8. 妖狐のお昼寝タイム
今日の僕は眠かった。
なにしろ昨夜は≪獣化≫して小さな狐の姿で姪と添い寝をした結果、途中で2回も姪の寝返りに巻き込まれているのだ。この時点で既にあまりよく眠れていない。むしろ危うく永い眠りにつくところではあったが。
そこにトドメの早朝6時起き。更にダメ押しのジョギングにより、寝不足な中で体力まで使ってもう疲労困憊である。
流石にこれは小さな子供の体力ではキツい。誰が小さな子供だコラ。
ともかくそんなわけで自室のベッドで昼寝をした僕なのだが、気が付けば霧の立ち込める港町にいた。
これはまさか……カナメが来るときの夢の世界? いや、でも今って昼だぞ? え? もしかしてアイツ、この時間にも来るの? それとも別の誰かが……?
いずれにせよ警戒するに越したことは無いな、一応≪人化≫を解除しておくか。尻尾が無ければ昼寝はしやすいけど、いざという時に妖力が使えないからな。
『なんじゃ、こんな時間から昼寝とはいい身分じゃのう』
そうやって少し緊張しながら周りを見渡してみると、そこには普通に9本の長い尻尾をなびかせる巨大な狐が鎮座していた。いつも通りの光景だったわ。
こいつこそが僕を手違いで祟ってロリ巨乳狐娘にしやがった偉大なるポンコツ大妖狐、カナメである。
「いや、確かに昼寝中だけど……ていうかなんでここにいんの?」
『うむ、暇なので昼寝していたらお主の夢が開いておることに気付いてのう。特に意味は無いが、他にやることも無いので遊びに来たわけじゃよ』
「そっちも昼寝中じゃねーか!」
カナメの言葉に僕は、最初わずかに居心地の悪さを覚えたものの。よくよく話を聞いてみれば、完全に自分のことは棚にあげているようだったのだ。お前もいいご身分だな。
『くははははっ、なにせ妾は実際いい身分じゃからのう! 九尾の妖狐ともなれば、全国の妖狐からはもちろん人間からでさえ崇められる立場よ! お主ももっと敬ってよいのじゃぞ?』
「へーそうなんだ、すごいね」
『むしろ扱い雑になっておらん?』
適当にあしらわれたカナメは不服そうであったが、むしろ何故僕が崇めなければならないのか。こちとら人違いで祟られてるんだぞ、扱いだって雑になるわ。そこについては自業自得、当然の結果である。
『ふむ……ならばここはひとつ、お主からの好感度が上がるようなことでもするかのう』
「関係性を改善するのには悪くない手だと思うけど、その狙いまで僕に言っちゃっていいの?」
『……今のは聞かなかったことにするのじゃぞ。そして余計な思惑など関係なく優しい妾に、心から感謝するのじゃ』
「さすがに無理があると思う」
ついつい企みを口に出してしまったカナメに、僕は呆れながらツッコんだ。
コイツさては駆け引きとか苦手なタイプだな? 化け狐的には大丈夫なんだろうか、化かし合いとかすごい苦手そうだけど。
『ま、まあよいのじゃ。そんなことよりも、今日はお主に新たな妖術を教えてやろうと思うてのう』
と、そんな失態を誤魔化すかのように、カナメは話の流れを無理矢理ねじ曲げた。
ついでに早速来たな、露骨なご機嫌取り。
そう思いはしたものの、優しい僕は何も言わずに大人しく聞いていた。僕にとっても悪い話じゃないし、わざわざ水を差す必要もないだろう。
実際には妖術なんて覚えたところで平和な現実では使い道に困るんだけど、LROの中では戦闘に役立つのだ。姪と遊ぶゲームで使える手札が増えるなら、これは相当に優先度が高いと言える。
あと普通は出来ないような特別なことが出来たら、姪にすごいと褒められるかもしれない。是非ともここは新技を習得しておくべきである。
「それで今日はどんなやつ教えてくれんの?」
『うむ。妾は永い刻を生きた凄い妖狐なのでいくつかの種類の術が使えるが、その中でも特にオススメなのは【巨大化】じゃな。妖狐としての威厳を示すのにちょうどよいぞ』
「きょ、巨大化……?」
そんなわけで若干期待していた僕だったが、なんだか思ってたのとだいぶ違うものをお出しされて大いに困惑した。
いや、妖術ってもっとこう……≪狐火≫のような遠距離攻撃魔法みたいな技とか、≪祟火≫のように呪術チックな拘束やらデバフなんかの系統のやつをイメージしてたんだが。
それがなに、いま巨大化って言った? 巨大化って妖術なのか……?
