕にダメージを与える。


「上は着直さなくても、どうせこのあと着けるためにまた脱ぐんだからいいんじゃない~?」


 冷静に考えれば、サイズを測ってそれで終わりなわけがなかった。そのサイズを基にしてこれからブラを買うに決まってる。そしてそれをここで装備していくことになるのだろう。ブラを買いに来てノーブラで帰れるとは思えない。


「じゃあサイズも分かったし、早速選びにいこっかぁ~」


 ブラを着けるだなんて男として激しく抵抗があるのだ。だというのに着けなければならないであろうこれからのことを考えてげんなりしつつも、花村さんのあとに続いて試着室から出る。


 するとそこには、結果報告を楽しみに待っていたかのようなワクワクが隠せない様子の姪と同僚の姿があった。


「ありがとう花ちゃん。で、アンちゃんの胸のサイズはいくつだったのかしら?」

「あたしも気になる! 教えて教えてー!」


 そして当然のように確認される秘密の個人情報。僕に人権は無いというのか。


「アンちゃんのサイズはねぇ~、なんとJカップだったよ~」

「なにそれあんちゃんすごい」

「嘘でしょう? そ、そんなに? 確かに大きいとは思っていたけど……まさかそこまでだなんて」

「大きい胸の事情に詳しくなかったら見た目で分からなくても仕方ないよ~。沙羅ちゃんはBだもんねぇ~」

「大きいことの大変さは貴女から散々聞いてるけど、それでもなんか見下されてるみたいでムカつくわね」

「ふふふ、理不尽~」


 その報告によれば僕はなんとJカップだったらしい。マジかよ。ていうか本人である僕も今知ったわ。

 ついでにしれっとサラさんの胸のサイズまで聞いてしまったが、これは大丈夫なのだろうか。聞かなかったことにしておいた方がいい気がする。あっやべサラさんめっちゃ睨んできてる。すみません頑張って忘れるので許してくださ……なんか睨まれてる位置がおかしいな? こういう場合いつもなら目を合わせて睨んでくるのになんか胸の辺りを睨まれてるぞ? これはどちらかというと胸のサイズを知ってしまった男の僕に睨んでいるのではなく、巨乳への憎しみで睨んでいるのでは?


「えーっとABCDEFG……」


 一方、姪はマイペースにアルファベットを数えていた。Jカップと言われてなんとなく大きいことは分かったものの、具体的にどの辺にJがあるのかはパッと思い浮かばなかったようである。まだ小学生だし無理もないだろう。僕もJカップという言葉からはピンと来ない。


「というか本当にアンちゃんのサイズはJなの? だとすれば花ちゃんよりも上じゃない」

「上だよ~、ブラのサイズだけならね~?」

「えっそうなの? でも春風お姉ちゃんの方がおっきいよ?」


 と、そこでサラさんの何気ない言葉から想定外の事態が発覚した。

 僕が花村さんよりサイズが上だと? どういうことだ? 見るからに向こうの方が大きいと思うのだが……遠近法的な錯覚なのだろうか。

 ていうかそれこの場で言っていいやつ? サラさんたまに僕が男だってこと忘れてない? 赤裸々にガールズトークを繰り広げるには不純物が混ざり込んでるんだが?


 そんな風に戸惑っていたら、しれっと姪にお姉ちゃんなどと呼ばせている花村さんが続けて解説しだした。


「ブラのサイズと胸の体積は単純な関係じゃないんだよね~。基準になるアンダー、つまり胸の膨らみより下の部分に対してどれだけ胸囲差があるかでカップサイズを決めるから~、高低差さえあればいいっていうか~」

「なるほど?」


 なるほどと言いながら首をかしげる姪はかわいい。叔父の僕だからこそ分かる細かな表情の差であるが、あれは全く理解できていない時の顔である。かわいい。


「理解したわ。つまり底面積に対しての高さによって得られる体積はあくまでも見た目の印象を決めるだけの要素でありブラのサイズを決めるための直接的な要因たりえないというわけね。だからこそ小柄なアンちゃんは胸の直径も小さいからコンパクトに纏まって、少ない体積で高く積み上げることにより大きなサイズに至ると」

