10. 新技習得に燃える少女たち
姪の友達の襲来という思わぬ出来事はあったが、夕方になると2人とも帰ったので再び平穏が訪れた。
やはり子供の相手は大変である。僕にとっては姪1人でも手一杯なのに、複数人集まればもう嵐のようだった。別れ際にまた遊ぼうねと言ってくれたので、確実に近々また誘われる気はするが。
ちなみに最大の懸念であった押し入れの中身については、後でこっそり確認したところ問題のあるようなものは見当たらなかった。
どうやら姪の教育に悪い物などは、既にしっかりと処分してあったようである。グッジョブ過去の僕。
とにかく今は姪と2人、VRデバイスを頭に装着してLROにログインしたところである。
テレビゲームが終わったらVRゲームとかいうゲーム三昧なスケジュールではあるが、今回はそれほど長くプレイする予定でもないのでまぁいいだろう。夕飯も近いし、そもそも1時間もせずに切り上げる予定だしな。僕はしっかりと遊ぶ時間を決められるタイプなのだ。姪がもっと遊びたいと言った場合にはその限りではないが。
「というわけで今回は、新技の練習をしたいと思います」
「おぉー新技! すごいよあんちゃん、いつ覚えたの!?」
「いつ……? えっと、さっき寝てた時……?」
「ん……? 寝てた時に? それってお昼寝中に夢の中で思い付いたとか?」
「うんまぁ、そんな感じ……?」
そんなわけでゲームにログインした趣旨を説明したところ、姪の頭の上に大きな疑問符が浮かんだ。
いやまぁ僕だって自分で何言ってるか分かんない部分はあるけど、実際そうなのだから仕方ない。昼寝中に夢の中で習得したというのは揺るがぬ事実である。正確には思い付いたのではなく教わったと言うべきではあるが。
「んー、それでどんな技なの?」
「ズバリ、≪結界≫だよ」
「けっかい……? それってどういうやつなの?」
「あーえっと、防御系のスキルで……まぁバリアみたいなものかな」
「おぉーバリア! つよそう!」
そんな僕のバリアという強そうな表現を聞いて、姪は目を輝かせた。かわいい。
まぁ実際強いだろうな。≪剛体≫の使用に必要なMPと競合するから使いづらいかもしれないが、それでも使える手札が多いに越したことはない。回避だけではどうにもならないこともあるだろうし。
「さて、えーっと『狐でも理解る【結界】の使い方』? なんだこのタイトル……」
そういうわけで、早速僕は頭の中のマニュアルを読み解き始めた。
ていうか妖狐向けの内容なんだから最終的に狐が理解できるのは当たり前だと思うのだが、この場合の狐とは何を指しているのだろうか。
「まず【結界】の基本は、面として展開した妖力を結ぶこと……ふむふむなるほど」
「ん? あんちゃん何か読んでるの? あたしにも見せてー」
「うんいい……いやこれ見せられるのかな? あるの頭の中なんだけど」
僕としては姪が見たがっているなら見せてあげたいと思うが、しかしそんなこと可能なのだろうか。
なにしろ今僕が読んでいるのは、カナメにより頭の中に記憶として植え付けられた妖術マニュアルである。これを見せるのは普通に無理なのではないか。ここは手間だが、姪のために一旦手書きで紙か何かに書き写すしかないか……?