確かに日本の妖怪の中には、大きくなって驚かすのが居そうなのは分からなくもないが……果たしてそれは妖狐がやることなのだろうか。
それとも僕が知らないだけで、実は妖狐って巨大化するのが一般的だったりするのか? あとでスマホで調べてみるか。たぶん違う気がするけど。
「巨大化かぁ……うーん、ちょっと今回は遠慮しとこうかな。チェンジで」
『なんじゃ、要らんのか? お主は妖力が多いゆえ、【巨大化】もいけると思ったんじゃがのう』
「僕としてはもうちょっと、妖術っぽいやつがいいというかなんというか」
『うーむ、【巨大化】も充分妖術じゃと思うが……』
「あ、でも待てよ……? もしかしてその巨大化って、大きくなる的な意味を拡大解釈できたりする?」
『む? どういうことじゃ?』
「いやほら、僕って今なぜかロリ巨乳狐娘じゃん? 正直なんでこんな姿になってるのかっていうのも、何気に今までずっと聞けてなかったから気になるところだけど、まぁそれはとりあえず置いといて。今より大きな身体、つまり大人の姿になれたりするのかなって」
しかし僕は、ある重大な問題を解決できるかもしれない可能性に気付いたので確認してみることにした。
なにしろ今の僕はロリ巨乳狐娘、つまり子供の姿なのだ。なぜ女の子なのかというのは一旦置いとくにしても、せめて精神年齢にほど近い大人の姿になれないだろうか。そうすれば今ほど姪に妹枠でかわいがられることも無くなると思うのだが。
姪にかわいがられるのはまぁ半ば満更でもないのだが、大人の男としてはなかなか精神的にクるものがあるのも事実。そんなわけで可能であれば避けたいのだが、果たして出来るだろうか。
『そんな変幻自在な使い方は【変化】の領分じゃな。【巨大化】はあくまで初歩じゃからのう、身体を妖力で膨らませて元の姿のまま大きくなるだけよ』
「そっかぁ……あ、待って、その変化の方を教えて貰えれば解決なのでは?」
そんな僕の問いは無理だと一蹴されたが、しかしこれは大した問題ではない。代わりに使えそうな、もっと適していそうな妖術が判明したからである。僕は目的が達成できればいいので、別に巨大化を使って大人になる必要は無いのだ。
それに変化と言えば、名前の響きからして恐らく狐が化けるような能力なのだろう。それならむしろ好都合である。なんなら上手く使えば、元の身体にだって戻れるんじゃないのか?
『しかし【変化】は【巨大化】と違って複雑な術式じゃからな。調子に乗った初心者が失敗すれば、自己という存在を失って消滅してしまう危険な術なのじゃが……まあお主は【人化】と【獣化】も独力で習得しておるし、そんなの今更じゃな。いいじゃろう、お主の覚悟と心意気に免じて特別に妾が手ずから教えてやるのじゃ』
「あっゴメンやっぱ無しで」
どうして姿を変える系の妖術はこんなにもリスクが高いのか。実際起こってる現象を考えれば分からないでもないが、その辺はもう少し安全意識を高く持ってもらいたい。とにかく僕は変化を諦めた。
『なんじゃ、お主の希望通りの術ではないか。何が不満なのじゃ?』
「習得のリスクと危険性だが?」
『ううむ……しかし初心者向けではない小技や禁術を除けば、妾は他には普通の結界術や幻術の類などしか使えぬからのう』
「そういうのでいいんだよそういうので!」
『む? なんじゃ、そんなのでよいのか? 結界を張ってやったり見せかけだけの幻を見せるよりは、実際にデカくなって出ていく方が威圧感あるぞ?』
「威圧感は別に要らないから」
カナメは随分と巨大化を評価しているようだったが、僕にとってはイマイチ目的に合致していると言えないところである。確かにデカくなれば戦闘能力も上がるだろうけど、いくらなんでも巨大ロリ巨乳狐娘とか見た目がマニアックすぎるだろう。
そんなの見せても姪は喜んでは……くれそうだな。ウチの姪そういうの多分好きだわ。まぁそれを喜ばれたところで、僕の方がリアクションに困るから今回は見送るけど。巨大化でドヤれる自信は無いわ。
「じゃあそういうわけで教えてもらうのは……うーん、どっちにしよう。結界か幻術か……どっちも便利そうだけど」
『なに、そう悩むこともあるまい。妾は世話焼き狐じゃからのう。今回選ばなかった方も、いずれは教えてやるのじゃ。気楽に好きな方を選ぶがよい』
「それなら……うーん?」
一度に説明されても憶えきれないだろうから、とりあえずどちらを教わろうかと考えていたところ。カナメは気楽に選んでいいと後押ししてくれたが、その言葉には微妙に釈然としないものが混ざっていた。
