5. ドラゴニックバラムツ
僕は頑張った。
ロリ巨乳狐娘なのにすごく頑張った。
苦手な虫から逃げ出すことなく、釣り針に餌を付けるやり方のお手本を姪に見せてあげたのだ。
姪に良いところを見せたいという意地だけで頑張った結果、若干涙目になってしまったが……いや、そんなことは無かった。断じて気のせいである。いい歳した大人の男が虫ぐらいで泣くわけないし。仮に本当にあったとしても、ちょっと声や手が震えて目が潤った程度だし。涙が零れたわけじゃないからセーフだし。いや完全に平気だったが。
「あんちゃん……その、ごめんね?」
「何が? 僕べつに虫とか全くもって平気だし、全然大丈夫だけど? ホント心配いらないし、謝る必要もないからね? 平気だよ? マジで」
「弁解が必死すぎるんよ」
「強がりここに極まれりなのにゃ……」
何故か先ほどから姪に謝られながら慰められているが、これはおそらく何らかの勘違いが発生しているのだろう。そうでなければ、意味も無く僕が謝られる理由が無い。
あえて言うなら、謝るよりも今回のことは何も無かったということにしてもらうのが一番助かる……あっいや、最初から何も無かったけど。おかしいな、何も無かったのに何かを無かったことにしようとしてしまった。まぁ僕だって間違うことぐらいあるわな。人間だもの。今は人間じゃなくて妖狐だけど。
「にしてもアンのヤツ、虫くらいで情けないのにゃ。それにゲームの虫でギャーギャー騒ぐのはどうなのにゃ?」
「は? ミィお前ゲームの虫のこと舐めてんの? 最先端技術でグラフィックどころか触った感触までリアルに再現されてたから、アレもう実質本物だからな? そんなに言うなら触ってみろよォ! おぉん!?」
そんなところに投げかけられた無神経な言葉に、僕は激怒した。この傍若無人な猫耳娘は、間違いなく事態を甘く見すぎている。人の心とか無いのだろうか。
そもそも虫なんて、誰だって触りたくないだろ? ほらほら触れるもんならそのケースから出して触ってみ……普通に触ったな。しかも「リアルなのにゃ」とか言ってまじまじと観察している。なんだよ結構余裕じゃねーか……!
ちなみにこれは余談だが、先ほど僕は虫に直接触りたくないという一心から結界で身体の表面を薄く覆う新技を習得した。
理屈は自分でもよく分からないが、まぁ手袋みたいなものだ。意外と追い詰められたらなんでも出来るもんだね。
なお追い詰められて出来るようになったのは、一度触って思わず地面に落としたのを拾い直す時だったので、ギリギリ手遅れではあるのだが。
それに加えて小さな釣り針に餌として取り付ける以上、しっかり見ないといけないのでそれだけで充分に精神的ダメージを負っている。なんとか致命傷で済んだといったところか。
「くっ……まぁいいさ。僕は大人だからな。ミィみたいなお子ちゃまに何か言われたところで、全く気にしないし。大人の余裕で軽く受け流せるからな」
「アンに大人の余裕……? 一番似合わない言葉なのにゃ」
「ああ!? 僕ほど余裕たっぷりな大人もいないだろうが!!」
「即落ちコントやめーや」
ミィに反論しながらきらりんのツッコミをスルーしていた僕だったが、不意に姪の釣り竿の先が僅かに動いたのを見て会話を中断した。
姪自身はまだ気付いていないのか、それとも食いつくのを待っているのか。
とにかく未だ反応すらしていないが、叔父である僕は姪およびその周辺の些細な変化も見逃すことはない。
ケモ耳に麦わら帽子を被って水着にマントを羽織った姪が魚を釣り上げるシーン、これは是非とも落ち着いて鑑賞したいものだ。
なんなら動画も撮っておこう。あとでサラさんに見せれば喜ばれるだろう。いや、ウチの姪はかわいいからな……きっとサラさんに限らず、誰だって大喜びするに違いない。仕方ないな、特別にコージにも見せてやるか。あと機会があればケントさんとかにも。
「ん、あんちゃん? どしたの、急に静かになって」
「いや、るぅちゃんの方で魚釣れそうだったから」
「え? あっホントだ! 来た!」
