5. 追加メンバー
ここは『西の平原』。
今日は姪の友達も一緒ということで、初心者を連れて来るのにちょうどいいフィールドである。
そんな場所で僕たちは、既に何度か戦闘を繰り広げていた。
今のところは『ファラビット』が何匹か同時に出て来る程度でしかないのもあり、冒険は順調だ。まぁたとえボス級が出てきても、この辺の敵だったら僕と姪だけでも余裕だし順調にならないはずがないんだけど。
「えーいっ!」
「ギュィッ!?」
そしてまたしても緑髪のオシャレ三つ編みを揺らしながらモカの魔導書、そのハードカバーの背表紙がファラビットの脳天へと振り下ろされる。
魔導書は武器として設定された物理攻撃力こそ控えめだが、見た目だけなら充分な殺傷力を感じさせる一撃である。リアルでやられたら痛いで済まないだろう。
しかしモカだけでなくリリーもだが、二足歩行のウサギに対して急所狙いに躊躇が無いのはすごいと思う。いくらゲームと割り切ってるとはいえ、ここまで容赦なく顔面や頭部を狙いに行けるとは。最近の女子小学生がナチュラルに修羅すぎて怖い。
「≪短剣キック≫!」
「ギュッ!?」
などと考えながらも、僕は炎を纏った回し蹴りをファラビットの頸椎に目掛けて叩き込む。
この≪狐火・纏≫と≪短剣キック≫の組み合わせ、実はなかなか経験値効率が良いのだ。炎を使うので≪狐火≫に経験値が入るのはもちろん、≪短剣キック≫は『短剣』と『体術』の両方のスキルを使用していることになる。そういうわけで、こういう格下相手で余裕がある戦いにはちょうどいい。
「……あっ! み、みて! スキル覚えたよ!」
「えっホント!? おめでとうトモちゃん! みせてみせて!」
「あら、先を越されちゃったわね。おめでとうトモカ」
と、そんな戦いを続ける内に、モカが遂にスキルを覚えたようだった。ステータス画面を開いて喜びを露わにしている。
鞭を使うリリーより早く覚えたのは、魔導書の威力が低いがためにこれまでの攻撃回数が多かったからか。あるいは魔法職がいつまでも物理というのが普通にキツイから、最初のスキルを習得するための条件が緩くなっている可能性もあるか。
まぁどっちにしても良い事だ。魔法を覚えていない魔法使いが1つ目の魔法を覚えるというのは、戦闘能力が一気に上がることを意味する。
おそらくファラビット程度には遅れを取ることはほとんど無くなるだろうし、もう少しフィールドの奥の方まで進んでもいいだろう。リリーの方はなんか謎に最初から鞭の使い方が上手いせいで、既に敵のレベルを多少上げても問題なさそうだし。
「じゃ、じゃあ早速使ってみるね。≪召喚:戦熊≫!」
「がおっ!」
「あっ! クマだぁ!」
「へぇ、なかなか出来の良いテディベアね」
「これは……なるほど。モカの魔導書って召喚師用のやつだったんだ」
「う、うん。いくらゲームって言っても、自分が直接戦うのって怖いから……召喚したモンスターに、代わりに戦ってもらおうと思って」
「その割に今まで散々魔導書で殴ってたわよね」
「それは……あはは」
というわけで覚えたスキルを使ってみてもらってみれば、意外にもそれは召喚師のスキルであった。
現れたのは戦熊……という名の、1メートルほどのクマのぬいぐるみ。先日港町で決闘をした相手のチンピラ、目付きが悪いロン毛のカースが使っていたのと同じスキルだ。
このゲームでは一口に魔導書と言っても、火や水みたいなそれぞれの属性専用の魔導書や、召喚用みたいな特殊な用途の魔導書などが個別にあるらしい。
確か同じ魔法使い用の装備として、杖なども似たような感じだったか。身近な例だとミィの保護者であるケントさんが使ってる火属性魔法用の杖や、会社の同僚のサラさんが持ってる回復魔法用の杖なんかが該当する。仮にこの2人が武器を入れ替えたら、いつもの魔法はほとんどが使い物にならなくなるんだとか。あんまり詳しくは調べてないからよく知らないけど。
ともかく魔法使いと言えば属性攻撃を飛ばすタイプのオーソドックスなのをイメージしがちだが、モカはそれらではなく召喚用の魔導書を初期装備として選んでいたらしい。
メジャーどころを選ばず敢えてマイナーなところを選ぶとは、なかなか通なチョイスである。
「これは私も負けてられないわね、さぁ次に行くわよっ!」