カナメが世話焼きだと言うのはまぁ、僕に何かと色々教えてくれることからも分からなくはない。誤って無関係な相手をロリ巨乳狐娘にしてしまったことの責任を取ってるだけとも言えるが。
しかしながら最初に会った時なんかは、自分の身の回りの世話をさせるための従者として僕のこと連れて行こうとしてたんだよなコイツ。本当に世話焼きなら、自分の世話ぐらい自分でしてほしいものである。単なる嫌がらせ目的だったのかもしれないけど。
「まぁいいや、とりあえず結界から教えてもらおうかな。ちょうど防御技が欲しかったとこだし……できればもうちょっと早く覚えたかったけど」
『あい分かったのじゃ。しかしもう少し早く覚えたかったとは、何かあったのか? まさか退魔師か何かに襲われたのではないじゃろうな?』
「あーいや、そんな大した話じゃないんだけど」
そんなわけでとりあえず結界術の方を教えてもらうことにしたのだが、後半の余分な言葉にカナメが食いついた。普通にゲームで使いたかったってだけなんだけど。
ていうかやっぱり退魔師とかいるんだな。僕も元人間とはいえ今では妖狐だし、一応気を付けておくか。どう気を付ければいいのかは分からないが。
ともかく僕は、先ほどゲーム内で『全耐性バッファロー』と戦った時のことを適当に話した。
あの時はケントさんの≪ファイアウォール≫に対抗してみたけど、≪狐火≫を固めただけの炎の壁だとあっさり破られたんだよな。まぁ雑魚戦では多少は使えてたし、耐性で無効化されただけなのかもしれないけど。
『ふぅむ……妖術の炎を無効化する猛牛とな。なかなかに厄介じゃな』
「あくまでもゲームの話だからな?」
僕はゲームの中での出来事だと念を押すが、それを聞いてもカナメは真剣そのもの。完全に実際の戦いを想定している感じの表情だ。やはり所詮は狐など獣でしかなく、人類の最先端技術で作り出されたVRゲームという概念は理解できないのだろうか。
『……お主、今なんか失礼なこと考えとらんかったか?』
「気のせいだよ」
『まあ……よいじゃろう。とりあえず参考までに、お主が使った炎の壁とやらを見せてもらっても構わんか?』
「うん? 別にいいけど……」
そうやって今では自分も狐だということを棚に上げて失礼なことを考えていたら、見抜かれかけたりしたものの。適当に誤魔化したところ、何故か全耐性バッファロー戦で使った技を見せることになった。
なんか当然のように脱線しているように思うのだが、気のせいなのだろうか。あとから思えば炎を板状にしたぐらいで猛牛の突進を止められるはずもないし、明らかな失敗技なんて置いといて今は結界術を習いたいのだが。
「≪狐火ウォール≫!」
それはともかく、僕が作り出したのは炎の壁。やろうと思えばもっと妖力を込めることは出来るが、なるべく忠実に再現するためにゲーム内で使ったMPと同程度、ごく少量の妖力だけを使ってある。
というか今にして思えば、ゲームの中では使える妖力の量にかなり制限がかかってるんだろう。
この夢の中や現実世界で使える妖術としての≪狐火≫……いや、【狐火】と言うべきか。カナメが言う時なんかもそうだけど、妖術の名前を呼ぶときって言葉や発音が同じでも、微妙に込められたニュアンスが違うんだよな。この辺は妖狐じゃないと分からない感覚なのかもしれないし、僕はほとんどゲームのスキルとして認識してるから≪狐火≫って言うけど。
とにかくその妖術としての【狐火】とゲームのスキルとしての≪狐火≫の間で、明確に威力の上限に差があるというのは、システム的に調整されてるからだと思う。
そこは他プレイヤーとの差がつきすぎないようにするための、ゲームバランスの兼ね合いだろうな。本当こんな妖術とかいう未知の力を解析してスキルとして落とし込むだなんて、AIによる自動調節機能によるものだとしても、よくやるものだと感心せざるを得ない。
少し話が逸れたが、なにはともあれ≪狐火ウォール≫である。
なるべく壁にすることを意識してそれっぽい形に作りこそしたが、全く壁としての役割を果たせなかった失敗技。というか≪狐火≫の形を変えただけである。そんな炎の壁をしばらくジッと見つめたあと、カナメは納得したように感想を漏らした。
『うむ、ダメダメじゃな』
「まぁ、だろうね」
『特に名前のセンスが終わっておる』
「そこは関係なくない?」
いや、最初にダメ出しするのそこ? 術の出来を確かめるかのように観察してた今の間なんだったの? そこはもっとこう、妖術に長けた妖狐ならではのアドバイスなんかが貰えるところでは?
