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15. 火炎属性付与


 強敵『アラサートレント』との熾烈な戦いで、唐突に訪れた仲間の死。僕は助けられなかった己の無力感に苛まれながらも、しかし彼の犠牲を無駄にしないためにも立ち止まることはできないのだった。


「何があったのにゃ!? ここからじゃそっちの様子が見えないにゃ! なんでケントが死んでるのにゃ!?」

「トレントにやられた」

「トレントめ許さないにゃぁー!」


 システムログによってケントさんの死を知らされて、木の根の迷路のどこかからミィが問いただしてくるが適当に誤魔化しておく。穴の向こうの姪から若干呆れたような目で見られているのが心に刺さるが、今は詳しく説明している暇は無い。


「まぁ過ぎたことは仕方ない、僕も拘束から脱出しとくか。≪狐≫……」

「きゃぁっ!?」

「るぅちゃんっ!?」


 と、自らを拘束する根を焼くために≪狐火≫を使おうとした瞬間。短く響き渡った姪の悲鳴を聞いて咄嗟に見やれば、根の壁越しに隙間から姪が根に拘束されているのが見えた。

 僕は咄嗟にスキルの発動をキャンセルし、思考を通常モードから集中モードへと切り替える。極限まで集中して加速させた思考の中で導き出すのは、ピンチに陥った姪を助けるための手段。


 僕は瞬時に脳内に会議室を構築し、その円卓に並列思考による7人の分身となって着席した。

 ロリ巨乳狐娘が7人集まっている様はなかなか異様な光景だが、そんなことは気にしている場合ではないので軽く流す。


『えー、それでは只今よりるぅちゃん救出緊急脳内会議を開始したいと思います。司会はこの僕……』

『時間無いって言ってんだろ! 悠長な進行してんじゃねーぞ!』

『そうだそうだ! さっさと作戦決めるんだよォ!』

『……そうですね、ではまず状況を整理します。現在僕は硬い根で拘束されており、自由に動かせるのは首から上と尻尾ぐらい。つまり実質使える手札は≪狐火≫だけということです』

『待てよ、だったら焼けばよくねーか? るぅちゃんには≪狐火≫効かないんだしよ、間の壁ごと焼けるぐらいの火力はあるだろ』

『まったく、これだから脳筋は。それで解決するならこんな会議など必要ないのだ』

『脳筋だとぉ!? てめぇ僕の癖にインテリ気取りかぁ!? おぉん!?』

『落ち着くのだ僕よ。今は僕同士で喧嘩してる場合じゃないだろう』

『……チッ。そうだな、るぅちゃんが最優先だ。で、普通に≪狐火≫ぶつけて助けるとどんな問題があるんだ?』

『問題はその後だ。るぅちゃんを拘束から助け出して、敵の作り出した迷路に放り出しただけでは根本的な解決にはならない』

『くそっ僕が隣に立っていられれば……守ってあげられるのに』

『色んな事情抜きにしてもただただ共に戦いてぇ』

『それな』

『斬れないぐらい硬い根にHPドレインされてるから、るぅちゃん助けるのにMP使ったら死亡確定なんだよな僕』

『でも結局どこかでるぅちゃんに≪狐火≫使って拘束から助けないといけないんだよな』

『MPはどれぐらい残ってる? ≪狐火≫2発は無理そうか?』

『無理だ、ちょうど1発分ぐらいしか無い』

『自分を焼いてからるぅちゃんの方に飛んでいくように制御……は無理だな、そんな角度で動かせるほど慣れてないし、なにより余計なロスが間に挟まったら壁を突破する火力も足りなくなりそうだ』

