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14. 立て直し


「もーっ、ちゃんと真面目にやってよね!」

「まったくだにゃぁ!」

「すみません……」

「その、スマン」


 僕とケントさんが話し込んでいる間に『アラサートレント』のツタに拘束されて締め上げられていた2人を、なんとか救助して体勢を立て直した僕たち。

 だが立て直したとはいえ、あくまでも拘束を逃れただけに過ぎない。姪もミィもHPがほとんど残っていないし、前衛としては不安が残る耐久力だ。ここは回復しておきたいが……僕たちのPTにヒーラーはいないし、ポーションも残っていない。もはや僕たちには、気休め程度の自然回復ぐらいしか回復手段は残されていなかった。


 そこで僕たちは、この状況を覆すためのある作戦を立てた。


「あんちゃんがんばれー」

「やれにゃトレント! 生意気な狐をぶっとばすにゃー!」

「お前はなんでそっち応援しとるんだ」


 作戦内容は至ってシンプル。

 僕が敵を引き付けて1人で戦うことで、自然回復の時間を稼ぐ。それだけである。

 他の3人は少し離れた場所の地面に座って待機している。本当は『休息の焚火』が出せれば良かったのだが、戦闘中や特殊マップでは基本的に使えないので仕方ない。ちなみに僕が囮役に適任だろうというのはミィの発案である。


「くそっミィのやつあとで覚えてろよ……! あぶなっ!?」

「チッにゃ。今のは惜しかったにゃ」

「あんちゃんがんばれー」


 幸い敵はほとんどその場から動かないので引き付けるのはまだ楽だが、今はアラサートレントの残りHPが3割を切ったことによる追加モーションがなかなかつらい。たまに地面から勢いよく根が飛び出してくるのだ。幸い地面がゆっくりと少し盛り上がってから出てくるので気を付けていれば分かるが、こんなもの当たったら串刺しにされてしまうだろう。


「このっ! くらえ!」


 可能な限り敵の攻撃手段を潰し、それでも封じられない攻撃は回避。折を見て接近して短剣で攻撃することも欠かさない。ダメージはほとんど無いが、たまに攻撃しないと引き付けたヘイトが薄れて僕以外が攻撃対象にされてしまうからだ。

 キツツキの如く素早く何度かコンコンと幹を短剣の切っ先で叩いて、これぐらいで充分だろうかと距離を置こうとした時だった。


「よし、一旦下がって……ってうわっ!?」

「あんちゃん!?」

「セーフ! 何いまの!?」

「爆発したのにゃ!」


 偶然ちょうど下がったタイミングだったのでなんとか事なきを得たが、不意に僕がさっきまでいた場所の地面が爆発した。その爆炎は一瞬にして人1人を丸焼きに出来そうな大きさにまで広がる。ちょっと火薬多くない?

 直前に何か木の実のようなものが落ちてくるのが見えたが、まさかあの小さな木の実が爆弾だとでもいうのだろうか。


「ふむ……ワシが今調べたところによると、どうやら枝に(みの)っとるサクランボが爆発物らしい。直接幹を攻撃するとカウンターとして落ちてくるみてえだな」

「へー」

「なるほどにゃぁ」


 僕が未知の強力な攻撃に緊張感を高めながら戦っていると、待機中のケントさんが攻略情報を調べてくれていた。ありがたい、そういうのすごく助かる。


「他には!? 何か追加の攻撃あったりするんですか!?」

「安心しろ! それだけだ! ただし根はたまに拘束もしてくる上に、斬撃にも打撃にも強いから気を付けろ!」

「了解!」


 まだ何かあるかもしれないという疑いの中で戦うのと、動きを全て把握した上で戦うのとでは安心感が全然違う。例え回避するのが難しい攻撃もあったとしても、覚悟さえできていれば初見の攻撃よりは避けやすい。


 時には離れてナイフを投げ、時にはカウンターに注意しながら近付いて斬りつけて、そして度々下から来る根の攻撃も躱して。時間を稼ぐことそれだけに集中した僕は無心でそれを繰り返していたが、やがてそれにも終わりの時間が来た。


