16. 転生ルーレット(前編)
獣人の試練を終えた僕たちは村長の家に戻って来ていた。最終的にPTは全滅したが、アラサートレントを倒したのはなかなか健闘した方だろう。
「アンがケントにトドメ刺したってどういうことにゃ! 聞いてた話と違うにゃぁ!」
「まぁまぁ落ち着いて」
「どっちみちあのままだとワシ死んどっただろうしな。気にせんでいいぞ」
ちょっとした反省会を開けば、僕がケントさんを丸焼きにしたことが露見してミィに少し詰め寄られたりもしたが、まぁ些細な問題だ。本人が気にしなくていいと言っているので気にしない。
ちなみに分断されていたので見てなかったが、ミィはアラサートレント戦の最後の方で拘束されたまま死んでいたようである。
「いやぁ、皆さん大健闘でしたな。これは良い結果が期待できますよ」
「やったー!」
村長もこう言っているので頑張った甲斐はあったのだろう。具体的にどう結果が変わってくるのかは分からないが、まぁ姪のために期待できるのなら良しとする。
「ではこれを」
「なにこれ?」
「これはダーツの矢でして。回転する的にこれを投げて、命中した種族に転生できる。その名も転生ルーレット! お嬢さん方はステージ12までクリアされたので、矢は4本。つまりチャンスは4回というわけですな」
「おぉーなんか楽しそう!」
なるほど、普通に楽しそうだ。ランダム性がありながらある程度自分で狙いを付けられるというのはなかなかミニゲームを分かっている。ただのガチャよりよっぽど良いだろう。
「ところでお嬢さんは犬、猫、兎のどの獣人になりたいのですかな? 細かい種族はルーレットですが、おおまかな大分類までは選べますが」
「んー……その中なら、犬だけど。狐ってないの?」
村長が希望を聞いてみれば、やはり姪は狐がよかったらしい。恐らく僕がロリ巨乳狐娘になってしまったことによる影響なのだろう。
しかし無いと言われても食らいつくほどにまで狐を好きになっていたとは。自分の意思でこんな姿になったわけではないとはいえ、我ながら罪な男である。
「狐獣人ですか……どこかに少数存在するとは聞きますが、今のところ伝説のような話でしか聞いたことがありませんな。いずれにせよ人間から転生するのは厳しいでしょうなぁ」
「そっかぁ……」
狐は無理だと言われて露骨にガッカリする姪。もし今ケモ耳と尻尾があったなら、確実に力なく垂れ下がっていたことだろう。
僕はそんな姪を慰めるべく頭を撫でようと手を伸ばしたのだが。
「ま、あたしにはあんちゃんがいるしいいや。自分が狐になっても自分で撫でられるわけじゃないし」
姪は気持ちの切り替えがとても早かった。一瞬にしてすっかり立ち直った姪には、もう慰めは必要ないだろう。頭を撫でようと伸ばした手は行き場を失くし、手持ち無沙汰に宙を泳ぐ。なんともやるせない気持ちである。
幸い姪はそんな背後の様子に気付いていないようなので、気付かれる前に手を下げようとしたところ、その様子を見ていたのかニヤニヤと笑いを堪えるミィと目が合った。
僕は少しイラっとしたのでそのまま再び手の高度を上げ、爪先立ちしてミィの頭を乱暴に撫でてやった。撫で方が下手だと煽られた。クソがぁ!
「それでは今回転生するにあたり、犬系獣人の細かい種族を決める転生ルーレットはこちらです」
「あっすごい! テレビで観たやつだ!」
そんなことをしている間にも姪の転生手続きは着々と進んでいく。村長が隣の部屋から運んできたのは、バラエティ番組で見るようなカラフルで回転するタイプのダーツの的であった。それは円グラフのように別々の大きさに分けられており、今回転生する犬系獣人としての細かい種族が書かれて……ちょっと待ってなんか違うもの混ざってない?