「にゃっ!? なんでアンそんなの分かっ……あ、ミィの方も来たのにゃ!」
そんな僕の予想は見事に的中し、姪の釣り糸が引っ張られて竿が大きくしなった。なかなか大きな当たりではないだろうか。
同時にミィのボロい釣り竿にも魚が食いついたようだが、こっちは全く見てなかったので知ったことではない。
なんなら今だって、僕は姪のことしか見てないし。ていうか録画の邪魔だから、もうちょっと声量抑えてもらっていい? せっかく姪を撮ってるのに、横からにゃーにゃーうるさいんだが。
「やったっ! 釣れたー! 見て見てあんちゃん、魚だよー!」
「やったね、るぅちゃん。初めてなのに釣れてすごいね、おめでとう」
「うにゃ……ミィの方、空き缶だったのにゃぁ……」
うむ、やはり姪はかわいいな。見ろよこの魚が釣れて喜んでる姿をよぉ……最高すぎるだろ。魚が釣られてしまう気持ちも分かるというものである。僕だって自分が魚だったら、こんな超絶美少女の釣り針とか絶対食いつくわ。
「ミィちゃんはドンマイやね。それで瑠奈が釣った魚、なんやろね。あんまり見覚え無いやつやけど」
「んー、なんだろ? あんちゃんわかる?」
「うーん……ゴメン、わかんないや」
「マグロかなぁ?」
「さすがにマグロだったら、もっと露骨に大きいと思うよ?」
姪が釣り上げた魚は30cm近い大きさであり、全体的にモノクロカラーで、鱗が夏の日差しを反射してキラキラしており、あとは背ビレや尾ビレもあって……うん、わからん。全然詳しくない僕には、これが魚だってことしか分かんねぇわ。
ただまぁ身も蓋もないこと言っていいなら、アイテム欄に仕舞えば名前とか情報も出て来るんじゃないかな?
とはいえ今は、特に姪は釣りの雰囲気を楽しんでいるのだ。ゲームの仕様を使えばいいよなどと言えるはずもない。未知の魚を釣り上げて正体を予想するのも、素人だけでやってる釣りみたいで悪くは無いだろう。
などとワイワイやってたところ、不意に僕の狐耳がこちらに近付く不審な足音を捉えた。
姪との会話を楽しみつつも態度に出さないよう警戒してチラリと見てみれば、すぐそばにいたのは1人の釣り人の男。釣り竿を担いでクーラーボックスも紐で肩にかけた、見るからに釣り人らしい男がこちらを見ていた。
そして姪たちもそろそろ接近する不審者の存在に気付くかどうかというところで、その男は得意気な表情で口を開いた。
「お嬢ちゃん、その魚の名前は」
「セイゴなのにゃ」
「……あれ?」
その釣り人はどうやら、自信満々な表情で魚の名前を教えてくれようとしたらしかったが――しかし、名前を言ったのはミィだった。初めて釣り上げた成果が空き缶だったせいで落ち込んでいたはずだが、復活したようである。
「ん、そうなの? ミィちゃんよく知ってたね、物知りー!」
「これでも近所の堤防に通って長いからにゃあ。魚には詳しいのにゃ」
「ほーん、見ただけで名前まで分かるって結構詳しいんやね」
「マジか。ミィってせいぜい食べれる魚とそうじゃない魚ぐらいでしか憶えて無さそうなイメージなのに……」
「それは失礼すぎないにゃ? まあ毒があって食べられない魚から憶えたから、間違いでもないけどにゃぁ」
「間違いでもないのかよ」
そんなミィによると、この魚はセイゴと言うらしい。僕は聞いたことが無い名前だが、普通に食べれるのだそうだ。それ以外の情報はなかったあたり、本当に食べられるかどうかしか憶えていないようだが。
ちなみに僕たちに声を掛けようとした釣り人の男は、気まずい表情で静かに帰っていった。まぁちょうどいいところでミィに出番持っていかれたしな、気持ちは分かる。勝手に自分の出番かと思って出てきたけど実は必要なかったとか、一番恥ずかしいやつだわ。強く生きろよ。
「そういえば、あんちゃんなんでさっきあたしのとこに魚が釣れそうってわかったの?」
「それはミィも気になってたにゃ。なんでミィたちの竿が釣れるって分かったのにゃ? もしかして、音や匂いが届かない水中の様子も気配か何かで察知してるのにゃ?」