「おーっ!」
そうやって僕が感心している間に、リリーが自分のレベルを上げるべく次なる獲物を求めて動き出した。そこに追従する姪がかわいい。
しかしやはり勝ち気そうな金髪ロリという第一印象のイメージ通り、リリーはなかなか負けず嫌いな性格をしているようだ。僕も一応金髪ロリ仲間ではあるが、そこだけは明確に違うところだな。僕にはいわゆる大人の余裕ってやつがあるし。
そうして新たに何匹かのファラビットが鞭で痛めつけられるのを見守っていたところ、ついにその瞬間が訪れた。
「あっ! 来たわ、スキル習得よ!」
「やったねリリちゃん! どんなのだった!?」
「えーっとなになに……?」
「キュ、キュィィ……」
「危ないッ! ≪狐火≫!」
「えっ?」
「ギュィイ!?」
だがしかし、予想外の事態というのは思わぬタイミングで起きるというもの。リリーが姪と一緒にメニューを覗き込んだ瞬間、倒したはずのファラビットが起き上がってきたのだ。
おそらくスキルを習得できた喜びのあまり、少々油断してしまったのだろう。2人はそれに気付いていない様子だったので、代わりに僕がトドメを刺しておいた。
全力の≪狐火≫の直撃。爆炎で討伐エフェクトは確認できないが、間違いなくオーバーキルだろう。
「ふぅ、危なかった。大丈夫?」
「ん、大丈夫だけど……敵いたの?」
「確かに断末魔は聞こえたわね」
「いたよ。そこにさっき……」
「キュ、キュィィ……」
「……えっ?」
ともあれこれで安心……かと思いきや、またしても聞こえてきたファラビットの鳴き声。
おわかりいただけただろうか。先ほど倒したはずのファラビットが、こともあろうに再び起き上がってきたのである。
「えっ何これ? マジで何!? 僕こんなの知らないんだけど!?」
「なにこのファラビットすっごい丈夫!」
「丈夫ってレベルじゃないわよ!? さっきのアンの炎って、ファラビットくらい余裕で一撃で倒せる強いやつなんでしょ!?」
「ひっ……ま、まさかゾンビ……!?」
「キュィ……」
こうなれば女子小学生の4人組など、軽くパニックである。倒しても死なないとは、もはやホラーの域ではないか。やめろよそういうの、こんな初級の狩り場で発生していい怪奇現象じゃなさすぎるだろ。パニックのあまり自分のことまで女子小学生にカウントしちゃったじゃん。4人じゃなくて3人とロリ巨乳狐娘だったわ。
「た、助けてクマ美ちゃん!」
「が、がお……!?」
そんな状況でモカはもはや藁にも縋る思いなのか、先ほど召喚した戦熊の背中を押して自身はその後ろに隠れた。
召喚獣を前に出し、術者は後ろから指示を出す。これぞ正しい召喚師の立ち回りと言えるだろう。もっとも召喚獣の方はその扱いに困惑しているが。ていうかクマ美ちゃんってなんなんだ、メスでいいのかそのクマ。
「くっ……かくなる上は、新技で……」
「キュ、キュキュー! キュッキュイ!」
「……ん? えっ、マジで? お前ってそういう感じのアレなの?」
「キュイ! キュー!!」
「あんちゃん、これなんて言ってるの?」
「あ、うん。なんか仲間になりたいんだって」
「ホント!?」
「いや、なんで自然にウサギと話してるのよ」
「ど、どういうことなの……?」
と、なかなかにパニックに陥っていた僕たちだが、ファラビットが事情を説明してきたことで一応は落ち着いた。
リリーとモカは困惑していたけど、僕にだってよく分かんねぇよ。
僕が動物と話せるというのを当然のように受け入れてるのは、順応性に定評のある姪だけである。僕自身だって受け入れられてないのに。
以前に上位種の『ハイファラビット』の言葉はカタコトで聞き取れたし、イベントボスの『バトルファラビット』は流暢に喋っているのを聞き取ることができた。
が、普通のファラビットの言葉など……鳴き声に込められたなんとなくの意味だけとはいえ、理解できたのは初めてのことだ。意味わからん。なにこれ。
それはさておき、まさかモンスターであるファラビットが仲間になりたいと言ってくるとは。
あ、これってアレか。今まで何度も起き上がってきたのって、そういう……起き上がって仲間になりたそうにこっちを見てたってこと? ゴメン、思いっきりトドメ刺し直そうとしてたわ。だってさっきまで敵だったし。