『待てよ……? 何もスキルは≪狐火≫だけじゃないだろう? 他に何か使えるものは無いか?』

『他に? 確かに今あるスキルは≪狐火≫、≪人化≫、≪獣化≫、≪駆け斬り≫、≪アサシンスロー≫の5つがあるが……』

『そうだ、≪獣化≫ってあれ結構体のサイズ変わるし、それで拘束抜け出せないかな?』

『それだ!』

『でかした!』

『さすが僕!』

『≪獣化≫は消費MPゼロだからな、それで僕もるぅちゃんも助かるというわけか。考えたな』

『それならさ! 壁の隙間あるだろ!? あそこのちょっとデカ目の穴から、狐の体なら抜けられないかな!?』

『おぉ! 流石は僕たちだ! 次々と素晴らしいアイデアが湧いてくる……!』

『3人寄ればモンジュの知恵って言うだろ。モンジュが何なのかはよく知らないが、僕が7人も集まればモンジュの2倍以上だ。当然さ』

『そうだな!』

『狐の小さな体で穴から壁を抜けるとなると、るぅちゃんを拘束している根を焼くだけでは≪狐火≫の出力に余剰が生じます。余った火力を有効活用できないでしょうか?』

『ふむ……すぐ思いつくのは、アラサートレントの方向に向けて可能な限り壁を焼いて迷路をショートカットすることだが』

『≪人化≫の方にはMP使うし狐の姿から戻れないが、ポジションはるぅちゃんの頭の上でいいか?』

『なんか合体みたいでテンション上がるな』

『合体か……いっそ合体技にするか? こう、余った炎を使って……』

『なるほど……なら挙動は根を燃やしたあとに収束させて……』

『威力重視も捨てがたいが、それなら特性上持続力重視の方が噛み合いそうだ。あとは可能な限り薄くすることで密度を……』

『発動中にMPの追加消費とかで持続時間を延長できないか? そうすれば威力と持続を両立できそうなんだが』

『流石にそこまではできないんじゃないか? まぁやってみるのはいいと思うが』

『なかなか意見が出てきたな……このまま綿密に話し合ってからにしたいところだが今は時間がない、少し計画が粗い部分もあるが僕はもう戻ろうと思う』

『おう、任せたぞ僕』

『るぅちゃんを頼む、僕』

『ああ行ってくる。それじゃあ今日の会議はここまで! 全ては姪の為に!』

『『『『『『全ては姪の為に!!』』』』』』


 大方の方針が決まったところで僕は脳内会議を手早く切り上げ、意識を現実に……もとい、仮想現実へと戻した。

 姪のピンチを認識してから最適な解決策を導き出すまで。この間、実に約0.2秒。ごめんちょっと盛ったわ本当は10秒か20秒ぐらいかかってる。


 ともあれ僕は、僕たちと協力して知恵を振り絞って考えた作戦を実行した。全ては姪を助けるために。


「≪獣化≫!」


 このロリ巨乳狐娘の身体はある一部分を除けば子供同然に小柄で小さいが、≪獣化≫によって変化した狐の姿はこの身体とも比べるまでもなく、より遥かに小さい。なにせギリギリとはいえ、しがみつけば姪の頭に乗れるサイズなのだ。

 そのサイズ差の急激な変化を利用し、僕は木の根による拘束から脱出した。


 そして向こう側で姪が捕まっている方の壁に駆け寄り、絡まり合う根と根の隙間を通り抜ける。人間ならば幼児でも通れないような狭い穴だが、今の僕には何の障害にもならない。狐のスリムな体型が役に立ったな。


『るぅちゃん! 今助けるよっ!』

「あんちゃん!!」


 姪に声をかければ、心なしか割り増しで嬉しそうな返事が返ってくる。

 恐らく1人で心細かったのだろう。そこへ来ないと思っていた救助が来れば嬉しくもなる。僕が狐の姿で現れたことが嬉しかっただけというわけではないと信じたい。


『≪狐火≫』


 拘束される姪の足元にまで近付いた僕は、最後のMPですぐさま木の根を焼き払った。姪を中心に立ち上る小さな炎の竜巻はケントさんの時(先程の失敗)とは違い、身を焼くことなく邪魔な根だけを消し炭にしていく。