「あっ、待てよ? もしかしたら……」
しかしながら僕が諦めかけたその時、ふと名案が閃いた。
というのも、普通は無理だとしてもここはVRゲームの中なのだ。脳にアクセスして風景を見せて、現実のような感覚まで感じさせ、記憶さえも読み込んでスキルに変換する。そんな最新技術なら、僕の頭の中にしか存在しない情報を抜き出すことも出来るのではないだろうか。
まぁ正直あまり出来るとは思っていないのだが、ものは試しである。僕はダメ元でメニュー画面を色々と操作して、どうにかならないものかと試してみた。主にスクリーンショットが保管されている場所や、一時ファイルなどのストレージを軽く漁った感じである。
その結果、妖術の使い方について説明した文字と図が書かれたらしき何枚かの画像ファイルが見つかった。
「おお? マジであった……え、あるの?」
「あんちゃん、みつけた?」
「うん、まぁ、あったよ。僕もまさか本当にあるとは思わなかったけど」
「よくわかんないけど、さっそく見せて!」
「いいよ、はい」
僕自身全く期待していなかっただけに、その収穫による喜びよりも驚きの方が大きかったものの。とにかく姪の期待には応えられそうなので、一応は良しとした。
入っているフォルダやファイルの名前こそ文字化けしているものの、サムネイルは表示されているし拡張子も普通の画像と変わらない。これなら普通に見れそうだ。
どうしてこんなものがメニューに表示されているのかは分からないが……もしかしたらプレイヤーの記憶の中の方とはいえ、明確に画像として保存されてるからスクリーンショット扱いで検出されてしまったのだろうか。
そんなことを考えながら画像の1つを開いてみれば、やはりそれはカナメが僕の記憶へと書き込んだ妖術の使い方であった。
僕が思い出す形で記憶から読み上げたのと全く同じ形式の説明書、それがゲームの半透明なメニュー画面に映っている。それを見せると、姪が鈴を転がすような綺麗な声で読み上げた。
「えーと、『素敵で便利な【巨大化】の使い方』?」
「あっごめん、開くやつ間違えた」
そして姪が読み上げたタイトルを聞いて、僕はそっと画像を閉じた。ファイル名が読めなかったので適当に開いたのだが、さっき見ていたやつではなかったようなので。
ていうか巨大化は要らないって言っただろうが! なんでしれっとお呼びじゃない情報まで記憶に混入させてんだよあのクソ狐!
そういうの同意なしでやられるとさぁ、他にも何か勝手にやられてないかって不安になるんだが!? まぁ一番勝手にやられたのは、身体をロリ巨乳狐娘にされたことだけどなぁ!!
「巨大化!? もしかしてこれ読んだら巨大化できるのっ!?」
「違っ……違うんだよるぅちゃん、僕が読んでたのはこっちの結界のやつで」
「あたし巨大化の方がいい! 見せて見せて!」
僕は見せる画像を間違えたことをものすごく後悔したが、時既に遅し。案の定目を輝かせた姪は、メチャクチャ巨大化に食いついてきた。
やはり姪はこういうのが好きなようである。まぁ知ってたよ。こちとら長年叔父やってるわけだからね。姪の好みや趣味ぐらい把握してる。姪はまごうことなき美少女だけど、たまに男の子みたいな趣味の一面を覗かせることがあるのだ。男の趣味に理解のある美少女とか最高かよ。
それはともかく、バレてしまっては仕方ない。誤魔化すことを諦めた僕は、大人しく姪に巨大化の使い方の画像を送信した。
もうこうなったら、≪獣化≫した状態で巨大化するという組み合わせに姪が気付かないのを祈るのみである。仮に気付かれてしまえば、姪のお願いを断れない僕は間違いなく巨大な狐として1日中全身でモフられ続けることだろう。そうなれば最早ペット扱いどころかベッドである。正直あながち満更でもないが、家具扱いは避けたい。
「おぉー、やり方ちゃんと書いてある……! 妖力とかよくわかんないけど、あたしにもできるかな? とりあえずやってみよっと!」
「ハハハ、応援してるよ」
僕としては半ば諦めの境地であったが、どうやら姪は今のところ自分自身が巨大化することしか考えていないようである。そんなことに夢中になるのもどうかと思うが。
とにかく、これならしばらくは大丈夫そうだ。僕はなんとか巨大化しようと頑張る姪のかわいすぎる姿を眺めながらも、本題である結界の練習のため、改めて説明書の画像をメニュー画面経由で開いた。こっちの方が頭の中で記憶として読み取るより読みやすいわ。
「さて、≪結界≫の使い方はっと」
そうしてしばらくマニュアルを読み進めてみたものの、分かっていたけどやはり長くて難しい。他の説明書と比べても、結界のやつだけ図説が少なくて文字だらけなのだ。
というのも結界術は応用が効くために様々な工夫ができるらしく、更には基本的な使い方でさえ細かな調整が可能らしい。それらの要素の弄り方や応用例などを列挙した結果、これほど長くなってしまったのだろう。