「ミィの方のは偶然タイミングが一致しただけだけど……るぅちゃんの方に関して言えば、しいて言うなら僕がガチ勢だからかな。よく見てれば分かることだよ」
そう、僕は叔父にして姪ガチ勢。
たとえ身体がロリ巨乳狐娘になろうとも、姪を愛する1人の男として常に姪を見守っているのだ。姪のかわいい様子を見逃さないために常時姪の方へと意識を向けておくのは基本である。伊達にガチ勢を名乗っちゃいない。
「えっそうなんだ! あんちゃんって釣りのガチ勢だったの!?」
「うにゃ? その割には魚の知識とか餌へのビビり具合がクソ雑魚すぎないにゃ……?」
「誰がクソ雑魚だおいコラ」
ミィには色々と言い返したいことがあるが、今はとりあえず置いておく。姪の応対の方が優先だからな。
その姪はというと、どうやらガチ勢の意味というか対象を勘違いしているようであった。これはアレだな。誤解はさっさと解いておかないと、また勝手に話が大きくなるやつだ。今まで何度も経験してきたから流石に分かる。その場のノリで曖昧に肯定するのは間違いなく危険である。
とはいえ僕が姪ガチ勢だということを、姪本人に面と向かって言うのはなんか抵抗があるな……
まぁ姪自身もこれまでの僕の言動で分かり切ってることだとは思うけど、それを言葉にするのはなんとも言えないむず痒さがある。などと思いつつ、僕は少し目を泳がせながらも誤解を解くことにした。
「僕がガチ勢なのは、釣りじゃなくて……えーとほら、るぅちゃんのガチ勢って意味だから。見守ることにガチってたら、釣り糸がちょっとだけ引っ張られたのに気付いただけだから」
「あははっなにそれー! あんちゃんおもしろーい!」
「……るぅは冗談みたいに受け取ってるけど、これマジなやつじゃないのにゃ?」
「まぁマジなやつやね。正直、他人やったらストーカーとして通報した方がいいレベルやと思うわ」
果たして僕が言ったことは姪には伝わったのか伝わってないのか。イマイチよく分からないリアクションだったが、なんにせよ僕が釣りガチ勢だという誤解は解けていそうなので良しとした。
あとミィときらりん、小声でなんか言ってるけど全部聞こえてるからな? 狐耳がバッチリ音拾ってるからな? 姪には聞こえてなさそうだけど。
今の僕の発言をジョークとして受け取って笑ってる姪の顔がかわいいので、ここは集中して堪能するためにもう少し大人しくしておくが……満足したら文句の1つでも言ってやるか。特にきらりん、僕に対して言いたい放題すぎるしな。誰がストーカーだ、合意だから問題ないんだよ。
「あのさぁ、色々勝手なこと言ってくれてるけど僕は……ん?」
「あんちゃん? どしたの?」
「これは……やっぱり! 引いてる!」
「おぉー!」
そんなわけできらりんたちに反論しようとした僕であったが、しかし釣り竿に獲物の反応を感じたので一時中断した。
なにしろ今日ここで釣りを始めてから、僕にとっては初ヒット。姪に良いところを見せるチャンスなのだ、ここはなんとしてでも決めねばなるまい。僕は精神を集中し、竿を握る手に力を込めた。
「くっ……デカい! 糸切られたりしないだろうな……!」
「がんばってあんちゃん!」
「うおおおおお!!」
「これは本当に大きそうやね」
「にゃっ!? ミィにもまた来たのにゃ!」
「おぉー、ミィちゃんも!」
「次こそ魚を釣るのにゃあ!」
なんだかミィのところにも食いついたらしいが、そんなの気にする余裕が無いほど激しく糸が引かれているので自分の方に集中する。
いや激しすぎじゃね? 前衛の戦士職だから筋力のステータスは足りてるはずだけど、もしこれがリアルで僕が普通の人間の女の子だったら海に引きずり込まれてたかもしれない。
「なかなか手強いっ……!」
「こっちもだにゃ! 凄い力であっちこっち暴れて大変なのにゃぁ!」
未知の魚との攻防はかなり激しく、隣のミィも同じような状況であった。糸が絡まなければいいのだが……っと、引っ張る力が弱まった! チャンスだ!