というかこの名前は狐火属性のウォール系魔法みたいな感じで、LROの世界観に上手いこと融和させた会心の命名なんだが? そこに篭められた意味も理解せずに罵倒される謂れは無いんですけど?
『あとついでに言うと、術としての出来はクソというより他ないのじゃ。妖力に任せた力押しをするならともかく、こんなケチった出力では炎によって大型の獣を止めるなど不可能じゃからな。壁の形だけ取らせておるのも意味不明じゃし』
「辛辣ゥ!!」
そしてついでとばかりに、術としての中身についても酷評された。
なにもそこまで言わなくても、と思わなくもないが、実際これについては僕自身も概ね同意見なのでまぁ仕方ない。それにしてもあまりに辛辣だが。
『ただまあ偶然じゃろうが、僅かながらに表面が結界っぽくなっておるのは加点要素じゃな』
「あ、そうなの?」
『うむ。こういう風に、面として展開した妖力を結ぶことが結界の基本じゃからな。この感覚は結界術を覚える時に参考になるはずなので、よくよく憶えておくのじゃ』
「なるほど?」
しかしながら、僕にはよく分からないが誉められる部分もあったようである。確かに型崩れしないように表面を固めるイメージで作ったが、そのせいもあるのだろうか。
いずれにしても、これから結界を教えてもらうには幸先の良いスタートである。図らずも予習はバッチリというわけか。さすが僕。
『では結界術を伝授するのでの、頭に触らせるのじゃ』
そうやって得意気に自画自賛していたところ、カナメが長く太い9本の尻尾の内の1本を差し出した。
尻尾で頭なんか触ってどうするんだろうと思ったが、とりあえず大人しくしておく。
そして僕の頭頂部に、モフっとした巨大な尻尾が置かれた。相変わらずこのボリュームの尻尾が頭の上にあるともなれば、なかなか圧巻の存在感である。
こういうの姪とか絶対喜ぶだろうなぁ、どうにかして体験させてあげたいけど……あ、待てよ? もしかして僕が【巨大化】を習得すればいいのでは?
いや、ダメだな。≪獣化≫とのコンボで1日中全身モフり倒される未来が見える。少しだけ心苦しいが、これ以上姪のもふもふ依存症を進行させるわけにもいかないからな。元の姿に戻ろうとする度に悲しい顔をされたりしたら、間違いなく僕が人型でいられる時間は減るだろう。姪とのスキンシップは望むところだが、ペット扱いはごめんである。
『いくのじゃ! ぬんっ!』
「う゛っ!?」
そんなことを考えていたら、一瞬とてつもなく強い頭痛がした。かと思うと、頭の中に憶えの無い記憶が刻まれたのを感じた。
それはまるで【結界術】について書きなぐられた、説明書きのメモか何かのようで……これってまた勝手に記憶を植え付けられてるのでは? 知らない知識を思い出すのって、あれマジで違和感すごいからやめろ。ていうかこれぐらいの情報量なら、普通に口頭で説明すればよかったと思うんだが。
『そんな感じじゃな、結界術。あとで読んでおくのじゃぞ』
「頭いってぇ……これっ……やる意味あった? 普通に説明すればよくない?」
『しかしのう、初心者にイチから教えるのは億劫じゃろ? それに妾も忙しい身でのう』
「世話焼き設定はどうした、昼寝中の駄狐」
お前最初、暇だから昼寝中とか言ってたじゃねぇか。しかもその後に世話焼きを自称しといてからのこの放任主義か。虚言癖かな? それともその時々で適当なこと言ってるだけなのか。性格的には後者っぽいな。
『くはははっ、よいではないか。お主としても教わる手間が省けたじゃろう?』
「こんなに頭痛いんだったら普通にやり方教わった方がよかったんだけど?」
『ふむ、その辺の考え方は人それぞれじゃな』
「考え方の問題じゃないが」
これには流石に温厚な僕も思わず苦言を呈したが、カナメに反省の色は無かった。苦情への耐性が高すぎるだろ、その大きな耳は何のためについてるんだよ。こいつ無敵か?