 それと同時に僕は自由になった姪の体を駆け登り、頭に乗って炎のコントロールに集中した。ぶっつけ本番、ここからが難しいところだが失敗するつもりはない。目の前の勝利を姪に献上できずして何が叔父か。


 僕は完成形とそこに至るまでのプロセスのイメージを頼りに、半ば自分に言い聞かせるようにスキル制御への命令として出力していく。炎に込められた魔力に働きかけ、挙動を再修正して姪の持つ剣へと収束させていく。


「……すごい、これは」


 姪はその手に握る剣を見て思わず驚きの声を漏らした。出来上がったのは、残り火を集めて剣に(まと)わせた炎の刃。表面を覆うオレンジの炎の揺らめき、赤熱した刀身。


 これが今の僕に出来る最後の一押しだった。全員拘束されたあの絶望の状況からではどう頭を捻っても姪の横に立って共に戦うことは叶わなかったが、それでも可能な限り力になろうと作り出したこの技術。持てる全てを出し尽くした最善手――それが、最後の力の残りを振り絞って姪自身を強化するという選択だったのだ。


『≪狐火≫を纏わせた炎の剣……名付けて≪火炎属性付与エンチャント・ファイア≫ってところかな』


 既存のスキルの応用、あるいは組み合わせにより存在しないスキルを創造する。

 このゲームではリアリティを考慮した結果そういうことも一応できると聞いてはいたが、だとしても我ながらよくこの土壇場で上手く行ったものだと感心する。やはり姪のためにという強い想いが大きなプラスに働いたのだろう。

 

 と、そこでちょうど新スキルの習得を通知するシステムメッセージが表示された。名前をつけたことでスキルとして登録されたということだろうか。



【スキル≪狐火(きつねび)(まとい)≫を習得しました。】



 ……どうやらゲーム側は、僕の付けた直球の名前はお気に召さなかったらしい。即座に改名された。勝手に随分とカッコよくされたものである。


『るぅちゃん、僕に出来るのはここまでだ。この≪狐火・纏≫の力を託すから……あとは任せたよ』

「うん、まっかせて! これなら負ける気しないもんね! ……あれ? さっき聞いたのとスキルの名前違わない?」

『さっきからこんな名前だよ』

「そっかー」

『ほら、いつまで持つかも分からないんだから早く』

「はーい」


 姪が細かいことを気にしないのを利用して雑に誤魔化し、変にツッコまれない内に話を進める。

 実際この形を維持するだけでもついさっき自然回復した分のMPがすぐさま消費されてしまったので、如何ほどかは分からないがコストがかかっているはずなのだ。いつ途切れてもおかしくない以上、早期決着に越したことはない。


「てやぁっ!」


 気持ちを切り替えて試しにその剣を目の前の木の根の壁に振るってみれば、弾かれることなくあっさりと振り抜いた。先程まであれほど全く斬れなかった根が、いともたやすく切断できたのだ。

 いや、焼き切ったのだろうか。詳細は分からないがとにかくこれが有効打であることは理解した。


「すごいよあんちゃん、あんなに硬かったのに簡単に斬れる!」

『やっちゃえ、るぅちゃん。このまま一直線だ!』

「うん! いくよ、≪ブレイドダンス≫!」


 これなら行けると確信した姪は、連撃のスキルを発動して次々と壁を破壊していく。その流れるように滑らかな連続斬りはまるで舞いのようで、剣の軌跡を追うように尾を引く炎が幻想的な光景にすら感じられた。

 もはや迷路を形作る壁は何の障害にもならない。硬い木の根をバターか何かのようにあっさりと斬って道を作る姪の快進撃は、誰にも止められない。あっという間に迷路の最奥、アラサートレントのところまで辿り着いた。