結局のところ長々と凡例などが書いてあるが、要約すれば「好きにカスタマイズして、自分だけのオリジナル結界を作ろう!」である。とはいえ僕はそんな特殊な使い方なんてしないだろうし、とりあえずスタンダードな防壁を作る結界が使えればそれでいいのだが。
「まぁいいや、なんでもいいからまずは使ってみるかな」
というわけで解説を全部理解するのが面倒になった僕は、ひとまず実際に使ってみることにした。
普通に考えたら妖術を使うためには修行やら練習が必要なはずではあるが、なにしろ≪狐火≫だって最初から普通に使えたのだ。
となればこの解説書とは別枠で、妖術を使うための手順や感覚が細かく記憶のどこかに擦り込まれていることは明らかだろう。もしかしたら『まだ使えない妖術を習得するためのお手本』か何かとして、カナメが自身の体験の一部を参考例として植え付けたのかもしれない。
そしてそんな詳細な妖術の手引きとも言える、技術の完成形たる記憶が……まぁ出処はともかく、確かに僕の頭の中にある記憶ではあるわけで。それがLROのシステムに『習得済みの技術の記憶』だと判断され、スキルとして登録されればどうなるか。
結果として僕は、『植え付けられた記憶を元に訓練して習得するはずだった妖術』を『記憶から再現したスキル』として先に使えてしまう……そしたらもうあとは、スキルを使った感覚を再現してやれば妖術としても使える。そんな矛盾した流れが、僕のこの現状なのである。
まぁなんとなくそんな感じなのだろうというだけなので、これが正確な正解だとは限らないんだけども。少なくともそんな感じで、習得プロセスが反則じみた軌跡を辿っているのは間違いない。
とにかくここで重要なのは、スキル名を叫んで発動してやれば勝手に発動するということである。つまり自力での術式構築ではなく、スキルとして自動的に発動させればいいだけなのだ。
「あ、一応スキル欄の確認はしとくか」
とはいえ当然スキルとして習得できていなければ使えないので、念の為に確認はしてみることにした。
技名を叫んで何も起きないのは悲しすぎるからな。前に魔津茸との戦いで≪祟火≫を初めて使った時には、土壇場で≪狐火≫からの派生として偶然にも自力で再現することで習得したわけだが。炎に怒りを込めればいいだけの≪祟火≫と違い、今回僕はまだ技の仕組みをあまり理解していないのだ。仮にスキル欄に無かったら使えないだろうし、諦めて自力で習得するしかないだろう。
「お、あった」
≪結界≫
消費MP:???
透明な壁を作り出す。自由度は高い。
面積や強度によって消費MPは変化する。
とはいえ心配は不要だったようで、やっぱり≪結界≫も妖狐としての基本妖術と同様にスキルとしてバッチリ登録されていた。これなら応用であるカスタマイズ結界はともかく、ノーマル状態の≪結界≫は使えるはず。そう思いながら使ってみた結果は、果たして。
「≪結界≫! ……よし、バッチリ使えるな」
「あっ! あんちゃんがバリア張ってる! くらえー! ≪ソードスラッシュ≫!!」
「うおぉっ!? ちょっ、急に攻撃するのやめて!?」
そんなわけで使うだけ使ってみようとしたわけだが、姪は僕を包み込むように展開された球状の≪結界≫を確認するなり迷わず攻撃スキルを叩き込んできた。なんという即断即決。行動に出るまでが早すぎる。元気いっぱいでよろしい。
まぁ防御スキルというだけあって、姪の必殺技もなんとか防ぐことは出来た……が、二度目は無理だ。姪の剣を受けた部分には穴が空き、そこからヒビ割れが広がっていて今にも砕けそうになっている。
「あっ、ごめんねあんちゃん。ちょっと割れちゃったけど大丈夫?」
「気にしないで、平気だよ。それにちょうど強度の限界を調べたかったところだから助かったよ」
「そうなの? よかったぁ」
どうやら姪が想像していたようなバリアよりは弱かったようで、本気で攻撃してみたことを若干反省しているようだったが、僕は姪を甘やかすことに全力なのでそれとなくフォローしておいた。
それに耐久力を調べたいと思っていたのも事実である。なのでいきなり斬りかかったことはともかく、本当に今回のことは姪が気にすることはないのだ。できれば事前にもう少し、分析やら心の準備やらはしたかったとこだけど。
「それでどう? 使ってみた感じ」
「うーん、もう少し何回か使ってみるよ。まずは感覚掴みたいし」
「ん、じゃああたしはあっちで巨大化の練習しとくね」
「うん、頑張ってね」
ともあれスキルとして使うことは出来たものの、まだまだ自力で妖術として発動できるとは言えない段階だ。使えるというのが記憶の中にはあったとしても、実技と経験が不足している。
そんなわけで僕は引き続き反復してスキルを使い練習する中で、感覚的に使い方を覚えることにした。同時に性質や細かい仕様も把握できればなお良しといったところである。
ていうか姪は姪で当然のように巨大化しようとしてるけど、果たして普通の人間にそんなこと出来るのだろうか。