「??」

「サラさん、るぅちゃんが全くついていけてないです。体積とか多分まだ習ってないですし」

「あら……ごめんなさい、話を難しくしすぎたわね」

「だいじょうぶ、完全に理解した」

「これはるぅちゃんが全く理解できてない時に言うセリフです」

「よく覚えておくわ」


 とはいえ僕はいくらか理解できてきた。つまり体格に対してのカップサイズの掛け算なのだ。

 例えば同じJカップだとしても、僕の小柄な胴体から生やすのと一般的な大人の女性のサイズ感の胴体から生やすのとでは、支える面積が違うということなのだろう。


「んー、でもさ。やっぱり見比べてみても……あっそうだ」

「ちょっ!? るぅちゃん!?」

「あらぁ~? 思い切ったわね~」

「これは……やるわね」


 そんな時、ふと思い立った姪は、何を思ったのか花村さんの大きな胸部へと小さな両手を伸ばしたのだ。


「ふむふむ……やっぱりおっきい……それに重いし、やわらかい」

「こ、コラるぅちゃん! やめなさい! すっすみません花村さん、ウチの子がとんだ失礼を……!」

「ふふふ、いいのよ~? 子供がしたことだもの~。何ならアンちゃんも触ってみる~?」

「いっいえ……僕は遠慮しておきます」


 あまりに思い切った姪の行動に僕は咄嗟に平謝りしたが、あくまで花村さんはおだやかに許してくれた。

 ついでにしれっと僕にまでお触りの許可が下りたが、目先の欲望に駆られて手を出すような行動は社会人としては許されない。女児のフリして女性の胸を触ろうだなんて、男の風上にもおけない極悪非道な行為なのでやるつもりはないが、サラさんも僕がそんなことをしようとすれば流石に見逃してくれないだろう。やるつもりはないが。


 しかしだからといって、やっていいこととダメなことの区別もつかない子には育ってほしくない。僕は心を鬼にして姪のその行為を咎めた。


「ダメでしょるぅちゃん、勝手に人の胸に触ったりしちゃあああっ!?」

「なるほどなるほど……確かになんか違う」

「あらぁ~」

「あらあら……これはこれはあらあらあら」


 だが僕が注意するより先に、姪はこちらにターゲットを変更していた。その手は既に僕の胸肉の形を確かめるかのように揉みながら撫でまわしている。しかもTシャツの下から潜り込ませての、直である。


「ちょっ何をっ……ひゃっ!? あっ、あはははは! く、くすぐった……んんっ!? そこはっ……! ふふっ、ハハハ!」

「これはなるほど……重くてもっちりでやわらかくて、それでいて適度な弾力とハリとなめらかさがあって。でも春風お姉ちゃんよりはちょっと軽い気もする、だけどこの丸み。小さくまとまってて、あと……丸みが丸い」


 真剣な顔の姪に胸の形や触り心地を比べた感想を言われながら、僕は未知の感触に悶える。狐耳や尻尾もそうだが、最近生えてきた部分は触り慣れていないので敏感なのだ。ましてや他人に触られるなどもってのほか。そこには胸を揉まれたとはいえイケナイ気持ちになるような余裕すら全く無く、ただただメチャクチャくすぐったい。

 姪にとってはこれといって特別な意図もなくただただ触ってみているだけなのだが、その拙い手つきで触られることに僕は我慢できず、制御不能となった尻尾がビクンビクンとのた打ち回っていた。


「小さい女の子同士がじゃれ合うこの光景、たまらないわね……今日は2人を連れてきてよかったわ」

「るなちゃん、どうだった~? ブラのサイズとの関係性は何か分かった~?」

「ううん、全然!」

「だよね~」


 だがそんな僕の犠牲の上で行った調査から、姪が得た情報は何も無かった。結果だけ見れば意味の無かったくすぐり地獄からようやく解放された僕は、そのまま店の床にへたり込む。


 しかしながら、一仕事終えた後の姪がとても良い笑顔で満足げな表情だったことは確かなのだ。

 それならば例えこの身がどうなろうとも姪が楽しかったのならそれでよかったじゃないかと、僕は今日だけで何度目かも分からないほど乱れた息を整えながら自分に言い聞かせたのであった。


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