「でもなんで仲間になったんだろ? あたしたち今まで結構戦ってたけど、こんなことなかったよね?」
「あー、たぶんさっき覚えた私のスキルね。いま見たら≪調教≫っていうのだったから、きっとこれでしょ。メニュー画面に『ファラビットを仲間にしますか?』ってウィンドウも出てるし」
「絶対それじゃん!」
どういうことなのか状況を飲み込めない僕たちだったが、さりげなくステータス画面を見ながら言ったリリーの言葉で全てハッキリした。
≪調教≫というスキルについては詳細を知らないが、名前からして倒した敵を仲間にできそうな感じではある。そもそもシステムにそう出ているのなら間違いなく仲間に出来るし、鞭とかともイメージは合っているからそういうことなのだろうけど。
「……あれ? でも確か、ばーちゃんが使ってた鞭のスキルって別のじゃなかった?」
「きらりんのは≪ロングウィップ≫だね、鞭が伸びるやつ。一応このゲームって戦闘スタイルによって習得スキルは変わるって話だけど……1個目から違うのはどうなんだろ? リリー、それもしかして普通の鞭じゃなかったりする?」
「よくわかったわね、『調教用鞭』よ!」
うん、やっぱり武器の選択が原因っぽいな。明らかに名前がそれっぽいし。
おそらく鞭にしても、魔導書や杖のようにそれぞれの用途があるのだろう。きらりんのは本人が使う攻撃用、リリーのは手懐けたモンスターに戦わせる調教用って感じで。
「へー、ばーちゃんのとは違う武器なんだぁ」
「コレ使って戦うのは、調教師って呼ばれてるらしいわ」
「なるほど?」
それにしても、召喚師と調教師か。
根本的な仕組みは多少違うのだろうけど、使役系のジョブが被ってしまったな。
最初だけあって今のところはどちらも直接攻撃しか出来ないモンスターしか従えてないし、このメンバー構成なら僕は中衛から後衛のスタンスで戦うべきか?
いや、序盤の敵にそこまで考える必要はないか。もっとフィールドの奥に進むなら2人の護衛も考えないといけないけど、少なくともファラビット程度なら近接攻撃でも倒せてるしな。たとえ本人が戦うことになったとしても、多少の自衛はできるだろう。
「キュィ……」
「あ、仲間になりたいんだったわね。じゃあ『仲間にしますか?』に『はい』を選んで……っと。これでもう仲間ね!」
「キュイキューイ!」
「やったー!」
「よ、よろしくね」
それはさておき、リリーがメニュー画面から承認したことでファラビットが正式に仲間になったようだ。
試しにメニューを開いてみれば、PTメンバー一覧の画面にも、リリーの横に小さく名前とHPバーが表示されている。
「ね、ねぇ、 凛莉愛ちゃん。この子の名前ってどうするの?」
「ん、そだね。リリちゃん、なんか決めてある?」
「名前? そうね……じゃあウサ吉! アンタの名前はウサ吉よ!」
「キュイ!」
というわけで、仲間になったファラビットの名前はウサ吉に決まった。
名前も決まったことだしと、姪たちも改めてよろしくの挨拶をしている。二足歩行のウサギが差し出した小さな前脚を軽く握って握手する姪がかわいすぎるな。やはり小動物と美少女の組み合わせは最強……
ついでに似た境遇ゆえに仲間意識でもあるのか、クマ美もウサ吉と握手をしていた。
そしてその様子を、キャーキャーと盛り上がりながら嬉しそうに見守る姪たち。うむ、姪が喜んでくれてるようで何よりだ。ウチの姪は動物好きだからな。僕も≪獣化≫して参戦するべきだろうか。
「ほら、あんちゃんも!」
「ん? あ、僕も?」
そんなことを考えていたら姪から催促があったが、どうやら場の空気からして別に≪獣化≫して狐になれというわけではないようだ。ただ単に、僕も新入りのウサギと握手したらいいってだけのことらしい。
「じゃあまぁよろしくな、ウサ吉」
「……キュイッ!」
「は?」
姪も上機嫌なことだし、叔父である僕も上機嫌に尻尾を揺らしながら握手を求めたのだが。
しかし差し出した手が目の前のウサギの前脚で弾かれたことで、僕は一瞬思考がフリーズした。
なにこれ? 握手を拒否されたっていうのか? それなりにこのゲームをやり込んでいるロリ巨乳狐娘の僕が……初心者向け雑魚モンスターの、ファラビットに? 嘘だろ?