一応ゲームの世界だから、人間が巨大化するのも絶対に不可能だとは言い切れないが……僕のようにスキル欄にあるならまだしも、習得したわけでもない能力なんて使えないのではないだろうか。
むしろゲームだからこそ使えたらダメだと思う。欲しいと思ったスキルが覚え放題で使い放題なんて、ゲームバランスも何もあったもんじゃないからな。
……僕のは現実でも使えるからゲームでも使えてるだけで、そういう仕様だから問題ない……はず。
「ふむふむ、なるほどこんな感じの流れで……それでこうすると……」
そんなことを考えながらも、僕は≪結界≫の練習として色々と試していた。
やはりこのスキルは説明文にあった通り自由度が高く、それでいて大きさと強度を上げるほどMPが必要になるようだ。今は使い方に慣れるためにも回数をこなすべく、安価な小さい結界を何度も張っている。地面に半透明なボールを出したり消したりしている状態だ。
ちなみに最初に使ったのは僕1人を囲む直径2メートル程度の大きさであったが、特に大きさなどは設定しなかったのでアレがデフォルトのようである。強度にしても同様だ。
そのデフォルトのMP消費は5であったが、姪の≪ソードスラッシュ≫をなんとか防げるあたり、MP1あたりのパワーのコストパフォーマンスは高いと言えるのだろう。あっちは一応MP10のスキルだし。まぁ武器でガードしたり普通に回避すれば消費はゼロなんだが。
「それにしてもこの≪結界≫、発動する時のこの手順ってまるで……」
「うぅー、巨大化できないよー! 練習飽きたー!!」
そうして≪結界≫の発動プロセスを分析していた僕だったが、不意に姪が巨大化を習得するための訓練に飽きた。
やはり巨大化したいという思いだけではスキルは習得できなかったようで、それが終わりの見えない修行でしかない以上は当然の結果である。それはそれとして癇癪を起こす姪もこれはこれでかわいい。
「おつかれ、るぅちゃん。仕方ないよ、ゲームだからってなんでも出来るわけじゃないからね」
「もう無理! あんちゃん、お手本みせてー!」
「えっ? そ、それは……」
そんな姪を慰める僕であったが、唐突な無茶振りに思わず強く動揺してしまった。
いやまぁ、お手本というのは……出来るか出来ないかで言えば、たぶん出来る。なにしろ【結界】と一緒に【巨大化】もオマケとして勝手にインストールされているのだ。出来ない理由が無い。
だがしかし、考えてもみてほしい。ここで僕が≪巨大化≫を使って見せれば、今後も度々リクエストが飛んで来る可能性がある。そうなれば姪が巨大狐モフりコンボを発見するのも時間の問題ではないか。
それならここは心苦しいが、出来ないということにして誤魔化すのがベストなのかもしれない。大きな狐とか、絶対これでもかってぐらいにモフりまくるだろうからな。許せ姪よ、僕の人間としての尊厳のためにも。
「あたし、あんちゃんがおっきくなるとこ見たいなぁ……ダメ?」
「やります」
「やったー!」
そうやって断る決心をした僕の鋼の意志はしかし、姪の上目遣いによって軽く粉砕された。
ダメだよダメダメ、そんなの反則だよ。なんなの、今やロリ巨乳狐娘な僕の方が身長低いのにさぁ、そんな表情で上目遣いとか……かわいすぎるわ。もうね、なんでもお願い聞いちゃう。巨大化だろうと何だろうと、頼まれたら何でも見せちゃう勢い。あっ、PCの鍵がかかってる画像フォルダはダメです。アレは姪には見せられない。
「楽しみだなぁ、はやくはやくー!」
「しょうがないなぁ、るぅちゃんは。ちょっとだけだからね? 行くよ、≪巨大化≫!」
というわけで、僕は≪巨大化≫スキルを発動した。だって仕方ないだろう、かわいい姪に頼まれて断れる叔父なんて存在しない。
だがしかし、いくらなんでも考えなしに≪巨大化≫なんて使ったわけではない。
なにしろ僕たちの現在地は、『始まりの街プリミス』からほど近い平原エリアの一角。少し離れたところでは普通に一般プレイヤーがファラビット狩りをしているし、街からも近いので遠目でも分かるほど目立つのはよくないだろう。
このスキルでどれぐらい大きくなれるのかは知らないが、間違っても身長50メートルとかになるわけにはいかない。超大型ロリ巨乳狐娘が街に襲撃に来たと思われて、プレイヤー総戦力でのレイド戦が始まってしまう。
ならばどうするか。ズバリ、使うMPを抑えめにすることで目立たない程度に少しだけ≪巨大化≫すればいいのだ。
結局のところ、どのスキルもMPを減らせば出力が減るのは同じである。それなら≪巨大化≫だって、少量のMPを使えばそれほど大きくならないだろうというのは容易に想像できること。
これはもう間違いないだろう。そう確信して、消費するMPを少なくすることにだけ気を付けてスキルを発動してみたところ――
ボンッ、と勢いよく胸だけが巨大化した。
「わっ!? えっなに!?」
「は!? な、なんじゃこりゃあああっ!?」
えっ!? マジでなにこれ!? どうしてこうなった!?
