1. 妖狐と猫又
いつも応援ありがとうございます。
今回から第2章です。2日目とも言います。
僕は今、ある路地の入り口付近で姪の到着を待っていた。もちろんロリ巨乳狐娘の身体は目立つので、気持ち物陰に隠れ気味である。
待ち合わせとかいうオンラインゲームっぽいことをしてみたいとの姪の希望で、こうして噴水の見えるオシャレな路地を待ち合わせ場所に指定したのだ。
ちなみに待ち合わせ時間まであと20分といったところである。ようやく10分経ったか。
だが僕はこの場所を選んだことを内心後悔していた。
すぐ側で、朝から修羅場が繰り広げられているからである。
「行くにゃ行くにゃ! 行きたいにゃあ~!」
「ええい行かんと言っとるだろうが!」
この路地の入り口付近で言い争いをする男女。猫耳がついてて尻尾を2本も生やしたショートヘアーの少女と、褐色肌に厳つい顔の青年だ。どちらも髪色は白である。
言うまでもないかもしれないが一応言っておくと、語尾に「にゃ」とかついてる方が少女である。
この2人がどこに行く行かないで揉めているかと言えば、この路地の先にある『ナイトエリア』である。その名の通り、健全なゲームに何故か存在する常夜の街。18歳未満はシステム的に完全な進入不可、中の様子を遠くから視認することさえできない。
そこにはベッドが回転する宿屋や通常エリアに持ち出せない大人向けアイテムショップ、NPCによるサービス業の店など、色々と全年齢対象ゲームでは描写できない施設を取り揃えているという。マジでこの全年齢対象ゲームに何を考えて作ったんだ開発陣は。
ちなみに僕としては、あくまで姪が行けないエリアなので全く興味がない。たださっきこっそり入って見てきただけでも色々と凄かったので1人の時にまた来ようと思う。あ、いや興味はないけど。
「折角の機会なのにゃあ! 逃してたまるかにゃぁ!」
「だからワシはお前をそんな目では見れないと散々言っとるだろうが」
「嫌にゃあ! 絶対に交尾するにゃあ!」
「おいやめろそんな言葉往来で叫ぶな!」
距離が近いせいで嫌でも聞こえてくるその会話内容には流石の僕もドン引きである。周りのプレイヤーたちも関わりたくないのか、それとなく立ち去っていく。
そもそも猫耳少女の方は見た感じせいぜい12歳とかその辺なのだ。そんな少女とそんなことを言い合う関係にある男にも、何もかもドン引きである。
……というかこの子、言葉の意味を理解して言ってるのか? それに年齢制限で入れないはずだし……
「だってミィ折角この姿になったのにゃ。だったらせめて……んにゃ?」
「ん? 急にどうした?」
あっヤバイ、なんか視線に気付かれた。物陰に半分隠れてたのに。
僕は咄嗟に目を逸らしたが、手遅れだったようで猫耳少女が近付いてくる。やべぇよやべぇよ、何ガン飛ばしてんだオラァみたいなこと言われたらどうしよう。これでも僕は小心者なのだ。勘弁してほしい。
「狐にゃ!」
「ん? んん……!? お、おう。狐だな」
「ど、どうも」
結局今更逃げるわけにもいかず、目の前にまでやって来られてしまった。後ろと横は路地に設置された箱みたいなオブジェクトと壁に囲まれているので、完全に逃げられない配置である。
ちなみに男の方は僕の姿が珍しかったのか、直視してなお二度見三度見していた。
とりあえず軽く挨拶はしたが、慣れ親しんだ血縁者の姪ならばともかく、初対面の少女と話をするなんて下手すれば事案なので内心ガクブルである。ましてやあざとい語尾の不思議ちゃんだ、慎重に言葉を選ばなければならない。
「あ、この子ケントの顔を見て怖がってるのにゃ。ちょっとオマエは向こうに行ってるにゃ。話が終わったらミィも行くにゃ」
「ああ? そんなことないだろ……って向こうってナイトエリアじゃねーか、行って堪るか」
「チッにゃ」
あ、待ってこれ話しかけといて放置される一番つらいやつじゃん。ごめんマジやめてそれ。
「つーかミィ、何か用があって話しかけたんだろ、そろそろ用件を言ってやったらどうだ」
「それもそうだったにゃ。ゴメンにゃ」
だが男の方が気を遣ってくれたので、なんとか苦しい時間はすぐに終わった。
話を戻して、猫耳少女が話し始める。
「ミィだにゃ。よろしくにゃ」
「あ、えっとアンクルです。こちらこそよろしく」
「ワシはケントだ。コイツの……まあ保護者とでも思っといてくれや」
「むーっ、違うにゃー」
「黙っとれ、実際の関係は説明すんのが面倒だ」
とりあえず自己紹介らしきものをされたので、こちらも名乗り返す。
その時に真正面から目を合わせて見てみれば、ミィは青と黄色のオッドアイをしていた。僕が言うのも何だが相当個性的なアバターだと思う。
しかしなんだかことあるごとにイチャイチャを見せつけられているような気がするのは気のせいなのだろうか。決して僕が童貞だからというわけではないが、なんだかほんの少しだけイライラする。
「えーっと、じゃあアン……えー、アンでいいにゃ? ミィのことはミィでいいにゃ」
「あっはい」
「それじゃあアンに質問にゃ。アンはリアルでも狐なのにゃ?」
……!?