「あっ!? しまっ……」

「アン!」


 運悪く敵の複数種類の攻撃タイミングが重なり、回避しきれなかったのだ。投げナイフを花に投げた直後に足元の根を回避したまでは良かったのだが、そこで何本ものツタに囲まれて捕まってしまったのだ。もしかすると何度も繰り返した僕の回避を、敵も学習してしまったのかもしれない。

 僕の時間稼ぎが最後の希望である以上、僕を助けてくれる前衛はもう残っていない。万事休すかと思ったその時。


「てやああっ!」

(クロウ)!」


 僕の体に絡みつく何本ものツタが、剣と爪によって斬り裂かれた。まさか助かるとは思っていなかった僕は驚いた顔で思わず振り返る。

 するとそこにいたのは、もちろん――


「るぅちゃん! ミィ!」

「あんちゃんおまたせ、助けに来たよ!」

「にゃはははは! 回復も終わって完全復活だにゃー!」


 僕を助けてくれたのは、HPを回復し終えて戦線に復帰した仲間たちだった。僕は足止めという役割を完遂できたのだ。


「これで……いける! 反撃開始だ!」

「おーっ!」


 心強い仲間たちの復活により勝利を確信した僕は、長時間回避に集中し続けたことで擦り減った精神に再び活力が漲るのを感じる。姪が隣で戦ってくれるということは、僕にいくらでも力を与えてくれた。


「まずはさっきの仕返しにゃ! オラァッにゃ!」


 手始めにミィが渾身の力を込めた右の拳を叩き込み、ついでに左で軽く追撃のパンチを放ってから素早く飛び退く。

 その衝撃で落ちてきたいくつかの実が爆発するが、事前に分かっていた反撃が通用するようなミィではない。


「よーしあたしも……」

「待て、るな。ワシに作戦がある」

「作戦?」

「おうよ。アン、お前があんま攻撃せず長時間戦ってた間に、実が結構溜まっとるだろう?」

「それは……そうですね。いや、でも仕方なくないですか?」


 言われてみればアラサートレントの枝には、かなりの数のサクランボっぽい果実が実っていた。あれが全て爆弾なのだと思うと気が滅入るが、今更さっきまでの消極的な戦い方のせいだとか文句を言われてももう遅い。そういうのはもっと早く言って欲しかった。


「ガハハ、別に責めとるわけじゃない。むしろ逆に利用してやろうってわけだ」

「利用?」

「どうするの?」

「あの実はちょっとした衝撃で爆発するみたいでな。アン、お前の≪狐火≫を広範囲にして巻き込んでやりゃあ、全部一気に爆発してあいつ自身も巻き込まれるんじゃあねぇか?」

「なるほど!」

「ホントだ! あんちゃん、やってみようよ!」

「うん」

「つーわけだ! ミィ、一旦下がれ!」

「何か作戦立てたのにゃ!? 聞いてなかったにゃ!」


 ミィを適当な場所に一旦下がらせ、僕はスキルを発動するため集中する。狙いは広がる枝全域、ついでにしばらく妨害してくれるように着弾した箇所で燃え続けさせるイメージを籠めて魔力を練り上げる。持続力は(まと)当ての時に作った(まと)と同じ、広範囲に拡げるのはファニービーに使った時と同じような感じだ。


「まとめて消し飛ばせッ! ≪狐火≫ッ!!」


 そして差し出した手のひらから勢いよく炎を放出する。武器や尻尾からも炎は出せるが、やはり素手の右手から出すのが一番やりやすい。

 炎はあっという間に大木の枝や葉に燃え移り、そしてボンボンといくつもの轟音を響かせて次々と実を爆発させていく。枝への攻撃はダメージが通りづらいとは言っても、あれほど大量の爆弾が一気に爆ぜたのでは流石に軽減しきれずかなりのダメージとなってボスモンスターのHPバーを大きく削った。


「よしっ成功!」

「おおー! すごいよ効いてる!」

「あと少しだにゃぁ!」


 これで敵のHPは残り1割にも満たない残り僅か。既に実質勝利したようなものだと凱旋ムードが漂い始めた、その時だった。


「よーしワシも追撃だ、≪ファイア≫……ぐぅっ!?」

「ケントさん!?」

「ケント!!」

「しまった!」


 派手に燃え盛る枝のある上方向に気を取られ、また大きな爆音のせいで聴覚が少し麻痺してしまっていたこともあり、地面の下から迫る根の攻撃に気付かなかったのだ。ケントさんはあっという間に根に拘束されて身動きできなくなってしまった。