僕はその思わぬ展開に、混乱することしかできなかった。なんなんだこれは。元々巨大だった胸が更に大きくなり、もはや大玉のスイカよりも大きいレベルである。それが2つも胸についているのだから、咄嗟に妖力で身体能力を強化しなければ立っていることすらできなかっただろう。なんなら両腕で抱えないと支えきれないほどの……くっ、腕に感じる超巨大な柔らかさが童貞の心に響く……! 落ち着け僕ッ……!
ちなみに普段から胸を覆い隠していたレザーベストは、当然のように前ボタンが全部弾け飛んだ。
下に着ている白いブラウスにしたって、これがフィールドで下着姿になれないという全年齢対象ゲームでなかったなら、今頃は細かい端切れとなってビリビリに破れ散っていただろう。本来はこんな風に伸びる生地じゃないはずなんだがな。
「え……っと? もしかして≪巨大化≫って、おっぱいをおっきくするスキルなの……?」
「たぶん違うよ!? これが失敗なだけじゃないかなぁ!?」
≪巨大化≫スキルの効果が胸のピンポイントな巨大化とか、それなんてエロゲ? 普通のゲームでそんな仕様は存在しないと思う。いや、現に今なってるけど。マジでなんでこんなことになってんの? バグか? ありえるな、そもそも妖狐である僕の存在自体がバグみたいなもんだし。
……あ、それか使ったことのないスキルのMP消費量を減らしたのがマズかったか? もしかして≪巨大化≫は消費MPが大きさに関係なくて、少ししかMPを使わなかったから身体の一部しか大きくならなかったとか……? くそっ、全く分からん! 検証は後だ!
「とにかく戻……あれ? これどうやって戻すんだ……?」
「ん、解除とかできないの?」
「出来るはずなんだけど……あれぇ?」
おっと、これはどういうことだ? 何もしてないのにスキルが壊れたか?
もしかすると想定外の使い方のせいで正しい手順でスキルの発動を完了していないから、発動状態の終了も出来ないということなのだろうか。確かに妖術などという外部から持ち込んだスキルの仕様なんて運営が想定してなくてもおかしくないけど、そういうスキルを中断してしまった時のエラー処理も用意しておいてほしかった。不具合修正はよ。
「んー、バグかなぁ? あっでもすごいよあんちゃん! いつもよりおっきいから、いつもよりもっとやらかくて気持ちいい! あはははっ、抱き着いたらすっごい埋まる~」
「ちょっ、るぅちゃん!? 顔埋めないで!? あっ!? そんなに深くまで……!」
「たーのしー!」
「それはよかった! でもここ一応外だから、そういうのはやめとこうかぁ!?」
マズイ、姪の目が完全に僕の胸を玩具として扱う時のやつだ! すっげぇキラキラしてる! そんなことで無駄に目を輝かせないでほしい! 今日一番の良い笑顔! 本日のベストショットありがとうございます!!
ちなみにその後、結局これはバグだと発覚したようで、数分後に運営から素早い不具合修正のお知らせが来ることになる。
だがしかしこの段階ではそんなこと知る由もない僕は、このままだったらどうしようかと頭を悩ませつつ。しばらくの間、なんとか≪巨大化≫を解除しようと悪戦苦闘しながらも、なんとも出来ないまま姪の玩具にされたのであった。