予想外の話の切り口に僕は思わずドキッとした。どういうことだ? ゲームの中で初対面のイロモノアバター相手にそんなこと聞くか普通?
もしかして……ミィも僕と同じか、似たような境遇なのでは……? なにせ僕という前例がいるのだ。ありえない話ではないだろう。ただ僕の勘違いという可能性もあるので、慎重に探りを入れてから答えることにする。
「えーっと、なんでそんなこと思ったのかは知らないけど……もしかして、ミィはリアルでもその姿だったりするの?」
「にゃ……? アン、何を言ってるにゃ? リアルにこんな猫耳美少女がいるわけないにゃ。これはアバターでしかないにゃ。なんかキャラクター作成時に勝手にこうなったのにゃ」
「あっ……だよね! ハハハ!」
あっぶねー! ですよね! 普通そうだよね! 現実世界に猫耳美少女なんていないわ普通、ロリ巨乳狐娘だっているわけないんだったわ。危うく頭のおかしい人認定されるところだった。
どうやらミィはロールプレイをしているだけだったらしい。急にマジレスで返されたけど。
「で、アンはどうなのにゃ?」
「うん、僕もこれただのアバターだからね。いやーなんでか知らないけどこうなっちゃってさ。リアルでは当然、普通の人間だよ」
僕は得意の空気読みスキルで正しい答えを導き出し、当たり障りなく答える。考えてみれば当然だ、こんなの誰に聞いてもそう答える。まさかリアルでもロリ巨乳狐娘ですだなんて誰が答えようか。
「……ま、そりゃそうかにゃ」
だが、なんだかその答えを聞いたミィはどこか寂しそうな表情をしたように見えた。あれ……もしかして僕は答えを間違えたのか?
と、一瞬沈黙が挟まって気まずくなりそうになったところで、ちょうどタイミングよくそんな空気を打破する声がかけられた。
「あんちゃんお待たせーっ!」
「あ、るぅちゃん!」
予定より15分も早く到着したのは、僕の自慢のかわいい姪であった。今日も朝から弾けるような笑顔を貰って、僕も1日分のエネルギーチャージ完了である。
「早かったねるぅちゃん、もっとゆっくり寝ててもよかったのに」
「ん、時間まで待ちきれなくて。ところで……そっちの人は?」
なんだかそわそわしていたので視線を追ってみれば、姪はミィの耳と尻尾をチラチラと見ているようだった。時たま僕の方の耳と尻尾も間に挟んでチラ見しているあたり、やはりケモ耳が気になるのだろう。
「ミィだにゃ。オマエはアンの友達にゃ?」
「るなちーです! あんちゃんの、姪! よろしくねミィちゃん!」
「るにゃ……にゃ? る、にゃ……上手く言えないにゃぁ!」
「にゃーっ……かわいい……」
姪にとってはミィは年上のはずだが、それでもまるで年下の小さい子かペットでも見ている時のような表情で悶えている姪には、お前が一番かわいいよと言わざるを得なかった。
ちなみにこの表情、今の身体になってからはたまに僕にも向けられてる。
「言えないんならさ、あんちゃんはあたしのこと『るぅちゃん』って呼んでるよ」
「む、それならミィもるぅって呼ぶにゃ! これならミィでも言えるにゃ!」
こうしてなんだか成り行きで仲良くなり、ケントさんも「姪……? いやありえなくはないか……」などと少し考え込んでいたが、姪に軽く自己紹介を済ませた。
この男、最初はミィとの関係を見るにロリコンかとも思ったのだが、どうにも僕や姪に対してはそういうわけでもなさそうな態度だったので僕は少し警戒を緩める。ただのシスコンとかなのだろうか。
「それであんちゃん、ミィちゃんと何してたの?」
その姪からの問いに、僕はどう答えるべきかと一瞬悩む。
なにしろ狐かどうかと聞かれただけで、特に僕からは用もなかったのだ。
「あ! もしかして今日の冒険いっしょに行こうって話だったり!?」
「そうだよ」
「にゃっ!?」
しかし僕の自慢の聡明な姪は自力で答えを導き出した。その予想は間違ってたが……あくまでも現時点で、というだけの話である。結果的にそうなってしまえば姪が正しいということになるのだ。僕は姪が白と言えば黒でも白く塗るタイプの男である。
「まぁまだ返事は聞けてないけどね。どうかな、2人とも。少しだけ僕たちとPT組んでみない?」
「むむむ……しかしミィたち、今日は1日ナイトエリアに篭る予定が」
「無ぇわそんなもん。別にいいだろミィ、たまには大人数でワイワイやんのも楽しいもんだぞ?」
「ホント!? 一緒に来てくれるの!?」
「うっ……そ、そんな期待の目で見ないでほしいにゃー」
なにやら渋る様子のミィだったが、別に嫌というわけではないようで、あと少しで落とせそうな様子だった。
そこに謀ったように的確なタイミングで、姪の天然の追撃が入る。
「ダメ……?」
「しょうがないにゃあ……」
「やったーっ!」
流石にこれだけかわいい姪の上目使いにはミィも勝てず、見事に秒で陥落した。無理もないことだ。ウチの姪は可憐すぎる。
惜しむらくはそのかわいい表情が僕に向けられなかったということぐらいか。スクリーンショットは撮ったが。
ともあれ姪の喜ぶ顔が見られてまずは満足である。偶然の出会いと勘違いと悪ノリによりキャラの濃い仲間を得た僕たちは、早速今日の冒険へと出発したのだった。