『着いた!』

「いっけぇぇぇぇ!!」


 そのまま姪は本体へと力の限り連撃を叩き込み、僕は頭の上から全力で応援する。

 頭上の枝ではまだ僅かに炎が(くすぶ)っており、爆弾サクランボは落ちてくる前に破裂していっている。上に対してはカウンター警戒の必要はないだろう。


 思う存分振るわれた燃える剣は硬い幹をも深く抉り、次々と傷跡を作り出していく。心なしか徐々に纏った炎の火力も上がっている気がするが、≪ブレイドダンス≫のコンボボーナスでも乗っているのだろうか。

 ともあれ敵の耐久型ボスモンスターのHPも、あと僅か。このまま削り切れば僕たちの勝ちだ。


「よしあとちょっと!」

『トドメだ!』

「コンボフィニッシュ! ≪ソードスラッシュ≫ッ!!」


 姪はトドメの一撃にスキルを連携させ、バットをフルスイングするかのように剣を強く振る。刀身に纏った炎は一際(ひときわ)強く燃え盛り、剣の通った空間に炎の弧を描く。

 そしてアラサートレントの硬くて太い幹にめり込み――そのまま振り抜いて、断ち切った。

 その攻撃により残ったHPを全て削り取られ、巨木のボスモンスターは光のエフェクトとなって消滅した。同時に敵の体の一部であった根の迷路も消えていく。


 つまるところ、僕たちの勝利である。


「勝っ……たぁぁぁぁ!! はいあたしたちの勝ちー! いぇーい!」

『はぁー、なんとか勝った……むぐっ』


 ギリギリの状況でなんとか勝利を納めたことで、張り詰めていた緊張の糸が切れてつい脱力したところを、姪に頭から降ろされて抱きしめられる。この小さな体ではそれほど強く締め上げられなくとも普通に苦しいのだが……まぁいい、姪はラストを1人で戦い抜いたMVPなのだ。僕の体ぐらい好きにさせてあげるべきだろう。あっその首のとこ撫でるのはやめて気持ちよくなっちゃう。


「あんちゃんもがんばったねー、えらいねーよしよし」

『ちょっ……る、るぅちゃん』


 抱きしめる力が緩んだかと思えば、おもむろに姪は僕の頭を撫でながら小さい子供の相手でもするかのように褒め始めた。あるいはペット相手にでもするような態度だ。30歳の成人男性としては、流石にこれは恥ずかしかった。

 それに僕は、どちらかというと可愛がられるより可愛がりたい側なのだ。確かにガチの狐はかわいいかもしれないが、僕にとっては姪の方がかわいい。


『小さい子供みたいな扱いは、流石に恥ずかしいというか。いくら今が狐の姿でペットみたいだからって、ペット扱いとかも……あんまりかわいがられるのは大人の男としてのプライドがなんというか……』


 なので僕は、やんわりと抗議した。やんわりとしか抗議できないのは、相手が最愛の姪なのであまり強く否定して悲しませたくないというのと、あとはこの抵抗感があくまでプライドによるものでしかないからだ。本音を言うならプライドなんてかなぐり捨てて10歳の姪に飼われたいに決まってる。


「あはは、ごめんね。どうしても見た目が狐だとつい本物の狐みたいに可愛がっちゃって」

『まったくもう。まぁ、ちょっとぐらいならいいけど……』

「ホント? やったー! でも、嫌なら元の姿に戻ってくれていいからね? どうせ戻ってもあたしよりちっちゃくて妹みたいだから、そのままかわいがるけど」

『結末あんま変わらなくない!?』


 なにはともあれ勝利の余韻に酔いしれた僕たちは、結局そのままペットと飼い主の如きスキンシップをしばし楽しむのであった。


 ――ちなみにこの時は完全に忘れていたが、アラサートレントは倒したものの別にこの試練が終わったわけではないのだ。心の準備も何も無しでいきなり次のステージが始まって瞬殺されるまで、あと10秒程度といったところである。


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[一言] 業が深い
[一言] 主人公がすごいを通り越してキモイ
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