「今だ! ふんっ!」
「大物ゲットだにゃあ!!」
そうして僕たちは、奇しくもほとんど同じタイミングで獲物を釣り上げた。内心少しだけ、実は水面下で糸が絡まってるだけじゃないかと心配していたが、そんなオチは無かったようなので一安心である。
「ってデカっ!?」
「すごいよあんちゃん、メチャクチャおっきい!」
「はえー、色とかサイズとか色々とすごい魚やねぇ……」
「うにゃ……ミィの方、長靴だったのにゃぁ……」
長靴にあんなに暴れられてたのかよ、というミィへのツッコミもあるにはあるが、今はとにかく自分が釣り上げた魚である。ぶっちゃけ驚きが大きすぎて、長靴とかどうでもいい。
僕が釣り上げたのは、青い体にグラデーションがかった真紅の鱗をもつ巨大な魚だった。全長80cmぐらいあるだろうか。自分の身長が134cmしかないこともあり、ものすごく巨大に感じる。実際魚としても巨大なのだが。
色だけでもなかなか珍しいカラーリングだが、それに加えて全体的に刺々しい造形をしているのも特徴的だ。口のところなんて牙でもあるかのように尖ったデザインをしてるし、ゲームオリジナルの魚だろうか? 現実ではいなさそうな気はする。
「き、狐ちゃんそれ『ドラゴニックバラムツ』じゃないか!?」
「ん?」
「誰?」
「誰にゃ?」
「誰なんこの人?」
と、釣り上げた未知の魚をみんなで観察していたところ。先ほどミィに魚の名前を言い負けて、ひっそり消えた釣り人の男が食い気味に話しかけてきた。興奮気味な様子を見るに、相当なレアモノだから思わず声を掛けたとかそんな感じだろうか。気持ちは分からなくはないが。
ただまぁ僕たちからすれば、いきなり初対面の男が声を掛けてきた形になる。完全に声掛け事案だ。これが現実なら、姪に防犯ブザーを使わせていたところである。
「す……すまない、私は怪しい者ではないんだ。ただ……」
「おい今ドラゴニックバラムツって聞こえ……うおおおお!? 本当にドラゴニックバラムツだ! 嬢ちゃんが釣ったのか!?」
「何ィ!? ドラゴニックバラムツだって!?」
「マジか、本物のドラゴニックバラムツじゃねーか! 完成度たけーなオイ」
「すげぇ! 幻の魚じゃん! スンマセン、自分記念写真いいっすか?」
だがそんな暫定不審者の弁明は、騒ぎを聞きつけて周りから集まってきたプレイヤーたちの興奮した声にかき消された。
なるほど、釣り人なら見ただけでテンションが上がるほどのレアな魚というわけか。彼の弁明自体は聞けなかったが、この状況こそがそれを物語っていた。どうやら僕はとんでもないものを釣り上げてしまったようだ。ビギナーズラックとはいえ、自分の運が怖いぜ。
それにしても突然見知らぬ男たちに取り囲まれるこの状況、姪が怖がったりしていなければいいのだが。
一瞬そう思った僕であったが、当の姪は全然平気そうな表情だったので問題ないだろう。まぁ姪は全く人見知りしないタイプだしな。たまに無警戒すぎて心配にもなるが。
ともあれそんな姪は周りの釣り人に、首を傾げながら疑問を聞いてみたりしていた。かわいい。
「ドラゴニック……? これってドラゴンなの?」
「はっはっは、ドラゴンみたいな魚であってドラゴンではないよ。ドラゴン級の珍しさではあるけどね」
「そうなんだ! たしかにちょっとドラゴンっぽい顔してるかも」
うんうん、やはり姪はかわいいな。釣り上げたレアな魚なんかより、よっぽど価値がある光景である。ドラゴン級のかわいさだわ。ドラゴンがかわいいってわけではないけど。
そんな風に僕は満足気な表情で姪の方を眺めつつ、ドラゴニックバラムツを抱えて記念撮影に応じていたのだが。
一方でミィは、なにやら残念そうな表情で肩を落としながら呟いた。
「うにゃ……でもバラムツってことは、食べられないのにゃ。折角の大物なのに残念だにゃぁ」
「ん、そうなの?」
「せやね。わたしも聞いたことあるわ」
姪は知らないようだが、実際バラムツは食べるとヤバいとのことだ。これはあまり魚に詳しくないような僕でも知ってる話で、なんでも人間が消化できない脂を大量に含んでいるらしい。
ではそれを食べるとどうなるかだが、結論から言えば消化も吸収もされなかった脂がそのまま肛門から出て来る。これはマジでヤバい。しかもそれに加えて便意や我慢の概念も無視して、人知れず漏れ出て来るらしいというのがとてつもなくヤバい。オムツ必須とか言われる所以である。