「ああ!? テメェたかがウサギが狐の僕に反抗的な態度を取るなんて、草食の小動物が随分と良い度胸してるじゃねぇか!? おぉん!?」
「あんちゃん落ち着いて、どうどう」
「がおがおっ」
これには狐として許すわけにはいかないと、温厚な僕も流石にブチギレたものの。
ペットのウサギ相手に大人げないと思ったのか、姪とクマ美に宥められた。何故いい歳してテディベアに宥められてるんだ僕は。なんか急に冷静になったわ。
「ていうかあんちゃん、なんでそんなに嫌がられてるの……?」
「……僕がウサギの天敵の狐だから、とか? それかさっき、起き上がってきた時に≪狐火≫でトドメを刺そうとしたからか……」
「いや絶対そっちでしょ」
「わ、わたしもそれが原因だと思う」
最初は正直こんなにも嫌われる理由が無いだろうと思ったものだが、よくよく考えればあったわ理由。仲間になりたいって名乗り出ようとしたところを追撃されたら、そりゃ好感度も下がるか。致し方なし。
「んー……じゃああんちゃんと仲悪いのも無理ないかぁ」
「ど、どんまいアンちゃん」
「別に僕は気にしてないけど……でも一応これから仲間として戦うってことを考えると、関係性が良いに越したことは無いんだよなぁ」
そう。ウサ吉はリリーのペット枠とはいえ、一応は第5の……クマ美も入れると第6か。とにかく、変則的ではあるがPTメンバーの一員でもあるのだ。共に戦う仲間である以上、無用な対立は避けるべきである。
という感じのことを話したところ、少し考えるようにリリーが言った。
「ふぅん。ま、そういう躾も飼い主……もとい、調教師の私の仕事よね」
「ちょ、調教師なら……命令すれば聞いてくれる、のかな?」
「そういう可能性はあるね。僕はリリーの≪調教≫スキルのことについてはよく知らないけど、他のゲームで言うなら命令を聞かせる効果とかがある場合も多いし」
「じゃあリリちゃん、とりあえず言ってみたら?」
「そうね。ウサ吉、アンとも仲良くしなさい」
「キュイッ!」
「あ、あっち向いちゃった……」
「わぁ、かわいい!」
「ダメみたいね……」
そんなわけでリリーが命令してみたものの、ウサ吉はそっぽを向いただけだった。その様子を見た姪がかわいいと言っているけど、そんなお前が一番かわいいよ。
それはともかくウサ吉のその態度を見るに、明らかに命令を聞く気は無いらしい。やっぱりリリーも≪調教≫スキルを覚えたばかりだし、スキルレベルが低いとこんなものなのだろうか。
「こら。アンタは私の下僕なんだから、ちゃんと言うこと聞かなきゃダメでしょ? えいっ!」
「ギュイッ!?」
「わ、痛そう」
「え、えぇ……? 」
だがしかし、リリーはかわいいウサギに対する躾でも容赦なかった。
その手に持っている調教用鞭は長さも太さも結構あり、明らかに猛獣を相手に使うことを想定されているようなサイズだが……それを躊躇なくウサ吉の背中に振るったのだ。リアルでやったら動物愛護団体が助走をつけてぶん殴ってくるやつである。
「だって、そのための鞭でしょ?」
「それは……そうだけどさぁ」
流石に動揺する僕たちだったが、リリーの完璧な理論武装には全く隙がなかった。というかゲームシステム上はそれが正しいのだろう。
確かに『調教師』が『鞭』を持っているのなら、それをテイムモンスターに振るわない理由は無いのだ。当たり前の話である。対象がファラビットなせいで、ちょっと絵面がアレなだけで。
「ほら、ウサ吉。もう一度言うわよ。アンと仲良くしなさい」
「キュ、キュィ……」
ウサ吉はマジかコイツ、みたいな目をしながらも大人しく従った。従わざるを得なかった。
だってこれ、言うこと聞かなかったら確実にもう一回……あるいは従うまで永遠に繰り返されるやつだろうし。リリーの堂々とした立ち振舞いからは、それを実際にやってのけると思わせるだけの揺るぎない意志が感じられた。お嬢様こわい。
「お前も大変だな……」
「キュィ……」
というわけで、僕とウサ吉は仲直りの握手をした。
ついでに同情の声をかけたら、「分かってくれるか」みたいな切実な鳴き声を返された。別にそんなつもりで言ったわけじゃないのだが、なんだかちょっとだけ好感度が上がった気がする。
そんなこんなで色々と波乱はあったが、僕たちのPTに新たな仲間が2匹加わった。
女子小学生が3人にロリ巨乳狐娘が1人と、森の動物たちが2匹。随分と特殊な構成すぎて、サーバー中探し回ってもこんなPT他にいないだろうというのが安易に予想できる。まぁ一番特殊なのはロリ巨乳狐娘の僕なんだが。
とにかく召喚獣やペットとはいえ、戦闘に参加できる頭数が増えるというのは戦力的に見て強化となるのは間違いない。
これなら問題ないと判断し、僕たち4人と2匹は平原エリアの更に奥へと足を進めるのであった。