「では内訳を説明させていただきましょう。まず全体の4割ほどを占めるのはアタリでもハズレでもない『犬』。普通のスタンダードな犬獣人ですな。そしてこちらは狭いですが、ハズレ枠の『駄犬』。魅力は高いですが知力に大きなマイナス補正があるので注意が必要ですな」
「アホかわいい感じか」
「マイナス補正は……流石にうーん」
おそらく可愛さの代償なのだろうが、大きなマイナス補正というのはいただけない。まぁハズレ枠だからあまり深く考えても仕方ないかもしれないが。
「もう1つのハズレ枠には『たわし』。これは記念品ですな」
「たわしかー、いらないや」
「記念品のチョイスおかしくない?」
「伝統ですな」
何の伝統なのかはハッキリと言わない辺り、村の伝統なのかバラエティの伝統なのか。ていうか種族決めろよと思ったが、道具選びのノリからして細かいことにツッコんでいたらキリが無さそうなのでなんとかスルーした。
「やや狭い枠には、小アタリといったところの少し珍しい種族が。『ポメラニアン』『マルチーズ』『狼』などですな」
「へー、狼もあるんだ」
「イヌ科ですからな」
さも当然のような態度の村長の返答に、姪はなるほどと納得する。
その割に同じイヌ科の狐はないのかと思ったが、せっかく姪があっさりと未練を断ち切ったのだからわざわざ蒸し返すこともないだろうと判断したので口に出さない。
「更に狭い枠には大アタリ! 『フェンリル』や『ケルベロス』などの神獣系を始めとし、記念品枠にも『温泉旅行』『スポーツカー』など豪華商品を取り揃えております!」
「その謎に豪華な記念品の充実いる?」
「ほう……温泉旅行か」
「当たったらついて行きたいのにゃ」
「あんちゃん聞いた!? スポーツカーだって!」
「るぅちゃんはそこに食いつくのおかしくない!?」
姪だけはせめて種族の方に食いついてほしいところだが、悲しいかな姪もまた豪華な記念品に夢中だった。いや別にいいんだけど、ここまで獣人転生のために頑張ってきたのだという想いからすると、なんともいえない複雑な気分である。
「それでは、何に当たるかお楽しみ! 転生ルーレットォ……スタート!」
そんな一通りの説明を終えると、村長は勢いよく的を回転させた。同時に部屋が少し暗くなってカラフルな照明が回転し、どこからともなくドラムロールが流れてくる。何だこの凝った演出。
「うおー温泉! 温泉こい!」
「たわしにゃ! たわし当たれにゃ!」
「るぅちゃん落ち着いて! 真ん中よりちょっと上ぐらいを狙うんだ!」
「よーしいっくよー……それぇっ!!」
そして元気いっぱいな姪の投擲。勢いよく飛んで行ったダーツの矢は、的に掠りもせず遥か彼方、上方右奥の壁に突き刺さった。ダメだわこれ元気すぎるわ。
「うがーなにこれ難しい……」
「うーん、ドンマイ」
「こいつは……4本じゃ厳しいかもな」
「惜しくもなんともなかったのにゃ」
「うぅ……そんなに言うならミィちゃんがやってよー」
「にゃ? 交代アリなのにゃ?」
「構いませんよ、共に試練を乗り越えたPTのお仲間であれば」
しかし意外なことに、このダーツは投手の交代が許されるとのことだった。それならまだ希望は消えていない。ダーツのミニゲームをさせてあげることは出来なくなるが、現実的な部分を見るなら不器用な姪が投げるよりは他の誰かが投げた方がいいに決まってる。
「にゃはははは! それならミィにお任せなのにゃー!」
交代に名乗り出たのは自信満々のミィだった。ただしミィはどんな時でも大抵自信満々な気がするので、開始前の自信はあまり宛てにはならないのだが。
「ケントさん、ミィってこういうの上手いんですか?」
ミィの自信を信じていいのか分からなかった僕は、飼い主であるケントさんに聞いてみた。なかなか大雑把というか豪快というか、とにかくそういう性格のミィにはあまりダーツのような精密さや繊細さが必要なことは得意なイメージが湧いてこないのだ。
その質問に対し、ミィのことを良く知っているであろうケントさんは自信をもって、さも当然といった表情で答えた。
「うむ。スマンな」
「なんで謝った」
「それにゃぁーっ!」
自信満々に交代したミィは、床に深々とダーツの矢を突き刺してその役目を終えた。冷静に考えてみれば当然の末路である。
「うにゃぁ……なんで前に飛んでいかないのにゃ……」
「出来るわけないだろうが、お前ダーツなんて初めてだってのに」
「えっ、ミィちゃん初めてだったの?」
「うぅー、るぅよりは上手くできると思ったのにゃ」
予想以上に根拠の無かった自信に呆れて言葉も出ないが、まぁミィだからなと納得する。
信じて役割を託したミィに期待を裏切られたものの、かといって自分で投げても望み薄だというのは姪自身も理解しているのだろう。行き詰ったような非常に苦々しい表情をしている。
そこから少し考えて、何かを決心したような表情になった姪が選んだ選択はやはり――
「あんちゃんお願い、代わりに投げて」
「任せて」
満を持して。
姪の願いを叶えることが使命、そんな頼れる叔父である僕の出番がやってきたのだった。