「このっ……って硬っ!? なにこれ!?」

「くそっ、ツタと違って硬すぎて斬れない……!」


 姪と僕は根を斬って助けようとするが、しかし僕たちでは硬い根を切断することはできなかった。


「ケント、今助け……にゃっ!?」

「ミィ! 何やっとんだ!」


 そしてそんな様子を見て助けに駆けつけようとしたミィもまた、焦りからかツタに拘束されてしまう。マズい、一瞬でPTが半壊した。


「まずはミィを……わっ!?」

「なにこれ!?」


 とりあえず根を斬れないことには助けられないのでケントさんを一旦諦め、ツタに拘束されているだけなので助けられそうなミィを助けに行こうとしたのだが、それは叶わず防がれてしまった。

 この最悪の状況に、ダメ押しとばかりに地面から無数の根が周囲に壁のようにせり上がって来たからである。あくまでも根と根が絡み合って形作っている壁でしかないため、至る所に穴や隙間が沢山あるが、それでも人が通れるほどの隙間は見当たらない。


「ちょっとケントさん!? 他の攻撃方法はもう無いんじゃなかったんですか!?」

「うーむ正式リリースからの追加モーションなのかもしれん……」

「あんちゃんこれ迷路みたいになってる! どうしよう行き方わかんないよー!」


 姪に言われて辺りを見渡せば、どうやらこれは迷路で身を守っているボスモンスターのところに行ってトドメを刺さないといけないらしい。最悪なのは姪とも分断されてしまったことか。壁の向こうから大き目の穴を通して顔を覗かせてくる姪はかわいいが、今はかわいがっている場合ではない。僕はひとまずスクリーンショットを撮影するだけに留めた。


 くそっ、ここの運営はボスモンスターに最後の最後で初見殺しの行動させるの好きすぎだろ。あとちょっとって希望持たせてこういうことするのマジでやめろって!

 と、文句を言いたくなるがそんなことを思っていても何も始まらない。どうするべきか……と僅かな時間だけ考えていたら、その間に僕も脚に根が絡みついていた。しかもジワジワと体を這うように登ってきている。


「あっちょっマジで!?」

「あんちゃーん!?」

「くそっアン! ワシに絡んどる根を焼いてくれ! 手の向きが変な方向に拘束されとるせいで自力じゃ無理だが、確かお前の≪狐火≫なら味方にもダメージは無かったからちょうどいい!」

「すいませんアレ自分とるぅちゃん以外には味方でも普通にダメージ入るんですよ」

「どういう仕組みのスキルだそれ!?」


 だが根にはHPドレインの効果か何かがついているようで、徐々にHPを吸収されているのが分かる。こうしていてもやられるのは時間の問題である。ならばどうせやれることは限られているのだ、ダメ元でも全て試してみるべきだろう。


「でもまぁとりあえずやってみます! ≪狐火≫!」

「ぐわああああああっ!?」

「ケントさーん!?」


 僕の方も既に足元から徐々に登ってきた根の拘束に腕まで縛られていたので、尻尾をケントさんの方に向けて炎を放った。火だるまになったケントさんは普通にダメージを受けているようなので、やはりこの炎は味方に当たらないというわけではなくただただ姪だけを焼かない特別な炎でしかないらしい。わけがわからない。いや、僕のスキルとしては正しいんだが。

 その炎は見事に拘束の根を焼き尽くし――そのままの勢いで、当たり前のように要救助者ごと消し炭に変えてしまった。


「……ちょっと火加減を間違えちゃったかな」


 地面に倒れる物言わぬ死体となったケントさんは、見た目こそゲームの対象年齢の都合で外傷もなく眠っているようだが、HPゲージも無くなってるし間違いなく戦闘不能状態である。蘇生アイテムも蘇生スキルも持たない僕たちにとって、ここからの戦線復帰は万に一つも望めない。


 やべっやっちまった、などと内心焦りつつも、やってしまったものはもう仕方がないので僕は素早く気持ちを切り替えることにしたのだった。


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