そんな風に呆れながらも、苦情のおかわりをぶつけようとした時だった。
その現象は唐突に、何の前触れも無く発生した。
「そもそもお前、もうちょっと他人を思いやる気持ちってやつをひゃんっ!?」
『な、なんじゃ? 説教でも始めたかと思えば急に艶っぽい声を上げよって……』
「いやなんか今、身体に触られたような気がしぃっ!?」
なんだこれ……これ、気のせいじゃない!? 確かに誰かに身体を触られてる!? しかも胸を重点的に……!
『まさか……いかん! ともすると、寝ている間の無防備なお主の身体が襲われておるやもしれぬ! 早く目を覚ますのじゃ!』
「はぁ!? そんなの誰が……」
嘘だろ、寝ている間に襲われて……しかもこれって明らかに、性的な意味の襲われ方だよな? まさか自分がそんな目に遭うだなんて……僕はロリ巨乳狐娘になってから、一番の衝撃を受けていた。男だった頃には想像すらしなかった状況に、恐怖すら覚える。
しかし誰が、と言いかけたところで言葉に詰まった。
なぜならその言葉は本来、安全なはずの自室で寝ているのに誰が……という意味である。実家が見ず知らずの不審者の侵入を許していたら怖すぎるからな。
だがしかし、僕には心当たりがあったのだ。ありすぎた。安全な実家に自由に出入りできる家族たち、その内で恐らく今日も仕事先から帰って来ないであろう姉を除いた、父・母・姪。3人とも全員容疑者である。内部犯の可能性が高い、というか十中八九犯人はこの中にいる。
まず父は合法ロリである母さんを嫁にするほどのロリコンだし、確かロリ巨乳も好きだったはずだ。本人は小心者だが、バレなければ触るくらいは合法とか言ってやりかねない。
次に姪だが、昨日も一緒にお風呂に入った結果、僕はまたしても無事に胸を弄ばれた。柔らかさとか弾力とか、手触りが楽しいらしい。やましい心は無くても無邪気にやりかねない。
あとは母だが、僕は気付いているのだ。時折なぜか憎しみを込めたような視線で、僕のたわわな胸を睨みつけているのを。あれは恐らく持たざる者の末路。過去に巨乳と何かあったに違いない。僕自身とは関係ないが、それでも復讐と称してやりかねない。
うん、なんか急に冷静になったわ。危機感もどっか行った。何なんだよこの家。とりあえず起きてみて、父さんだったら蹴るけど。
「まぁとりあえず起きるわ」
『うおっ、なんじゃ急に冷静になりおったな? 事が済んだか?』
「むしろっ……ハァッ、激しくなっ、んぅっ!?」
『なんで今一瞬だけ冷静じゃったのじゃ!?』
そういうわけで、僕は夢の世界を後にした。
前回はカナメに起こしてもらったが、冷静になればなんとなく感覚で分かるものだ。起きようと思えば、意識を覚醒に向かわせるだけで普通に自力で起きられるな。徐々に脳が起き始めたため、反対に夢の中での意識がどんどん薄れていく。
『しかしまさか、身体を狐に作り替える術を掛ける際に軽いノリで女子にしたのがこんな事件を招くとはのう……ちぃとばかし反省じゃな。いや、別に構わんか』
「……は? ちょっお前いま軽いノリって言った? それって」
そして去り際にカナメがつぶやいた言葉が聞こえてきて思わず反応しようとしたが、残念ながら時間切れであった。既に夢から醒めた後である。
「どういうことだよっ!?」
「きゃあっ!?」
「ひぃっ!? ごめんなさいっ!」
「あ、あんちゃん起きた」
その間に合わなかった言葉を叫びながら起きてみれば、すぐ傍にいたのは見慣れない女子小学生が2人と見慣れた姪が1人。その3人の手は、もれなく僕の大きな胸を触っていた。
「……えっ? マジでこれどういうことなの……?」
かくして僕は、起き抜けの頭では理解できない――否、ハッキリと意識が覚醒していたとしても困惑すること間違いなしの、混沌極まりない状況へと迷い込んだのであった。