つまりこのバラムツという魚、下手すれば社会的に死にかねない危険な魚なのだ。故に安易な覚悟で食べるわけにはいかないし、どうしても食べたいなら少量だけにしないといけないとかなんとか。なお、味は美味らしい。
「ハッハッハ、大丈夫だよお嬢ちゃんたち。バラムツが危険なのは現実世界の話だよ、ゲームでは関係ないさ」
「そうそう、大丈夫大丈夫。安心して食べるといいよ」
「なにせドラゴニックだからね。こんな時間に堤防で釣れる時点で棲息域も生態も違うってことだし、普通のバラムツとは別物さ」
「あ、それもそっか」
しかし魚の専門家でもある釣り人たちによれば、別に食べても大丈夫だろうとのことであった。姪も納得していることだし、僕もなるほどと納得した。
一応パッと見では無知な少女を騙してバラムツを食べさせようとしているヤベェ連中に見えなくもないが、一応彼らの言い分も一理ある。確かに食べたところで現実に影響するわけではないし……そもそもデメリットがあるにしても、全年齢対象ゲームでは実際の症状など再現できないだろうしな。
もしかしたら毒ダメージや多少のステータス低下などのペナルティがあるのかもしれないが、戦闘中でもなければ実質ノーリスクと思っていい。少なくとも、よほどヤバイ事態には陥らないだろう。
「確かにそうにゃ、それなら早速食べてみるにゃぁ! アン、早く捌くのにゃ! 全部刺身にするのにゃあ!」
「おぉー、いいねお刺身! あたしこの魚食べたことないから楽しみー!」
「んー、本当に大丈夫なん……?」
早く食べさせろと急かすミィに対し、きらりんは懐疑的な様子だったものの。
姪が乗り気な時点で、叔父である僕がどうするかなんて決まってるようなものだ。もちろん料理する。
というわけで、一旦もう少し釣りを楽しんでから、あとでドラゴニックバラムツを捌いて食べようと粗方の方針が決まったところ。
相変わらず優しくて天使な姪は、ふと思い付いたように言い出した。
「あっそうだ。いっぱいあるし、おじさんたちも食べる?」
「にゃっ!? なに言い出すのにゃるぅ、これはミィの魚なのにゃ! 見ず知らずの人間なんかにやる分はないのにゃ!」
「お前のじゃなくて僕のだけどな」
独占どころか自分のものにしようとさえするミィとは裏腹に、恵まれない釣り人たちに施しを与えようとする姪。
ああ、なんと心優しき慈悲の精神なのか。尊すぎる……そろそろ聖女とか女神なんかの転職条件を満たしてたりするのでは? むしろまだ出来ないのが不思議なぐらいなんだが。
そうやって心の中で姪を讃える僕であったが、しかし釣り人たちの答えは意外なものだった。
「いいえ、私は遠慮しておきます」
「オレ今カフェオレ飲みすぎて腹いっぱいなんだ」
「そなたの魚だ、どんどん食え」
こいつら……ゲーム内ならバラムツ食べても大丈夫って言って背中を押してくれた割に、自分たちは全力で拒否してるような気がするんだけど。本当に大丈夫かこれ?
まぁ姪がすっかり食べるつもりだから、僕も一緒に食べるのは確定だが……これは少し用心した方がいいかもしれないな。
気休め程度だが、僕が毒見役になるとするか。毒耐性だってあるし。我が身を犠牲にして姪が助かるなら安いものである。姪のような可憐な女の子をバラムツの餌食にするわけにはいかないからな。
「るぅちゃん、食べる時は僕が最初に食べていい?」
「ん、いいよ。だってあんちゃんが釣った魚だもんね」
「アンずるいのにゃ! ミィが最初に食べるにゃ!!」
「……ミィがうるさいから、先に食べさせていいかな?」
「あはは、別にいいよー。この魚おっきいから、順番でもみんなで食べれるし」
「やったにゃあ!!」
よし、追加の生け贄確保。
ちょうどよかったので、ミィのやつも毒見係に採用だ。順番を譲ってくれた姪に感謝しながら人柱になってくれ。まぁ安心しろよ、僕もお前でちょっとだけ様子見してから行くから。
かくして僕たちは、ドラゴニックバラムツを食べるのを楽しみにしながら、もう少しの間釣りを楽しんだ。
たまには冒険や戦いだけではなく、こういうのんびりした時間も悪くないなと思いつつ。釣り糸を垂らして海を見ながら、しばらく姪たちとの雑談に興じたのであった。
なお、このあと食べたドラゴニックバラムツの刺身はまるで高級な大トロの如く美味しかったものの。
結局のところ僕とミィの身体を張った毒見も虚しく、もれなく4人全員が遅効性の状態異常『尻から脂』に苛まれたのは言うまでもない。




